ケナログ口腔用軟膏販売中止後の代替薬と対応策

ケナログ口腔用軟膏は2019年3月に完全販売中止となりました。医療従事者として、代替薬の選び方や処方上の注意点をきちんと把握できていますか?

ケナログ口腔用軟膏販売中止で知るべき代替薬と処方の注意点

「同じステロイドだから」とオルテクサーをケナログと完全に同一視すると、患者への服薬指導でヒヤリハットを起こします。


この記事のポイント3つ
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販売中止の背景と経緯

ケナログ口腔用軟膏は2018年6月に出荷停止、2019年3月31日に経過措置が満了し完全販売中止。安全性の問題ではなく製造販売元のブリストル・マイヤーズによる製品整理が理由。

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代替薬の種類と特徴

同成分のオルテクサー口腔用軟膏(トリアムシノロンアセトニド)が直接の後継薬。成分が異なるデキサルチン・アフタゾロン(デキサメタゾン)は使用感・適応が微妙に異なる。

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処方・指導上の注意点

ウイルス性・カンジダ性口内炎へのステロイド軟膏塗布は症状悪化を招く。一般名処方時に「口腔用」の記載がないと別薬品(レダコートなど)と取り違えるヒヤリハットが報告されている。


ケナログ口腔用軟膏の販売中止の経緯と理由


ケナログ口腔用軟膏(有効成分:トリアムシノロンアセトニド 0.1%)は、1966年に輸入承認を取得して以来、日本の口内炎・歯肉炎治療の第一線を担い続けてきた歴史ある薬剤です。医療用の「ケナログ口腔用軟膏0.1%」と市販薬の「ケナログA口腔用軟膏」の2種類が製造販売元のブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社から販売されており、2009年にはOTC医薬品として再発売されるほど需要がありました。


しかし2017年10月、ブリストル・マイヤーズ スクイブが製品整理に踏み切り、ケナログの販売中止を発表。2018年6月に出荷停止、2019年3月31日をもって経過措置が満了し、医療用・市販薬ともに完全に流通から姿を消しました。


重要なのは、この販売中止は「薬の安全性に問題があったわけではない」という点です。実はケナログは日本国内のみで販売されていた製品でした。他社からも同様の口腔ステロイド製品が複数販売されており、不採算ライン整理の一環として製品が廃止されたという経緯があります。つまり薬効上の問題や安全上のリスクが新たに判明したわけではありません。


これが原則です。患者から「ケナログが危なかったのか?」と問われた際には、正確にこの事実をお伝えください。




























時期 出来事
1966年 輸入承認取得・発売開始
2009年7月 薬事法改正に伴い「ケナログA口腔用軟膏」としてOTC発売
2017年10月 ブリストル・マイヤーズが販売中止を公表
2018年6月 出荷停止
2019年3月31日 経過措置満了、完全販売中止・保険請求不可


経過措置期間中の在庫を持っていた医療機関や薬局では2019年3月末まで使用可能でしたが、それ以降は保険請求そのものができなくなっています。この日付は医療従事者として押さえておくべき情報です。


参考:三重大学医学部附属病院 薬剤部 医薬品情報(製造販売中止医薬品一覧)
ケナログ口腔用軟膏0.1%の販売終了・経過措置情報(三重大学医学部附属病院 薬剤部)


ケナログ口腔用軟膏の直接の代替薬:オルテクサー口腔用軟膏の特徴

ケナログの販売中止後、最も直接的な後継薬として位置づけられるのが「オルテクサー口腔用軟膏0.1%」(製造販売元:日本ジェネリック株式会社、販売:福地製薬株式会社)です。有効成分であるトリアムシノロンアセトニドの種類・含量はケナログと同一(0.1%)で、効能効果も「慢性剥離性歯肉炎、びらん又は潰瘍を伴う難治性口内炎及び舌炎」と変わりません。


ただし、同じ成分でも添加物には違いがあります。これが実臨床でのヒヤリハットにつながることがあります。



  • 🟡 オルテクサー口腔用軟膏:ゲル化炭化水素を基剤として使用。伸びがよく、口腔粘膜への付着性が高い。刺激の少ない成分設計で口腔内使用に最適化されている。

  • 🔴 レダコート軟膏0.1%(皮膚用)白色ワセリンを基剤として使用。同じトリアムシノロンアセトニド0.1%だが、口腔内への使用を目的としていない。


「般)トリアムシノロン軟膏0.1%」という一般名処方箋が来た際、処方箋に「口腔用」の記載がないと、皮膚用のレダコート軟膏と取り違えるリスクがあります。これは実際に薬局でヒヤリハットとして報告されています。一般名処方箋の確認時には「口腔用」の記載と使用部位を必ず確認することが原則です。


医療用オルテクサーは処方箋が必要ですが、市販薬としても「オルテクサー口腔用軟膏」(指定第2類医薬品)が流通しており、ドラッグストアでも入手可能です。患者から「ケナログはどこで買えるか」と聞かれた際、「オルテクサーという名前の同成分の製品に変わっています」と伝えるだけで、患者の混乱を防ぐことができます。


名称の由来は「Oral(口腔用)」と「Adrenal-Cortex(副腎皮質剤)」からの造語で、「オル」+「テクサー」という合成語です。覚えておくと患者説明がしやすくなります。


参考:くすりのしおり(患者向け情報)
オルテクサー口腔用軟膏0.1%の患者向け情報(くすりのしおり)


ケナログ販売中止後の処方選択:デキサルチン・アフタゾロンとの使い分け

ケナログの代替として、同じステロイドでも異なる成分系統のデキサメタゾン製剤を選択するケースも少なくありません。代表的なものとして以下の製品があります。



  • 💊 アフタゾロン口腔用軟膏0.1%(デキサメタゾン製剤・先発品)

  • 💊 デキサルチン口腔用軟膏1mg/g(デキサメタゾン製剤・後発品)

  • 💊 デルゾン口腔用軟膏0.1%(デキサメタゾン製剤・後発品)


これらはアフタゾロンとデキサルチン・デルゾンが同一成分であり、処方効果に原則的な差はありません。ただし、使用感の違いという観点では、臨床医から「さらさら系」と表現されることが多く、ケナログ・オルテクサーのような「ねっとり・塊状」の基剤と明確に異なります。


この違いは実際の患者アドヒアランスに影響します。具体的には以下のような場面での使い分けが参考になります。






















製品系統 有効成分 質感・付着性 特に向く場面
オルテクサー トリアムシノロンアセトニド ねっとり・高付着性 流れやすい部位(上顎・歯肉)、長時間付着させたい場合
デキサルチン/アフタゾロン デキサメタゾン さらさら・低粘性 ベタつき感を嫌がる患者、舌下など唾液が溜まる部位


ベタつく感じが苦手ですね。そういった患者にはデキサルチン系を選択する方が指示通りの塗布につながりやすいです。ただし「さらさら」ゆえに重力で流れやすく、上顎や口蓋部位での使用では付着時間が短くなる点も忘れてはなりません。


また、どちらのステロイド製剤を選ぶ場合でも、感染性の口内炎が疑われる際は使用禁忌です。処方前に感染の可能性を除外することが条件です。


参考:緩和ケア医のケナログ代替薬解説
ケナログ販売中止・代替薬のデキサルチン・アフタゾロンとの違い(緩和ケア医によるブログ)


ケナログ口腔用軟膏の販売中止で見落としやすいステロイド禁忌の口内炎

ケナログが販売中止になり、オルテクサー等の代替薬が広まるにつれて、処方機会が増える一方で懸念されるのが「ステロイドを使ってはいけない口内炎への誤投与」です。これは実臨床では非常に重要なリスクです。


口内炎と一口に言っても、その原因は多岐にわたります。アフタ性口内炎(原因不明の再発性潰瘍)のほかに、以下のような感染性口内炎が存在し、ステロイドは使用不可です。



  • 🦠 ウイルス性口内炎(ヘルペス性口内炎など):ステロイドが免疫を抑制し、ウイルスが急激に増殖して症状が急激に悪化する。

  • 🍄 カンジダ性口内炎(口腔カンジダ症):ステロイドによる免疫抑制でカンジダ菌(Candida albicans)が増殖し、病変が広がる可能性がある。

  • 🦠 細菌性口内炎:ステロイドにより局所免疫が低下し、感染が深部に拡大するリスクがある。


これは大きなリスクです。ステロイド軟膏を安易に「全ての口内炎に使える万能薬」と認識して処方することは誤りです。特にカンジダ性口内炎は、抗がん剤治療中の患者や免疫低下患者、長期抗菌薬使用者に生じやすく、外見上アフタ性口内炎と判別しにくいことがあります。白色の苔状物が口腔粘膜に付着している場合はカンジダを疑い、ステロイドの投与前に必ず確認することが必要です。


処方の際の確認フローとして、「発熱・全身倦怠感・リンパ節腫脹の有無」「再発歴・好発年齢」「抗菌薬・ステロイドの使用歴」の3点を問診で確認することが推奨されます。感染性口内炎が疑われる場合は、ステロイド軟膏の代わりに抗ウイルス薬(ヘルペスの場合)や抗真菌薬(カンジダの場合)を優先する判断が求められます。


参考:医学書院「medicina」口腔内ステロイドと感染性口内炎の解説
日常診療の質を高める口腔の知識(医学書院 medicina)


ケナログ販売中止後も見落とされがちな患者への服薬指導の要点

ケナログが販売中止となって数年が経過しますが、いまだに「ケナログを探しています」と薬局の窓口に訪れる患者は少なくないとされています。2025年6月の時点でもSNS上で「ケナログを求めてさまよっている患者がいる」という声が上がっているほどです。これは医療従事者として知っておくべき現場の実態です。


代替薬への切り替え時に、患者に混乱を与えないための服薬指導のポイントをまとめます。



  • 名前が変わっても成分は同じ:オルテクサーはケナログのジェネリック品(後発医薬品)で、有効成分・濃度が同一であることを伝える。

  • 塗り方・タイミングの共通ルール:患部を清拭後に適量を塗布。使用後1時間程度は飲食を控えることを指導する。眼には使用しないよう注意喚起。

  • 長期連用の禁止を伝える:ステロイド製剤であるため、長期使用は口腔内細菌のバランスを崩し、口腔カンジダ症・感染症のリスクが上昇する。「治ったら使用を止める」が基本。

  • 2週間以上症状が続く場合は受診を促す:長引く口内炎は、悪性腫瘍(口腔がん)の初期症状として現れることがある。「口内炎が2週間以上治らない場合は口腔外科への受診が必要」と伝えることで患者を守ることができる。


とりわけ、長引く口内炎を「ケナログ(またはオルテクサー)で様子を見る」という対応を繰り返すことには注意が必要です。悪性腫瘍(口腔がん)は初期段階では潰瘍として現れ、一般的な口内炎と外観が類似していることがあります。2週間を超えても改善しない場合には口腔外科・耳鼻咽喉科・皮膚科への紹介を検討するよう患者に伝えることが大切です。


また、子どもへの使用や授乳中・妊娠中の患者については慎重投与の対象となります。小児では長期使用により発育障害をきたすおそれがあるとされており、処方前に年齢・体重・使用期間の確認が必要です。これが条件です。


参考:くすりのしおり(患者向け服薬指導)
オルテクサー口腔用軟膏0.1%の用法・注意点(くすりのしおり)


ケナログ販売中止後に医療従事者が押さえるべき独自視点:一般名処方とレセプト確認の落とし穴

ケナログ販売中止に伴うオルテクサーへの移行で、現場ではほとんど語られない重要な実務上のリスクが1つあります。それが「一般名処方箋とレセプト審査上の注意点」です。


ケナログ販売中止後、処方箋に「般)トリアムシノロン口腔用軟膏0.1%」と記載されるようになりました。この記載があれば問題ありませんが、単に「般)トリアムシノロン軟膏0.1%」と記載されている場合、薬局の調剤担当者は「口腔用か皮膚用か」を一瞬判断しなければなりません。


前述の通り、同じ「トリアムシノロンアセトニド 0.1%」を有効成分とする製品として、口腔用のオルテクサーと皮膚用のレダコート軟膏があります。基剤が異なり(前者はゲル化炭化水素、後者は白色ワセリン)、用途がまったく異なるにもかかわらず、一般名では混同されやすい状況が生まれています。実際にこれを題材にしたヒヤリハット事例が報告されており、業界で注目されています。


レセプト処理の観点でも、ケナログのコード(旧)とオルテクサーのコード(新)の突合が正しく行われているか確認することが実務では求められます。


さらに、2019年3月31日以降にケナログのコードで保険請求すると、査定対象となります。経過措置の期限が切れた後に誤って旧コードを使ってしまわないよう、電子カルテのマスタ更新が適切に行われているか確認しておくことが必要です。オルテクサーへの切り替えは単純に思えますが、コード管理・処方箋記載・患者説明という3つのレイヤーで落とし穴が存在します。



  • 🔍 処方箋確認チェックポイント:「口腔用」の記載がある→ オルテクサー口腔用軟膏を調剤。記載がない→ 医師に確認の上、使用部位を明確にする。

  • 🖥️ 電子カルテ・調剤システム確認:ケナログのコードが残存していないか定期的にマスタ確認を行う。

  • 📋 患者説明補足:「ケナログ」という商品名で患者が認識している場合、「オルテクサーがその後継品」と一言添えるだけで無用な混乱を防げる。


この3点だけ覚えておけばOKです。特に薬剤師・医事スタッフは、処方箋の記載内容・レセプトコード・患者への説明という3つの確認を1セットとして習慣化することで、ケナログ販売中止に起因するトラブルを防止できます。


参考:薬局でのオルテクサー調剤ヒヤリハット事例
ケナログ販売中止→オルテクサーへの切り替えにおけるヒヤリハット実例(6yaku.com)






【指定第2類医薬品】オルテクサー口腔用軟膏 5g ×5個セット ケナログAと同じ有効成分の口内炎薬