食後にナルサス錠2mgを飲ませると、空腹時の1.6倍の血中濃度になり呼吸抑制リスクが跳ね上がります。

ナルサス錠2mg(一般名:ヒドロモルフォン塩酸塩徐放錠)は、第一三共が2017年6月に販売を開始した持続性がん疼痛治療剤です。モルヒネから誘導された半合成オピオイドであるヒドロモルフォンを有効成分とし、WHO方式がん疼痛治療法における「中等度から高度の痛みに対する強オピオイド」として位置づけられています。添付文書(2025年4月改訂、第6版)に基づいて正確な知識を整理することが、安全な処方と服薬指導の第一歩です。
効能又は効果は「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」に限定されています。つまり、がん疼痛以外への使用は適応外となる点を押さえてください。
用法及び用量は、「通常、成人にはヒドロモルフォンとして4〜24mgを1日1回経口投与する」と規定されています。1日1回投与というシンプルな用法は患者の服薬アドヒアランス向上に大きく貢献しますが、以下の初回投与ルールを必ず守る必要があります。
増量の目安は使用量の30〜50%増です。これが原則です。急激な増量は過量投与リスクを高めるため、段階的な調整が求められます。また、投与中止の際も急激な減量は退薬症候を引き起こすため、徐々に減量することが添付文書で明確に指示されています。
参考情報として、オピオイド等価換算表は緩和ケア診療に欠かせないツールです。
聖隷三方原病院 症状緩和ガイド|オピオイドの等価換算表(モルヒネ・ナルサス・フェンタニルの換算比較)
禁忌は9項目あります。見落とし厳禁です。添付文書の第2項に明記された全禁忌事項を以下に整理します。
| 禁忌の対象 | 理由 |
|---|---|
| 重篤な呼吸抑制のある患者 | 呼吸抑制をさらに増強する |
| 気管支喘息発作中の患者 | 気道分泌を妨げる |
| 慢性肺疾患に続発する心不全の患者 | 呼吸抑制・循環不全を増強する |
| 痙攣状態(てんかん重積症・破傷風等)の患者 | 脊髄の刺激効果があらわれる |
| 麻痺性イレウスの患者 | 消化管運動を抑制する |
| 急性アルコール中毒の患者 | 呼吸抑制を増強する |
| 本剤成分・アヘンアルカロイドに過敏症の患者 | 過敏反応のリスク |
| 出血性大腸炎の患者 | 腸管出血性大腸菌(O157等)による症状悪化・治療期間延長のおそれ |
| ナルメフェン塩酸塩水和物(セリンクロ)投与中または投与中止後1週間以内の患者 | μオピオイド受容体拮抗作用により本剤の作用が競合的に阻害される |
中でも見落としやすいのが「ナルメフェン(セリンクロ)との組み合わせ」です。セリンクロはアルコール依存症治療に使用される薬剤で、がん患者が飲酒問題を抱えているケースや、既往歴がある場合に処方記録を確認せず見落とすリスクがあります。ナルメフェン中止後は必ず1週間以上間隔を空けることが求められます。
重篤な呼吸抑制・麻痺性イレウスは緊急対応が必要な状態であり、投与の可否判断は慎重に行う必要があります。これは基本です。
添付文書の副作用データを正確に把握することで、患者への適切な事前説明と症状マネジメントが可能になります。特に注目すべきは、消化器症状の高い発現率です。
約3人に1人が悪心を経験する計算です。これは使えそうな数字です。特にオピオイド未使用の患者では投与開始1日目に悪心・嘔吐の発現が多いことが、PMDA審査報告書でも指摘されており、添付文書では「制吐剤の併用」が重要な基本的注意として明記されています。
実際の臨床では、プロクロルペラジンやメトクロプラミドなどの制吐剤を予防的に開始1〜2週間投与し、悪心・嘔吐への耐性が形成された後に減量・中止を検討するアプローチが一般的です。制吐剤は「症状が出てから対処」ではなく「開始前からの予防投与」が鍵です。
重大な副作用として添付文書に記載されているのは以下の4項目です。
「鎮痛効果が得られている患者で通常と異なる強い眠気が出た場合は過量投与の可能性がある」という記載は実際の臨床場面で役立つ指標です。強い眠気は減量のサインに注意すれば大丈夫です。
東和薬品|オピオイドによる悪心・嘔吐の対処法(制吐薬の予防投与タイミングと減量の目安を解説)
ナルサス錠2mgはヒドロモルフォンとして主にグルクロン酸抱合(UGT経由)で代謝されます。CYP酵素系の関与が少ない点が特徴であり、CYP阻害薬・誘導薬との薬物動態的相互作用は比較的起こりにくいとされています。ただし、中枢神経抑制の薬力学的相互作用には十分な注意が必要です。
併用禁忌(絶対に併用しない)
ナルメフェン塩酸塩水和物(セリンクロ):μオピオイド受容体拮抗作用により本剤の効果が競合的に阻害される。離脱症状のリスクもあり。
併用注意(慎重に使用する)
特定の背景を有する患者への対応として、腎機能・肝機能の状態は処方前に必ず確認する必要があります。添付文書の薬物動態データは以下の通りです。
| 患者背景 | AUC変化 | 対応 |
|---|---|---|
| 腎機能正常者 | 基準 | 通常用量 |
| 中等度腎機能障害(CrCl 40〜60mL/min) | 約2倍に増加 | 低用量から開始、慎重投与 |
| 重度腎機能障害(CrCl 30mL/min未満) | 約4倍に増加 | 低用量から開始、十分なモニタリング |
| 中等度肝機能障害(Child-Pugh 7〜9) | 約4倍に増加 | 低用量から開始、慎重投与 |
| 高齢者(65〜74歳) | 非高齢者と差なし(外国人データ) | 呼吸抑制感受性が高いため低用量から |
重度腎機能障害ではAUCが4倍に跳ね上がります。痛いですね。例えば通常4mg/日で投与している患者が腎機能を急激に悪化させた場合、実質的に16mg相当の暴露量になる計算です。定期的な腎機能モニタリングと用量の再評価が不可欠です。
日本緩和医療学会|がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版(腎・肝機能障害患者へのオピオイド選択と用量調整の根拠)
添付文書の薬物動態データは服薬指導の質を直接左右します。ここではナルサス錠に特有の3つの臨床的重要ポイントを深掘りします。
① 徐放錠を「割る・砕く・噛む」ことの危険性
ナルサス錠は徐放性製剤であり、添付文書8.1に「服用に際して割ったり、砕いたり、あるいはかみ砕かないように指導すること」と明記されています。これは単なる製剤上の注意ではなく、患者の生命に直結する指示です。
徐放錠の仕組みはゆっくりと薬物を溶出させることで血中濃度を安定させるように設計されています。錠剤を割るとその設計が一気に崩壊します。全量が短時間で溶出し、急激な血中濃度の上昇(ダンピング効果)が起き、呼吸抑制・意識障害・血圧低下などの重篤な副作用が生じうるのです。
嚥下困難な患者にナルサス錠を処方する際は、粉砕不可である旨を必ず薬剤師・看護師と連携して共有し、代替の投与経路(注射製剤への切り替えなど)を検討することが原則です。
② 食事の影響:Cmaxが1.6倍になるという事実
添付文書の薬物動態(16.2.2)によると、日本人健康成人男性6例への本剤2mg単回経口投与において、食後投与では空腹時と比較してCmaxが1.6倍、AUCinfが1.3倍に増大することが確認されています。
これは重要なポイントです。一般的にがん患者は食事量が不安定なことが多く、「今日は食事が摂れた」「今日はほとんど食べられなかった」という状況が繰り返されます。食事状況に応じて血中濃度が変動し、食後投与では過量投与に近い状態になる可能性があることを念頭に置いた患者指導が必要です。服用時点の統一(例:毎日同じタイミングで、空腹時または食後のどちらか一方に統一する)を患者・家族に指導することで、血中濃度変動を最小化できます。
③ オピオイドスイッチング時のタイミング管理(独自視点)
フェンタニル貼付剤からナルサスへの切り替えには、他のオピオイドスイッチングとは異なる固有のタイミング管理が必要です。貼付剤を剥離しても、フェンタニルは皮下組織に蓄積されているため血中濃度が急速に下がりません。添付文書では「剥離後にフェンタニルの血中濃度が50%に低下するまで17時間以上かかる」と具体的な数字が明記されており、剥離直後にナルサスを開始すると二剤の作用が重複して呼吸抑制が生じうるリスクがあります。
実際の切り替えでは、剥離後に一定時間を待ち、患者の疼痛状態を観察しながらナルサスの低用量から開始するという慎重なアプローチが求められます。切り替えのタイミングが重要です。病棟・外来を問わず、切り替え当日の患者モニタリング体制を事前に整備することが、重篤な副作用を防ぐための具体的な行動になります。
ヒドロモルフォンの薬物動態の詳細や、肝機能障害下での注射剤から経口徐放錠への変更に関する臨床報告は以下を参照してください。
薬物動態パラメータの参照元として、PMDAの公式添付文書も確認を推奨します。
JAPIC|ナルサス錠 添付文書PDF(2025年4月改訂 第6版・公式最新版)

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