デュピクセント皮下注300mgのレセプト請求で、病名なしで通ると思っている医療機関は査定率が3倍になります。

デュピクセント皮下注(一般名:デュピルマブ)は、現在日本で承認されている適応症が複数あります。2023年時点では、①アトピー性皮膚炎、②気管支喘息(既存治療で効果不十分な中等症〜重症)、③慢性副鼻腔炎(鼻茸を伴うもの)、④結節性痒疹、⑤好酸球性食道炎、⑥慢性特発性蕁麻疹(既存治療で効果不十分なもの)が承認されています。
レセプトの病名欄には、これらの承認された適応病名を正確に記載することが大前提です。記載がない・または病名が適応外と判断される場合は、審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険団体連合会)から返戻または査定が発生します。
重要なのは、主病名として記載するか副傷病名として記載するかです。
たとえばアトピー性皮膚炎でデュピクセントを使用している場合、「アトピー性皮膚炎」が主病名として記載されていれば問題ありません。一方、「湿疹」「皮膚炎」といった曖昧な病名だけでは、査定対象になります。これが原則です。
また、慢性副鼻腔炎で使用する場合は「鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎」という記載が求められます。「慢性副鼻腔炎」だけでは不十分で、鼻茸の有無が承認条件に直結しているためです。病名の粒度に注意が必要ですね。
気管支喘息においては、「中等症持続型以上」または「既存治療で効果不十分」であることを示す記載が審査上求められます。単に「気管支喘息」とだけ書かれているレセプトは査定されやすく、診療録との整合性も含めて確認が必要です。
| 適応症 | レセプト病名の例 | 注意点 |
|---|---|---|
| アトピー性皮膚炎 | 「湿疹」「皮膚炎」のみは不可 | |
| 気管支喘息 | 気管支喘息(中等症持続型) | 重症度・既存治療歴を摘要に記載 |
| 慢性副鼻腔炎 | 慢性副鼻腔炎(鼻茸合併) | 「鼻茸を伴う」の明示が必須 |
| 結節性痒疹 | 既存治療不応の記載を推奨 | |
| 好酸球性食道炎 | 内視鏡・病理所見の記録を保存 | |
| 慢性特発性蕁麻疹 | 抗ヒスタミン薬等の既存治療歴を記録 |
病名の記載は「正式名称」を使うことが基本です。
参考:サノフィ株式会社 デュピクセント皮下注 製品情報(適応・用法・用量)
https://www.sanofi.co.jp/products/dupixent
デュピクセント皮下注の用量と投与間隔は、適応症ごとに細かく異なります。レセプト算定の際、この用量が処方内容と合致していないと返戻の原因になります。
アトピー性皮膚炎の成人では、初回600mg(300mg×2本を同日)を皮下注射し、その後は2週間ごとに300mgを投与します。一方、小児(6歳以上15歳未満)では体重によって用量が変わり、15kg以上30kg未満は初回300mg・その後4週ごと、30kg以上60kg未満は初回400mg・その後2週ごと、60kg以上は成人と同様の用量です。これは使えそうです。
気管支喘息の場合は200mgまたは300mgを2週ごとに投与します。重症度・好酸球数・FeNO値によって200mgか300mgかが変わるため、投与量の根拠を摘要欄または診療録に残しておくことが重要です。
レセプト上では、使用した注射薬の本数(規格・剤形)が処方内容と一致しているかどうかが審査で確認されます。たとえば、アトピー性皮膚炎の初回投与で300mg×1本しか請求していると、初回用量(600mg)との不一致が生じ、問い合わせが来ることがあります。
投与間隔の確認も必須です。
2週ごと投与の場合、月2回が通常の請求サイクルです。3回以上請求されていると、審査支払機関から「投与間隔が適切か」という確認が来る場合があります。実際に月3回投与せざるを得なかった事情がある場合は、摘要欄にその理由(例:前回投与日・患者の都合による変更等)を記載することで査定を防げます。
なお、デュピクセントは1本あたりの薬価が高額であるため、審査支払機関の審査でも特に注目される品目の一つです。2024年度の薬価改定後、デュピクセント皮下注300mgの薬価は1本あたり約55,700円(税抜き)となっており、初回投与は2本使用するため1回で約111,400円の薬剤費となります。高額薬剤であるほど、記載ミスが大きな損失につながります。
参考:厚生労働省 薬価基準収載品目リスト(最新版)
https://www.mhlw.go.jp/topics/2023/04/tp20230401-01.html
デュピクセント皮下注は、医療機関での投与だけでなく、患者自身が自宅で行う在宅自己注射(自己注射)にも対応しています。この場合、レセプトでは「在宅自己注射指導管理料」および「自己注射加算」を算定できます。
在宅自己注射指導管理料(C101)は、月1回算定でき、指導管理の回数によって点数が変わります。複雑な薬剤については「複雑な場合」の区分(2,850点)、そうでない場合は「月27回以下」または「月28回以上」の区分を適用します。デュピクセントは、この中では「複雑な場合」ではなく、回数に応じた区分が適用されます。
これが条件です。
算定要件として、以下の点を満たす必要があります。
よくある算定ミスが「指導記録なし」です。指導した記録がカルテに残っていない場合、監査や個別指導で指摘を受けるリスクがあります。診療録への記載は必須です。
また、在宅自己注射指導管理料を算定している月は、同一医療機関での注射手技料(G004皮下注射)は別に算定できません。院内で注射を行った分と自己注射分が混在する月は、算定区分の整理が必要になります。つまり二重算定は不可です。
注射針・シリンジなどの材料は「血糖自己測定器加算」のような加算ではなく、「注入器加算」または「注入器用注射針加算」として算定します。デュピクセントはプレフィルドシリンジ製剤のため、注入器加算の算定は通常不要ですが、使用材料の算定漏れには注意が必要です。
参考:厚生労働省 診療報酬の算定方法の一部改正(令和6年版)在宅自己注射関連
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00045.html
摘要欄のコメント記載は、査定・返戻を防ぐための最重要対策です。
審査支払機関では、高額薬剤や生物学的製剤については特に詳細なコメントを求める傾向があります。デュピクセントについても、以下のコメントを積極的に記載することで、審査での問い合わせを大幅に減らすことができます。
初回投与時に記載すべき主なコメント:
継続投与時に記載すべき主なコメント:
コメント漏れは返戻の主因になります。
特に「既存治療での効果不十分」の記載は、気管支喘息・慢性副鼻腔炎・慢性特発性蕁麻疹において必須です。これらの疾患は、適応条件として「既存治療(吸入ステロイド・抗ヒスタミン薬等)で効果不十分」が求められており、その根拠がレセプト上に見えないと査定される可能性があります。
査定があった場合の再審査請求も重要な実務です。
査定に不服がある場合、審査支払機関に対して再審査申し立てができます。期限は原則として査定通知を受けてから2年以内ですが、迅速に対応するほど診療録との整合を証明しやすいです。再審査を行う際は、関連する診療録のコピー・添付文書・学会のガイドラインを添付して、客観的な根拠を示すことが有効です。
また、支払基金・国保連ごとに審査傾向に若干の違いがあることも現場では知られています。定期的に審査結果を集計し、自施設の査定傾向を把握しておくと、次月以降の記載改善に活かせます。これは現場でとても有用なデータです。
参考:社会保険診療報酬支払基金 審査に関する情報(再審査・審査情報提供)
https://www.ssk.or.jp/shinsa/index.html
現場で意外と見落とされているのが、デュピクセント使用時に合わせて算定できる加算・管理料の取りこぼしです。
まず、生物学的製剤に関連した患者教育の加算として、「薬剤情報提供料」(B011-3)は外来患者への薬剤情報提供時に算定できます。デュピクセントは患者が自己注射を行うケースが多く、薬剤情報提供を必ず行う場面があります。この際、算定漏れが発生しているケースが少なくありません。
次に、アトピー性皮膚炎患者に対して行う「皮膚科特定疾患指導管理料(I)」(B000)も活用できます。これは「天疱瘡・類天疱瘡・エリテマトーデス・紫斑病・多形滲出性紅斑・先天性魚鱗癬・アトピー性皮膚炎(16歳以上)・尋常性乾癬・掌蹠膿疱症・先天性表皮水疱症・膿疱性乾癬・スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症」などが対象で、月1回250点の算定が可能です。アトピー性皮膚炎でデュピクセントを使用しているにもかかわらず、この管理料が算定されていない施設は少なくありません。意外ですね。
また、デュピクセントを気管支喘息で使用する場合、「喘息治療管理料」(B001-4)も算定要件を満たせば同月請求できます。対象は6歳以上の喘息患者で、ピークフローメーターを用いた管理を行う場合に算定します。
算定もれの確認には、レセプトシステムのチェックリスト機能や、薬剤と管理料の自動突合ツールを使うのが現実的です。高額薬剤を使用している患者のリストを月末に抽出し、算定もれがないかを確認するフローを作ると効果的です。1件あたり250〜500点の取りこぼしが積み重なると、年間で数万円単位の機会損失になります。
つまり、管理料の算定もれは静かな損失です。
加えて、在宅自己注射指導管理料を算定している患者については、「情報通信機器を用いた診療(オンライン診療)」を行った場合の加算も考慮に値します。2022年の診療報酬改定以降、オンライン診療と在宅自己注射指導管理の組み合わせに関するルールが整備されており、要件を満たせば算定可能なケースがあります。ただし、初回のみ対面が必要など条件がある点に注意が必要です。
参考:厚生労働省 令和6年度診療報酬改定 在宅医療・オンライン診療関連資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00037.html
参考:日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/atopic_dermatitis_guideline.pdf