硬膜外に投与していても、モルヒネ塩酸塩注100mgシリンジ「テルモ」では重篤な神経障害が起こります。
モルヒネ塩酸塩注100mgシリンジ「テルモ」は、テルモ株式会社が製造販売するプレフィルドシリンジ(PFS)製剤です。1シリンジ10mL中にモルヒネ塩酸塩水和物100mgを充填した1%濃度の水性注射剤で、薬価は1筒2,576円(5本入りブリスター包装)となっています。
この製剤が誕生した背景には、現場の切実な課題がありました。それまでのガラスアンプル製剤では、高用量投与のたびに複数のアンプルカットが必要で、調製に多大な手間がかかっていました。さらに麻薬製剤の場合、容器破損や開封時の飛散で薬液が損失・汚染されると廃棄が必要になり、麻薬事故届の提出という行政手続きが発生してしまいます。この二重の負担を軽減するために開発されたのがPFS製剤です。
テルモはもともと「プレペノン注100mgシリンジ」として2001年1月18日に販売を開始しました。その後、2006年に医療事故防止対策の一環で販売名を変更し、2020年7月14日にさらに現在の一般的名称「モルヒネ塩酸塩注100mgシリンジ『テルモ』」へと変わりました。販売名の変更が繰り返されてきた製剤であるという認識は、薬歴管理や文書整理の面でも重要です。
PFS製剤としての製剤学的特徴は3つに整理できます。①アンプルカットや薬液吸引操作が不要なため衛生性が向上し、破損・こぼし・紛失といった麻薬管理上のリスクが低減されること、②シリンジ本体に薬剤名・容量が記載されており薬剤取り違えの防止に寄与すること、③ブリスター包装を開封後、そのままシリンジポンプや携帯型ディスポーザブル注入ポンプへセットできるため調剤作業が効率化されること、の3点です。容量が10mLに設定された理由も、シリンジポンプの搭載可能な最小シリンジサイズが10mLであったこと、在宅医療でのシリンジ交換頻度を最小化するためという実用的な設計思想に基づいています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 規格・含量 | 1シリンジ10mL中モルヒネ塩酸塩水和物100mg |
| 濃度 | 1%(10mg/mL) |
| 薬価 | 2,576円/筒 |
| 規制区分 | 劇薬・麻薬・処方箋医薬品 |
| YJコード | 8114402G1047 |
| 包装 | 10mLシリンジ×5本(脱酸素剤入り) |
| 有効期間 | 室温・遮光・ブリスター包装未開封で61カ月安定 |
保存に関しては、ブリスター包装は脱酸素剤とともに封入されており、使用直前まで開封しないことが鉄則です。外箱開封後は遮光保存が必要で、光によって薬液が徐々に黄褐色を帯びる性質があります。使用前には包装フィルム表面の減圧によるへこみがあるか、薬液の漏れや変色がないか、シリンジの破損やキャップ外れがないかを必ず確認する必要があります。それが条件です。
参考:モルヒネ塩酸塩注100mgシリンジ「テルモ」の添付文書(KEGG)
医療用医薬品:モルヒネ塩酸塩注100mgシリンジ「テルモ」(KEGG医薬品情報)— 禁忌・用法用量・副作用・相互作用など添付文書の全情報を確認できます。
本製剤の効能・効果は「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」に限定されています。用法・用量は、通常成人には1回50〜200mgを持続点滴静注または持続皮下注により投与し、年齢・症状により適宜増減します。
特に重要な点は投与経路の制限です。本剤は「皮下または静脈内注射にのみ使用すること」と明記されており、硬膜外投与・くも膜下投与は禁じられています。他のモルヒネ製剤(例えば「日本薬局方モルヒネ塩酸塩注射液」)では硬膜外投与が可能なものもありますが、本製剤はPFS製剤として承認された用途が異なるため、この制限は厳守しなければなりません。意外ですね。同じ成分名の製剤でも、販売名や剤形が異なれば使用可能な投与経路が変わる——このことを知らずに運用していた場合、重大な医療事故につながります。
WHOのがん疼痛治療ガイドラインでは、経口投与が不可能な場合に初めて注射を用いるとされています。これはがん疼痛治療の大原則であり、本製剤の添付文書14.2.1条にも「モルヒネ製剤のがん疼痛における臨床使用方法としては経口投与または直腸内投与が不可能なとき、初めて注射を用いる」と記載されています。経口剤が使えるケースに安易に注射剤へ移行しないよう、投与判断の根拠を記録として残すことが求められます。
用量設定においては、在宅緩和ケアの実務では1日量を生理食塩水で全量10mLに希釈し、シリンジポンプで0.4mL/hの速度から開始するという方法が広く採用されています(経口モルヒネ換算で日量20〜30mgからの開始が目安)。レスキュー量は持続注入の1時間量を早送りし、前回から30分以上あけることが原則です。日量の増量はレスキュー使用量を参考に、経口モルヒネ換算120mg/日以下では30〜50%増、120mg/日超では30%増を目安とします。
急速静注は絶対に避けなければなりません。急速静注によりアナフィラキシー、重篤な呼吸抑制、低血圧、末梢循環虚脱、心停止が起こるリスクがあるためです。静脈内投与する場合は「緩徐に行うことが望ましい」と添付文書に明記されています。緩徐投与が原則です。
| 投与経路 | 可否 | 備考 |
|---|---|---|
| 持続皮下注 | ✅ 可 | シリンジポンプ・携帯型ディスポーザブル注入ポンプ使用 |
| 持続静脈内注 | ✅ 可 | 急速静注は避け、緩徐に行うこと |
| 硬膜外投与 | ❌ 禁止 | 本製剤は承認外。別製剤を使用すること |
| くも膜下投与 | ❌ 禁止 | 同上 |
| 針をつけた直接投与 | ❌ 禁止 | 必ず輸液・ポンプ経由で投与 |
参考:医療用麻薬適正使用ガイダンス(厚生労働省)
医療用麻薬適正使用ガイダンス 令和6年版(厚生労働省)— 各種オピオイドの用量換算・投与限度日数(モルヒネ塩酸塩注シリンジ「テルモ」は30日限度)など実務上のルールを網羅しています。
モルヒネ塩酸塩注100mgシリンジ「テルモ」をシリンジポンプで使用する際は、誤操作が患者に対して大きな危害を及ぼす可能性があるため、操作手順の各段階に安全確認を組み込む必要があります。
最初に確認すべきは、本シリンジが使用するシリンジポンプに適合しているかどうかです。メーカーが異なると外径や押子のサイズが微妙に異なり、フィット感があっても正確な流量が担保されない場合があります。テルモのシリンジポンプ(例:テルフュージョン小型シリンジポンプTE-361/362系)はテルモ製シリンジの外径寸法に合わせて設計されており、他社製品と混在させると流量精度に影響することがあります。注入精度は±3%が基準で、シリンジが適合していることが条件です。
次に押子(プランジャー)の固定確認が必要です。ブリスター包装を開封後、押子の緩みがないかを確認します。緩みがある場合は、押子を時計回りに回転させて締め直してから使用します。この確認を怠ると、シリンジポンプ使用中に押子が外れてサイフォニング(自然落下による急速注入)や逆流が起こるリスクがあります。サイフォニングが起きると、患者は意図しない高用量を急激に投与されることになり、呼吸抑制・意識消失といった重篤な有害事象に直結します。
シリンジポンプと患者の落差をできるだけ小さくすることも、サイフォニング防止の観点から添付文書に記載されている事項です。ベッドサイドへのポンプ設置高さに気を配る実践が求められます。
シリンジ交換時の間違いは、「医療安全情報 No.213」でも報告された重大な事例があります。ミダゾラム調製液とモルヒネ塩酸塩調製液をそれぞれ別のシリンジポンプで持続投与中、注射器の交換時に薬剤名の照合を怠ったことで誤注入が起きました。交換のたびにラベルの薬剤名・濃度を声に出して確認する習慣が欠かせません。これは使えそうです。
エア抜きも重要な手順です。添付文書では「シリンジポンプまたは携帯型ディスポーザブル注入ポンプを使用の際は、手でエア抜きをして使用すること」と明示されています。エアが残留したまま投与を開始すると、意図した薬液量が患者に届かないだけでなく、エアが静脈内に入るリスクも生じます。
参考:医療安全情報No.213「シリンジポンプの注射器の交換間違い」
医療安全情報 No.213(公益財団法人日本医療機能評価機構)— シリンジポンプのシリンジ交換時に起きた薬剤取り違えの事例と対策が掲載されています。
モルヒネ塩酸塩注100mgシリンジ「テルモ」の副作用は、重大なものと一般的なものに分けて把握しておく必要があります。
重大な副作用として添付文書に記載されているのは、依存性・呼吸抑制・錯乱・せん妄・無気肺・気管支痙攣・喉頭浮腫・麻痺性イレウス・中毒性巨大結腸の9項目です(いずれも頻度不明)。中でも呼吸抑制は即座に生命を脅かすリスクがあるため、最優先で観察しなければなりません。医療用麻薬の副作用として「便秘・悪心嘔吐・眠気」が3大副作用として知られていますが、看護の現場では鎮痛効果の1/10の用量で吐き気・嘔吐、鎮痛用量を超えた段階で眠気が出現するという感受性の差を念頭に置くことが重要です。
呼吸抑制が疑われる場合は、息切れ・呼吸緩慢・不規則な呼吸・呼吸異常などの徴候を見逃さないことが大切です。呼吸数が1分間に10回未満になった場合は速やかに医師へ連絡し、必要に応じて麻薬拮抗剤のナロキソン(ナロキソン塩酸塩注射液)を使用します。ただし、ナロキソンの作用持続時間はモルヒネより短いことに注意が必要です。一度ナロキソンを投与して症状が改善しても、患者のモニタリングを継続しなければ再び呼吸抑制が起こるリスクがあります。
過量投与時の症状としては、呼吸抑制・意識不明・痙攣・錯乱・血圧低下・重篤な脱力感・重篤なめまい・嗜眠・心拍数の減少・縮瞳・皮膚冷感が挙げられます。縮瞳(瞳孔が2mm以下に収縮する状態)は過量投与の早期サインのひとつとして知られており、日常的なバイタル確認に加えて瞳孔観察を組み込むことが推奨されます。縮瞳への気づきが大切です。
腎機能障害患者では排泄が遅延し、高齢者や乳幼児では呼吸抑制への感受性が特に高くなります。これらの患者では低用量から開始し、より厳密な観察が求められます。また、以下の患者群は禁忌または慎重投与の対象であるため、投与前の患者背景確認が欠かせません。
相互作用にも注意が必要です。中枢神経抑制剤(フェノチアジン系・バルビツール酸系)、吸入麻酔剤、三環系抗うつ剤、アルコールとの併用では相加的に呼吸抑制・低血圧・鎮静が増強します。また、抗コリン作動性薬剤との併用では麻痺性イレウスに至る重篤な便秘や尿閉が起こるリスクがあります。クロピドグレルやチカグレロルなどの抗血小板薬との併用では、モルヒネの消化管運動抑制作用によってこれらの薬剤の血漿中濃度が低下し、抗血小板効果が減弱する可能性があることも近年注目されています。これは意外ですね。
参考:がん疼痛コントロールマニュアル第7版(国立病院機構四国がんセンター 緩和ケアチーム)
がん疼痛コントロールマニュアル第7版(四国がんセンター緩和ケアチーム)— モルヒネ注射剤の配合変化一覧・増量法・副作用対策・オピオイドスイッチングの実務手順が詳しく掲載されています。
本製剤は麻薬及び向精神薬取締法(麻薬取締法)に基づく麻薬に該当するため、医療機関内での管理・廃棄・事故対応には厳格なルールが定められています。これを知らないまま運用すると、法的な届出義務違反になる可能性があります。
保管については、麻薬専用の金庫(麻薬金庫)での施錠保管が義務付けられており、他の薬剤との混在保管は認められません。入出庫のたびに麻薬帳簿に記録し、帳簿上の残量と現物の在庫数量が常に一致している状態を保つ必要があります。
廃棄については、投与後の残液(施用残)の扱いが特に重要です。患者に投与した後にシリンジ内に残った薬液は「施用残」として扱われ、麻薬廃棄届・調剤済麻薬廃棄届の提出は不要です。しかし廃棄の際は麻薬管理者(または管理者に準じた立会者)の立会いのもとで行わなければなりません。東京都保健医療局が公表している「医療用麻薬廃棄方法推奨例一覧」によると、モルヒネ塩酸塩注100mgシリンジ「テルモ」の廃棄推奨方法は「プランジャー(押子)を完全に押し切って、シリンジ内の残液を下水に放流する」ことです。廃棄は必ず立会いのもとで行うのが原則です。
一方、未使用のまま残った製品や調剤後の余剰薬については「調剤済麻薬廃棄届」を廃棄後30日以内に都道府県知事へ提出する必要があります。書類の提出期限に注意が必要です。
事故時(紛失・破損・盗難等)については、「麻薬事故届」を速やかに都道府県知事へ提出しなければなりません。PFS製剤は破損リスクが低いといわれますが、シリンジを落下・鉗子で叩くなどの強い衝撃が加わると破損する可能性があります。もし薬液が飛散した場合は、シリンジで回収できた薬液・ペーパーで拭き取った分も含めて薬剤師立会いのもとで廃棄し、その事実を事故届に詳細に記録します。
保険給付上の注意として、厚生労働省告示第75号(平成24年3月5日)に基づき、投薬は1回30日分を限度とされています。在宅移行時に30日分を超えるオーダーが入力されないよう、システム設定や処方チェックの運用でフォローする体制が求められます。
参考:病院・診療所における麻薬管理マニュアル(厚生労働省)
病院・診療所における麻薬管理マニュアル(厚生労働省)— 施用残の廃棄手続き・麻薬事故届の記載方法・帳簿管理のルールなど、医療機関内での麻薬管理に必要な法令上の要件が網羅されています。
臨床現場ではモルヒネ塩酸塩注を単剤で使用するケースだけでなく、ハロペリドールや塩化モルヒネと他薬剤を混合して投与するケースも少なくありません。配合変化の知識は副作用管理と同じくらい重要です。
モルヒネ塩酸塩注の主な配合変化に関するデータとして、生理食塩液・アクチット・ソリタT3・5%ブドウ糖液との配合では14日間安定とされています。一方で注意が必要なのはpHへの影響です。本製剤のpHは2.5〜5.0と酸性に偏っており、アルカリ性の薬剤と混合すると沈殿・変色が起こる可能性があります。添付文書では「配合は必要最小限にとどめることが望ましい」と記載されており、複数薬剤を混合する場合は事前に配合変化表を確認することが推奨されます。
在宅緩和ケアの現場では、バクスターPCA