薬を減らせば副作用も減ると思っていませんか?実は6剤未満に減薬しても、組み合わせ次第で有害事象リスクはむしろ上昇するケースがあります。
「6剤以上」という数字は広く知られています。しかし、ポリファーマシーの本質はその数字にあるのではありません。厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」では、ポリファーマシーを「多くの薬剤が処方されることで生じる有害事象や服薬アドヒアランス低下など、薬物療法上の問題につながる状態」と定義しています。つまり剤数は問題の目安であって、本質は「害をなしているかどうか」です。
実際の数字で確認しましょう。日本老年医学会の報告では、外来高齢患者のうち6種類以上の薬を処方されている患者は約40%に上るとされています。また、入院患者の約15〜20%において、薬剤有害事象が入院の直接原因または誘因となっているとも指摘されています。これは決して小さな数字ではありません。
さらに見落とされがちな点として、薬剤数が増えるにつれて副作用の発生率は指数的に高まるというデータがあります。2剤では約3%程度とされる副作用発現率が、6剤になると約16%、10剤以上では50%以上になるとも報告されています(諸説あり)。つまり10剤服用中の高齢者は、2人に1人の確率で何らかの薬剤性有害事象を抱えているということになります。
薬剤師がこの問題に取り組む意義はここにあります。数字の裏に、転倒・骨折・認知機能低下・誤嚥性肺炎という具体的な害が潜んでいるのです。数字が多いから問題、というシンプルな理解を超えた視点が必要です。
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」PDF(ポリファーマシーの定義・背景・対策の基本方針が記載)
処方見直しに使えるツールは複数あります。代表的なものはBeers基準、STOPP/START基準、そして日本独自の「高齢者に対する適正処方の指針(日本老年医学会)」です。これらは「使用を控えるべき薬剤」を体系的に整理したもので、薬剤師が処方監査や介入の根拠として使えます。
Beers基準はアメリカ老年医学会(AGS)が策定した基準で、高齢者に対して潜在的に不適切な薬(PIM: Potentially Inappropriate Medication)をリストアップしたものです。直近の2023年改訂版では、抗コリン薬・ベンゾジアゼピン系薬・第一世代抗ヒスタミン薬・NSAIDsなどが引き続きリストに含まれており、特に睡眠薬と鎮静薬の長期処方については明確な注意喚起がされています。
一方、STOPP/START基準はアイルランドを中心にヨーロッパで開発されたもので、「中止すべき処方(STOPP)」と「追加すべき処方(START)」の両面からアプローチできるのが特徴です。処方の過少(アンダープレスクライビング)にも目を向けられる点が、Beers基準との大きな違いです。
日本語環境での実用性という点では、日本老年医学会の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」が参照されることが多いです。特に「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」と「開始を検討すべき薬物のリスト」は、処方提案の根拠として医師への説明にも使いやすいものです。
これらのツールを使いこなすのが基本です。ただし、ツールはあくまで「気づきの補助」であって、最終的には患者個別の病態・ADL・価値観を踏まえた総合的な判断が求められます。スクリーニングで引っかかった薬剤があっても、即座に「減薬すべき」とはならない場面も多々あります。
日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」(STOPPに相当する「特に慎重な投与を要する薬物リスト」など収載)
処方カスケードという言葉を知っていても、実際に見抜けているかどうかは別の話です。処方カスケードとは、ある薬剤の副作用が新たな症状として誤認され、その症状に対してさらに別の薬が追加処方されていく連鎖構造のことです。
典型例を挙げましょう。Ca拮抗薬(例:アムロジピン)→下肢浮腫→利尿薬追加。NSAIDs→血圧上昇→降圧薬追加。ドパミン遮断薬(例:メトクロプラミド)→パーキンソン様症状→抗パーキンソン薬追加。こうしたパターンは文献でも繰り返し報告されており、薬剤師なら頭に入れておきたい組み合わせです。
処方カスケードの発見には、「この薬が始まった時期に何か変わったか」という時系列の確認が有効です。電子カルテ上で処方開始日と新症状の出現時期を照合するだけで、多くのケースでカスケードの疑いを持てます。処方カスケードに気づくには時系列が鍵です。
特に見落としやすいのは、外来と入院・施設間をまたいで処方が引き継がれているケースです。前医の処方意図が不明なまま継続されている薬剤が、実はカスケードの結果である可能性があります。入退院時の持参薬確認や、かかりつけ薬局からのトレーシングレポートとの照合が、こうした見えにくいカスケードを発見するための実践的な手段になります。
処方カスケードを一例発見するだけで、患者の薬剤数を1〜2剤削減できるケースが珍しくありません。それが転倒リスクの軽減や認知機能の改善につながることもあります。これは使えそうです。
薬剤師が処方提案をしても、医師に採用されなければ患者には届きません。単独での介入には限界があります。そのため、ポリファーマシー対策では多職種連携のカンファレンス構造に薬剤師がいかに組み込まれるかが、実質的な成果を左右します。
厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編:療養環境別)」では、介護保険施設や在宅療養環境においても、医師・薬剤師・看護師・ケアマネジャーが連携して処方見直しを行う体制を整備することが推奨されています。これを実現する場として、多職種によるカンファレンスや服薬管理委員会の設置が有効です。
薬剤師がカンファレンスで発揮すべき力は、「根拠の言語化」です。「この薬はBeers基準に該当します」「STOPP基準で中止が推奨される薬剤です」という客観的な根拠を示すことで、医師が減薬を検討しやすい環境を作れます。感覚的な意見よりも数値や基準を示す方が、連携はスムーズに進みます。
実際のエビデンスとして、薬剤師が参加するチームによるポリファーマシー介入が、薬剤数の有意な削減および有害事象の減少に寄与したとする国内外の報告が複数あります。例えば国内の介護老人保健施設での研究では、薬剤師の介入により1人あたり平均1.2剤の減薬が達成されたという報告もあります。
トレーシングレポートも重要な連携ツールです。調剤薬局の薬剤師が、服薬状況・副作用の疑い・残薬状況などを医療機関に文書で報告するこの仕組みは、在宅・外来患者のポリファーマシー対策において「情報の橋渡し」として機能します。トレーシングレポートの活用が鍵となります。
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編:療養環境別)」PDF(介護施設・在宅での多職種連携による処方見直し体制の解説)
ここで取り上げるのは、他の解説記事ではほとんど触れられない視点です。ポリファーマシー対策を「減薬」という医療者側の行為として捉えるだけでは不十分で、患者・家族が「この薬をやめることに同意できるか」というプロセスが実は最大のハードルになっています。
高齢患者の中には、長年服用してきた薬に強い安心感を持っている人が少なくありません。「この薬がないと不安だ」「前の病院で出してもらっていた薬を急に止めるのは怖い」という声は現場でよく聞かれます。こうした場合、薬剤師がいくら適正処方の観点から減薬を提案しても、患者の同意が得られなければ処方変更は実現しません。同意なき減薬はゴールではありません。
ここで薬剤師に求められるのは、「患者の価値観と処方の意図を橋渡しする対話スキル」です。具体的には、「この薬はどのような目的で飲み続けているか、今の体の状態と照らし合わせて一緒に確認しましょう」という形で、患者が主体的に判断できる情報提供を行うことです。これはSDM(Shared Decision Making:共同意思決定)の考え方に基づきます。
SDMの場面では、薬の「やめたときのリスク」と「続けたときのリスク」を対比して提示することが効果的です。例えばベンゾジアゼピン系睡眠薬を長期服用中の75歳患者に対しては、「転倒・骨折のリスクが1.5〜2倍になること」と「急な中止による離脱症状のリスク」を両方説明した上で、段階的な減量プランを提案するというアプローチが現実的です。
服薬アドヒアランスの問題も絡んできます。薬剤数が多いほど飲み忘れ・飲み誤りが増え、結果として治療効果が出ないのに薬が増えていくという悪循環が生まれます。服薬カレンダーや一包化調剤、お薬手帳アプリの活用は、複数医療機関受診患者の服薬管理に直接貢献できるツールです。お薬手帳アプリは無料のものも多く、患者・家族の双方が記録・確認できる点で実用性が高いです。
つまり、ポリファーマシー対策の完成形は「処方の適正化」と「患者の納得」の両輪です。薬剤師はその両方に関与できる唯一の専門職です。
💡 現場のポイントまとめ
| 介入の種類 | 具体的なアクション | 参照基準・ツール |
|---|---|---|
| スクリーニング | PIM該当薬の洗い出し | Beers基準・STOPP/START |
| 処方カスケード検出 | 処方開始日と症状出現の時系列照合 | 電子カルテ・持参薬確認 |
| 多職種連携 | カンファレンスでの根拠提示 | トレーシングレポート |
| 患者支援 | SDMによる段階的減量提案 | お薬手帳・一包化調剤 |
薬剤師がポリファーマシー対策の中心に立てるかどうかは、知識の量だけでなく、連携する力・患者と対話する力にかかっています。現場で一つひとつ積み上げていくことが、高齢者の安全な薬物療法を守ることに直結します。

ポリファーマシーで困ったら一番はじめに読む本 研修医、新人薬剤師のうちに知っておきたいポリファーマシーとの上手な付き合い方のコツ吉