摘要欄の記載が1項目欠けただけで、1本8万円超の薬剤が丸ごと返戻になります。

デュピクセント(一般名:デュピルマブ)は、IL-4とIL-13という2種類のサイトカインシグナルを同時に遮断する生物学的製剤です。2018年のアトピー性皮膚炎への初承認以降、適応が急速に拡大し、2025年3月時点で日本国内における保険適用疾患は以下の6疾患に達しています。
| 疾患名 | 保険適用開始時期 | 最適使用推進GL |
|---|---|---|
| アトピー性皮膚炎 | 2018年4月 | ✅ 対象 |
| 気管支喘息(重症) | 2019年3月 | ✅ 対象 |
| 鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎 | 2020年3月 | ✅ 対象 |
| 結節性痒疹 | 2023年10月 | ❌ 対象外 |
| 特発性の慢性蕁麻疹 | 2024年2月 | ❌ 対象外 |
| 慢性閉塞性肺疾患(COPD) | 2025年3月 | ✅ 対象 |
⚠️ 重要なのは「最適使用推進ガイドライン(以下、最適GL)の対象疾患かどうか」という点です。最適GLが策定されている疾患(アトピー性皮膚炎・喘息・鼻茸・COPD)では、投与開始時と継続投与時のそれぞれで、診療報酬明細書の摘要欄に定められた項目を必ず記載しなければなりません。結節性痒疹と特発性の慢性蕁麻疹は最適GLの対象外ですが、適正使用の観点から診療録への記録は怠らないことが求められます。
適応ごとに必要な記載項目が異なるため、「いつもと同じ書き方でよい」という思い込みが返戻の温床になります。疾患が変わればレセプトの書き方も変わる、という原則が基本です。
参考:デュピクセント皮下注の保険適用における留意事項通知(令和7年3月27日 保医発0327第4号)
厚生労働省|抗IL-4受容体αサブユニット抗体製剤に係る最適使用推進ガイドラインの策定に伴う留意事項の一部改正について(PDF)
最適GLが定められている疾患で投与を開始する際、まず記載しなければならないのが「施設要件」と「患者要件」です。実際に鳥取県での厚生局指導においても「デュピクセント皮下注300㎎ペンの投与開始に当たって、施設要件及び患者要件の記載がない」として不適切な例として挙げられており、現場での見落としが珍しくないことがわかります。
施設要件は2パターン(ア・イ)のどちらかを選択して記載します。
アトピー性皮膚炎の場合は以下の2つです。
- 📌 施設要件ア:初期研修修了後に5年以上の皮膚科診療の臨床研修を行っている医師が治療責任者として配置されている
- 📌 施設要件イ:初期研修修了後に6年以上の臨床経験を有し、うち3年以上アトピー性皮膚炎を含むアレルギー診療の臨床研修を行っている医師が治療責任者として配置されている
該当するほうを「施設要件ア」「施設要件イ」とそのまま摘要欄に文言で記載します。条件そのものを文章で書き直す必要はなく、「施設要件ア」という定型文字列の入力で足ります。
患者要件も同様に「患者要件ア」「患者要件イ」のいずれかを記載します。
アトピー性皮膚炎の患者要件は以下です。
- 📌 患者要件ア:ストロング以上のステロイド外用薬またはカルシニューリン阻害外用薬による治療を6か月以上継続しても十分な効果が得られない成人アトピー性皮膚炎患者(体表面積病変割合10%以上)
- 📌 患者要件イ:ステロイド外用薬・カルシニューリン阻害外用薬に対する過敏症や顕著な副作用により、抗炎症外用薬のみによる治療の継続が困難な成人アトピー性皮膚炎患者(同)
施設要件・患者要件の記載は、投与開始時のみ必須です。継続投与においては再度の記載義務はありませんが、患者の状態が大きく変化した場合などは状況に応じて追記を検討します。
つまり「開始月のレセプトに必ず両方を記載する」が原則です。
参考:アトピー性皮膚炎における生物学的製剤の使用ガイダンス(日本皮膚科学会)
日本皮膚科学会|アトピー性皮膚炎における生物学的製剤の使用ガイダンス(PDF)
施設要件・患者要件の記載と並んで、実務でよく漏れるのが「疾患活動性の数値」の記入です。アトピー性皮膚炎でデュピクセントの投与を開始する際、摘要欄に以下の3つの数値をすべて記載することが義務付けられています。
| 記載項目 | 例 | 意味 |
|---------|-----|------|
| IGAスコア | IGA 3 | 全般的な皮膚病変の重症度(0〜4の5段階) |
| EASIスコア | EASI 22.4 | 全身または頭頸部の湿疹面積・重症度 |
| 体表面積に占めるアトピー性皮膚炎病変の割合 | BSA 18% | 病変が全体表面積の何%か |
3項目すべてが必須です。1つでも欠けると返戻対象になり得ます。
この3つの数値には基準値が設定されており、投与の対象となるのはIGAスコア3以上、EASIスコア16以上(全身)、体表面積病変割合10%以上の患者です。記載するのは「患者が基準を満たしていること」を審査機関が確認するためでもあり、数値が基準を下回る場合はそもそも保険適用外投与となるリスクがあります。
継続投与時についても注意が必要です。継続月のレセプトには「何回目の投与か」または「投与開始からの期間」を記載します。さらに16週時点での効果評価について、効果継続を確認した旨を記録しておくと、監査や指導への対応力が高まります。効果評価の確認が原則です。
参考:診療報酬明細書の摘要欄への記載事項等一覧(別表Ⅱ)
メディクラーク|別表Ⅱ 診療報酬明細書の「摘要」欄への記載事項等一覧(PDF、2024年5月版)
デュピクセントを在宅自己注射に移行する際、「同じ月に院内投与と在宅自己注射が混在する」ケースが発生しやすく、医療事務担当者から頻繁に質問が寄せられる論点です。ここでの判断を誤ると返戻どころか過剰請求になるため、ルールをしっかり整理しておく必要があります。
基本ルール:同月内に在宅自己注射指導管理料を算定した月は、院内での当該注射の「手技料」は算定できません。 ただし薬剤料については、実際に使用した分の請求は可能です。
| 同月内の状況 | 院内手技料 | 院内薬剤料 | 在宅自己注射指導管理料 |
|---|---|---|---|
| 院内投与のみ | ✅ 算定可 | ✅ 算定可 | ❌ 算定不可 |
| 在宅自己注射のみ | ❌ 算定不可 | 処方として算定 | ✅ 算定可 |
| 同月に両方あり | ❌ 院内手技料は不可 | ✅ 薬剤料は算定可 | ✅ 算定可(月1回) |
たとえば5週ある月に、月初に院内で2回投与し、月末に在宅自己注射に移行した場合を考えてみましょう。この月は在宅自己注射指導管理料が算定できますが、月初2回の院内手技料は算定できません。しかし、その2回分のデュピクセントの薬剤料自体は請求できます。これは意外に思えるかもしれませんが、「手技料を取らない=薬剤も取れない」とはなりません。
在宅自己注射指導管理料の点数は、月27回以下の場合650点(月6,500円)、月28回以上の場合750点(月7,500円)です。デュピクセントは2週間に1回の投与なので、通常は月1〜2回の注射となり、「月27回以下」の区分になります。また導入から3か月以内は導入初期加算として580点が上乗せされます。合計で最大1,230点(約1万2,300円、3割負担で約3,690円)となる月もあります。
在宅自己注射指導管理料は暦月1回の算定が原則です。月が変わらない限り2回目の算定は認められません。
参考:在宅自己注射指導管理料 算定のポイント(PHC株式会社 Medicom Park)
PHC株式会社 Medicom Park|在宅自己注射指導管理料算定のポイントを具体例付きで解説!
摘要欄の記載が形式的には整っていても、診療録(カルテ)の内容と一致していなければ、指導や調査の際に問題になります。厚生局の指導指摘では、「摘要欄の記載はあるが、根拠となる診療録記載が不十分」という事例が繰り返し挙がっています。これは、医事課がレセプトに記載を入力していても、医師が診療録に指導内容・評価スコアを残していないケースが典型的です。
実務上、医師と医事担当者が連携して対策できるポイントは次のとおりです。
- 📝 投与開始時:IGAスコア・EASIスコア・体表面積病変割合を診療録に明記し、摘要欄と数値を一致させる
- 📝 継続投与時:効果の確認記録を診療録に残す(「IGAスコアが3→2に改善」など具体的に)
- 📝 自己注射移行時:患者への指導内容の要点(注射手技確認、廃棄物処理方法など)を診療録に記載する
- 📝 施設要件:治療責任者の経歴を院内で文書化しておき、指導時に速やかに提示できるようにしておく
診療録とレセプトは「表裏一体」です。
電子カルテを使用している医療機関では、デュピクセント投与時専用の入力テンプレートを作成しておくと、IGA・EASIなどの記録漏れを構造的に防げます。テンプレートは医師が短時間で必要事項を埋められるよう、10項目以内にまとめることが現実的な運用のコツです。1分で入力を完結させられる設計が理想です。
また、COPDへの新適応(2025年3月追加)では、肺機能(%FEV1)・血中好酸球数・吸入療法(LAMA/LABA/ICS)の使用期間・非薬物療法の管理計画の作成日と実施確認日など、アトピー性皮膚炎とは全く異なる記載項目が求められます。適応を追加するたびに摘要欄の書き方が変わるという認識を、チーム全体で共有しておく必要があります。
参考:令和3年度主な指導指摘事項(医科)鳥取県医師会
鳥取県医師会|令和3年度主な指導指摘事項(医科)〜デュピクセントの施設・患者要件未記載の指摘例あり(PDF)
最後に、デュピクセントのレセプト請求を担当する医療事務・医師が確認すべき事項を実務目線で整理します。返戻ゼロを目指すための基本は「疾患ごとの摘要欄記載項目の一覧化」と「投与開始月・継続月・疾患別」の3軸でルールを分けて管理することです。
✅ 投与開始月に確認すること
- 施設要件(ア or イ)が記載されているか
- 患者要件(ア or イ)が記載されているか
- 疾患活動性スコアが3項目(IGA・EASI・BSA)すべて入力されているか(アトピーの場合)
- COPDの場合:%FEV1・血中好酸球数・吸入療法治療期間・患者要件(ア or イ)・非薬物療法管理計画の作成日が記載されているか
- 適応疾患に対応する傷病名が診療報酬明細書に正しく記載されているか
✅ 継続投与月に確認すること
- 投与回数または投与開始からの期間区分が記載されているか
- COPDの場合は12週・52週の効果評価結果と継続理由が摘要欄に記載されているか
- 在宅自己注射指導管理料と院内手技料が同月に重複していないか
✅ 在宅自己注射移行月に確認すること
- 在宅自己注射指導管理料は月1回の算定か
- 院内投与分の手技料を誤って算定していないか(薬剤料は請求可)
- 導入初期加算の算定期間(3か月以内)を過ぎていないか
- 在宅自己注射指導管理料の算定開始月を記録・管理しているか
デュピクセントの薬価は2025年時点で300mgシリンジ1本あたり約8万1,640円です。1回の投与に2本使用する初回は16万円超の薬剤費が動きます。この金額の請求が摘要欄の記載1項目の漏れで丸ごと返戻になる可能性を、チーム全体でリスクとして共有しておくことが最大の対策になります。
金額の大きさだけに、確認体制は二重チェックが条件です。
電子レセプトシステムの多くは「デュピクセント皮下注」に対する摘要欄の自動チェック機能を実装しているケースもありますが、疾患別の記載内容の差異(アトピーとCOPDで全く異なる項目)まで対応しているシステムは限られています。システムに頼るだけでなく、担当者が疾患別チェックシートを手元に持つ運用を組み合わせることが現実的です。
参考:デュピクセント皮下注に関するPMDAの最適使用推進ガイドライン情報
PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)|デュピルマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドライン一覧