骨吸収抑制薬を使い続けさえすれば、それが最善とは限りません。

2025年8月に10年ぶりに改訂された「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版」では、治療薬の評価体系が大きく刷新されました。今回の改訂で新規に追加されたのは、ゾレドロン酸・アバロパラチド・ロモソズマブの3剤です。これに既存薬を加えると、2025年時点で使用できる主要な骨粗鬆症治療薬は大きく3つのカテゴリーに分類されます。
① 骨吸収抑制薬は現在も処方の中心をなすグループです。ビスホスホネート製剤(アレンドロン酸・リセドロン酸・ミノドロン酸・イバンドロン酸・ゾレドロン酸)、RANKL阻害薬であるデノスマブ、そして選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM:ラロキシフェン・バゼドキシフェン)がこのカテゴリーに含まれます。
② 骨形成促進薬は、骨量がすでに著しく低下した患者や骨折リスクが高い患者に対して優先的に使用されるグループです。副甲状腺ホルモン(PTH)製剤であるテリパラチド(遺伝子組換え)・テリパラチド酢酸塩、そして今回初めてガイドラインに記載されたアバロパラチド(オスタバロ®)がこれに属します。さらにロモソズマブ(イベニティ®)は骨形成促進と骨吸収抑制の両作用を持つ唯一の薬剤として、ガイドライン上で「強く推奨」の評価(合意率100%、エビデンスの強さA)を受けた特別な位置づけです。
③ 骨代謝調整薬には、活性型ビタミンD₃製剤(アルファカルシドール・カルシトリオール・エルデカルシトール)や女性ホルモン薬が含まれます。これらは骨形成促進薬や骨吸収抑制薬と併用されることが多く、特にエルデカルシトールは活性型ビタミンD₃の中では骨折抑制効果の点で注目度が高い薬剤です。つまり薬剤カテゴリーと作用機序の全体像を把握することが、適切な選択の第一歩です。
| 分類 | 代表薬(商品名) | 主な投与経路・頻度 | 2025GL推奨 |
|---|---|---|---|
| ビスホスホネート(BP) | アレンドロン酸(ボナロン®) リセドロン酸(アクトネル®) ゾレドロン酸(リクラスト®)🆕 |
経口:週1回・月1回 静注:年1回 |
処方を推奨する |
| 抗RANKL抗体 | デノスマブ(プラリア®) | 皮下注:6ヵ月に1回 | 処方を推奨する |
| SERM | ラロキシフェン(エビスタ®) バゼドキシフェン(ビビアント®) |
経口:毎日 | 処方を提案する |
| PTH製剤 | テリパラチド(フォルテオ®) テリパラチド酢酸塩(テリボン®) アバロパラチド(オスタバロ®)🆕 |
皮下注:毎日・週1回 皮下注:毎日(18ヵ月まで) |
処方を推奨する(高リスク例) |
| 抗スクレロスチン抗体 | ロモソズマブ(イベニティ®)🆕 | 皮下注:月1回(12ヵ月まで) | 処方を強く推奨する(S評価) |
| 活性型ビタミンD₃ | エルデカルシトール(エディロール®) アルファカルシドール(ワンアルファ®) |
経口:毎日 | 処方を提案する |
参考:ガイドライン2025年版における薬剤評価の詳細な解説がある下記ページも確認してください。
CareNet:初めて治療ゴールを示した「骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン2025年版」改訂ポイントと新規追加薬の解説
多くの医師が見落としやすい点として、ガイドライン2025年版における推奨文の解釈があります。これは重要です。「処方を推奨する」と「処方を提案する」は一見どちらも有効な薬剤を指すように読めますが、実際には骨折抑制部位の範囲が根本的に異なります。
「処方を推奨する」という評価は、椎体骨折・大腿骨近位部骨折・非椎体骨折の3部位すべてに骨折抑制効果があることを意味します。一方、「処方を提案する」は、この3部位のうちいずれかで骨折抑制効果のエビデンスが不十分であることを意味しています。多くの場合、大腿骨近位部骨折への抑制効果が示されていない薬剤がこの評価を受けています。
大腿骨近位部骨折は生命予後に直結する骨折です。骨折後5年以内の死亡率は約50%というデータもあり、がんの5年生存率(約66%)と比較しても深刻な影響をもたらします。この観点から、実臨床では3部位すべてに骨折抑制効果が示されている薬剤——アレンドロン酸・リセドロン酸・ゾレドロン酸・デノスマブ・ロモソズマブの5剤——の中から病態や患者背景に応じて選択することが適切だといえます。5剤が原則です。
エメラルド整形外科疼痛クリニック:ガイドライン2025年版の「推奨の強さ」の解釈と、3部位骨折抑制効果に基づく薬剤評価のわかりやすい解説
2025年改訂の最大の特徴の一つが、日本の骨粗鬆症ガイドラインに初めて「治療ゴール」が明記されたことです。具体的な治療目標として示されたのは、「骨密度のTスコアが−2.5以下で治療を開始した場合には、Tスコアが−2.5を超えること」です。これがゴールです。
また「Goal-directed treatment(目標志向型治療)」の概念が盛り込まれ、骨折リスクに応じた初期治療薬の選択アルゴリズムも提示されました。ポイントは2点です。まず「骨折リスクが非常に高い患者には、骨形成促進薬を最初に投与する」という方針が明記されたこと。そして長期治療においては「骨形成促進薬から骨吸収抑制薬への逐次療法」が推奨されたことです。
逐次療法の根拠としてはARCH試験が引用されています。ロモソズマブ12ヵ月投与後にアレンドロン酸を投与した逐次療法群は、アレンドロン酸単独群と比較して24ヵ月時点の新規椎体骨折を相対リスク50%低下、大腿骨近位部骨折を38%低下させています。腰椎BMDのベースラインからの変化率も、単独群が24ヵ月時点で7.1%の上昇に対し、逐次療法群では15.2%の上昇と、ほぼ倍の改善を示しました。
一方で、テリパラチドやアバロパラチドなどのPTH製剤には投与期間の上限があります。テリパラチドは24ヵ月まで、アバロパラチドは18ヵ月までが投与可能期間です。このため逐次療法では「骨形成促進薬による骨量の底上げ→骨吸収抑制薬による維持」というステップを意識した計画的な処方設計が求められます。これは使えそうです。
さらに、治療未経験の患者ほど骨形成促進薬の効果が高いというエビデンスも国内外のコンセンサスとして得られており、長期に骨吸収抑制薬を使ってきた後にPTH製剤へ切り替えても、期待した効果が得にくい場合があることは押さえておきたい点です。
日本医事新報社:「骨粗鬆症薬物治療Up-to-date〈ガイドライン2025年版を踏まえて〉」各薬剤の特徴・使い分けと最新エビデンスの整理
デノスマブ(プラリア®)は6ヵ月に1回の皮下注射という利便性の高さと、強力な骨吸収抑制効果から広く用いられています。ただし、他の骨吸収抑制薬とは根本的に異なる点があります。デノスマブは「休薬」という概念が当てはまりません。
ビスホスホネートは骨に強く結合するため、経口BP製剤は5年、静注BP製剤は3年を目安に休薬(drug holiday)が推奨されます。ところがデノスマブは骨への蓄積がほぼなく、中止後に骨代謝回転が急激に亢進し、骨密度が急速に低下します。特に脊椎での多発椎体骨折が報告されており、研究によれば最終投与から6ヵ月以内に後続治療(多くはビスホスホネート)を開始しなければ、骨折リスクが著しく上昇します。
米国のメディケア受給者を対象にした調査では、デノスマブ中止後に後続治療を受けた患者は全体のわずか6.0%にとどまっていたとの報告もあります。これは痛いデータです。つまりデノスマブを処方する際は、最初から「中止時の出口戦略」をセットで計画しておくことが必須です。患者が転院・転居したり、受診が途絶えたりしたときにリスクが顕在化する可能性があるため、多職種での情報共有と定期フォローアップ体制の構築が重要になります。
なるお整形外科クリニック:デノスマブ中断後の骨折リスクと管理の注意点(2025年1月)
ロモソズマブ(イベニティ®)はガイドライン2025年版でS評価という特別な推奨を受けた、現時点で最も骨密度上昇効果が高い薬剤です。しかし「強く推奨」という評価に安心して処方するのは危険です。心血管イベントのリスクには十分な注意が必要です。
厚生労働省は2019年に「警告」レベルで、イベニティ使用者における心血管系事象の発現リスクについて注意喚起を行っています。過去1年以内に虚血性心疾患または脳血管障害の既往歴がある患者には投与を避けることが強く求められており、これは添付文書の警告欄に明記されています。骨折リスクと心血管リスクのトレードオフを慎重に評価した上での処方判断が不可欠です。また、投与可能期間は12ヵ月のみであり、その後は必ず骨吸収抑制薬への逐次療法へ移行することが求められます。
アバロパラチド(オスタバロ®)はテリパラチドとは異なる第2世代PTH関連ペプチドで、2023年1月より国内販売が開始された比較的新しい薬剤です。臨床試験ではテリパラチドと比較してアバロパラチドの方が骨密度の改善が有意に大きかったとされており、今後の臨床的なエビデンスの積み上げが注目されます。18ヵ月という投与期限が条件です。
なお、ロモソズマブの75歳以上の骨粗鬆症患者に対する国内研究では、テリパラチドと比較して1年後の治療継続率がロモソズマブで有意に高かったとの報告(2025年12月)もあります。アドヒアランスの観点からも、特に高齢者への処方では月1回の投与スケジュールが継続しやすい要因になりうることは意識しておくとよいでしょう。
CareNet Academia:骨粗鬆症治療における高齢者の治療継続率——ロモソズマブとテリパラチドの比較(2025年12月)
薬剤の選択と同じくらい重要なのが、治療を「継続させる」仕組みの整備です。意外ですね。データによれば、骨粗鬆症治療において服薬遵守率が75%を下回るうちは骨折発生率の顕著な低下は期待できず、75%以上になって初めて有意な骨折抑制効果が現れることが示されています。
経口ビスホスホネート製剤はその服薬方法の複雑さ(起床後すぐに多めの水で服用・30分は横にならない・食前のみ有効)や自覚症状のなさから、継続率の低さが長年の課題でした。この問題を補う手段の一つとして、年1回点滴投与のゾレドロン酸(リクラスト®)が今回のガイドライン改訂で正式に位置づけられています。内服困難な患者やアドヒアランスに問題がある患者に対して、臨床的に重要な選択肢です。
医療機関側の体制整備としては、骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS:Osteoporosis Liaison Service)の活用も有効です。OLSは看護師・理学療法士・薬剤師などが連携し、骨密度検査や薬物療法を医師へ依頼したり、患者への服薬指導や転倒予防指導を担う仕組みです。ガイドライン2025年版でも第7章に明記されており、特に二次骨折予防(一度骨折した患者の再骨折を防ぐ)における多職種連携の重要性が強調されています。
骨粗鬆症治療の現場において、処方した薬が患者の体内で十分に働くためには、患者教育・フォローアップ・多職種連携という「処方後の仕組み」が不可欠です。骨折を防いでこそ、治療の意義が完結します。薬剤選択の精度を上げるとともに、こうした治療継続を支える環境整備も、医療従事者として意識すべき重要な視点といえます。
日本医師会:かかりつけ医に必要な骨粗鬆症への対応(ガイドライン2025年版対応版・OLSの実践的な運用も記載)