ジルテック錠を長年処方し続けてきた患者が、今もあなたの外来に来ているかもしれません。

2025年1月6日、第一三共株式会社はジルテック錠5・ジルテック錠10・ジルテックドライシロップ1.25%の3品目について、販売中止を正式に告知しました。これは欠品状態のまま販売中止となった経緯で、在庫消尽後の新規流通はありません。
知っておくべき事実があります。ジルテックには、第一三共とGSK(グラクソ・スミスクライン)という2社による「併売」体制が長年続いていました。元来は製造元のユーシービージャパンが製品を供給し、第一三共とGSKがそれぞれ販売を担う構造です。今回の販売中止告知はあくまで「第一三共ブランドのジルテック」であり、GSKブランドのジルテックは一部製品の販売を継続するとされていました。
しかし実態はさらに複雑です。DSJPデータベースによれば、GSKブランドのジルテック錠5・錠10についても2025年4月1日付で販売中止が実施されています。
つまり事実上、2025年上半期をもって「ジルテック」という先発品ブランドの医療用錠剤は、すべて販売中止となったと理解するのが正確です。ドライシロップの一部包装についてはGSKで継続がみられますが、錠剤としてのジルテック先発品は流通を終えています。
医療従事者として把握すべき重要な点が2つあります。第一に、販売中止は「薬効の問題ではない」という点です。第二に、一般名セチリジン塩酸塩としての医薬品は今後も継続して供給されます。これが基本です。
| 製品名 | 販売会社 | 販売中止告知日 |
|---|---|---|
| ジルテック錠5・錠10・ドライシロップ1.25% | 第一三共 | 2025年1月6日 |
| ジルテック錠5・錠10(GSK品) | GSK | 2025年4月1日 |
参考:第一三共 販売中止品・予定一覧(Medical Community)
第一三共 Medical Community – 販売中止品・予定一覧(医療関係者向け)
ジルテック(セチリジン塩酸塩)はベルギーのUCBファルマが開発した薬剤で、日本では1998年に承認されました。国内での販売はグラクソ・スミスクライン(GSK)と第一三共の2社体制で行われ、長年にわたり処方現場に浸透してきた経緯があります。
GSKは近年、日本市場においていくつかの古参製品の販売を縮小・終了する動きを見せています。パキシル錠(パロキセチン)やザイロリック錠(アロプリノール)なども同様のフェーズに入っており、ジルテック錠の販売中止はこの流れの一環と位置づけられます。
後発品(ジェネリック)市場の拡大が進むなかで、先発品として維持するコストと採算性が合わなくなった製品から順に整理されていくのは業界全体の傾向です。意外ですね。しかし医療現場では「先発品がなくなった=薬がなくなった」という誤解が生じやすく、医師・薬剤師がこの経緯を正確に把握したうえで患者に説明することが求められます。
GSKプロ公式サイトには医療関係者向けの最新の案内が掲載されています。
GSKpro – 医療関係者向け最新お知らせ(ジルテック関連含む)
また、供給状況の最新情報はDSJP(医療用医薬品供給状況データベース)でリアルタイムに確認できます。処方候補の後発品が現在も流通しているかを一次情報として確かめるには、このデータベースが最も実用的です。
DSJP – 医療用医薬品供給状況データベース(欠品・中止情報を一括検索)
先発品のジルテック錠がなくなっても、セチリジン塩酸塩錠として後発品は引き続き多数のメーカーから供給されています。DSJPのデータを確認すると、現時点で流通が継続しているメーカーには沢井製薬・東和薬品・杏林製薬・辰巳化学などが含まれています。ただし複数のメーカーでも相次いで販売中止が告知されている状況は続いており、処方の際には供給状況の確認が欠かせません。
切り替え自体は原則としてシンプルです。「ジルテック錠10(セチリジン塩酸塩10mg)1日1回就寝前」から「セチリジン塩酸塩錠10mg〇〇(メーカー名)1日1回就寝前」に変更するだけで、成分量・用法は同一です。これが基本です。
しかし医療従事者として注意すべきポイントは剤形の変化にあります。後発品では錠剤のサイズや硬度、添加剤が異なる場合があります。嚥下機能に問題のある患者や小児では、OD錠(口腔内崩壊錠)が選択できるかどうかを確認する必要があります。メーカーによってOD錠の有無が異なる点は見落とされがちです。
腎機能が低下した患者への処方は特別な注意が必要です。セチリジン塩酸塩は主に腎臓から排泄される薬剤であり、腎機能低下時にはAUCが正常者の約1.5〜1.7倍に増大することが報告されています。添付文書の記載では、クレアチニンクリアランス(CCr)に応じた用量調節が求められています。
| 腎機能(CCr) | 推奨用量・用法 |
|---|---|
| CCr 30〜60 mL/min | 5mg 1日1回 |
| CCr 10〜30 mL/min | 5mg 1日おきに1回 |
| CCr <10 mL/min(透析例含む) | 禁忌 |
| 高齢者(腎機能低下を考慮) | 5mg 1日1回から開始を考慮 |
「先発品と同じ量で問題ない」と思い込んで切り替えると、腎機能低下患者で眠気・ふらつきが増悪するリスクがあります。処方変更のタイミングで腎機能の確認を忘れないようにしましょう。腎機能の確認が条件です。
医師・薬剤師の多くが見落としているリスクが一つあります。それは、セチリジン(およびレボセチリジン)を長期間服用した後に突然中止した場合に生じる「重度の掻痒(そうよう)」です。
FDAは、長期使用後に急に服用をやめることで、入院を要するほどの激しいかゆみが発生するケースを公式に警告しています。報告された症例のなかには自殺念慮を伴うものも含まれており、決して軽視できるリスクです。これは使えそうな情報です。
この事象は「ジルテックからセチリジン後発品への切り替え」とは直接関係しません。しかし、今回のジルテック錠販売中止をきっかけに処方が変更され、患者が「薬が変わった・なくなった」と思い込んで自己判断で服用を中止するケースが起こりうる、という点において、医療従事者が積極的に介入すべき場面があります。
具体的なリスクシナリオは以下のとおりです。
処方変更の際に患者へ伝えるべき説明は2点です。「成分は変わらないので効果は同じ」という点と、「自己判断で急にやめないこと」という点です。これだけ覚えておけばOKです。
参考:医療専門家向けのセチリジン長期服用と中止リスクに関する解説
ケアネット – 第15回 身近な抗アレルギー薬に思わぬリスク?長期服用後の中止で激しいかゆみ、FDAが警告
セチリジン後発品ではなく、別の薬剤への切り替えを検討すべき場合もあります。代表的な選択肢がザイザル(一般名:レボセチリジン塩酸塩)です。
ザイザルとジルテック(セチリジン)の関係を理解しておくことは処方選択に直結します。レボセチリジンはセチリジンの光学異性体のうち、より強い生理活性を持つR体のみを分離・精製したものです。セチリジン10mgとレボセチリジン5mgが、おおむね同等の薬効を示すとされています。つまりザイザルはジルテックの「後継薬」というより、「有効成分を半量に絞ることでより効率よく作用させた薬」です。
臨床的な使い分けのポイントを整理します。ザイザルへの切り替えが有力な選択肢となるのは、セチリジンで眠気が強く日中の業務に支障が出ているケースです。臨床試験での眠気の発現率は、ジルテック(セチリジン10mg)が約6%に対しザイザル(レボセチリジン5mg)が約5%と、わずかながらザイザルのほうが低い結果があります。
一方で、ジルテックへの切り替えを希望する理由として「効果が強い」と感じる患者は少なくありません。長年の服用経験から「ジルテックじゃないと効かない」という訴えは外来でも聞かれます。この場合、成分名で説明することで患者の不安を解消できることが多いです。
| 薬剤名 | 一般名 | 標準用量 | 眠気の発現率(臨床試験) | 主な特徴 |
|---|---|---|---|---|
| ジルテック(先発品終了) | セチリジン塩酸塩 | 10mg 1日1回 | 約6% | 長年の実績、効果が強いとの評価多い |
| セチリジン塩酸塩錠(後発品) | セチリジン塩酸塩 | 10mg 1日1回 | 同等 | 価格が安い(1錠10〜20円程度) |
| ザイザル | レボセチリジン塩酸塩 | 5mg 1日1回 | 約5% | セチリジンの後継薬、眠気がやや少ない |
薬価の観点も処方選択に影響します。先発品のジルテック錠10は1錠あたり約75円(2025年時点)であったのに対し、セチリジン塩酸塩錠10mgの後発品は1錠あたり10〜20円程度となっています。3割負担の患者で1日1錠・30日処方の場合、月の自己負担差額は約1,600円前後から180〜600円程度まで下がる計算です。経済的な負担軽減という観点でも、後発品への切り替えは患者にとって大きなメリットになります。
参考:セチリジン・ジルテックの薬価情報と後発品一覧
KEGG MEDICUS – セチリジン塩酸塩 商品一覧(薬価情報含む)
今回のジルテック錠販売中止は、単一製品の問題に留まらない背景があります。国内の後発品市場では、2020年代前半からジェネリックメーカーによる製造管理・品質問題が相次いで発覚し、業界全体で供給不安定が続いてきました。
DSJPのデータを確認すると、セチリジン塩酸塩の後発品においても、複数メーカーが断続的に販売中止・供給制限の告知を出していることがわかります。岩城製薬(2025年6月)、科研製薬(2023年9月)、沢井製薬(2026年2月)など、主要メーカーが次々と中止を告知しているのは業界内でも特筆すべき状況です。これは厳しいところですね。
このような状況下で医療従事者が取れる実践的な対応を整理します。
まず処方設計の観点では、特定のメーカーに依存する処方を避け、「セチリジン塩酸塩錠10mg」という一般名処方を基本とすることが最も柔軟に対応できる方法です。一般名処方にすれば、薬局が在庫状況に応じて適切なメーカーの後発品を調剤でき、供給不安定の影響を最小化できます。これが原則です。
次に薬局との連携という視点があります。特に在宅医療・長期療養患者では、薬局側が特定のメーカーの在庫を確保していることが多く、処方変更前に薬局に確認を入れることで患者への継続供給が確実になります。
また患者への事前説明も欠かせません。「先発品が終了したが成分・効果は変わらない」「自己判断で服用を中止しないでほしい」という2点を、処方変更の際に必ず伝えることが大切です。
供給状況の確認には、前述のDSJPデータベースが最も信頼性の高い一次情報源となります。花粉シーズン前など需要が急増する時期には、後発品でも一時的な欠品が発生することがあり、数週間前からの在庫確認と早めの処方対応が有用です。
DSJP – セチリジン塩酸塩 5mg/10mg の供給状況一覧(リアルタイム更新)
添付文書・インタビューフォームなどの一次情報はPMDA(医薬品医療機器総合機構)のウェブサイトから無料で参照できます。