コデインリン酸塩錠5mgは、麻薬加算が算定できないため、調剤報酬上で損をしている薬局が今もあります。

「コデインリン酸塩」という名前を見ると、反射的に「麻薬」と判断してしまう医療従事者は少なくありません。確かにコデインおよびその塩類は、麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年法律第14号)において原則として「麻薬」に指定されています。しかし、同法令にはひとつの重要な例外規定が存在します。
その規定とは、「千分中十分以下(重量比1%以下)のコデイン、ジヒドロコデイン、またはこれらの塩類を含有し、かつこれら以外の麻薬を含有しない物」は「家庭麻薬」として麻薬の規制から除外されるというものです。これは麻薬及び向精神薬取締法第2条と関連政令に明記されています。
コデインリン酸塩錠5mgは、1錠中にコデインリン酸塩水和物5mgを含有する製剤です。錠剤の重量は500mgですので、コデインリン酸塩の濃度は約1.0%となります。この1%という濃度がまさに「家庭麻薬」の閾値にあたります。つまり、5mg錠は法律上の麻薬ではない非麻薬製剤に分類されます。
これが条件です。同一有効成分であるコデインリン酸塩水和物であっても、規格・剤形によって麻薬扱いになるものと非麻薬扱いになるものが明確に分かれています。下表のように整理すると理解しやすいでしょう。
| 剤形・規格 | 濃度 | 麻薬・非麻薬 |
|---|---|---|
| 原末 | 100% | ⛔ 麻薬 |
| 散10% | 10% | ⛔ 麻薬 |
| 錠20mg(タケダ・第一三共) | 約13~33% | ⛔ 麻薬 |
| 散1%(各社) | 1% | ✅ 非麻薬(家庭麻薬) |
| 錠5mg(シオエ・ファイザー) | 約1% | ✅ 非麻薬(家庭麻薬) |
非麻薬製剤に該当するのが原則です。散1%と錠5mgの2種類だけが非麻薬になるという点を、現場では特に意識しておく必要があります。
参考:コデインリン酸塩の規格による麻薬・非麻薬の区別について(リクナビ薬剤師・ヒヤリハット事例74)
https://rikunabi-yakuzaishi.jp/contents/hiyari/074/
非麻薬である錠5mgを処方・調剤する場合、麻薬に関する法的手続きは一切不要です。具体的には、以下の点で麻薬との違いが出てきます。
まず処方箋の記載要件が異なります。法律上の麻薬を処方する際は、都道府県知事から免許を受けた「麻薬施用者」のみが処方可能で、処方箋に①患者の氏名・住所、②麻薬の品名・分量・用法用量、③麻薬施用者の免許証番号と記名押印または署名、④麻薬診療施設の名称・所在地などの記載が義務付けられています。しかし、コデインリン酸塩錠5mgは家庭麻薬扱いですので、通常の処方箋の記載事項を満たせば問題ありません。
調剤報酬についても重要な違いがあります。麻薬加算は、法律上の「麻薬」を調剤した際に薬剤調製料に加算できる点数で、1調剤につき70点が算定できます。コデインリン酸塩錠5mgは麻薬に該当しないため、この麻薬加算は算定できません。麻薬加算が算定できないということです。
これを知らずに70点を算定してしまうと、レセプト審査での返戻や査定の対象になります。一方、コデインリン酸塩散1%も同様に非麻薬ですので、同じく麻薬加算は算定できません。
なお、コデインリン酸塩錠20mgは「麻薬」扱いですので、処方箋に麻薬施用者の免許証番号や患者住所の記載がない場合、薬剤師は疑義照会を行う義務があります。実際に、コデインリン酸塩錠20mgを処方されたにもかかわらず、処方箋にこれらの記載がなかったために薬局が疑義照会を行い、最終的に非麻薬のコデインリン酸塩散1%に変更されたというヒヤリハット事例も報告されています。錠5mgと錠20mgを混同しないことが基本です。
参考:麻薬等加算の算定要件(2024年度改定版)の解説
https://pharmacist.m3.com/column/chouzai_santei/6474
コデインリン酸塩錠5mgの添付文書(シオエ製薬、2025年5月改訂第8版)によると、効能または効果は以下の3つです。
用量は通常、成人にコデインリン酸塩水和物として1回20mg(5mg錠の場合は4錠)、1日60mg(12錠)を経口投与するのが標準です。年齢や症状に応じて適宜増減します。
薬理作用の面では、投与されたコデインの5〜15%が肝薬物代謝酵素CYP2D6によってO-脱メチル化を受け、モルヒネに変換されることで鎮痛作用を発揮します。咳中枢への直接作用による咳反射の抑制も同時に起こります。鎮痛効果はモルヒネの約1/6、精神機能鎮静作用は約1/4とされており、モルヒネと同系統の薬物ながら作用の強さは抑えられています。
WHOのがん疼痛治療における3段階除痛ラダーでは、コデインは「第2段階(軽度〜中等度の痛み)」に分類される弱オピオイドです。これは使えそうな知識です。アセトアミノフェンやNSAIDsで対応しきれない疼痛に対して、モルヒネへ移行する前の段階として用いられることが多くあります。
また、腸管蠕動運動の抑制作用により止瀉効果も期待でき、激しい下痢症状の改善に用いられることもあります。鎮咳・鎮痛・止瀉と3つの適応があることは、処方の背景を把握する際に役立ちます。
参考:厚生労働省「医療用麻薬適正使用ガイダンス(令和6年)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001245820.pdf
「非麻薬だから安全」というわけではありません。コデインリン酸塩錠5mgには複数の重大な副作用が設定されており、適切な服薬指導と患者観察が不可欠です。
重大な副作用(頻度不明)として添付文書に記載されているのは以下の通りです。
特に依存性については、2024年以降「濫用等のおそれのある医薬品」の指定対象にコデイン類が含まれており、販売・提供にあたって一層の注意が求められています。
そして、現場で見落とされやすいのが「12歳未満の小児への禁忌」です。2019年7月9日付の厚生労働省通知により、コデインリン酸塩水和物またはジヒドロコデインリン酸塩を含有するすべての医薬品について、12歳未満の小児への投与が「禁忌」に格上げされました。それ以前は「小児への使用を避けること」という注意喚起にとどまっていましたが、2019年から明確な禁忌となっています。
この改定の背景には、CYP2D6の遺伝子多型があります。超高速代謝型の患者では、コデインが急速にモルヒネへ変換されるため、通常量でも呼吸抑制などの重篤な有害事象が起こりうるリスクがあり、12歳未満ではそのリスクが特に高いと判断されました。さらに扁桃摘除術後またはアデノイド切除術後の患者についても、同様の理由から禁忌とされています。
加えて一般的な副作用として、眠気・めまい・便秘・悪心・嘔吐・顔面潮紅・発汗・排尿障害などが知られています。服薬指導では、車の運転・機械操作を避けること、および飲酒によって呼吸抑制や低血圧が増強するリスクについて必ず説明することが求められます。
参考:コデイン類の12歳未満禁忌について(PMDA資料)
https://www.pmda.go.jp/files/000230395.pdf
ここは、検索上位の記事では十分に触れられていない独自の視点です。コデインリン酸塩錠5mgと錠20mgは有効成分が同一であるため、臨床現場では「1日量が同じなら換算して使える」という認識が一部で存在します。しかし、この考え方には法的・実務的に大きな落とし穴があります。
成人標準用量の1回20mg・1日60mgを5mg錠で処方した場合、1回4錠・1日12錠の服用となります。同量を20mg錠で処方する場合は1回1錠・1日3錠となり、有効成分としての総量は同一です。ところが、20mg錠は「麻薬」であり、5mg錠は「非麻薬」です。つまり同じ用量であっても、使用する規格によって処方箋の記載要件・麻薬施用者免許の必要性・調剤報酬の算定可否がすべて変わります。
これが実際にトラブルになった事例が報告されています。本来は非麻薬の散1%を処方するつもりだったにもかかわらず、医師が誤って同一有効成分の錠20mg(麻薬)を処方してしまい、薬局で処方箋チェック時に麻薬施用者免許番号と患者住所の記載漏れが発覚したケースです。疑義照会によって非麻薬製剤に変更されましたが、もし発覚しなかった場合は麻薬の不法施用につながる可能性もありました。
また「日本緩和医療学会」や「WHO方式がん疼痛治療法」における使用例では、コデインの1日投与量として60~120mg程度が示されています。コデインリン酸塩錠5mgで1日120mgを処方した場合、1日24錠の服用になります。錠剤数が多くなるほど患者の服薬アドヒアランスが低下するリスクもあり、5mg錠を使うメリットと錠数の負担を天秤にかける視点が処方設計に求められます。
「1日量が同じならどの規格でも同じ」は間違いです。現場では規格ごとの法的分類を意識した確認が必須です。
参考:日本緩和医療学会「がん患者への緩和ケアにおける医療用麻薬の使用」PDF
https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/patienta.pdf