片眼だけ白内障手術を受けた患者に、健側眼へエイベリスを投与すると禁忌違反になります。

エイベリス点眼液0.002%(一般名:オミデネパグ イソプロピル)は、参天製薬が2018年11月に発売した選択的EP2受容体作動薬です。EP2受容体に選択的に結合し、線維柱帯流出路およびぶどう膜強膜流出路の両経路を介して房水流出を促進することで眼圧を下降させます。既存のプロスタグランジンF2α誘導体(FP受容体作動薬)とは受容体が異なるため、睫毛の異常伸長や眼周囲の色素沈着といった外見的な副作用が起こりにくい点が特徴です。
電子添文(添付文書)に規定されている禁忌は、大きく3項目です。
| 禁忌項目 | 具体的な対象 | 主なリスク |
|---|---|---|
| ①無水晶体眼または眼内レンズ挿入眼の患者 | 白内障手術を受けたすべての患者(片眼手術歴も含む) | 嚢胞様黄斑浮腫・視力低下・視力障害 |
| ②タフルプロストを投与中の患者 | タプロス点眼液・タプコム配合点眼液使用中の患者(片眼使用も含む) | 眼炎症リスクの増大(羞明・虹彩炎等) |
| ③本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 | オミデネパグ イソプロピル等に過敏症歴のある患者 | アレルギー反応 |
EP2受容体は線維柱帯だけでなく毛様体にも発現しており、これが調節機能に影響を与えます。実際に特定使用成績調査(2883例解析)では屈折障害3.5%・近視1.2%が報告されており、合わせると約5%に調節障害関連の副作用が出ています。つまり眼内レンズ挿入眼でなくても、屈折の変動には注意が必要です。
禁忌3項目が原則です。そのうえで、それぞれに「眼単位ではなく患者単位」という視点が加わることが、現場での見落としを生む最大のポイントになります。
市販直後調査期間(2018年11月〜2019年5月26日、推定使用患者数延べ7万人)中に、禁忌症例(眼内レンズ挿入眼への投与)が57例報告されました。さらに同期間中に嚢胞様黄斑浮腫を含む黄斑浮腫が23例報告され、そのうち眼内レンズ挿入眼の患者は10例でした。これを受けて日本眼科学会および参天製薬から「適正使用のお願い」が発信されています。
重要なのは「片眼のみ白内障手術を受けている患者でも、対側眼(手術を受けていない眼)への投与は禁忌に該当する」という点です。直感的には「手術を受けていない目には使ってよいのでは」と思いがちですが、禁忌の適用は眼単位ではなく患者単位で設定されています。意外ですね。
臨床試験データによると、眼内レンズ挿入眼患者52例中14例(26.9%)に黄斑浮腫(副作用)が発現しています。有水晶体眼患者215例では副作用としての黄斑浮腫は0例(0.0%)であり、その差は歴然です。黄斑浮腫が発現した14例はすべて視力低下や視力障害(見えづらい等)を伴っており、非ステロイド性抗炎症剤やステロイド剤の点眼等で全例が回復・軽快しましたが、早期発見が前提です。
浮腫が慢性化すると網膜の神経細胞が徐々に障害を受け、視力の完全な回復が得られないケースもあるため、問診・薬歴の確認は処方前に必須です。
確認すべき事項を以下に整理します。
「片眼のみの手術歴なら対側眼は大丈夫」という思い込みが、禁忌違反の57例の一因になっている可能性があります。これは見逃せないポイントです。
参考情報(旭川薬剤師会:医療安全通信 エイベリス点眼液の投与禁忌患者について)
https://www.asayaku.or.jp/apa/work/data/pb_1954.pdf
エイベリスとタフルプロストの併用が禁忌とされている背景には、具体的な臨床試験データがあります。エイベリスより高濃度(0.003%・0.01%・0.03%)のオミデネパグ イソプロピルと0.0015%タフルプロストを併用した海外臨床試験で、投与中止を要するような中等度以上の羞明および虹彩炎等の眼炎症が高頻度に認められました。サルを用いた非臨床試験でも、両剤を併用投与した際の前房内フレア値が単独投与と比較して高くなる傾向が確認されています。
禁忌対象はここでも患者単位です。つまり、片眼にのみタフルプロスト(タプロス点眼液・タプコム配合点眼液)を使用している患者の対側眼へエイベリスを投与することも、禁忌に該当します。これが原則です。
さらに注意が必要なのは、タフルプロスト以外のFP受容体作動薬(ラタノプロスト・トラボプロスト・ビマトプロスト)との関係です。これらは禁忌ではなく「併用注意」に分類されていますが、非臨床試験ではタフルプロストと同様に前房内フレア値が上昇する傾向が示されています。タフルプロスト以外のFP受容体作動薬との使用経験が十分に集積されるまでは、特に慎重な経過観察が求められる、というのが現時点での立場です。
他の緑内障・高眼圧症治療薬との多剤併用を行う場合は、充血・虹彩炎・前房フレアなどの眼炎症所見を定期的にモニタリングすることが重要です。つまり処方後のフォローアップも欠かせません。
参考情報(参天製薬 Santen Medical Channel:エイベリス / エイベリスミニ よくあるご質問)
https://www.santen.co.jp/medical-channel/di/faq/DK024_faq.html
エイベリス点眼液投与中の患者が白内障手術を受ける予定になった場合、術前に投与を中止する必要があります。これは単に「手術前にやめればよい」という話ではなく、中止のタイミングと代替薬への切り替えに注意が必要です。
本剤の眼内組織中の半減期は比較的短く(t1/2:3.99〜10.6時間)、眼圧コントロールに余裕がある場合は術前3日以上の休薬が推奨されています。この「3日以上」という基準は、発売元の適正使用ガイドおよびPMDA関連資料に基づくものです。3日が条件です。
ただし、眼圧コントロールに余裕がない患者では単純に休薬するだけでは視野進行のリスクがあります。そのような患者には、使用経験が豊富な他の緑内障・高眼圧症治療薬に事前に切り替えておくことが望ましいとされています。代替薬候補としては、β遮断薬(チモロール等)や炭酸脱水酵素阻害薬(ブリンゾラミド等)、あるいはプロスタグランジン製剤(ただしタフルプロストを除く)などが挙げられます。
「術後に再開しよう」という選択肢はありません。手術後は眼内レンズ挿入眼となるため、以後エイベリスは永続的に禁忌となる点も、患者への事前説明に含めておくとよいでしょう。
特定使用成績調査(発売〜2024年9月20日)では、有水晶体眼患者における黄斑浮腫の発現時期の平均値は約146.8日(±118.2日)であり、1〜90日が3例、91〜180日が2例、181〜270日が2例、271日以上が1例という分布でした。これは、投与開始直後だけでなく、長期にわたって視力変化の観察が必要なことを示しています。
参考情報(日本眼科学会:エイベリス点眼液0.002%の適正使用に関するお知らせ)
https://www.nichigan.or.jp/member/news/detail.html?itemid=172&dispmid=917
処方する医師だけでなく、調剤薬局や病院薬剤師も禁忌チェックに重要な役割を担っています。PMDAからも「製薬企業からの医薬品の適正使用等に関するお知らせ」として注意喚起が発信されており、薬局部門でも確認すべき情報が明確に整理されています。
市販直後調査の禁忌57症例は、「処方段階のスクリーニングが機能していなかった」可能性を示しています。これは痛いですね。特に眼科以外の診療科から緑内障治療薬が処方されるケースや、複数科に通院中の患者において、白内障手術歴やタフルプロスト使用状況が共有されていないことが背景として考えられます。
薬局での確認ポイントを整理すると、以下のようになります。
患者が見え方の変化を訴えた場合、嚢胞様黄斑浮腫が疑われるため、直ちに受診するよう指導する必要があります。浮腫が慢性化すると視力の改善が遅れるケースもあり、早期介入が視力予後を左右します。早期発見が鍵です。
エイベリスミニ点眼液(防腐剤フリー製剤)も同一の禁忌・効能効果を持つ製剤であり、適用範囲はベンザルコニウム塩化物に過敏症のある患者や角膜上皮障害を有する患者に限定されますが、禁忌の確認事項はエイベリス点眼液とまったく同一です。製剤が変わっても、チェック内容が変わるわけではありません。
処方箋を受け取った際に、エイベリス(またはエイベリスミニ)が含まれていれば、禁忌3項目の確認を行動として組み込む習慣が、医療安全の観点から非常に重要です。薬剤師・医師のダブルチェック体制こそが、禁忌見落としを防ぐ最後の砦になります。これが基本です。
参考情報(愛媛大学医学部附属病院 薬剤部 薬品情報管理室:エイベリス点眼液0.002%適正使用のお願い)
https://www.hsp.ehime-u.ac.jp/medicine/wp-content/uploads/DInews201909-1.pdf