トラマール注(トラマドール塩酸塩注射液100mg)を静注で使用しているのに、添付文書上は「筋注のみ承認」という事実、把握できていますか?

トラマール注100の日本国内における正式な用法は、「1回100〜150mgを筋肉内注射し、必要に応じて4〜5時間毎に反復」と規定されています。つまり静脈内投与は添付文書に記載されておらず、国内では正式承認外の使用にあたります。これは意外と知られていない事実です。
しかし一方で、緩和ケアの臨床現場では患者の負担軽減を目的として、持続静注・持続皮下注による使用が広く行われています。英国ではトラマドール製剤の静脈内注射・筋肉内注射・皮下注射がいずれも承認されており、輸液への希釈投与も認められています。国内の緩和ケアチームや病院プロトコルがこの事実を根拠に使用している状況です。
厚生労働省が令和6年に発行した「医療用麻薬適正使用ガイダンス」においても、トラマドール注射剤について「注射剤の用法は筋注のみが承認されており、持続静注・皮下注による投与方法は確立していない」と明記されています。つまり公式文書においても適応外であることが認識されているわけです。
臨床での使用実績としては、間欠的静注の場合は50〜100mgを生理食塩水50mLに溶解し、15〜30分かけて点滴静注する方法が標準とされています。持続静注の場合は5倍希釈(10mg/mL)で調製し、70〜100mg/dayから開始するプロトコルが複数の施設で採用されています。北信総合病院の緩和ケアチームによる投与ガイドラインでは最大300mg/dayとされており、てんかんや痙攣リスクの高い患者では最大200mg/dayに制限するよう明示されています。
適応外使用である以上、医療従事者には施設内のプロトコル整備と患者への十分な説明が求められます。これが原則です。
参考:北信総合病院緩和ケアチーム作成の「トラマール注標準投与法(注射薬)」(院内資料)は、臨床現場における希釈・投与速度の具体的な指標として有用です。
厚生労働省「医療用麻薬適正使用ガイダンス(令和6年)」— トラマドール製剤の注射用法に関する記載(p.6)
静注でトラマール注を使用する際、希釈濃度と投与速度の設定が安全性に直結します。つまり薬剤の調製精度がそのまま患者安全に影響します。
間欠的静注の場合、1アンプル(100mg/2mL)を生理食塩水50mLに溶解し、15〜30分かけて投与するのが基本です。1日の投与間隔は1〜4時間以上空けることが推奨されており、最大投与量は300mg/dayとされています。急速静注は循環器系副作用(血圧低下、心悸亢進)を引き起こすリスクがあるため避けなければなりません。
持続静注の場合は、5倍希釈(10mg/mL)が広く使用されています。具体的な調製例は以下の通りです。
| 投与方法 | 調製例 | 濃度 | 開始速度 |
|---|---|---|---|
| 間欠的静注 | 1A(100mg) + 生食50mL | 2mg/mL | 15〜30分かけて点滴 |
| 持続静注(5倍希釈) | 3A(300mg) + 生食18mL → 合計24mL | 12.5mg/mL | 0.2mL/時(60mg/日)から |
| 持続皮下注(2倍希釈) | 2A(200mg) + 生食4mL → 合計8mL | 25mg/mL | 0.1mL/時(60mg/日)から |
疼痛時の早送りは「1時間分量」を目安とし、少なくとも1時間以上の間隔を空けて反復投与します。効果が不十分な場合は2時間分量に増量することもあります。ベースアップは意識清明・呼吸数10回/分以上を確認した上で、8時間毎に行うのが安全です。
なお、バルビタール系注射液と同一注射筒で混合すると沈殿が生じるため、配合禁忌として覚えておく必要があります。これは絶対に押さえておきたいポイントです。
シリンジポンプで持続静注を行う場合、フィルターは使用しないことが推奨されています(吸着による薬剤ロスのリスクがあるため)。四国がんセンターのがん疼痛コントロールマニュアルでも同様の注意事項が記載されています。
国立病院機構四国がんセンター「がん疼痛コントロールマニュアル第7版」— トラマドール投与プロトコルの詳細
トラマール注を静注で使用する際に、最も臨床的に重要なのが薬物相互作用です。非麻薬性鎮痛薬だからと油断していると、重大な有害事象を招きかねません。
まず絶対に知っておくべき「併用禁忌」が4項目あります。
次に、見落とされがちな「併用注意」として特に重要なのがオンダンセトロン(ゾフラン)です。制吐薬として術後や化学療法後に広く使われているため、トラマール注と組み合わせる機会が多い薬剤ですが、添付文書では「本剤の鎮痛作用を減弱させるおそれがある」と明記されています。これは、トラマドールの鎮痛機序の一端である中枢セロトニン作用がオンダンセトロンのセロトニン5-HT3受容体拮抗作用によって打ち消されるためです。
制吐薬が必要な場合、メトクロプラミド(プリンペラン)やドロペリドールなど別のクラスの薬剤を選択することで鎮痛効果を維持できます。これが制吐薬選択の実践的なポイントです。
さらに、SSRI・SNRIや三環系抗うつ薬との併用はセロトニン症候群のリスクを有意に高めます。リネゾリドとの組み合わせも同様に危険で、発熱・発汗・錯乱・ミオクローヌスなどの症状が出現した場合は即座に投与を中止し、専門医への相談が必要です。
ワルファリン使用中の患者では、プロトロンビン時間延長と出血リスクが報告されています。抗凝固療法中の患者には慎重な経過観察が必要です。
JAPIC「トラマール注100 添付文書(電子化)」— 禁忌・相互作用の詳細
腎機能・肝機能が低下している患者へのトラマール注使用は、慎重な用量管理が求められます。緩和ケア患者には高齢者が多く、腎・肝機能が低下していることは珍しくありません。
腎機能障害がある患者では、トラマドールおよびその活性代謝物(M1)の排泄が遅延し、血中濃度が高い状態が長く続きます。添付文書では「投与間隔を延長するなど慎重に投与」するよう明記されており、通常の4〜5時間間隔をそのまま適用すると過量投与になるリスクがあります。具体的には、eGFRが低下した患者では6〜8時間以上の間隔をとることが推奨されます。
肝機能障害患者においても同様で、肝代謝が遅延することで薬物動態が大きく変わります。これも問題ないとはいえません。CYP2D6およびCYP3A4による代謝が主であるため、肝機能低下時には代謝速度が落ち、少量でも副作用が出やすくなります。
高齢者では生理機能全般が低下しているため、少量から開始することが原則です。例えば通常の開始量が100mg/日であっても、高齢者では50〜70mg/日から始め、呼吸数・意識状態・疼痛スコアを評価しながら慎重に増量します。
また、CYP2D6の活性が遺伝的に過剰な患者(Ultra-rapid Metabolizer)では活性代謝物M1の血中濃度が上昇しやすく、通常量でも呼吸抑制が生じる可能性があります。個人差が大きい薬だということを念頭に置いておきましょう。
臨床現場では「トラマール注は非麻薬だから麻薬管理は不要」という認識が広がっています。これは正しい一方で、過信につながるリスクもあります。トラマドールは非麻薬指定であるものの、オピオイド受容体への作動作用を持ち、依存性や退薬症候も生じます。実際に添付文書の重大な副作用として「依存性(頻度不明)」が明記されており、長期使用後の急な中止は激越・不安・振戦・幻覚などの離脱症状を招きます。
「非麻薬だから安全」という思い込みが、管理の甘さや副作用モニタリングの不足につながることがあります。これは見落とされやすいリスクです。
次に、過量投与時の対処について整理します。中毒症状として縮瞳・嘔吐・意識障害・痙攣・呼吸停止が報告されています。呼吸抑制に対してはナロキソンの投与が有効ですが、ナロキソン自体が動物実験で痙攣を増悪させるとの報告があるため、痙攣が同時にある場合はジアゼパムの静脈内投与を優先します。血液透析による除去はほとんど期待できないため、適切な呼吸管理と循環管理が治療の中心です。
また、オピオイドスイッチングを行う際の換算比についても現場での混乱が多い点です。聖隷三方原病院の緩和ケアチームが公開している換算表では、「トラマール錠(内服)300mg=トラマール注(静注/皮下)200mg(換算比1.5:1)」と示されています。一方で「トラマール錠300mg内服=モルヒネ内服30〜60mg」と幅があるため、換算はあくまで目安として扱い、実際は患者の疼痛スコアと副作用を継続評価しながら調整することが原則です。
さらに独自の視点として、フェンタニル注射液の供給不足(2024〜2025年に一部施設で顕在化)を契機に、トラマール注が術後疼痛管理の代替薬として注目された事例があります。豊田厚生病院が2024年2月に公開した情報公開文書では、「フェンタニル製剤供給停止に伴いトラマール注100の持続静脈内投与を術後疼痛管理に採用」という事実が示されており、非常時の代替鎮痛薬としての位置づけが浮き彫りになりました。非常時の備えとして選択肢の一つに加えておく価値があります。
JA愛知厚生連 豊田厚生病院「トラマール注100持続静脈内投与による術後疼痛管理(診療情報公開文書)」
聖隷三方原病院 緩和ケアチーム「オピオイドの選択と換算表」— トラマール静注・皮下投与プロトコル掲載