セレネース錠(ハロペリドール)を投与中止してもジスキネジアが止まらないことがあります。

セレネース錠は住友ファーマが製造販売する抗精神病剤で、一般名はハロペリドール(Haloperidol)です。薬効分類番号1179に属するブチロフェノン系化合物であり、脳内のドパミンD₂受容体を遮断することで幻覚・妄想などの陽性症状を改善します。
添付文書は2025年5月改訂(第4版)が最新となっています。規格は4種類あり、それぞれ薬価や規制区分が以下のとおりです。
| 販売名 | 薬価(1錠あたり) | 規制区分 |
|---|---|---|
| セレネース錠0.75mg | 8.2円 | 劇薬・処方箋医薬品 |
| セレネース錠1mg | 8.2円 | 劇薬・処方箋医薬品 |
| セレネース錠1.5mg | 9.9円 | 劇薬・処方箋医薬品 |
| セレネース錠3mg | 10.4円 | 劇薬・処方箋医薬品 |
全規格が「劇薬」指定であることは大前提として確認しておく必要があります。効能または効果は「統合失調症、躁病」の2疾患です。用法・用量については、通常成人1日0.75〜2.25mgから開始し徐々に増量、維持量として1日3〜6mgを経口投与します。なお、適応外として器質的疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態・易怒性に対して保険診療上認められる場合があるため(平成23年9月28日付け保医発0928第1号)、実臨床でもせん妄対応として使用される場面は多く、そのぶん現場への正確な知識の周知が求められます。
添付文書は禁忌・効能効果・用法用量・重要な基本的注意・特定の背景を有する患者に関する注意・相互作用・副作用・過量投与・適用上の注意・薬物動態など多岐にわたる項目で構成されています。これが基本構成です。
KEGGデータベース:セレネース錠の添付文書全文(禁忌〜薬物動態まで)
添付文書の第2項「禁忌」には7つの投与禁止条件が明記されています。これを見逃すと患者に致命的な影響を与える可能性があるため、一つひとつ正確に把握しておくことが原則です。
禁忌一覧:
なかでも見落としやすいのが禁忌2.6のアドレナリン禁忌です。実は「アナフィラキシーの救急治療、または歯科領域における浸潤麻酔もしくは伝達麻酔に使用する場合」は例外として除かれています。これは2023年10月にPMDA(医薬品医療機器総合機構)が抗精神病薬とアドレナリン含有歯科麻酔薬の併用時の取り扱いを見直したことに起因し、歯科用アドレナリン含有麻酔薬との併用は「併用禁忌」から「併用注意」に区分変更されました。歯科治療との連携がある現場では、この改訂内容を把握しておかないと、不必要な制限をかけてしまうリスクがあります。
また、禁忌2.7の「妊婦」については催奇形性を疑う事例が報告されており、動物実験でも口蓋裂(マウス)・脳奇形(ハムスター)が確認されています。妊娠後期に投与された場合、新生児に哺乳障害・傾眠・呼吸障害・振戦・筋緊張低下などが現れたとの報告があります。禁忌2.4のレビー小体型認知症も、パーキンソン病と同様に錐体外路症状が悪化するおそれがある点は、認知症患者を多く担当する病棟では特に注意が必要な条件です。
日本歯科麻酔学会:抗精神病薬とアドレナリン含有歯科麻酔薬の併用についての解説
添付文書第11項「副作用」のうち、特に重大なものは11.1にまとめられており、9種類が列挙されています。頻度はいずれも「頻度不明」ですが、重篤度が高く投与中止の判断が必要なものばかりです。重要な副作用です。
重大な副作用(11.1)の一覧:
「その他の副作用(11.2)」では、5%以上の頻度で不眠(16.1%)・焦燥感・神経過敏が、5%未満ではパーキンソン症候群(振戦11.9%、筋強剛、流涎、寡動、歩行障害、仮面様顔貌、嚥下障害)・アカシジア(静坐不能)が報告されています。振戦11.9%という数字は無視できません。
遅発性ジスキネジアは特に見落とされやすい副作用です。「薬を止めれば改善する」と考えがちですが、添付文書には「投与中止後も持続することがある」と明確に記載されており、抗パーキンソン剤を投与しても症状が軽減しないケースもある点を把握しておく必要があります。症状出現時は他の抗精神病薬への変更も含め、投与継続の必要性を慎重に判断することが求められます。
医薬情報QLifePro:セレネース錠1mgの添付文書(副作用の頻度データ含む全文)
セレネース錠の相互作用情報は、添付文書第10項に記載されています。代謝経路として、本剤は主に薬物代謝酵素CYP2D6およびCYP3A4で代謝されます。これが相互作用の根拠です。
10.1 併用禁忌:
アドレナリン(ボスミン)との併用は原則禁忌です(歯科麻酔・アナフィラキシー救急の例外を除く)。本剤のα受容体遮断作用によりアドレナリンのβ受容体刺激作用が優位となり、血圧降下が増強されるためです。いわゆる「アドレナリン反転」の状態に陥ります。
10.2 併用注意の主要なもの:
| 薬剤種 | 相互作用の内容 |
|---|---|
| 中枢神経抑制剤(バルビツール酸誘導体等) | 中枢神経抑制作用が増強する |
| アルコール | 相互に作用を増強することがある |
| リチウム | 心電図変化・重症の錐体外路症状・非可逆的な脳障害の報告あり |
| 抗コリン作用を有する薬剤 | 腸管麻痺等の抗コリン系副作用が強くあらわれることがある |
| 抗ドパミン作用薬(メトクロプラミド、スルピリド等) | 内分泌機能異常・錐体外路症状が発現 |
| CYP3A4誘導薬(カルバマゼピン、リファンピシン等) | 本剤の血中濃度が低下し、作用が減弱する |
| CYP3A4阻害薬(イトラコナゾール等) | 本剤の血中濃度が上昇し、副作用が発現するおそれ |
| CYP2D6阻害薬(キニジン、クロルプロマジン等) | 同上 |
| QT延長を起こすことが知られている薬剤 | 相加的なQT延長のおそれ |
リチウムとの併用に関しては、「非可逆性の脳障害」という非常に重篤な相互作用が報告されているため、双極性障害の治療でセレネースとリチウムを同時に使用する際は観察を十分に行い、異常時は速やかに中止する判断が必要です。
メトクロプラミドやスルピリドなど制吐目的でよく使用される薬剤も、ドパミン拮抗作用を持つため併用注意に該当することを現場では意外と見落としがちです。これは要注意です。
セレネース錠(ハロペリドール・抗精神病剤)とサイレース(フルニトラゼパム・麻酔導入剤/不眠症治療薬)は、名称が非常に似ているために取り違え事故が繰り返されてきた薬剤ペアです。2007年から2020年7月31日までに日本医療機能評価機構へ報告された事例だけで13件(注射剤6件・錠剤7件)にのぼります。
2021年1月〜3月の集計期間だけでも2件が報告されており、さらに遡ると2015年1月〜2021年3月の間に7件が確認されています。両剤が誤投与された場合の患者への影響は非常に深刻で、ある事例では誤ってサイレース静注2mgが投与され、SpO₂が74%まで低下してNPPVを装着する事態になりました。別の事例ではSpO₂80〜90%台・末梢冷感・チアノーゼ・顔面蒼白が出現し、経鼻エアウェイ挿入が必要になっています。数字として見えてくるリスクです。
取り違えが起きやすい場面として、夜間のせん妄・患者の容体急変時という緊急時対応の場面が特に多く報告されています。口頭指示が多く、定数配置薬から急いで取り出す状況では確認が不十分になりやすいからです。また、1mg錠では同じ規格が存在するため、錠剤でも気が抜けません。
エーザイ株式会社と住友ファーマ(旧大日本住友製薬)は2020年11月に連名で注意喚起文書を公表し、以下の対策を呼びかけています。
これらの安全対策を現場で実践するためには、まず添付文書を通じて両薬剤の違い(薬効・投与目的・重要な基本的注意)を明確に把握することが第一歩です。サイレース静注には「投与前に酸素吸入器・挿管器具等の救急蘇生剤を準備する」「パルスオキシメーターや血圧計で継続的に呼吸・循環動態を観察する」という重要な注意が添付文書に記載されていますが、セレネース注にはそのような記載はありません。誤投与時にこの準備がされていないことが、重篤な転帰につながる根本的な要因です。
日本医療機能評価機構 医療安全情報No.182:セレネース注とサイレース静注の取り違え事例の詳細分析
PMDA公表:サイレース®とセレネース®との販売名類似による取り違え注意のお願い(エーザイ・住友ファーマ連名)
添付文書第9項「特定の背景を有する患者に関する注意」には、年齢・合併症・妊娠・授乳など状況別の注意事項が記載されています。特に高齢者・認知症患者への対応は現場判断に迷うことが多い領域です。
まず9.8「高齢者」については、「少量から投与を開始するなど患者の状態を観察しながら慎重に投与すること」と明記されています。理由は「錐体外路症状等の副作用があらわれやすい」という点です。少量からが原則です。
さらに重要なのは第15.1.2項に記載された情報です。「外国で実施された高齢認知症患者を対象とした17の臨床試験において、非定型抗精神病薬投与群はプラセボ投与群と比較して死亡率が1.6〜1.7倍高かったとの報告がある」と明記されています。そして「外国での疫学調査において、定型抗精神病薬(セレネースはこちらに該当)も非定型抗精神病薬と同様に死亡率の上昇に関与するとの報告がある」という追記もなされています。高齢認知症患者に対してせん妄対応でセレネースを用いる際、この死亡率のデータは見過ごせない情報です。
そのほか、特定の合併症を持つ患者への注意として以下が挙げられています。
授乳婦については「授乳しないことが望ましい」と記載されており、母乳中に移行して哺乳中の児の血中に検出されたとの報告があります。小児については「錐体外路症状、特にジスキネジアが起こりやすい」との報告があり、投与には特別な配慮が必要です。
また、過量投与時の対応として添付文書13.2項に「低血圧や循環虚脱が現れた場合、ノルアドレナリン等の昇圧剤を用いる(アドレナリンは禁忌)」と明記されています。過量投与対応の場面でもアドレナリン禁忌が適用される点は、緊急時に慌てていると見落とす可能性があります。これを事前に把握しておけばミスを防げます。
HOKUTOアプリ:セレネース錠3mgの効果・効能・副作用(高齢者注意事項含む参照)

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