UGT1A1遺伝子多型を確認せずに標準量を投与すると、患者が重篤な骨髄抑制で入院するリスクがあります。

カンプト点滴静注(一般名:イリノテカン塩酸塩水和物)は、トポイソメラーゼⅠ阻害薬に分類される抗悪性腫瘍剤です。第一三共株式会社が製造販売しており、主として大腸がん・肺がん・子宮頸がんなどの固形腫瘍に対して用いられます。
添付文書の構成は、2023年改訂の新記載要領に準拠しており、「警告」「禁忌」「組成・性状」「効能・効果」「用法・用量」「特定の背景を有する患者に関する注意」「相互作用」「副作用」「臨床成績」「薬物動態」「取扱い上の注意」といった項目から成ります。医療従事者がまず目を通すべきは「警告」と「禁忌」の2項目です。これが原則です。
イリノテカンの特徴として、プロドラッグ(CPT-11)が体内でカルボキシルエステラーゼにより活性代謝物SN-38に変換される点が挙げられます。SN-38はCPT-11の約100倍以上の抗腫瘍活性を持つとされ、同時に毒性の主因でもあります。つまり代謝経路の理解が安全投与の基本です。
添付文書には規格として40mg(2mL)と100mg(5mL)の2種類の注射液が記載されています。溶媒は生理食塩液または5%ブドウ糖注射液で希釈し、30~90分かけて点滴静注します。投与速度が速すぎると急性コリン作動性症状(流涎・発汗・腹痛)が出現しやすくなるため、添付文書記載の投与時間を守ることが重要です。
PMDA(医薬品医療機器総合機構):カンプト点滴静注 添付文書(最新版PDF)
添付文書に記載された用法・用量はがんの種類やレジメンにより異なります。単剤での標準的な投与量は1回100mg/m²(体表面積換算)を週1回投与し、3週間投与・1週間休薬するスケジュールが一般的です。ただし、FOLFIRIレジメン(5-FU+レボホリナート+イリノテカン)では180mg/m²を2週間ごとに投与する用法が採用されます。
意外に見落とされやすいのが、添付文書における投与量の減量基準です。前サイクルの投与後に好中球数が最低値(ナディア)として500/mm³未満を記録した場合、または発熱性好中球減少症(FN)が発現した場合には、次サイクルで25mg/m²の減量が推奨されます。これは血液検査の記録をサイクルごとに追わなければ判断できません。定期的な採血管理が条件です。
また、ビリルビン値が1.5mg/dLを超える患者では、SN-38のグルクロン酸抱合が低下し血中濃度が上昇するため、投与量の調整が必要です。肝機能障害患者への投与は、添付文書の「特定の背景を有する患者に関する注意」で慎重投与と明記されています。肝機能は投与前に必ず確認が必要です。
レジメンごとの用量設定が複雑であるため、院内の電子処方システムや化学療法プロトコルと添付文書の記載が一致しているかを定期的に照合することが推奨されます。施設ごとのプロトコル改訂頻度と添付文書改訂タイミングにずれが生じるケースがあり、医療安全上のリスクとなります。
| レジメン名 | 投与量(/m²) | 投与間隔 | 主な対象がん種 |
|---|---|---|---|
| 単剤(週1回) | 100mg | 3週投与1週休薬 | 大腸がん・肺がん |
| FOLFIRI | 180mg | 2週ごと | 大腸がん |
| CPT-11単剤(3週1回) | 350mg | 3週ごと | 肺がん・子宮頸がん |
添付文書の「重大な副作用」の筆頭には骨髄抑制と下痢が挙げられています。臨床試験データによれば、グレード3以上の好中球減少はイリノテカン投与患者の約30~40%に発現するとされており、これはほぼ3人に1人という頻度です。骨髄抑制が基本的なリスクです。
下痢には「急性型」と「遅発性型」の2種類があります。急性型はコリン作動性機序により投与中または投与後24時間以内に発現し、アトロピン硫酸塩投与が有効です。遅発性型は投与24時間以降(多くは3~7日後)に発現し、腸管粘膜の直接障害が原因とされます。遅発性下痢への対応が特に重要ですね。
遅発性下痢の管理として、添付文書ではロペラミドの高用量投与(最初の2錠を服用後、下痢が止まるまで2時間ごとに1錠)と十分な補液が記載されています。重要なのは、患者への事前指導として「水様便が出たらすぐに医療機関へ連絡する」という行動基準を明確に伝えることです。実際に遅発性下痢で脱水・電解質異常を来して緊急入院となるケースが少なくありません。
そのほかの重大な副作用として、間質性肺炎・肺臓炎(発現率約2.7%)、血栓塞栓症、アナフィラキシー反応が挙げられます。間質性肺炎は投与早期から数カ月後まで発現しうるため、発熱・咳嗽・呼吸困難が出現した際は速やかに投与を中止し、胸部画像検査を実施することが求められます。
日本臨床腫瘍学会:発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン(管理指針の参考情報)
UGT1A1(UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ1A1)は、SN-38をグルクロン酸抱合体(SN-38G)に不活化する主要酵素です。この酵素の活性が低下する遺伝子多型(*6または*28)を持つ患者では、SN-38が体内に蓄積し、骨髄抑制や下痢が著しく増悪します。これは意外ですね。
添付文書の「慎重投与」の項には、UGT1A1*6ホモ接合体(*6/*6)、UGT1A1*28ホモ接合体(*28/*28)、またはそれら複合ヘテロ接合体(*6/*28)の患者では「重篤な副作用が発現しやすい」と明記されており、投与前のUGT1A1遺伝子型検査の実施が推奨されています。日本人では約10%がこれらのリスク型に該当するとされています。
検査はコンパニオン診断として保険適用されており、「UGT1A1遺伝子多型検査(リアルタイムPCR法)」が利用可能です。検査費用は保険点数で約2,000点(約20,000円相当)です。検査は1回の実施で終わります。リスク型が確認された場合、添付文書では「開始用量の減量を考慮する」とされており、具体的な減量幅はレジメンや施設プロトコルに応じて判断します。
多型検査を実施せずに投与を開始した患者でグレード4の好中球減少が発現した場合、入院での治療・G-CSF投与・次サイクルの延期が必要となり、患者の身体的負担と医療費の両方が増大します。UGT1A1検査は投与前に行うのが原則です。
国立医薬品食品衛生研究所:ファーマコゲノミクス関連情報(UGT1A1遺伝子多型と薬物動態の参考資料)
添付文書は最低限の安全基準を示すものであり、実臨床ではそれを補完するエビデンスやプロトコルを組み合わせることが求められます。例えば、添付文書には遅発性下痢に対するロペラミドの具体的な用量スケジュールが記載されていますが、電解質補正の詳細なフロー(点滴補液のタイミング・組成)については記載がなく、各施設のガイドラインや日本臨床腫瘍学会の支持療法ガイドラインを参照する必要があります。
投与前の制吐療法についても、添付文書には「催吐リスクに応じた制吐剤を使用する」と記されていますが、具体的な薬剤名や用量は示されていません。MASCC(国際がん支持療法学会)やASCO(米国臨床腫瘍学会)のガイドラインによると、イリノテカンは「中等度催吐性リスク」(催吐率30~90%)に分類されており、5-HT₃受容体拮抗薬にデキサメタゾンを組み合わせた2剤レジメンが標準とされています。これは使えそうです。
また、添付文書には配合変化に関する記載として「アルカリ性溶液との混合は沈殿を生じることがある」とあります。臨床現場での具体的な問題として、重炭酸ナトリウム(炭酸水素ナトリウム注射液)との配合は禁忌に準じた扱いが必要です。配合変化に注意が必要です。
さらに、妊娠可能な女性および生殖能力を有する男性への投与では、避妊の徹底が求められます。添付文書の「妊婦・産婦・授乳婦等への投与」の項には「妊娠中の投与は原則禁忌」と記され、「授乳は中止させること」と明記されています。患者指導の場では、治療開始前の十分な説明と文書による同意取得が実務上求められます。
最後に、廃棄・取り扱いについても触れておきます。抗悪性腫瘍剤として、調製時はバイオセーフティキャビネットまたは閉鎖式薬物移送システム(CSTD)の使用が推奨されます。添付文書の「取扱い上の注意」には「皮膚・粘膜に付着した場合は直ちに水で洗浄すること」と記されており、職業的曝露(OEL)管理の観点からも標準予防策の徹底が必要です。
日本臨床腫瘍薬学会:CSTDに関する情報(抗がん剤の職業的曝露管理の参考情報)

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