セリバスタチンの販売中止は「ゲムフィブロジルとの併用だけが問題だった」と思っていませんか?実は日本では約53万人が使用中、販売中止の2か月前まで新用量の承認が下りていました。

セリバスタチンは、HMG-CoA還元酵素を阻害してLDLコレステロールの産生を抑制するスタチン系薬剤の一種です。日本では商品名「バイコール」(バイエル薬品)と「セルタ」(武田薬品)として、1999年5月から販売が開始されました。販売開始からわずか2年で年間約320億円(薬価ベース)の売上を記録し、推定53万人の患者が使用していたほどの広く普及した薬剤でした。東京都の人口に換算すると、約23人に1人が使っていた計算になります。
他のスタチン系薬剤との大きな違いは、1日当たりの投与量が0.15~0.3mgと非常に少なく、他のスタチンの10分の1以下であった点です。効果が強力なため少量で効くという特徴がありましたが、これは裏を返せば、代謝に何らかの問題が起きたときの影響を受けやすいという側面も持っていました。
転機となったのは2001年8月8日です。独バイエル社が、米国においてゲムフィブロジル(フィブラート系高脂血症治療薬)との併用例を中心に、横紋筋融解症による死亡が31例に上ったとして、世界的な自主回収を発表しました。翌9日にはFDAもこれを支持し、事態は国際的な問題となりました。
つまり、問題は徐々に蓄積されたのではなく、特定の薬物相互作用が引き金となって急速に顕在化したというのが正確な理解です。
厚生労働省:セリバスタチンナトリウム製剤に関する供給企業への指導について(2001年)
この問題の本質を理解するには、薬物相互作用のメカニズムを把握することが欠かせません。セリバスタチンは肝臓においてCYP2C8という代謝酵素によって分解されます。ゲムフィブロジルはこのCYP2C8を強力に阻害する作用を持っているため、両者を併用するとセリバスタチンの血中濃度が著しく上昇します。
ゲムフィブロジルとの併用によって横紋筋融解症の発現頻度は単剤使用時に比べて大幅に増加することが示されており、厚生労働省の審議会でも「スタチンとフィブラートの併用で横紋筋融解症は10倍以上になる」という指摘がなされています。これは決して無視できる数字ではありません。
FDAの発表によれば、①セリバスタチンは他のスタチン系薬剤と比べて重篤な横紋筋融解症の報告件数が有意に多い、②高用量・高齢者・ゲムフィブロジル併用の3条件で特に危険性が高まる、という2点が販売中止の根拠でした。単独投与時であっても横紋筋融解症リスクが相対的に高かった点が、他のスタチンと一線を画していたといえます。
ゲムフィブロジルは日本では未承認でした。これが原因となります。
当初、日本は自主回収の対象外とされました。しかし厚生労働省は「海外渡航者が個人的にゲムフィブロジルを持ち帰って服用する可能性がある」として、全医療機関・薬局に対し注意喚起の徹底を指示しました。さらに、ゲムフィブロジル非併用例でも国内で84件の横紋筋融解症報告が積み上がっていたことを受け、2001年8月23日に日本でも自主販売中止・市場回収が決定されました。
医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス(2018):薬物相互作用によるセリバスタチンの販売中止(温故知新)
この事例で見落とされがちなのが、「同じ薬剤でも国ごとに投与量が2倍以上違った」という事実です。米国では1日0.4~0.8mgが設定されていたのに対し、日本では0.15~0.3mgでした。米国の投与量は日本の2倍以上に相当し、これが両国の副作用発生率の差に大きく関係していたと考えられています。
日本では欧米から導入される医薬品について、安全性の観点から投与量を欧米の1/2や2/3に設定することが多い慣行があります。この慣行が、結果的に日本でのセリバスタチン被害を小さく抑えた一因と分析されています。
一方、米国では医療保険が未整備であるため、慢性疾患に対して最初から月単位の長期処方が行われやすく、投与初期に起きる副作用のチェックや定期的な血液検査が実施しにくい医療システムになっていたことも副作用被害の拡大に影響したとされています。
また、同時期に米国では別の事例も発生していました。2000年春、重篤な肝機能障害の副作用により50名を超える死者を出した糖尿病治療薬ノスカール(troglitazone)の問題です。日本ではドクターレターによる定期的な肝機能検査の指示が医療関係者に徹底されたため、同様の死者発生が防がれた一方、米国では情報が現場に届かず被害が拡大しました。これらの事例は、「情報をいかに現場に届けるか」という仕組みの差が生死を分けることを示しています。
意外な話ですね。
セリバスタチンの問題を直接の契機のひとつとして、厚生労働省は2001年10月に「市販直後調査制度」を世界に先駆けて導入しました。これは現在も医療現場に生きる制度です。
市販直後調査制度とは、新薬が承認・発売された直後の一定期間(原則6か月間)、製造販売業者が医療機関に重点的に情報提供を行い、同時に副作用情報を迅速に収集・評価することを義務付けるものです。新薬は治験段階では限られた患者数にしか使用されないため、市販後に初めて明らかになる副作用が存在します。これを速やかに把握し、必要な安全対策を取ることが制度の目的です。
セリバスタチン事件の教訓を別の角度から見れば、「承認後2年間にわたり53万人が使用していたが、横紋筋融解症報告は国内で84件にとどまっていた」という点があります。これは1件あたり約6,300人に1件の割合です。報告件数自体は少なく見えますが、重篤な副作用である横紋筋融解症がゼロではなかった事実は、販売中止の根拠として十分なものでした。
市販直後調査制度は原則として必須です。
現在の医療従事者にとってこの制度が意味するのは、「添付文書の情報だけでなく、市販後に更新される安全性情報を継続的に確認する必要がある」ということです。初回処方時だけでなく、使用期間中も最新の情報にアクセスし続けることが、患者安全につながります。PMDAの「医薬品安全性情報」や「PMDA医療安全情報」を定期的に確認する習慣は、こうした歴史的教訓に基づいたものです。
PMDA:セリバスタチンナトリウム製剤に係る安全対策に関する文書(2001年)
セリバスタチンが市場から消えた後、現在日本ではスタチン系薬剤として6種類が使用可能です。ストロングスタチンには「ロスバスタチン(クレストール)」「ピタバスタチン(リバロ)」「アトルバスタチン(リピトール)」の3種類があり、スタンダードスタチンには「フルバスタチン(ローコール)」「シンバスタチン(リポバス)」「プラバスタチン(メバロチン)」の3種類があります。
セリバスタチン事件から得られた教訓が、現在の各スタチンの添付文書の構成に反映されています。各薬剤の代謝経路と相互作用への注意が詳細に規定されているのは、その直接的な産物です。
薬剤ごとの代謝経路の違いは重要です。ロスバスタチンはCYPによる代謝の影響を受けにくく相互作用が少ない水溶性のスタチンですが、腎機能低下例(Ccr30mL/min/1.73m²未満)では上限が5mg/日と定められています。アトルバスタチンは主にCYP3A4で代謝されるため、CYP3A4阻害薬(マクロライド系抗菌薬、アゾール系抗真菌薬など)との併用時には横紋筋融解症リスクが高まります。実際、マクロライド系抗菌薬とスタチンを併用すると、横紋筋融解症による入院リスクが2.27倍に上昇するという報告もあります。
フィブラート系薬剤との併用は現在も要注意です。
現行の添付文書では、フィブラート系薬剤とスタチンの併用は「重要な副作用」の欄に明記されており、併用する場合には筋症状の有無、CK値、腎機能のモニタリングが必要です。CKが正常上限値の10倍以上に上昇した場合には、スタチンを一旦中止し専門医にコンサルトすることが日本動脈硬化学会のガイドラインでも推奨されています。
患者への服薬指導においても、「筋肉の痛み・だるさ・力の入りにくさが出た場合は、すぐに服薬を中止して受診するように」と明確に伝えることが、セリバスタチン事件以降、標準的な指導内容として定着しています。これを怠ると、早期発見の機会を逃すことになります。
日本動脈硬化学会:脂質異常症診療のQ&A(スタチン副作用・横紋筋融解症の対応)

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