カルバペネム耐性菌の感染対策と院内伝播防止の実践

カルバペネム耐性菌(CRE)の感染対策は手指衛生だけで本当に十分なのか?伝播経路・接触予防策・積極的保菌調査・環境管理まで、医療従事者が現場で実践すべき具体的な対策を詳しく解説します。

カルバペネム耐性菌の感染対策と院内伝播防止の実践

CRE(カルバペネム耐性腸内細菌目細菌)は、保菌者が1人確認されただけでアウトブレイクに準じた対策が必要とされる危険な耐性菌です。普段通りに抗菌薬を投与すると、逆にCREを増やしてしまいます。


この記事の3つのポイント
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CREとは何か

カルバペネム系を含む多くのβ-ラクタム系薬に耐性を示す腸内細菌目細菌。菌血症の単独療法での28日死亡率は57.8%と非常に高い。

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感染対策の基本

手指衛生の5つのタイミング遵守・接触感染予防策の徹底・ガウン・手袋着用が院内伝播を防ぐ最大の武器。

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見落としがちなリスク

シンクなど水回りはCREの隠れた感染源。積極的保菌調査で保菌者全体の約50%が新たに発見されるという報告もある。


カルバペネム耐性菌(CRE)が院内感染対策で最も警戒される理由



CREとは「Carbapenem-Resistant Enterobacterales」の略称で、感染症治療における「最後の切り札」であるカルバペネム系抗菌薬(メロペネムやイミペネムなど)を含む多くの広域β-ラクタム系薬に耐性を獲得した腸内細菌目細菌の総称です。主な菌種にはEscherichia属菌・Klebsiella属菌・Enterobacter属菌・Serratia属菌などが含まれます。


CREが院内感染対策上で特別に危険視される最大の理由は、その高い致命率にあります。KPC型カルバペネマーゼ産生K. pneumoniaeによる菌血症では、単独療法での28日死亡率は57.8%にのぼるという報告があります(Qureshi et al.)。菌血症・敗血症だけでなく、尿路感染症、肺炎、胆嚢炎・胆管炎、腹膜炎なども引き起こします。致死率はこれほど高い。


さらに問題を複雑にしているのが、カルバペネム耐性を付与する酵素「カルバペネマーゼ」の遺伝子がプラスミド上に存在することが多く、接合伝達等によって腸内細菌目の他の菌種にまで水平伝播してしまう点です。つまり、ある菌種から別の菌種へと耐性遺伝子がリレーされるように広がります。同一アウトブレイク中にKlebsiella属とEscherichia属のCPEが続けて検出された場合も、別のエピソードとして油断せず対応することが求められます。


2014年9月19日の感染症法施行規則改正により、CRE感染症は感染症法5類全数把握疾患に指定されました。診断した医師はすべての症例を届け出る義務があります。ただし、保菌者(感染症を発症していない人)は届出対象ではありませんが、院内での情報共有は感染対策上不可欠であり、複数例が検出されてアウトブレイクが疑われる場合は保健所への連絡が必要です。保菌者でも感染者と同じ感染対策が必要です。


また、日本国内で分離されるCREは、欧米とはカルバペネマーゼの型が異なり、IMP型メタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)産生菌が多いという特徴があります。IMP-6型はイミペネムには耐性と判定されない場合があり、検出漏れに特に注意が必要です。日常の薬剤感受性検査でMEPMとIPM両方を測定する習慣が求められます。


参考:カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症に関する一般的事項(国立感染症研究所)
https://dcc-irs.jihs.go.jp/material/factsheet/cre.html


カルバペネム耐性菌の感染対策の基本:手指衛生と接触感染予防策の実際

CREの感染対策の根幹は、標準予防策に加えた接触感染予防策(Contact Precautions)の徹底です。主な伝播経路は直接接触(保菌者の便・体液→医療従事者の手指→患者)と間接接触(汚染された環境表面・医療器材を介した経路)の2種類です。


手指衛生は最重要対策です。WHOが推奨する「手指衛生5つのタイミング」は以下のとおりです。




























タイミング 理由
① 患者に触れる前(入室前・診察前) 医療従事者の手指を介した患者への病原体伝播を防ぐ
② 清潔/無菌操作の前(ライン挿入・創傷処置など) 患者体内への微生物侵入を防ぐ
③ 血液・体液に触れた後(検体採取・尿便処理後) 医療従事者と医療環境への汚染拡大を防ぐ
④ 患者に触れた後(入室後・診察後) 患者の病原体から医療従事者と環境を守る
⑤ 患者周辺環境に触れた後(ベッド柵・リネン・モニター類) 手袋脱衣後も含め徹底が必要


手指衛生はCRE対策の最前線です。手袋を着用していても、脱衣後の手指衛生を省略してはいけません。「手袋をはめているから大丈夫」という意識が、最も危険な落とし穴です。


個人防護具(PPE)については、患者や患者周辺環境に触れる際には手袋・ガウン(エプロン)を必ず着用します。おむつ交換や排泄ケアの際のガウン着用は必須です。PPEは必ず病室退室前に外し、脱衣後すぐに手指衛生を行います。病室外でPPEを外してしまうと、廊下や共用スペースへの汚染が広がるリスクがあります。着脱の順番が重要です。


患者の収容に関しては、個室への隔離が最も望ましいです。個室が確保できない場合は、同一の病原体保菌者・感染者を一箇所にまとめる「コホーティング(集団隔離)」が有効です。コホーティングも難しい状況では、患者間のベッド距離を1m以上確保し、カーテンなどの物理的な障壁を設けることが推奨されます。


聴診器・血圧計・体温計などの医療器材は、可能な限り患者専用にするのが原則です。複数患者に使用せざるを得ない場合は、患者ごとに必ず洗浄または消毒を行います。この一手間が院内伝播を大きく左右します。


参考:日本環境感染学会 CRE感染対策教育スライド
https://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_28.pdf


カルバペネム耐性菌の感染対策で盲点になる「水回り」の管理

多くの医療従事者が見落としがちな感染源として、院内のシンク・手洗い場などの水回りが挙げられます。これは非常に意外な事実として知られています。


腸内細菌科細菌は、シンクの排水口に向かって1日約2.5cmのペースで増殖し、約1週間でシンク周囲に到達するという研究報告があります(Kotay et al., 2017)。排水口に到達した後は、手洗いの水跳ねによって周囲に飛散し、手洗い場から最大1m以内の床面や物品を汚染するリスクがあります。はがきの短辺ほどの速度で毎日着実に増殖している、ということです。


CRE/CPEを含む腸内細菌目細菌は、湿潤環境ではEnterobacter cloacaeのように16ヶ月から30ヶ月以上生存できることも報告されており、シンクへの定着が確認されると長期にわたって感染源になり続けます。アウトブレイクが発生した病棟での環境培養では、患者周囲のリネン・点滴ポンプ・ベッド柵・オーバーテーブルに加え、シンクや排水口からCREが検出された事例が複数あります。


アウトブレイク時の水回り対策として、以下が推奨されています。


- 🚰 シンクから1m以内には物を置かない
- 🧽 清掃用具のスポンジを複数箇所で共有しない
- 🪣 定期的にシンク・トイレの清掃と消毒を強化する
- 💧 病棟内で水道を使用した後は必ずアルコール手指消毒を実施する
- 🍽️ 水道を使用した物品は食器洗浄機または消毒・乾燥後に使用する
- 🔄 逆流しているシンクは早急に改善要望を提出する
- 🚻 感染確定患者と陰性患者のシンク・トイレは可能な限り区別する


日常ケアでは問題ないように見えても、水回りへの意識が薄いと感染対策に抜け穴が生まれます。「患者に直接触れる際の対策」だけを強化しても、環境の管理が不十分であれば伝播は止まりません。環境管理も感染対策の一部です。


院内のシンク配置や排水管の状態を感染管理チームが定期的に確認し、記録に残す体制を作ることが、長期的なCRE伝播防止につながります。感染管理担当者との連携が鍵を握ります。


参考:カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染制御及びアウトブレイク対策のためのガイド(名古屋大学 八木哲也)
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/kansenseigyo/kousei2/2.CRE.pdf


カルバペネム耐性菌のアウトブレイク対策:積極的保菌調査と隔離の手順

CREの対応では、1例でも保菌者が確認された時点でアウトブレイクに準じた対策を開始することが、厚生労働省医政局通知で推奨されています。「まだ1人だから様子を見よう」という判断は許されません。これがCRE対策の大原則です。


アウトブレイク対応の中で特に重要なのが積極的保菌調査(Active Surveillance)です。アウトブレイク時に積極的保菌調査を実施した複数の報告では、保菌調査を行うことで保菌者全体の約50%が新たに発見されたとされています。これは、何もしなければ半分の保菌者が見えないまま放置されるということを意味します。


積極的保菌調査の対象者には、以下が含まれます。


- 🔍 CRE検出患者と同室だった患者
- 🔍 同病棟の入院患者(ハイリスク者)
- 🔍 CRE患者と同じスタッフにケアされた患者
- 🔍 同じ医療処置室(ICU・透析室・救急室など)を使用した患者


検体は便または直腸スワブが基本です。尿道カテーテル留置患者では尿も、気管切開患者は喀痰も検査対象に加えます。積極的保菌調査の結果が出るまでには通常3〜4日かかることも考慮した上で行動計画を組む必要があります。


保菌者が新たに見つかった場合は感染対策を継続しながら、1〜2週間ごとに調査を繰り返します。重要なポイントとして、医療従事者や家族に対する保菌調査はその有用性が不明であり、現状では推奨されていません。対象を絞った調査が有効です。


アウトブレイク時の主要な対策の組み合わせを整理すると、次のようになります。


| 対策 | 内容 |
|------|------|
| 積極的保菌調査 | 便・直腸スワブ等で保菌者を早期把握 |
| 患者の隔離・コホーティング | 個室収容または同一病原体患者の集団隔離 |
| スタッフのコホーティング | 感染患者に関与するスタッフ数を最小化 |
| 手指衛生のモニタリング | 遵守率を計測して高い水準を維持 |
| 環境消毒の強化 | 高頻度接触部位の0.1%次亜塩素酸Na消毒 |
| 患者情報の多職種共有 | 電子カルテへのフラグ付け・病室へのマーキング |
| 行政への報告・連携 | 保健所への速やかな連絡と情報提供 |


こうした複数の対策を単独ではなく組み合わせて同時に実施することで初めて効果が発揮されます。1つだけを重点的に行っても、他のルートからの伝播は止まりません。対策の組み合わせが条件です。


また、院内での情報共有は医師・看護師だけでなく、リハビリ・栄養・検査・薬剤師など多職種が参加した体制で行うことが重要です。他の部門・他の病院へ患者が移動する際には、受け入れ先への情報伝達(電子カルテへのフラグ付けや転院サマリーへの記載)が院内・院間伝播の防止に直結します。


参考:国立感染症研究所 CRE感染症最新サーベイランス情報(JANIS)
https://janis.mhlw.go.jp/


カルバペネム耐性菌の感染対策における内視鏡管理と抗菌薬適正使用の視点

CRE感染対策において、日常業務の中で見過ごされやすい重要な視点が2つあります。一つは内視鏡(とくに十二指腸鏡)の管理、もう一つは抗菌薬の適正使用です。


十二指腸鏡による多剤耐性菌の伝播は、国内外で複数の事例が確認されています。特に内視鏡先端の「鉗子起上装置」の部分は複雑な構造をしており、通常の高水準消毒だけではアウトブレイクを終息できなかった報告があります(Epstein et al., JAMA 2014)。この事例ではエチレンオキサイドガス滅菌を導入して初めて終息しています。消毒の徹底だけでは不十分な場合があります。


厚生労働省は通知(医政地発0320第3号)で次の対応を明示しています。


- 📋 十二指腸内視鏡の洗浄・滅菌または消毒は関連学会ガイドラインと製造販売業者の指示に厳密に従う
- 🔬 先端キャップを取り外し、専用ブラシを用いて丁寧に洗浄する
- 📣 内視鏡介在によるCRE等の伝播が疑われた場合は管轄保健所に速やかに報告する


内視鏡管理を担当するスタッフは、分解・洗浄の手順を定期的に確認することが推奨されます。


もう一つの視点、抗菌薬の適正使用は、CRE自体を増やさないための根本的な対策です。CRE保菌者に無用な抗菌薬を投与すると、腸内のCRE以外の常在菌が死滅してCREだけが選択的に生き残り、むしろCREを増殖・拡散させるリスクがあります。保菌者への除菌目的の抗菌薬投与は推奨されていません。この事実は多くの医療従事者が誤解しやすいポイントです。


CRE感染症を発症している患者の治療においても、薬剤感受性の結果と患者の病態を精密に評価した上で治療方針を決定することが求められます。単独療法と併用療法では死亡率に大きな差があり(単独療法57.8% vs 併用療法13.3%)、選択薬剤としてカルバペネム系薬・コリスチン・チゲサイクリン・フォスフォマイシンなどが候補に挙がります。ただし、カルバペネムの無用な使用はCRE蔓延を招くため、使いどころを慎重に判断することが重要です。


抗菌薬適正使用支援チーム(AST)や感染症専門医が在籍する施設では、CRE症例の治療方針決定に早期から介入する体制を活用することが治療成績の向上と薬剤耐性の拡大防止につながります。自施設の体制を確認しておくことをお勧めします。


参考:厚生労働省 抗微生物薬適正使用の手引き 第三版
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001168459.pdf






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