「イベニティは骨形成促進薬」と信じていると、心筋梗塞リスクを見落として重大インシデントにつながります。

骨粗鬆症の薬物療法は大きく「骨吸収抑制薬」と「骨形成促進薬」の2系統に分かれます。後者は骨を「作る」方向に働く薬剤で、現在の日本では注射製剤のみが該当します。これが基本です。
日本で承認・使用可能な骨形成促進薬は、以下の4製品です。
| 一般名 | 商品名 | 分類 | 投与経路 | 投与頻度 |
|---|---|---|---|---|
| テリパラチド(遺伝子組換え) | フォルテオ皮下注 | PTH製剤 | 皮下注射 | 1日1回 |
| テリパラチド酢酸塩 | テリボン皮下注 | PTH製剤 | 皮下注射 | 週2回 or 週1回 |
| ロモソズマブ | イベニティ皮下注 | 抗スクレロスチン抗体 | 皮下注射 | 月1回 |
| アバロパラチド | オスタバロ皮下注 | PTHrP誘導体 | 皮下注射 | 1日1回 |
上記のほかに「テリパラチドBS(バイオシミラー)」も複数メーカーから発売されており、フォルテオと同等の効果が期待できる後発品として薬価面での選択肢になっています。
これら4種類は、作用機序のうえで「PTH系(副甲状腺ホルモン系)」と「抗スクレロスチン抗体」の2グループに大別されます。つまり2つのグループに整理できます。PTH系は骨芽細胞の分化・増殖を直接促すのに対し、ロモソズマブはスクレロスチンを阻害することで骨形成を促しながら骨吸収も抑えるという"二刀流"の機序が特徴です。このデュアル作用こそがロモソズマブの最大の特徴ですが、同時に後述する心血管リスクの背景にもなっています。
いずれの薬剤も適応は「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」に限定されており、骨折リスクが低〜中等度の患者には原則として使用しない点を押さえておくことが重要です。
参考:骨形成促進薬の薬剤特性・添付文書情報(日本医師会 かかりつけ医向け資料)
日本医師会「かかりつけ医に必要な骨粗鬆症への対応」2025年版(PDF)
骨形成促進薬を正しく使い分けるには、作用機序レベルの理解が不可欠です。それぞれ働き方が大きく異なります。
PTH製剤(テリパラチド・アバロパラチド)の機序
テリパラチドはヒトPTH(1-84)のN末端フラグメント(1-34)です。副甲状腺ホルモンは持続的に高値が続くと骨吸収が優位になりますが、間欠的に投与すると骨芽細胞の分化・増殖が促進され、骨量が増加します。これが「間欠投与」という投与法の根拠です。
特筆すべき点として、PTH製剤による骨密度上昇は主に椎体(海綿骨が豊富)に集中しやすい傾向があります。大腿骨近位部の骨密度増加は椎体に比べて限定的という報告があり、大腿骨骨折リスクが高い患者への選択では注意が必要です。
アバロパラチド(オスタバロ)はPTH関連ペプチド(PTHrP)の誘導体で、テリパラチドと同様のPTH1受容体を介して骨形成を促します。ACTIVE試験では、椎体骨折リスクの低下が約86%と報告されています。さらにオスタバロは、テリパラチドと比較して大腿骨近位部の骨密度をより引き上げる特徴が示されており、大腿骨骨折リスクも考慮した症例では選択肢に挙がります。
ロモソズマブ(イベニティ)の機序
ロモソズマブはヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体です。スクレロスチンは骨細胞が産生するWntシグナルの阻害タンパクで、骨形成を抑制しながら骨吸収を促進します。ロモソズマブはこのスクレロスチンを標的として中和することで、骨形成の促進と骨吸収の抑制を同時に実現します。
骨形成促進作用と骨吸収抑制作用を持つという点では、厳密には「骨形成促進薬」という単独カテゴリに収まらない薬剤ともいえます。これは意外なポイントです。実際、一部の専門家からは「ロモソズマブは骨吸収抑制作用が主体では」という議論も提起されており、処方時に分類だけを頼りに投薬判断をすることのリスクを示しています。
参考:ロモソズマブの作用機序と骨粗鬆症治療における位置づけ
CareNet「ロモソズマブ、骨形成促進と骨吸収抑制の二重作用で骨粗鬆症治療」(2025年)
骨形成促進薬を扱ううえで、投与期間の制限ルールを把握していないと重大な過誤につながります。これは必須の知識です。
テリパラチド(フォルテオ・テリボン・BS製剤)
- フォルテオ:累積24ヵ月(投与中断期間を含めて合算)、24ヵ月終了後は生涯再投与禁止
- テリボン:累積24ヵ月、同様に終了後の再投与不可
- テリパラチドBS:同上の制限
この制限の根拠は、ラットでの発がん性試験において骨肉腫の発生が確認されたためです。ヒトで骨肉腫が増加したという報告はないものの、骨腫瘍または骨転移の既往がある患者には禁忌とされています。24ヵ月というのは骨形成の生物学的なサイクルとも合致しており、「それ以上続けても上乗せ効果が乏しい」という治療上の理由も背景にあります。
なお、フォルテオとテリボンは同じテリパラチドですが、切り替えた場合の安全性データは確立していないため、安易なスイッチも避けるべきとされています。切り替えには慎重な判断が条件です。
アバロパラチド(オスタバロ)
18ヵ月が投与上限であり、テリパラチドより6ヵ月短い点に注意が必要です。骨肉腫リスクへの懸念はテリパラチドと共通しています。
ロモソズマブ(イベニティ)
連続投与期間は12ヵ月(月1回×12回)が上限です。2年目以降は骨密度増加が頭打ちになることが臨床試験で示されており、12ヵ月で治療を完了したうえで次の逐次療法に移行する設計となっています。
参考:フォルテオの投与期間制限と再投与禁止に関する詳細
日本イーライリリー「フォルテオ投与期間・再投与に関するQ&A」(公式医療従事者向けサイト)
ロモソズマブ(イベニティ)は骨形成促進薬の中で最も強力な骨密度増加効果を持ちますが、心血管系の副作用リスクが他の骨形成促進薬にはない固有の問題として存在します。厳しいところです。
市販後調査では、投与後に重篤な心血管系事象(心筋梗塞・脳梗塞)が発生した事例が報告されており、死亡に至った症例も含まれています。これを受けて添付文書には「有益性投与」の記載が追加されました。
現在の添付文書上の扱い
- 心筋梗塞・脳梗塞などの血栓症の既往歴がある患者:禁忌
- 動脈硬化のリスクが高い患者:慎重投与(使用を避けることが推奨される)
- 低カルシウム血症の患者:禁忌
特に「1年以内に心筋梗塞・脳梗塞の既往がある患者」を禁忌とする記載は、処方前の問診・病歴確認が欠かせないことを意味します。骨粗鬆症患者は高齢者が多く、心血管疾患の既往を複数抱えていることも珍しくないため、これは現場で実際に問われる判断ポイントです。
イベニティを選択する際の適応確認チェックリストとして、以下の3点を投与前に確認する習慣をつけることが勧められます。
- ✅ 骨密度値が−2.5SD(YAM値70%)以下で1個以上の脆弱性骨折を有するか、または腰椎骨密度が−3.3SD未満など、添付文書上の条件のいずれかを満たしているか
- ✅ 1年以内に心筋梗塞・脳梗塞の既往はないか
- ✅ 低カルシウム血症がないか(投与前の血清カルシウム確認)
これら3点が条件です。
参考:イベニティの適正使用ガイドと心血管リスク
アムジェン「イベニティ適正使用ガイド」(医療従事者向けPDF)
骨粗鬆症治療の方針として、近年「骨形成ファースト(Anabolic First)」という考え方が国際的なコンセンサスになりつつあります。これは使えそうな知識です。
従来は骨吸収抑制薬(ビスホスホネート・デノスマブなど)が第一選択薬として広く用いられてきました。しかし世界で最も権威ある骨代謝学会のひとつであるASBMR(米国骨代謝学会)のポジションステートメントでは、脆弱性骨折リスクが高い患者では骨形成促進薬を「最初に使うべき」とする立場が明記されています。
その理由として、骨形成促進薬は骨密度を増加させるスピードと量の両方で骨吸収抑制薬を上回るという点が挙げられます。重症骨粗鬆症では「いかに早く骨を丈夫にするか」が骨折予防のカギを握るため、この差は臨床的に意義があります。
ただし重要な制約があります。骨形成促進薬は単独では1〜2年しか使えません。そのため「骨形成促進薬→骨吸収抑制薬」という逐次療法(シーケンシャル治療)が治療設計の基本です。骨形成促進薬で骨密度を引き上げたあとに、ビスホスホネートやデノスマブでその骨密度を維持・継続増加させる流れが原則です。
逆の順番(骨吸収抑制薬→骨形成促進薬)は要注意
デノスマブを先に使用してその後テリパラチドに移行すると、橈骨・股関節周辺で著明な骨量減少が起きるという報告があります。これは逆の順番では逆効果になるということです。デノスマブ中止後のリバウンド現象(破骨細胞の一気分化)と相まって、多発椎体骨折が起きたケースも報告されており、「デノスマブ→テリパラチド」の順序は原則として避けるべきとされています。
治療設計の段階で逐次療法の順序を意識しておくことが、将来的な骨折リスクを下げるうえで重要です。患者ごとのゴール設定(どの骨密度水準を目標とするか)も含め、専門医との連携を早期に組み込むことが推奨されます。
参考:骨粗鬆症ガイドライン2025年版・逐次療法の考え方
日本骨粗鬆症学会「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版」(PDF)
骨形成促進薬の一覧表を眺めただけでは気づきにくい、実臨床での判断ポイントをまとめます。意外ですね。
①PTH製剤共通の禁忌:骨腫瘍・骨転移・骨ページェット病
テリパラチドおよびアバロパラチドは、骨芽細胞の増殖を強力に促すため、骨腫瘍や骨転移が疑われる患者には禁忌です。また、骨格に対する放射線療法の既往がある患者も禁忌です。骨粗鬆症と骨転移が合併する患者(特に癌の既往を持つ高齢者)では、PTH製剤の選択に細心の注意が必要です。
②高カルシウム血症への注意(PTH製剤)
テリパラチド・アバロパラチドは骨吸収も若干促進するため、高カルシウム血症に注意が必要です。投与開始後1〜3時間で血中カルシウムが軽度上昇することがあり、定期的な血清カルシウムモニタリングが推奨されます。
③テリパラチドBSの位置づけ:「安くできる」だけではない意味
テリパラチドBSは薬価面で優れていますが、長期使用データが先発品と比較して蓄積が少ない点は理解しておく必要があります。薬価面で優れた選択肢です。原薬は同等と確認されていますが、製剤設計や安定性の細部については確認が必要な場合があります。
④「骨形成促進薬はすべて注射」という事実の臨床的意味
経口剤が存在しないことは、患者の治療継続率に直結します。自己注射製剤の場合、注射手技の指導・管理コストが生じるほか、注射に対する抵抗感を持つ患者もいます。テリボンオートインジェクターは週2回投与で自己注射の手技が最も簡便とされており、コンプライアンスを重視するなら選択肢として積極的に評価されます。一方、フォルテオは1日1回のため毎日の注射習慣が求められ、患者負担は大きくなります。これは現場でよく直面する問題です。
⑤治療前の骨密度測定と適応確認
骨形成促進薬は「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」への使用が条件であり、骨密度(YAM値・SD値)や既存骨折の有無を投与前に確認することが求められます。特にイベニティは細かい数値条件が添付文書に示されているため、骨密度データなしでの処方は適応外使用になり得ます。骨密度測定が条件です。
患者への適切な薬剤選択と治療継続をサポートするため、骨粗鬆症専門外来や骨粗鬆症マネージャー(認定資格)との連携を活用することが効果的な場面も多くあります。医療機関ごとにチーム医療体制が整っているかを確認し、必要に応じて院内外のリソースを活用することが推奨されます。
参考:骨粗鬆症治療薬の種類・選択基準の詳細解説
大平整形外科「骨粗鬆症治療薬の種類とその選択(2023年2月版)」