アスナプレビルのALT上昇は約17%の患者で発現し、気づかず処方を継続すると重篤な肝障害につながります。

アスナプレビルは、C型肝炎ウイルス(HCV)の酵素であるセリンプロテアーゼNS3/4Aを競合的に阻害する直接作用型抗ウイルス薬(DAA)です。開発コードはBMS-650032で、ブリストル・マイヤーズ スクイブが開発・製造を担当しました。
2015年3月、製品名「スンベプラカプセル100mg」として日本で製造販売承認を取得し、同年9月に発売が本格化しました。発売当初、その意義は非常に大きいものでした。それまでのC型肝炎治療の主軸だったインターフェロン(IFN)とリバビリン(RBV)の注射・内服を必要とせず、経口薬のみで治療が完結する初めての選択肢として、医療現場に革新をもたらしたのです。
適応は「セログループ1(ジェノタイプ1)のC型慢性肝炎またはC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善」に限定されており、NS5A阻害薬であるダクラタスビル(ダクルインザ)と24週間併用する形で使用されました。薬価は1カプセルあたり3,280.70円と設定されており、24週間の治療コストは相当な高額になっていました。
対象患者は大きく2つのグループでした。一つはインターフェロンを含む治療法に不適格または不耐容だった未治療患者、もう一つはIFN含有治療で効果が得られなかった患者です。特に高齢者や肝機能が低下している患者に対しても経口のみで対応できるという点で、注目を集めた薬剤でした。
臨床試験では一定の成果も示されました。第III相試験(AI447031試験)において、アスナプレビル+ダクラタスビル群のSVR24は86.6%を記録し、当時の標準治療だったIFN/RBV+テラプレビル群の60.4%を大きく上回りました。これが原則です。ただし、市販後に見えてきた安全性の問題が、その後の展開を大きく変えることになります。
参考情報:アスナプレビルの添付文書・インタビューフォームは現在PMDAより削除されています。過去の情報は以下の白鷺病院薬剤情報データベースで確認可能です。
アスナプレビルの販売中止を語るうえで、避けて通れないのが副作用の問題です。最も臨床的に重要なのはALT(GPT)増加で、その発現率は17.4%にのぼりました。
17.4%という数字を具体的にイメージすると、100人の患者に処方すれば約17人に肝酵素の上昇が起こる計算になります。これはビルの1フロアのうち2部屋近くに問題が生じるイメージです。AST(GOT)増加も14.4%に達しており、肝臓への負荷が無視できないレベルにあることが明らかになっていきました。
さらに深刻だったのが皮膚症状です。販売開始後約7か月間(2014年9月〜2015年3月)の市販後調査において、多形紅斑関連症例が6例報告されました。推定使用患者数が約2万人であったことを考えると、件数自体は少なく見えますが、多形紅斑は重症化するとスティーブンス・ジョンソン症候群に移行するリスクがあります。これは重大です。
厚生労働省は2015年4月、アスナプレビルを含む6つの医薬品について、多形紅斑などの重大な副作用があるとして医療機関への注意喚起を行いました。この措置は、現場の医師や薬剤師にとって大きな警戒信号となりました。
添付文書に記載された重大な副作用を整理すると、ALT増加・AST増加・血中ビリルビン増加・多形紅斑・血小板減少・間質性肺炎の6項目が挙げられていました。5%以上に発現する副作用も多く、好酸球増加症・発熱・倦怠感・頭痛・下痢・悪心などが含まれていました。副作用の種類が多い点は、特に注意が必要でしたね。
さらに問題になったのが、B型肝炎ウイルスの再活性化リスクです。HBV感染の既往がある患者では、アスナプレビル投与中にB型肝炎ウイルスが再活性化する可能性があることが明らかになり、慎重投与の対象に加えられました。
つまり、アスナプレビルはC型肝炎には効果を持ちながらも、肝臓自体に負担をかけるという矛盾を抱えた薬剤だったということです。
厚生労働省によるアスナプレビルの副作用注意喚起の経緯 – GemMed
アスナプレビルの臨床使用を最も難しくした要因の一つが、その複雑な薬物相互作用です。これが処方の大きな障壁でした。
アスナプレビルはCYP3A4・CYP3A5の基質であり、同時にCYP3A阻害作用も持ちます。これにより、「アスナプレビルの血中濃度が上がりすぎる薬」と「アスナプレビルが濃度を上げてしまう薬」の両方が存在するという複雑な構図が生まれました。
併用禁忌となった薬剤・食品は以下のような幅広いカテゴリに及んでいました。
| 禁忌の分類 | 代表的な薬剤・食品 | 理由 |
|---|---|---|
| アゾール系抗真菌剤(経口・注射) | フルコナゾール、イトラコナゾール等 | ASV血中濃度上昇 |
| 抗菌薬・抗生物質 | クラリスロマイシン、エリスロマイシン | ASV血中濃度上昇 |
| カルシウム拮抗薬 | ジルチアゼム、ベラパミル | ASV血中濃度上昇 |
| 抗てんかん薬 | フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール | ASV血中濃度低下 |
| 副腎皮質ステロイド | デキサメタゾン(全身投与) | ASV血中濃度低下 |
| 抗不整脈薬 | フレカイニド、プロパフェノン | CYP2D6代謝阻害 |
| 食品・サプリ | セント・ジョーンズ・ワート含有食品 | ASV血中濃度低下 |
C型肝炎は中高年患者が多く、高血圧・てんかん・真菌感染・心疾患などを合わせ持つ患者が少なくありません。現実の臨床では、多くの患者がすでに上記の薬を服用していることがあり、処方前のスクリーニングに多大な時間と労力を要しました。
さらにHIVプロテアーゼ阻害剤やコビシスタット含有製剤も禁忌であったため、HIV/HCV共感染例への使用は原則不可でした。HIV合併のC型肝炎患者はspecial populationとして扱われますが、アスナプレビルではその対応が閉ざされていたのです。
これは使えそうな場面が限られますね。一方、後継薬のグレカプレビル/ピブレンタスビル(マヴィレット)では、薬物相互作用が大幅に整理され、より多くの患者背景で使用できるようになっています。
参考:アスナプレビルの薬剤相互作用に関する詳細な記録はC型肝炎治療ガイドライン第8版に記載されています。
アスナプレビルの販売中止は、一夜にして起きたわけではありませんでした。段階的かつ計画的に進められた撤退プロセスです。それが原則です。
まず時系列を整理します。2021年3月、スンベプラカプセル100mgは正式に販売中止となりました。ただし、すでに在庫を持つ医療機関や患者への配慮から、一定期間の「経過措置期間」が設けられました。この期間中は既存在庫の使用は認められていましたが、新規の調達・処方は実質的に不可能な状況となっていきました。
その後、2022年5月に日本肝臓学会が「C型肝炎治療ガイドライン第8.1版」を発行した際、「ダクラタスビル、アスナプレビルの販売中止に伴い治療推奨からダクラタスビル、アスナプレビルの記載を削除」と明記されました。同時に、エルバスビル・グラゾプレビルの削除も行われ、C型肝炎の推奨治療薬の整理が一気に進みました。
他製薬企業への影響も見逃せません。2023年以降、複数の製薬企業がアスナプレビルとの薬物相互作用情報を自社製品の添付文書から削除する改訂を相次いで実施しました。これは「販売中止された薬との相互作用情報を記載する必要がなくなった」ためです。ジメンシー配合錠(ダクラタスビル+アスナプレビル+ベクラブビル)も同様に販売中止・添付文書削除の対象となり、アスナプレビルを含む製品ラインは完全に終息しました。
つまり現在、日本国内でアスナプレビルを処方する方法は存在しません。PMDAの添付文書データベースからも情報が削除されており、医療従事者が参照できる公式の処方情報は残っていない状態です。
この点は医療現場で注意が必要です。過去に処方歴のある患者を引き継ぐ際、当時の処方内容がカルテに記録されている場合があります。その際は薬物相互作用の問題が現在の処方に影響していないか、改めて確認することが重要です。これだけ覚えておけばOKです。
アスナプレビル記載削除に関する各社添付文書改訂情報 – NPI
アスナプレビルが市場から姿を消した後のC型肝炎治療は、第3世代DAAが確固たる地位を築いています。現在の治療体系は、かつてとは比較にならないほど洗練されました。
日本肝臓学会の「C型肝炎治療ガイドライン第8.3版」(2024年5月)および「第8.4版」(2025年7月)において、現在推奨されている主な治療薬は以下のとおりです。
| 薬剤名 | 一般名(略称) | 主な適応 | 治療期間 |
|---|---|---|---|
| マヴィレット配合錠 | GLE/PIB | 全ジェノタイプ、慢性肝炎・代償性肝硬変 | 8〜12週 |
| エプクルーサ配合錠 | SOF/VEL | 全ジェノタイプ、非代償性肝硬変も可 | 12週 |
| ハーボニー配合錠 | SOF/LDV | セロタイプ1・2型 | 12週 |
マヴィレット配合錠(グレカプレビル/ピブレンタスビル)はアスナプレビルの反省を踏まえた設計の薬剤ともいえます。SVR率は95%以上を誇り、腎機能障害・透析例にも使用可能です。副作用プロファイルも大幅に改善されており、臨床現場での使い勝手が格段に向上しています。
さらに、2022年8月からエプクルーサ配合錠(ソホスブビル/ベルパタスビル)が慢性肝炎・代償性肝硬変への適応追加を受けたことで、2剤の選択肢がどの病態・ジェノタイプにも対応できる体制が整いました。
アスナプレビル時代に困難だった特殊な症例への対応も進んでいます。非代償性肝硬変(Child-Pugh BまたはC)はアスナプレビルの禁忌でしたが、エプクルーサ配合錠なら投与可能です。また、2022年6月にはマヴィレット配合顆粒が3歳以上12歳未満の小児に適応追加され、小児例への包括的対応も実現しました。
DAA前治療不成功例(いわゆる難治例)への対応も確立されています。アスナプレビルを含む旧世代DAAで治療を受けた患者が再治療を必要とする場合、ガイドラインではSOF/VEL 12週間投与を基本選択肢としており、NS5A耐性変異の有無と種類に応じた詳細な方針が示されています。
いいことですね。C型肝炎は現在「治癒可能な疾患」として明確に位置づけられており、SVRを達成することで肝発癌リスクの大幅な低下が期待できます。アスナプレビルが果たした先駆的役割がなければ、今日のIFNフリー治療の普及はなかったともいえるでしょう。
C型肝炎治療ガイドラインの最新版は日本肝臓学会公式サイトから無料で参照できます。診療の際には最新版を確認することをお勧めします。
アスナプレビルが販売中止になった今も、過去にスンベプラを処方された患者さんの診療は続いています。これが見落とされがちな盲点です。
過去にアスナプレビル+ダクラタスビルで治療を受けた患者を引き継ぐ医師・薬剤師が最初に確認すべきことは、「SVRが得られているかどうか」です。治療効果が確認されている患者と不成功例では、その後の管理方針が大きく異なります。
アスナプレビル+ダクラタスビル療法は、NS5A領域に薬剤耐性変異を生じやすいという特性がありました。特にNS5A領域のL31M/V変異、Y93H変異が検出された症例は、SVRが得られにくかったことが明らかになっています。そのため、アスナプレビル治療不成功例で再治療を行う場合は、耐性変異の有無を確認したうえで薬剤を選択する必要があります。この確認が条件です。
もう一点、見落としやすいのが肝発癌リスクの継続モニタリングです。SVRを達成した患者であっても、C型肝炎からの解放が即座に発癌リスクゼロを意味するわけではありません。特に肝硬変を背景に持つ患者では、SVR後も定期的な腹部超音波検査とAFP測定による経過観察が推奨されています。
C型肝炎治療ガイドライン第8.3版では、「SVR後肝発癌のリスク因子として肝硬変、SVR時の年齢、飲酒歴などが関与する」と記載されており、ウイルスが消えた後も患者のフォローアップが重要です。肝硬変症例のSVR後の年間肝発癌率は約1〜3%と報告されており、これは過小評価できないリスクです。
また、アスナプレビルとの薬物相互作用で問題になっていた薬剤(カルシウム拮抗薬・抗真菌薬・抗てんかん薬など)を治療中に中断していた患者がいる場合、治療終了後の処方再開の記録が適切に引き継がれているか確認することも大切です。薬歴の引き継ぎは必須です。
現在のカルテシステムや電子処方箋の普及により、過去の処方歴の確認はしやすくなっています。アスナプレビル治療歴のある患者のカルテには「スンベプラ」「ダクルインザ」「ASV/DCV」「DCV+ASV」などの記載がある場合があります。それらを目印に治療歴を系統的に把握し、現在の処方内容との整合性を確認することが医療安全の観点から重要です。
SVR後のフォローアップ基準や再治療の選択基準については以下のガイドラインで詳しく確認できます。

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