ランタスXRをランタスと同じ感覚で空打ちすると、毎回1単位分の薬液が無駄に失われ続けます。

ランタス注とランタスXR注は、どちらも有効成分がインスリン グラルギン(遺伝子組換え)で、持効型溶解インスリンアナログ製剤に分類されます。製品名が似ているため同じものと誤解されがちですが、有効成分の濃度が根本的に異なります。
ランタス注は100単位/mLですが、ランタスXR注は300単位/mL、つまりランタスの3倍の濃度です。1キットあたりの内容量もランタスが3mL(300単位)に対し、ランタスXRは1.5mL(450単位)と異なります。
| 項目 | ランタス注ソロスター | ランタスXR注ソロスター |
|---|---|---|
| 有効成分 | インスリン グラルギン(遺伝子組換え) | |
| 濃度 | 100単位/mL | 300単位/mL |
| 1キット容量 | 300単位/3mL | 450単位/1.5mL |
| 1単位あたり注入液量 | 10μL(0.01mL) | 3.3μL(0.0033mL) |
つまり濃度が3倍ということですね。この違いが、後述する作用プロファイルや操作方法の差異につながります。
同じ20単位を注射した場合でも、ランタスなら注入液量200μLのところ、ランタスXRでは約67μLとなります。液量がはがきの横幅(約15cm)と爪楊枝の長さ(約6cm)くらい違う、という感覚でイメージすると差の大きさが伝わりやすいかもしれません。
参考:ランタスXRの製品情報はサノフィ公式の医療関係者向けサイトで確認できます。
ランタスXR 糖尿病 | 製品情報 | サノフィ(医療関係者向け)
濃度を3倍にしたことには、単なる液量節約以上の意味があります。ランタスやランタスXRは皮下注射後、pH変化によって等電点沈殿を形成し、沈殿物がゆっくり溶解することで持続作用を発揮します。ランタスXRでは1回注入量が少ない分、皮下で形成される沈殿物が物理的に小さくなります。
沈殿物が小さいと表面積が縮小するため、溶解速度がさらに遅くなります。これが原則です。その結果、ランタスXRはランタスと比較して、より平坦で持続的な薬物動態プロファイルを示し、24時間を超えた安定した血糖降下作用が期待できます。
臨床試験(EDITION JPシリーズ)のデータでは、ランタスXRはランタスと比較して夜間低血糖の発現が有意に少ないことが示されています。インタビューフォームには「低血糖症を1件以上発現した被験者の割合及び低血糖症の総件数は、ランタス群よりも本剤群の方が少なく、この差は夜間低血糖のみで比較するとより顕著であった」と明記されています。
夜間低血糖が少ない点は、患者の生活の質(QOL)改善に直結します。いいことですね。ただし、ランタスよりも最大作用時間のピークが低くなるため、ランタスから切り替えた直後に血糖値が上昇するケースがある点には注意が必要です。
参考:PMDA公開のランタスXR インタビューフォームで、薬物動態・臨床試験データを確認できます。
ランタスXR注ソロスター 医薬品インタビューフォーム(サノフィ)
切り替え時に最も混乱しやすいのが「単位数をどう設定するか」という問題です。ランタスXRの濃度がランタスの3倍だからといって、切り替え時に単位を1/3や3倍に換算する必要はありません。
ランタス→ランタスXRへの切り替えは、添付文書上「前治療のインスリン グラルギン100単位/mL製剤の1日投与量と同単位を目安として投与を開始する」とされています。ランタスXRの注入器はランタスと同様に1単位刻みの設定が可能で、ランタスXR1単位の注入液量はランタス1単位の1/3に設計されているためです。単位換算は不要が原則です。
ただし、切り替え後しばらくの間は血糖値が上昇しやすいため、注意深い血糖モニタリングが必要です。ランタスXRのほうがピークが少ない分、わずかにあったランタスのピーク効果がなくなることで血糖上昇として現れることがあります。
ランタスXR→ランタスへの逆切り替えは、方向が変わるだけで話が大きく変わります。添付文書の重要な基本的注意に「1日投与量よりも低用量での切り替えを考慮すること」と明記されており、米国のランタス添付文書では「80%の用量が推奨される」とされています。ランタスXRを10単位で使用していた場合、ランタスでは8単位が目安となります。
| 切り替えの方向 | 単位設定の原則 | 切り替え後のリスク |
|---|---|---|
| ランタス → ランタスXR | 同単位(換算不要) | 血糖値が上昇しやすい |
| ランタスXR → ランタス | 低用量(目安:元の約80%) | 低血糖が生じやすい |
この「逆切り替えは8割」という目安は意外ですね。切り替え方向によってリスクが逆転することを、指導前に必ず再確認するようにしましょう。
参考:ランタスXR注ソロスターとランタス注の切り替え方法について、pharmacista.jpに詳しい解説があります。
ランタス注ソロスターとランタスXR注ソロスターの違い・切り替え方法(pharmacista.jp)
製剤変更時の指導で見落とされやすいのが、日常的な操作手順の違いです。同じペン型注入器に見えても、細かい手順が変わっています。これは使えそうです。
まず空打ちの単位数が異なります。ランタスは2単位、ランタスXRは3単位です。空打ちの目的は気泡除去と注入器の動作確認ですが、ランタスXRは濃度が高く1単位あたりの液量が少ないため、針先まで薬液を満たすのに3単位が必要です。2単位では気泡除去が不十分になります。
次に注入後の保持時間が、ランタスの10秒からランタスXRでは5秒に短縮されています。これは1回注入液量が少ないためです。患者がランタスの操作に慣れていた場合、「ランタスXRになったのに10秒待つ必要はない」と正しく伝えることでストレスを減らせます。
そして開封後の使用期限が異なる点も重要です。ランタスは開封後4週間、ランタスXRは6週間使用可能です。これは安定性試験に基づくもので、1キットあたりの総単位数が450単位と多いことも関係しています。
| 操作項目 | ランタス注 | ランタスXR注 |
|---|---|---|
| 空打ち単位数 | 2単位 | 3単位 |
| 注入後の保持時間 | 10秒 | 5秒 |
| 開封後使用期限 | 4週間 | 6週間 |
| 使用開始後の保存 | 冷蔵庫不可、室温・遮光保存 | |
製剤変更時には、これら3点を必ずセットで患者に再説明するのが原則です。特に空打ちの単位数は患者が自己管理している部分であり、指導内容を更新しなければ毎回の空打ちで誤操作が繰り返されます。
参考:サノフィ公式の取扱説明書で、ランタスXRの正しい操作手順が確認できます。
インスリン グラルギンのバイオシミラー(後続品)が普及していますが、ここに重大な誤解が生じやすいポイントがあります。インスリン グラルギンBSはランタス注(100単位/mL)のバイオ後続品であり、ランタスXR注(300単位/mL)のバイオ後続品ではありません。
実際に、ランタスXR注からインスリン グラルギンBS注ミリオペン「リリー」へ変更する際に、医師がこれをランタスXRのバイオ後続品と誤認し、同単位で処方した事例が報告されています。薬剤師が疑義照会を行い、単位を減らして再処方となったケースです。この誤りが見逃されると患者の低血糖リスクが高まります。痛いですね。
ランタスXR注からインスリン グラルギンBS注へ切り替える際は、①両製剤の濃度が同じ100単位/mLではないことを確認し、②切り替え時の初期用量は低用量(ランタスXRの日投与量より少なく)から開始することが必要です。
また、他の持効型インスリンへの切り替えについても整理しておきましょう。トレシーバ(インスリン デグルデク)は作用持続時間が42時間以上と非常に長く、より安定した基礎インスリン補充が期待できます。一方でランタスXRは作用持続時間が約24〜36時間とされており、投与時刻のずれに対する柔軟性はトレシーバほどではありません。患者の生活リズムや血糖パターンに応じた製剤選択が重要です。
切り替えに際しては、製剤ごとの濃度・作用プロファイル・操作手順の3点を一括で確認するのが条件です。院内フォーミュラリーや医薬品情報室のDIニュースなどを活用して情報を整理しておくと、スムーズな対応につながります。
参考:ランタスXR注からバイオシミラーへの切り替えに関する疑義照会事例と注意点が詳しく掲載されています。
ランタス XR 注ソロスターのバイオ後続品への変更はOK?(リクナビ薬剤師)
参考:愛媛大学医学部附属病院の薬剤部DIニュースで、インスリン グラルギン製剤の取り違い防止に関する実践的情報が確認できます。
インスリン グラルギン製剤の取り違いに注意して下さい!(愛媛大学医学部附属病院 薬剤部DIニュース)