テオドール錠販売中止が医療現場に与える深刻な影響と対策

テオドール錠100mg・200mgが2026年12月頃に在庫消尽の見通しとなった今、医療従事者はどう対応すべきか?代替薬の選択から患者への説明まで、現場で使える情報をまとめました。

テオドール錠の販売中止が医療現場に迫る課題と対応策

学会が「承諾できない」と反対しても、製薬会社がつくれなければ在庫はなくなります。


📋 この記事のポイント3選
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在庫消尽の見通しは2026年12月頃

田辺三菱製薬が製造原料(ラウリル硫酸ナトリウム・ミリスチルアルコール)の調達困難を理由に供給継続が不可能と発表。現時点で確定した代替薬は存在しない。

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日本呼吸器学会が「承諾できない」と声明

2025年1月28日、日本呼吸器学会が公式に反対を表明。ステロイド依存増加・医療費上昇・治療選択肢の消失を理由に挙げ、供給継続を強く求めている。

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テオロング錠・後発品への移行が現実的な対応

同一成分のテオフィリン徐放錠(テオロング・沢井・鶴原など)への切り替えが検討される。ただし剤形・投与回数の差異に注意が必要。


テオドール錠販売中止の経緯と背景:なぜ製造が止まるのか



2024年12月、田辺三菱製薬からひとつの重大な報告が医療関係者に届きました。気管支喘息・COPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療に長年使われてきた気管支拡張剤「テオドール®錠100mg・200mg」について、「供給継続が困難になった」というものです。


原因は製剤の核心部分にあります。テオドール錠は「速放性顆粒」と「徐放性顆粒」を混合・打錠して製造する徐放性製剤です。この徐放性に大きく関わる製剤原料2種——ラウリル硫酸ナトリウムとミリスチルアルコール——が製造中止となり、溶出規格に適合する製品の製造が見込めなくなりました。


製剤原料を変更すれば解決するように思えますが、そうはいきません。徐放性製剤の場合、原料を変更しただけでは溶出特性が変わってしまい、有効性・安全性の同等性を担保できなくなる可能性があるからです。「適切な薬物放出の制御」と「溶出同等性の担保」を同時に満たす代替原料を見つけることは、技術的な難易度が非常に高い状況です。


つまり「他の原料でつくればいい」という単純な話ではないということですね。


現在の見通しでは、2026年12月頃に在庫が消尽する見込みとなっています(2024年11月時点の予測)。今から約1年の猶予しかありません。


また、今回の問題は日本固有の事情とも絡んでいます。医薬品の製造に使われる原薬・原料の多くは、現在では中国やインドなどの海外から輸入されています。品質規制の強化や製造環境の変化などによって安定調達が難しくなるリスクは、今後も他の医薬品で同様に起こり得る構造的な問題です。


参考:製薬企業と行政の責任、テオドール錠の製造困難の技術的背景について詳しく解説されています。


テオドール錠販売中止に対する日本呼吸器学会の声明と5つの懸念

2025年1月28日、日本呼吸器学会はアレルギー・免疫・炎症学術部会、閉塞性肺疾患学術部会および常務理事会での審議を経て、「供給停止・販売中止は承諾できない」とする声明を田辺三菱製薬に正式に申し入れました。学会がこれほど明確に反対を表明したのは、単なる感情論ではなく、臨床上の具体的な懸念があるためです。


学会が挙げた懸念は5点にまとめられています。


まず、他の薬剤では十分な治療効果が得られない喘息・COPD患者が「少なからず存在する」という点です。テオフィリンは気管支拡張作用に加えて抗炎症作用・呼吸中枢刺激作用・夜間症状の軽減効果を持ち、一部の患者には代替できる薬剤が事実上存在しません。


次に、ステロイドの使用頻度が高まり、全身性副作用のリスクが増加するという問題があります。テオフィリンが使えなくなると、コントロール不良の患者に対して全身性ステロイド(プレドニゾロンなど)が使われやすくなります。しかし経口ステロイドの長期使用は骨粗鬆症・高血糖・免疫抑制・消化性潰瘍などの深刻な副作用リスクを伴います。


3点目は治療選択肢の消失による処方の難化、4点目は医療費の上昇と患者負担の増大です。テオドール錠の薬価は100mgで6.7円、200mgで10.4円(2025年2月現在)という非常に安価な水準です。これが吸入LABA・LAMA製剤(1日数百円〜)や生物学的製剤(1回数万円の自己負担も発生)に切り替わると、患者の経済的負担は大幅に増加します。


5点目として、代替手段が確立されていない現状での長期供給不足による医療現場・患者への混乱が指摘されています。これは確認すべき点です。


重要なのは、日本の薬事制度では関係学会が承諾しない限り、企業が簡単に販売中止・薬価削除を進めることができないという事実です。つまり学会が反対している間は、制度上は"販売中止"にはなりません。しかし現実には「在庫がなくなる」という事態が迫っています。概念上は存在しているが実物がないという、非常に難しい状況が医療現場に生まれつつあります。


参考:日本呼吸器学会が公式に申し入れた声明全文と5つの懸念事項はこちらから確認できます。


テオフィリン徐放性製剤 テオドール®錠100mg,200mgの現状報告(周知依頼) | 日本呼吸器学会


テオドール錠販売中止による医療現場への3つの具体的影響

テオドール錠の供給が止まることで、医療現場に実際に起きる影響を3つの軸で整理します。


① 経口薬から吸入薬への移行が困難な患者への対応


高齢者を中心に、吸入器の操作が難しい患者が一定数います。テオフィリンは経口薬であるため、「飲むだけ」で治療できる点が大きな利点でした。LABA・LAMA・ICS(吸入ステロイド)などの吸入薬に切り替えた場合、デバイスの選定・吸入指導・操作確認・アドヒアランス確保まで医療従事者の業務は増加します。吸入薬への切り替えが難しい患者への対応は、チームでの検討が必要です。


② 夜間発作リスクの増加


テオフィリン徐放製剤は持続時間が長く、特に夜間から早朝にかけての気管支収縮を予防する効果が評価されていました。これがなくなることで、コントロール良好だった患者が夜間に症状を訴えるケースが増加する可能性があります。患者側から見ると「薬を変えてから夜に苦しくなった」という訴えが出やすくなります。睡眠時の症状変化に注意が必要です。


③ 処方システム上の混乱リスク


ここが意外と見落とされがちな問題です。仮に販売中止にならなかった場合(在庫消尽のみの場合)、処方マスターからテオドール錠を引っ張ること自体は可能なままになります。物がないのに処方できてしまう状態、いわば「幻の処方」が発生するリスクがあります。現場で「在庫がないが処方が出てしまった」という事態が起きる前に、院内の処方マスター管理とシステム対応を検討しておくことが重要です。


参考:供給停止が医療現場に与える3つの課題について詳しく解説されています。


テオフィリン徐放性製剤の供給停止・販売中止に呼吸器学会が見解 | HOKUTO


テオドール錠販売中止後の代替薬:テオロング・後発品の選択肢と切り替え注意点

「テオドールがなくなったらどうすれば?」これが最も現実的な問いです。


同一成分(テオフィリン)の徐放性製剤として、現在も流通している製品がいくつかあります。代表的なものを整理します。


| 製品名 | メーカー | 投与回数 |
|---|---|---|
| テオロング錠100mg・200mg | エーザイ | 1日2回 |
| テオフィリン徐放錠100mg・200mg「サワイ」 | 沢井製薬 | 1日2回 |
| テオフィリン徐放錠100mg・200mg「ツルハラ」 | 鶴原製薬 | 1日2回 |
| ユニコン錠100・200 | 日医工 | 1日2回 |
| ユニフィルLA錠100・200 | 共和薬品工業 | 1日1回 |


これは使えそうです。ただし、切り替えには注意点があります。


まず剤形・製品間での溶出特性の差異を把握する必要があります。テオフィリン製剤は治療域が狭いハイリスク薬です。有効血中濃度は5〜20μg/mLであり、20μg/mLを超えると吐き気・頭痛・動悸・不整脈・けいれんなどの中毒症状が現れるリスクがあります。異なる製品に切り替えた後は、症状の変化と副作用の有無を注意深くモニタリングする必要があります。


次にユニフィルLA錠(1日1回製剤)とテオドール(1日2回製剤)は投与設計が異なる点に注意してください。単純な同量切り替えは適切でない場合があり、特に高齢者では血中濃度の変動が大きくなる可能性があります。


また、過去に調剤エラーの事例も報告されています。一般名処方や後発品変更の際に「テオドール錠とユニフィルLA錠を同一成分として変更する際の間違い」が実際に起きています(日本医療機能評価機構・ヒヤリハット事例より)。院内でのプロトコル整備と薬剤師による確認強化が、切り替え時の安全確保の鍵となります。


参考:テオフィリンの血中濃度管理・ハイリスク薬としての注意点はこちらから確認できます。


ハイリスク薬に関する業務ガイドライン Ver.2.2 | 日本病院薬剤師会


テオドール錠販売中止を見越した患者説明と今後の動向:医療従事者が今やるべきこと

在庫消尽まで残り約1年という状況で、医療従事者として今できる準備があります。


患者への説明をどう行うか


長年テオドール錠を服用している患者、特に高齢のCOPD・喘息患者にとっては「急に薬が変わる」という情報は大きなストレスになります。「薬が効かなくなった」「副作用が出た」と誤解させないための丁寧な説明が必要です。


説明のポイントを整理します。まず「なぜ変わるのか(製造原料の問題で製造が続けられない)」を平易な言葉で伝えます。次に「新しい薬も同じ成分(テオフィリン)であること」「効果は変わらないこと」を強調します。そして「もし何か体の変化を感じたらすぐに相談してほしい」と伝えて、報告の窓口を明確にしておきましょう。


院内・薬局内での体制整備


今のうちに院内で行っておくべき対応として、①現在テオドール錠を処方中の患者リストの確認、②代替薬の選択基準の統一、③処方マスターへの注意フラグの設定、④薬剤師・医師間の連携プロトコルの共有、が挙げられます。これらを在庫が切れてから慌てて対応するのではなく、今のうちに準備を進めることが肝心です。


今後の動向を注視するべき理由


現時点では日本呼吸器学会が承諾していないため、制度上の販売中止には至っていません。しかし厚生労働省が関係学会と協議の上で撤退の可否を最終的に判断する仕組みになっており、今後の行政の動向が注目されます。田辺三菱製薬・厚労省・学会の三者間の協議結果次第では、2026年内に状況が変化する可能性があります。日本呼吸器学会や厚労省の公式発表を定期的に確認する習慣が重要です。


テオドール錠の問題は、単一製品の話にとどまりません。海外依存の原料調達構造が引き起こす医薬品供給の不安定さという、今後も繰り返されうる構造的課題の象徴でもあります。医療従事者として、供給リスクを念頭に置いた処方・調剤の在り方を改めて見直す機会と捉えることができます。


参考:テオドール錠供給困難に関する日本呼吸器学会の公式声明と今後の動向はこちらから確認できます。


テオフィリン徐放性製剤 テオドール®錠100mg,200mgの現状報告(周知依頼) | 一般社団法人 日本呼吸器学会






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