投与したコリスチンの約75~80%は、体内で抗菌活性を発揮しないまま尿中に排泄されます。
コリスチン(ポリミキシンE)は、1949年に日本でPaenibacillus polymyxaから発見されたサイクリックポリペプチド系抗菌薬です。その作用機序は、細胞壁合成を阻害するβ-ラクタム系薬や、タンパク合成を阻害するアミノグリコシド系薬とは根本的に異なり、細菌の外膜そのものを物理的に破壊するという点が最大の特徴です。
まず、コリスチンが持つ強い陽性荷電(ポリカチオン性)がグラム陰性菌の外膜を安定化しているCa²⁺・Mg²⁺と静電的に競合し、これらを膜から置換します。次に、コリスチンのポリカチオン性ペプチド環がリポポリサッカライド(LPS)のリピドA構造に結合し、外膜の脂質二重膜の架橋構造を一気に崩壊させます。さらに、コリスチンに結合している側鎖脂肪酸が膜の疎水性コアに割り込み、外膜の透過性を劇的に上昇させます。つまり界面活性剤のように膜を攻撃するわけです。
その結果、外膜が破壊されたグラム陰性菌は内膜(細胞質膜)も保護を失い、細菌の内容物が漏出して不可逆的な細胞死をきたします。これが殺菌的な作用として現れます。
重要なPK-PD上の特徴として、コリスチンは濃度依存的殺菌を示します。PK-PDパラメータとしてはAUC/MIC比が最も相関すると報告されており、一定濃度以上で速やかに強い殺菌効果を発揮します。これは時間依存性のβ-ラクタム系薬とは真逆の性質です。この性質が投与レジメン設計に直結するため、医療従事者は必ず覚えておく必要があります。
なお、コリスチンのLPSへの高い親和性は、エンドトキシン(LPS)そのものを中和する活性も持つことを意味します。敗血症由来のエンドトキシン吸着作用がマウス実験で確認されており(日本化学療法学会指針改訂版, 2015)、この抗エンドトキシン作用がコリスチンのさらなる臨床応用として注目されています。
| 特性 | コリスチンの特徴 |
|---|---|
| 作用標的 | グラム陰性菌外膜(LPS・リピドA) |
| 殺菌様式 | 濃度依存性・短時間殺菌 |
| PK-PDパラメータ | AUC/MIC比 |
| グラム陽性菌への効果 | 無効(外膜構造を持たないため) |
| LPS中和作用 | あり(抗エンドトキシン活性) |
参考リンク(コリスチンの作用機序、抗菌スペクトル、PK-PD等の詳細)。
日本化学療法学会「コリスチンの適正使用に関する指針—改訂版—」(2015年)
コリスチンは「グラム陰性菌に効く」というざっくりした理解では不十分です。自然耐性を示す菌種が複数存在し、それらへの使用は治療失敗に直結します。しっかり区別することが原則です。
コリスチンが有効な主な菌種は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、アシネトバクター属(Acinetobacter spp.)、大腸菌(E. coli)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、エンテロバクター属、シトロバクター属などです。これらは、カルバペネム耐性を獲得した株であってもコリスチン感受性が維持されることが多く、これがコリスチンを「最後の切り札」と呼ぶ理由です。
一方で、自然耐性を示す菌種には以下が含まれます。プロテウス属、セラチア属、プロビデンシア属、バークホルデリア属(セパシア菌含む)、ナイセリア属、ブルセラ属、そしてすべてのグラム陽性菌と嫌気性菌が該当します。
自然耐性の原因はLPS構造にあります。プロテウス属やバークホルデリア属はもともとリピドAのリン脂質が修飾されており、コリスチンが結合しにくい構造になっています。これは遺伝子変異による後天的耐性ではなく、はじめからコリスチンが効かない設計です。
✅ 意外なポイントとして、NDM-1産生菌やKPC産生菌(カルバペネマーゼ産生腸内細菌)に対してもコリスチンは基本的に有効です。2007〜2008年にカナダで分離された3,480株の解析では、緑膿菌の耐性率はわずか1.1%(大腸菌0.6%、肺炎桿菌2.9%)にとどまっています。カルバペネム耐性だからといってコリスチンも耐性とは限りません。
なお、CLSIはコリスチンおよびポリミキシンBについて「Susceptible(感性)」のブレイクポイントをすべて削除しており、現在は「Intermediate(中等度)」のみを推奨しています。これは臨床成績の不良さや、MICに基づく検査法の信頼性の問題から生じた措置であり、コリスチンの使用判断が単純なMIC数値だけでは決められないことを意味します。
参考リンク(コリスチンの抗菌スペクトルと耐性に関するMSD情報)。
MSDマニュアル プロフェッショナル版「ポリペプチド系抗菌薬:コリスチンの適応・禁忌・副作用」
多くの医療従事者が見落としがちなのが、注射用コリスチンの薬物動態です。結論からいうと、コリスチンは投与した量そのままで抗菌活性を発揮するわけではありません。
現在臨床で使用される注射剤は「コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム(CMS)」です。CMSはそれ自体に抗菌活性がなく、体内で活性型コリスチンに変換されて初めて効果を発揮するプロドラッグです。CMSはコリスチンよりも毒性が低い形態で、この安全性上の理由からプロドラッグ型で投与されます。
しかし、驚くべき事実があります。投与されたCMSのうち活性型コリスチンに変換されるのはわずか20〜25%に過ぎません。残りの約75〜80%は糸球体濾過と尿細管からの分泌によって尿中に排泄されます。逆に、変換された活性型コリスチン自体は尿細管から再吸収されるため、尿中濃度は低くなります(ただし、尿路に排泄されたCMSが尿中でコリスチンに変換されることで、尿路感染症に一定の効果を発揮する場合があります)。
さらに大きな問題は血中濃度の立ち上がりです。ローディングドーズを行わない場合、コリスチンの血中濃度がピークを迎えるまでに約7時間、安定した定常状態に達するまでには数日を要します。重症患者では、この立ち上がり遅延が治療機会を損なうリスクとなります。このため、国際的なコンセンサスガイドラインではローディングドーズの採用が推奨されています。
また、CMSからコリスチンへの変換率には個人差が非常に大きく、同程度の腎機能をもつ患者間でも、定常状態の血中濃度が最大10倍程度の幅があると報告されています。この個人差の大きさは、標準的な用量設計だけでは不十分なことを示しています。定常状態が読めない、というわけです。
参考リンク(CRE感染症治療におけるコリスチンのPKとポリミキシンBとの比較)。
中外医学社Online「基礎から臨床につなぐ薬剤耐性菌のハナシ(19)CREの治療②」
近年、コリスチンが「最後の切り札」として位置づけられる中で、耐性菌の増加が世界的に問題になっています。耐性機序を理解することは、コリスチンの作用機序を逆からひも解くことでもあります。
染色体性耐性(LPS修飾)がコリスチン耐性の主要なメカニズムです。緑膿菌、アシネトバクター属、大腸菌、サルモネラ属、肺炎桿菌などでは、作用点であるリピドA構造が修飾されることで陰性荷電が減少し、コリスチンが結合しにくくなります。特に注目すべき報告として、Moffattらはコリスチン耐性を獲得したアシネトバクターではLPSの産生が完全に消失していることを示しました(日本化学療法学会指針改訂版, 2015)。これは興味深いことに、コリスチン耐性アシネトバクターでのバイオフィルム形成能の低下や病原性の低下とも関連します。
一方、2015年に中国で初めて報告されたプラスミド性耐性遺伝子mcr-1は、世界に衝撃を与えました。通常の染色体性耐性と異なり、プラスミド上に存在するmcr-1は他の細菌に水平伝播(菌種を超えた遺伝子の移動)が可能であり、耐性の急速な拡大が危惧されます。中国では2013〜2014年に鶏・豚の食品からmcr-1が20〜30%の割合で検出されており、患者由来の検体でも1.4%(2014年)に確認されています。その後、米国・英国・フランス・ドイツ・デンマークなど世界各国にも広がっています。日本でも病畜由来株の2.7%(5/184株)でmcr-1保有が確認されており、決して対岸の火事ではありません。
さらに臨床で見落とされやすいのがヘテロ耐性です。アシネトバクター属では、通常のMIC測定では感性に見える菌株の中に、コリスチン高度耐性コロニーが低頻度(10¹〜10² CFU/mL)で混在することが報告されています。コリスチン長期投与によってこの耐性集団が選択・増殖すると、治療中に突然耐性化が起こるように見えます。英国では平均3年間のコリスチン投与を受けた嚢胞性線維症患児6名全員でコリスチン耐性株(MIC 4〜>1,024 μg/mL)が分離されています。
これらの耐性机序が示すのは、コリスチン単剤での長期・高用量投与が耐性誘導リスクを著しく高めるという事実です。コリスチン単独は最終手段だと理解した上で、他系統抗菌薬との併用療法(リファンピシン、メロペネム、ミノサイクリンなどとのin vitro相乗効果が多数報告)を積極的に検討することが国際的に推奨されています。
参考リンク(コリスチン耐性機序・mcr-1・薬剤感受性試験の解説)。
医書.jp「コリスチン耐性機序と薬剤感受性試験」検査と技術 49巻1号(2021年)
参考リンク(mcr-1コリスチン耐性遺伝子の農業・家畜分野での実態)。
農林水産省「コリスチン耐性について」動物医薬品検査所(2017年)
コリスチンを使う以上、副作用プロファイルの理解は避けられません。これが臨床上の最大の難点といえます。
主な副作用は腎毒性と神経毒性の2つです。どちらも量依存性に起こる点が重要で、用量設計の精度が安全性に直結します。
腎毒性の発現率は、腎障害の定義や投与レジメン、TDMの実施有無によって報告ごとに大きく異なり、6〜60%という幅があります(国際コンセンサスガイドライン, 2019)。英国製品の添付文書では腎障害発現頻度を20%と記載しています。ただし、腎毒性の多くは可逆性であり、投与中止により回復するとされています。かつて考えられたほど頻度が高くないという見直しも進んでいますが、それでも無視できる数字ではありません。リスク因子として、高用量投与(定常状態血中濃度 >2 μg/mL)、腎毒性のある薬剤(アミノグリコシド系薬など)との併用、高齢・男性・低アルブミン血症・基礎腎疾患の存在などが挙げられます。
神経毒性については、静注投与を行った患者の約27%に知覚異常(口周囲・四肢のしびれ感)が認められたとする報告があります。その他、回転性めまい、言語障害、眼振、筋力低下、重篤例では神経筋ブロックによる呼吸不全が報告されています。神経毒性も基本的には可逆性です。嚢胞性線維症患者では神経毒性の頻度が特に高くなる可能性があります。
投与量に関して、多くの専門家は製造業者が推奨する用量(コリスチン塩基活性成分 2.5〜5 mg/kg/日を2〜4回分割)は重症例では少なすぎると考えており、負荷量(ローディングドーズ)を含めたより高用量のレジメンを推奨しています。しかし同時に、腎毒性は用量依存的であるという矛盾があります。つまり「有効な濃度」と「安全な濃度」の幅が狭く、TDMによる個別化管理が理想的です。
また、コリスチンは肺での組織移行性が特に低いため、CLSIおよび国際ガイドライン(IDSA 2023)ではコリスチン静注による肺炎治療は積極的に推奨されていません。肺炎での使用を検討する場合は、この組織移行性の限界を念頭に置いてください。
日本化学療法学会の指針では、投与開始前から血清クレアチニンを定期的に測定し、腎機能障害の徴候が出た場合は減量・中止を含む対応を検討するよう求めています。副作用管理が適正使用の核心です。
参考リンク(コリスチンの副作用・安全性・用法用量に関する指針)。
日本化学療法学会「コリスチンの適正使用に関する指針—改訂版—」III章・安全性(2015年)
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