便秘を「我慢できる副作用」と思っていると、腸閉塞で緊急入院になるケースがあります。

ヒドロモルフォン塩酸塩徐放錠(代表的製品名:ナルサス®錠)は、モルヒネの約5〜7倍の鎮痛効力を持つオピオイド鎮痛薬です。がん疼痛の管理に広く使用される一方、オピオイド共通の副作用に加えて、この薬剤に特有の副作用プロフィールを持っています。
臨床試験データによると、悪心・嘔吐は投与開始初期に約30〜50%の患者で見られます。便秘はほぼすべてのオピオイドに共通しますが、ヒドロモルフォンでも40〜60%程度の発現率が報告されており、耐性が形成されにくい副作用として知られています。つまり、投与期間が長くなっても便秘は解消されないということです。
眠気・傾眠は投与開始時や増量時に顕著で、特に高齢者では転倒リスクに直結します。国内の臨床報告でも、オピオイド開始後1週間以内の転倒件数が有意に増加するとされており、入院患者では床頭台の整備やナースコールの位置確認が必須です。これは見落としやすいポイントです。
以下に主な副作用を発現頻度別にまとめます。
| 副作用の種類 | おおよその発現頻度 | 特記事項 |
|---|---|---|
| 悪心・嘔吐 | 30〜50%(投与初期) | 数日〜1週間で耐性形成されやすい |
| 便秘 | 40〜60% | 耐性が形成されにくく長期的に持続 |
| 眠気・傾眠 | 20〜40% | 高齢者の転倒リスクと直結 |
| 口渇 | 10〜20% | QOL低下の一因 |
| 掻痒感 | 5〜15% | モルヒネより少ないとされる |
| 呼吸抑制 | 1%未満(治療量域では稀) | 過量投与・急激な増量時に危険 |
| 尿閉 | 5〜10% | 前立腺肥大の患者で特に注意 |
| せん妄・幻覚 | 5〜10% | 高齢者・腎機能低下患者で増加傾向 |
腎機能が低下した患者では、代謝産物の蓄積により副作用が増強するリスクがあります。ヒドロモルフォンの主要代謝産物であるhydromorphone-3-glucuronide(H3G)は神経興奮作用を持ち、ミオクローヌスやアロディニア(通常では痛みを引き起こさない刺激による疼痛)を引き起こすことがあります。H3G蓄積には特に注意が必要です。
参考リンク(ナルサス錠の添付文書・副作用情報)。
PMDA(医薬品医療機器総合機構)ナルサス錠 添付文書
呼吸抑制は、頻度は低いながらも生命に直結する最も重篤な副作用です。ヒドロモルフォンはモルヒネより脂溶性が高く、血液脳関門を通過しやすい特性があります。これがモルヒネ比較で呼吸抑制出現速度に違いをもたらすことがあります。
呼吸抑制の初期サインを見逃さないことが重要です。具体的には「呼吸数10回/分以下」「SpO₂が90%を下回る」「ピンポイント瞳孔(縮瞳)」「意識レベルの低下(GCS低下)」の4つが警戒すべきサインとされています。特に就寝中の患者では発見が遅れやすいため、増量後48〜72時間は夜間巡回の頻度を上げる施設もあります。
対応の基本は拮抗薬であるナロキソン(商品名:ナロキソン塩酸塩注射液)の投与です。ナロキソンの成人への投与量は通常0.2〜0.4mgを静注または筋注し、効果不十分な場合は2〜3分ごとに追加投与します。ただし、ナロキソンの作用時間(約30〜90分)はヒドロモルフォン徐放錠より短いため、一度ナロキソンで改善しても再度呼吸抑制が起こる可能性があります。ナロキソン投与後も数時間は経過観察が原則です。
徐放錠の場合、薬剤が体内に残存し続けるため、ナロキソンの繰り返し投与や点滴による持続投与が必要になることがあります。一回の拮抗で安心してはなりません。
また、ナロキソンを急速・過剰投与すると急激な疼痛再燃や離脱症状を引き起こすリスクがあります。がん疼痛管理中の患者でオピオイドを突然拮抗すると、患者が激しい苦痛を訴える事態になります。投与量の調節と投与速度には細心の注意が必要です。
便秘はオピオイド誘発性便秘症(OIC:Opioid-Induced Constipation)として特別に分類されるほど、臨床上の重要課題となっています。一般的な下剤(酸化マグネシウムや刺激性下剤)では効果不十分なケースも多く、適切な初期対応を怠ると重大な転帰を招きます。
OICの怖いところは、耐性が形成されない点です。悪心や眠気は投与1〜2週間で大半の患者で軽減しますが、便秘だけは投与が続く限り継続します。「そのうち改善するだろう」と様子を見ていると、腸蠕動が著しく低下し、麻痺性イレウスや糞便塞栓(fecal impaction)を引き起こすリスクがあります。糞便塞栓は緊急処置が必要な状態です。
OICの治療アルゴリズムとして、まず刺激性下剤(センナ、ピコスルファートナトリウム等)を定期投与で開始し、浸透圧性下剤(酸化マグネシウム、ラクツロース等)を併用する方法が推奨されています。近年では、末梢性μオピオイド受容体拮抗薬であるナルデメジン(商品名:スインプロイク®)が承認されており、OICに対して特異的に作用するため注目されています。
| 薬剤の種類 | 代表的薬剤名 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| 刺激性下剤 | センナ、ピコスルファート | OIC一次選択。定期投与が基本 |
| 浸透圧性下剤 | 酸化マグネシウム、ラクツロース | 腎機能低下患者ではMg蓄積に注意 |
| 末梢性μ拮抗薬 | ナルデメジン(スインプロイク®) | OIC適応の保険適用薬。鎮痛効果に影響しにくい |
| 浣腸・座薬 | グリセリン浣腸等 | 補助的使用。頻用は避ける |
OICの評価には「Bowel Function Index(BFI)」スコアが有用です。28.8点以上でOICと判定されるとされており、定期的なスコアリングで客観的な管理が可能になります。これは使えそうです。
日本緩和医療学会「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」(副作用管理を含む詳細な推奨事項が掲載)
せん妄はオピオイド使用中の患者に発生しやすく、特に終末期がん患者では複合的な原因が絡み合います。ヒドロモルフォン使用中のせん妄発症率は、がん患者全体では20〜40%に達するとも言われており、決して稀な副作用ではありません。
ヒドロモルフォン誘発せん妄を疑う際には、まず他の要因との鑑別が重要です。脱水、電解質異常(特に高カルシウム血症)、感染症、中枢神経系転移、他薬剤との相互作用などが重なっている場合が多く、オピオイドを一方的に原因と決めつけると適切な治療が遅れます。鑑別は丁寧に行うことが条件です。
オピオイドが原因として疑わしい場合は、オピオイドローテーション(他のオピオイド製剤への切り替え)が有効な選択肢となります。ヒドロモルフォンからフェンタニルやタペンタドールへの変更によってせん妄が改善するケースが報告されており、特に腎機能低下患者でH3G蓄積が疑われる場合には積極的に検討すべきです。
投与量の調整も重要な対策です。痛みがコントロールされている状況でのせん妄や眠気増強は、オピオイドの過剰投与のサインである可能性があります。この場合、現在の投与量を10〜25%減量する対応が推奨されます。
せん妄の対症療法として、ハロペリドールが標準的に使用されることが多いですが、鎮静を深めすぎないよう用量設定には注意が必要です。患者の残存能力を最大限維持しながらせん妄を管理することが、緩和ケアの観点から重要とされています。
徐放錠という製剤特性上、管理上の注意点がいくつかあります。まず最も重要なのは、錠剤の粉砕・分割・噛み砕きの絶対禁止です。徐放性コーティングが破壊されることで、本来12〜24時間かけて放出されるべき薬剤が一度に溶出し、過量投与と同様の血中濃度上昇を招きます。これは投与量が変わらなくても起こります。
嚥下困難な患者への対応として、粉砕の代わりに別剤形(注射剤や即放性製剤)への切り替えを検討することが必須です。「飲みにくそうだから砕いてあげよう」という善意の行為が医療事故につながる危険があります。徹底した患者・家族への説明が必要です。
薬物相互作用についても見落としが起きやすい項目です。代表的なものを以下に示します。
腎機能評価は特に重要です。eGFR(推定糸球体濾過量)が30mL/min/1.73m²を下回る患者では、前述のH3G蓄積リスクが著しく高まります。投与開始時だけでなく、定期的なeGFRのモニタリングと、それに応じた投与量調整や薬剤変更の検討が求められます。腎機能評価は継続的に行うことが基本です。
また、がん治療薬との相互作用も見逃せません。一部の分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が消化管の蠕動運動や吸収に影響し、徐放製剤の吸収プロフィールを変化させる可能性が指摘されています。がん薬物療法と並行している患者では、疼痛コントロールの変動があった際に薬物動態的変化を鑑別の一つに入れることが推奨されます。
参考リンク(オピオイド副作用・適正使用に関する医療従事者向け情報)。
厚生労働省「医療用麻薬適正使用ガイダンス」(投与管理・副作用対応の詳細な指針が掲載)

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