後発品があれば薬価を下げられると思っていたら、ナルサス錠6mgには後発品が存在せず薬価交渉の余地がありません。

ナルサス錠6mgの現行薬価は、1錠540円です(2025年4月1日以降の薬価基準)。
ナルサス(一般名:ヒドロモルフォン塩酸塩徐放錠)は第一三共プロファーマが製造販売する先発品であり、2017年6月に薬価基準へ収載されました。収載当初の薬価は1錠530.20円でしたが、その後の薬価改定を経て現在の540円に引き上げられています。一般的に薬価は改定のたびに引き下げられることが多い中、ナルサス錠6mgは後発品(ジェネリック医薬品)が存在しないため、薬価算定の構造が異なります。これは重要な点です。
後発品なしが原則です。
ナルサスの規格は2mg・6mg・12mg・24mgの4種類があり、それぞれの薬価は以下のとおりです。
| 規格 | 薬価(1錠) | 1日薬価(目安) |
|---|---|---|
| ナルサス錠2mg | 206.6円 | 206.6円(1錠/日) |
| ナルサス錠6mg | 540円 | 540円(1錠/日) |
| ナルサス錠12mg | 990.2円 | 990.2円(1錠/日) |
| ナルサス錠24mg | 1,815.8円 | 1,815.8円(1錠/日) |
ナルサス錠は1日1回投与の徐放性製剤であることから、上記の1錠薬価がそのまま1日薬価に相当します。たとえば、ナルサス錠6mg(540円/日)を30日分処方した場合の薬剤費は540円×30日=16,200円となります。患者の自己負担が3割であれば約4,860円となり、決して小さな金額ではありません。薬価は診療報酬請求における基本情報であり、医療従事者として正確に把握しておくことが求められます。
参考リンク(ナルサスを含むオピオイド系鎮痛薬の薬価一覧)。
KEGGMedicus:オピオイド系鎮痛薬の商品一覧と薬価
ナルサス錠の有効成分であるヒドロモルフォンは、モルヒネを構造的な出発点として誘導された半合成オピオイドです。μオピオイド受容体に高い親和性をもち、完全作動薬(フルアゴニスト)として用量に応じた鎮痛効果を発揮します。天井効果がないため、がん疼痛の程度に合わせて用量調整が可能です。
鎮痛力価の目安が原則です。
特にオピオイドスイッチング(薬剤変更)を行う際に重要となるのが、他剤との換算比です。ヒドロモルフォン(経口)の鎮痛力価は、同用量のモルヒネ(経口)と比較して約5倍とされており、換算比の目安は以下のとおりです。
| オピオイド(経口) | 等価用量 |
|---|---|
| ヒドロモルフォン(ナルサス) | 6mg |
| モルヒネ(経口) | 30mg |
| オキシコドン(経口) | 20mg |
| フェンタニル貼付剤 | 1mg(フェントステープ換算) |
添付文書上でも、「本剤の1日用量は、モルヒネ経口剤1日用量の1/5量を目安とすること」と明記されています。つまり、経口モルヒネ30mg/日の患者をナルサスに切り替える場合は、ナルサス6mg/日が換算の基準となります。
意外ですね。
ただし換算比はあくまで目安です。個々の患者の腎機能・肝機能・年齢・過去の使用歴によって実際の反応には差があります。特に腎機能が低下した患者では、ヒドロモルフォンの排泄が遅延し血中濃度が上昇するリスクがあります。添付文書でも腎機能障害患者には「低用量から開始し慎重に投与すること」と注意が示されており、常用量でのスイッチングには細心の注意が必要です。
換算比のみで決めるのは危険です。
参考リンク(オピオイド換算・ヒドロモルフォンの詳細解説)。
慶應義塾大学病院KOMPAS:新しい鎮痛薬ヒドロモルフォンによるがん疼痛治療
参考リンク(等価換算表の臨床的活用)。
聖隷三方原病院 症状緩和ガイド:オピオイドの等価換算表
ナルサス錠6mgは、どのような臨床場面で選択されるのでしょうか?
ナルサスを選択する代表的な理由の一つが、最小用量からの導入です。ナルサス錠の最小規格は2mgであり、これは経口モルヒネ換算で約10mg/日に相当します。オキシコドン徐放剤の最小用量が経口モルヒネ換算で15mg/日であることと比較すると、ヒドロモルフォンはより低用量での導入が可能です。オピオイド導入時に「少ない量から慎重に始めたい」という場面では有利な選択肢となります。
これは使えそうです。
また、ナルサス錠6mgを含む全規格が1日1回の服薬で済む徐放性製剤であることも大きな特徴です。MSコンチン錠(モルヒネ)やオキノーム散などの1日複数回服用製剤と比較して、服薬の負担を大幅に軽減できます。認知機能の低下した高齢患者や、在宅療養で家族が服薬管理を行っているケースでは、1日1回という単純なレジメンが服薬アドヒアランスの維持につながります。
処方時の注意点として押さえておきたいのが、徐放錠を割ったり、砕いたり、噛み砕かないよう患者に指導することです。徐放性製剤を破壊すると、急激な薬物放出により血中濃度が急上昇し、重篤な呼吸抑制のリスクがあります。簡易懸濁法は適用できません。経管投与が必要な患者には別の剤形・別の薬剤への変更を検討する必要があります。
服薬指導は必須です。
また、ナルメフェン塩酸塩水和物(商品名:セリンクロ)との併用禁忌にも注意が必要です。ナルメフェンはμオピオイド受容体の拮抗薬であり、ナルサスの効果を著しく減弱させ、さらに離脱症状を誘発するリスクがあります。アルコール依存症の治療でセリンクロが使用されている患者では、投与中止後1週間以内もナルサスの使用を避ける必要があります。
ナルサス錠6mgは麻薬及び向精神薬取締法の規制対象(麻薬)です。処方箋は「麻薬専用処方箋」が必要であり、一般の処方箋とは別に発行されます。
保険給付上の最重要ルールとして、ナルサス錠は1回の投薬につき30日分を上限として投薬する旨が、厚生労働省告示第42号(平成30年3月5日付)に基づき定められています。つまり、どのような理由があっても1回の処方で31日分以上を投薬することは保険上認められません。30日分が原則です。
調剤薬局の視点から見ると、ナルサスなどの医療用麻薬が処方された際には、麻薬管理指導加算を算定できます。外来患者に対しては22点、在宅患者への訪問薬剤管理指導時は100点(オンライン対応は22点)が所定点数に加算されます。この加算の算定要件として、薬剤師は調剤後に継続的に電話等で以下の項目を確認する必要があります。
初回調剤時は服薬フォロー前のため算定できません。これが条件です。
在宅での麻薬管理指導加算は、在宅患者訪問薬剤管理指導料などが別途算定されていることが前提となります。単独での算定はできない点に注意が必要です。また、薬歴には麻薬に係る薬学的管理指導の内容、患者・家族への指導要点、処方医への情報提供内容、廃棄に関する事項を記載することが義務付けられています。
参考リンク(麻薬管理指導加算の算定要件の詳細)。
なな薬剤師ブログ:麻薬管理指導加算の算定要件まとめ【令和6年度改定】
医療従事者として薬価を把握することは大切ですが、薬剤コストを「1錠あたり」ではなく「等価鎮痛用量あたり」で比較する視点も持っておくことが重要です。
ここで注目すべきなのが、ナルサス錠6mgの鎮痛力価あたりの薬価効率です。経口モルヒネ換算30mg/日に相当するオピオイドの薬剤費を比較してみます。
| 薬剤名 | モルヒネ換算30mg/日相当の用量 | 1日薬剤費(概算) |
|---|---|---|
| ナルサス錠6mg(1日1回) | 6mg×1錠 | 約540円 |
| MSコンチン錠15mg(1日2回) | 15mg×2錠 | 約467.2円(233.6円×2) |
| オキシコドン徐放錠10mg(1日2回) | 10mg×2錠 | 約867.4円(433.7円×2) |
この比較から分かることがあります。
等価鎮痛用量あたりで見ると、ナルサス錠6mgはオキシコドン徐放錠と比べてコスト面で有利ですが、モルヒネ徐放錠と比較すると約16%ほど高い薬価となります。ただし、モルヒネには後発品が存在するため、後発品を使用すればさらにコスト差が広がる場合があります。一方でナルサスは後発品がなく、この価格差は固定されます。
コストだけでは語れません。
ただし薬剤コストの差だけで薬剤選択を行うのは適切ではありません。腎機能障害や肝機能障害の程度、服薬回数の負担、CYP代謝経路の問題、患者個人の副作用経験など、薬学的・臨床的な観点が優先されるべきです。コスト効率は判断材料の一つとして位置づけ、処方医・薬剤師・看護師が連携してトータルで最適な薬剤選択を行うことが、患者のQOL向上につながります。
処方の最適化が鍵です。
副作用管理の観点からも重要な情報があります。ナルサス錠の国内第III相試験では、副作用発現頻度は68.2%(60/88例)に達し、主な副作用として悪心(38.6%)、嘔吐(30.7%)、傾眠(23.9%)、便秘(11.4%)が報告されています。これはオピオイド全般に共通する副作用プロファイルですが、特に投与開始初期の悪心・嘔吐については、制吐剤の予防的投与を標準的に組み合わせることが推奨されます。また便秘についても、緩下剤の予防的投与が基本方針となります。オピオイド誘発性便秘症(OIC)が遷延する場合は、ナルデメジン(スインプロイク®)の追加も選択肢となります。
参考リンク(ヒドロモルフォンの臨床的位置づけと処方情報)。
CareNet:ナルサス錠6mgの効能・副作用・添付文書情報
参考リンク(添付文書全文・PMDAによる審査資料)。
PMDA:ヒドロモルフォン塩酸塩(ナルサス錠)審査報告書PDF