抗生物質を処方しながらミヤBMも一緒に出しても、ミヤBMは死なずに腸まで届きます。

ミヤBM(一般名:酪酸菌)の主成分である宮入菌(*Clostridium butyricum* MIYAIRI)は、1933年に千葉医科大学(現:千葉大学医学部)の宮入近治博士がヒトの糞便から発見した嫌気性の芽胞形成菌です。発見から80年以上、医薬品として使用され続けているという実績は、他の整腸剤と比べても際立っています。
薬剤名の「ミヤ」は宮入菌のカタカナ名から、「BM」は *butyricum MIYAIRI* のイニシャルに由来します。剤形は錠剤と細粒の2種類があります。
- ミヤBM錠:1錠中に宮入菌末20mgを含有(菌数107個以上/錠)
- ミヤBM細粒:1g中に宮入菌末40mgを含有
添付文書上の効能効果は「腸内菌叢の異常による諸症状の改善」と記載されており、急性・慢性下痢症、便秘、消化不良から、抗生物質・化学療法剤の投与に伴う腸内菌叢の異常まで幅広く適応が認められています。薬価はミヤBM錠が1錠5.9円(3割負担では約1.77円)、細粒は1gあたり6.5円と比較的安価な部類に入ります。
つまり、安全性・コスト・有効性の面でバランスの取れた整腸剤です。
特筆すべきは副作用の少なさで、添付文書上に副作用の記載がなく、妊娠中・授乳中の患者にも原則として使用できます。胃瘻や経管栄養の患者への投与も対応可能であり、使用場面を選ばない点は処方選択の大きなメリットになります。
参考:ミヤリサン製薬公式の宮入菌(酪酸菌)解説ページ。芽胞の形成機構や産生物質についての基礎情報が確認できます。
医療従事者が「ミヤBM=抗生物質と一緒に出せる整腸剤」というイメージを持つのは正しい認識です。ただしその理由を正確に説明できているかは別の話で、実は芽胞の仕組みを理解していない処方者も少なくありません。
宮入菌が他の乳酸菌・ビフィズス菌と根本的に異なる点は、「芽胞(がほう)」を形成する能力を持つことです。芽胞とは細菌が形成する休眠構造で、極めて丈夫な殻に覆われています。この状態になると、胃酸・胆汁酸・消化酵素の影響をほとんど受けず、生きたまま大腸まで到達することができます。これが基本です。
さらに重要なのは、抗生物質に対しても耐性を示す点です。多くの乳酸菌製剤は抗菌薬の影響で死滅しますが、宮入菌は芽胞として生き残るため、抗菌薬服用中でも腸内に生きた菌を届けられます。抗菌薬関連下痢症(AAD)の予防・治療において、この特性は実臨床で非常に有用です。
健康な成人男性にミヤBM錠2錠(菌数:約107個)を投与した試験では、服用後1〜2日以内に糞便中から酪酸菌が検出され始め、3〜5日で定常状態に達することが確認されています(医薬品インタビューフォームより)。整腸効果の発現は内服から約5時間後からとされており、効果の持続時間は1〜2日間です。
効果発現まで時間があることは知っておくべき点です。
また、臨床上の有用な知識として、乳酸菌とミヤBMを混合培養すると、酪酸菌単独と比較して菌数が11.7倍に増加するというデータがあります。これはビオフェルミン錠との併用が相乗的な整腸効果をもたらす可能性を示しており、実際に重症型薬疹や薬剤性過敏症症候群などの重症疾患において、乳酸菌・酪酸菌・糖化菌の合剤による治療が有効であったとの報告もあります。
参考:薬剤師ヒヤリ・ハット事例として、ミヤBM錠と市販品・強ミヤリサンの菌数比較に関する実際の混乱例が掲載されています。処方前に確認すべき知識が整理されています。
リクナビ薬剤師:ミヤBMより強ミヤリサンの方が宮入菌末量が多いと勘違い(事例216)
ミヤBMを「整腸剤」として一括りにすることには少し注意が必要です。宮入菌の作用は腸内環境の整備にとどまらず、腸管免疫の制御という免疫学的領域にも踏み込んでいるからです。
宮入菌が大腸内で産生する主要代謝産物は、酪酸・酢酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)です。酪酸は大腸上皮細胞の主要なエネルギー源として利用されており、腸粘膜の萎縮改善・バリア機能の維持・腸管蠕動の促進に寄与します。具体的には、酪酸が大腸内の酸素を消費することで、酸素を嫌うビフィズス菌など他の有用菌が生育しやすい嫌気的な環境が作られるという相乗効果もあります。
さらに見逃せないのが免疫調節作用です。2013年に理化学研究所・東京大学医科学研究所のグループが発表した研究によれば、腸内細菌が産生する酪酸がFoxp3遺伝子の発現を高め、制御性T細胞(Treg)の分化誘導に重要な役割を果たすことが明らかになりました。Tregは免疫の過剰反応にブレーキをかける役割を持ち、アレルギー疾患や炎症性腸疾患(IBD)の抑制に関与します。
これは使えそうです。
腸内細菌が産生する酪酸によってTregが誘導される→腸管免疫の恒常性が維持されるというこの経路は、過敏性腸症候群(IBS)だけでなく、潰瘍性大腸炎・クローン病といった炎症性腸疾患の管理においてもミヤBMが補助的に有用である可能性を示唆しています。ただし、酪酸が潰瘍性大腸炎を引き起こしうるという報告も一部あり、IBD患者への使用においては主治医が状態を見極めて判断する必要があります。
有害菌への拮抗作用も見逃せません。宮入菌は腸内病原性細菌に対して著明な拮抗作用を持ち、腸内菌叢のバランスを回復・維持する力があります。これにより腐敗物質の発生を抑制し、悪玉菌の増殖が抑えられた環境が整います。
参考:理化学研究所による酪酸と制御性T細胞(Treg)の関係に関するプレスリリース。ミヤBMの免疫調節作用を理解する上での科学的根拠として参照できます。
理化学研究所:腸内細菌が作る酪酸が制御性T細胞への分化誘導のカギ
整腸剤の処方において「とりあえずビオフェルミン」という慣習が一定数の現場で続いているのが実情ですが、患者の状態によってはミヤBMの方が明らかに優れた選択肢となる場面があります。
以下に、主要な整腸剤との比較を整理します。
| 薬剤名 | 主成分 | 抗菌薬との併用 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| ミヤBM | 酪酸菌(宮入菌) | ✅ 可能 | 芽胞形成・粘膜栄養・Treg誘導 |
| ビオフェルミン | ビフィズス菌・乳酸菌 | ❌ 原則不可 | 乳酸・酢酸産生・便秘傾向に強い |
| ビオフェルミンR | 耐性乳酸菌 | ✅ 可能 | 耐性菌指定・抗菌薬関連下痢に対応 |
| ビオスリー | 乳酸菌+酪酸菌+糖化菌 | △ 部分的 | 複合生菌・症状が揺れる場合に選択 |
| ラックビー | ビフィズス菌 | ❌ 原則不可 | 大腸での乳酸・酢酸産生が主 |
実臨床の選び方としては、抗菌薬投与中の患者にはミヤBMまたはビオフェルミンRを選ぶのが原則です。便秘傾向が主訴であればビフィズス菌製剤が向いており、症状が便秘と下痢を繰り返す場合にはビオスリーのような複合生菌製剤が安定しやすい傾向があります。
抗菌薬中はミヤBMが条件です。
ただし一点、処方時に注意すべきヒヤリハット事例があります。市販薬の強ミヤリサン錠との菌末量の比較に関する混乱です。強ミヤリサン錠は1錠中に宮入菌末30mgを含有しており、ミヤBM錠(20mg/錠)より菌末の重量は多いように見えます。しかし製法が根本的に異なるため、菌末の重量だけでは比較できません。菌数ベースで比較すると、ミヤBM錠1錠(20mg)が107個以上なのに対し、強ミヤリサン錠9錠(270mg)は106個以上にとどまります。つまりミヤBM錠の方が1錠あたりの菌数は10倍以上多いという逆転現象が起きています。患者から市販薬との比較を尋ねられた際に誤った情報を伝えないよう、この点は確認しておきたいところです。
2026年1月19日より、ミヤBMは全国的な限定出荷措置が取られています。原因は工場トラブルではなく、需要の急激な拡大に供給が追いつかなくなったことです。腸活ブームの定着や、抗生物質と一緒に飲める利便性が広く知られるようになったことで、処方数が急激に増加しました。代替薬に切り替えを余儀なくされている施設も多い状況です。
これは対応が必要ですね。
この状況において、代替薬を選ぶ際の判断基準は患者の使用目的によって異なります。
📌 抗菌薬と併用している患者の場合
- ビオフェルミンR(耐性乳酸菌製剤) が最有力の代替候補です。「R」は Resistance(耐性)の意味で、抗菌薬に耐性を持つように設計されたビフィズス菌を含んでいます。ミヤBMと同様に抗菌薬投与中でも有効性を維持できます。
- ただし、ビオフェルミンRは抗菌薬の種類によって耐性のカバー範囲が異なります。使用中の抗菌薬の種類を確認した上で選択する習慣をつけておくと安全です。
📌 日常的な整腸目的の患者の場合
- ビオスリー:乳酸菌・糖化菌・酪酸菌の3種が配合されており、ミヤBMの有効成分である酪酸菌も含まれるため、ミヤBMに近い腸内環境整備が期待できます。ただし2026年1月30日時点でビオスリーも限定出荷への移行が報告されています。
- ビオフェルミン錠:乳酸菌・ビフィズス菌製剤として幅広く使用できますが、抗菌薬との同時処方は避ける必要があります。
なお、2026年2月末をめどに通常供給に戻る見込みがメーカーから示されていましたが、代替薬への切り替えを経験した患者の中には、別の菌種で効果を実感し継続を希望するケースも出てきています。薬局・病院での在庫状況を定期的に確認しつつ、患者の状態に応じた最適な選択を継続することが重要です。
参考:ミヤBMの出荷調整の経緯と代替薬の選び方について、患者向けに分かりやすく解説されています。処方切り替えの際の患者説明の参考になります。
さいとう内科クリニック:整腸剤「ミヤBM」が手に入らない?出荷調整の理由と代替薬