食後すぐに服用すると、ビプレッソ徐放錠50mgの血中濃度が約2倍に跳ね上がり、重篤な副作用リスクが生じます。

「ビプレッソ徐放錠50mg 販売中止」と聞いて、全規格が使えなくなると思われている方も多いかもしれません。結論は違います。
現時点(2026年3月)で販売中止の告知(告知日:2026年2月3日)が出ているのは、バラ100錠(50mg/錠 バラ 100錠×1瓶) のみです。PTP100錠(10錠×10シート)については、通常出荷が継続されており、供給停止の案内は出ていません。
共和薬品工業のサプライ状況リストでも「バラ100錠消尽・PTP100錠に包装集約」という記載があり、今回の販売中止は包装形態の集約整理という側面が強いことが読み取れます。2023年4月にアステラス製薬から共和薬品工業へ製造販売承認が承継された際、製造体制の見直しが行われており、バラ包装のニーズが低下したことも背景の一因と考えられます。
つまり「全廃」ではありません。
ただし、施設によってはバラ包装で発注・管理していたケースもあるため、在庫消尽のタイミングをあらかじめ卸担当者に確認し、PTP包装への切り替えに伴う管理方法・調剤手順の変更を早めに院内で周知しておくことが望まれます。
共和薬品工業|「ビプレッソ®徐放錠50mg/150mg」共同プロモーション終了のお知らせ(2023年3月)
ビプレッソ徐放錠50mgは、承認申請時からアステラス製薬が製造販売元として関与していました。2017年7月の承認取得後、共和薬品工業との共同プロモーション体制で販売が続けられてきたという経緯があります。
しかし2023年4月1日付で、製造販売承認がアステラス製薬から共和薬品工業へ正式に承継されました。これにより、ラベルや個装箱の表示が変更され、製造販売元の記載が「共和薬品工業株式会社」となっています。さらに2023年3月31日をもって吉富薬品との共同プロモーション活動も終了しています。
表示変更は見落としやすいです。
院内の採用薬マスタや医薬品管理システムの医薬品コード・メーカー名登録が旧情報のままになっているケースでは、在庫照合や調剤鑑査の際にエラーが出ることがあります。医薬品管理担当者・薬剤師は、添付文書の改訂版(2026年1月 第7版)と併せて、システム上の登録情報を最新化しておく必要があります。
なお再審査も完了しており、承認条件も解除済みです。製品としての安定性は問題ありません。
共和薬品工業|ビプレッソ®徐放錠50mg/150mgの製造販売承認の承継のお知らせ(2023年2月)
「同じクエチアピン成分だから、セロクエルやジェネリックのクエチアピン錠に切り替えれば問題ない」と判断するのは早計です。これは大きな落とし穴になり得ます。
ビプレッソ徐放錠(クエチアピンフマル酸塩徐放錠)の効能・効果は「双極性障害におけるうつ症状の改善」のみです。一方、セロクエル錠およびクエチアピン錠(即放錠)の後発品が持つ保険適応は「統合失調症」のみとなっています。つまり同じ有効成分でも、剤形(徐放錠か即放錠か)によって保険適応が全く異なります。
適応が違う点に注意が必要です。
双極性障害うつ症状の患者に対して即放性クエチアピン錠を処方した場合、レセプト審査で「適応外」として査定される可能性があります。実際、日本では即放性クエチアピン製剤は双極性障害への保険適応を持っておらず、米国との適応差は明確です。
また、「双極性障害のうつ症状」に対して現在保険適応を持つ薬剤は、クエチアピン徐放錠(ビプレッソ)とオランザピン(ジプレキサ等)の2剤のみです。オランザピンは双極性障害の躁症状改善にも適応を持ちますが、体重増加や血糖上昇のリスク管理が別途必要になります。
代替薬の選定は主治医と薬剤師が連携して行い、保険適応を必ず確認することが原則です。
ファルマスタッフ|ビプレッソ徐放錠 服薬指導に活かす医薬品情報(適応・相互作用・副作用の整理)
ビプレッソ徐放錠50mgは、販売中止の話題に隠れがちですが、服薬指導上の注意点が特殊な薬です。引き続き処方される患者への指導を見直す機会にもなります。
まず最も見落とされやすいのが、「就寝前・食後2時間以上あけて服用」という服用条件です。多くの薬は「食後服用」が指示される中、ビプレッソは食後投与を避けなければなりません。食後に服用した場合、空腹時と比較してCmax(最高血中濃度)が約2倍に上昇するという薬物動態データがあります。血中濃度が2倍になると、鎮静作用(傾眠)が過度に強まったり、体重増加・口渇といった副作用が増強されたりするリスクが高まります。
徐放性製剤であることも要注意です。錠剤を割ったり噛み砕いたりすると、徐放機能が失われ、有効成分が急速に吸収されてしまいます。嚥下に不安のある高齢患者への投与時には、特にこの点を患者・介護者の両方へ丁寧に説明する必要があります。
もう一つは、糖尿病患者への投与禁忌です。
クエチアピン系薬剤は血糖値を上昇させるリスクがあり、「糖尿病」または「糖尿病の既往歴のある患者」には投与禁忌とされています。ビプレッソ徐放錠50mgでも同様の警告が添付文書の冒頭(警告欄)に記載されており、処方前の患者背景確認は不可欠です。双極性障害患者にはメタボリックシンドロームを合併している方も少なくなく、血糖・脂質プロファイルのモニタリングは継続的に行うことが推奨されます。
相互作用の面では、本剤は主にCYP3A4で代謝されます。イトラコナゾール・エリスロマイシン等のCYP3A4阻害薬との併用で血中濃度が上昇し、カルバマゼピン・リファンピシン等のCYP3A4誘導薬との併用で効果が減弱します。精神科以外の診療科からの処方との相互作用にも注意が必要です。
くすりのしおり(RAD-AR)|ビプレッソ徐放錠50mg 患者向け情報(副作用・注意事項の確認に)
バラ包装の販売中止をきっかけに、双極性障害うつ症状の治療選択肢全体を整理しておくことは、医師・薬剤師双方にとって重要な実務的視点です。これは供給問題の対処だけにとどまらない話です。
現在、日本で「双極性障害におけるうつ症状の改善」の保険適応を持つ主な薬剤は以下の通りです。
| 薬剤名 | 一般名 | 製造販売元 | 用法 |
|---|---|---|---|
| ビプレッソ徐放錠 | クエチアピンフマル酸塩徐放錠 | 共和薬品工業 | 1日1回就寝前(食後2時間以上あけて) |
| ジプレキサ錠/ザイディス錠 | オランザピン | 日本イーライリリー等 | 1日1回就寝前(食事の影響なし) |
ビプレッソとオランザピンを比較すると、いくつかの実臨床上の差異があります。オランザピンは食事の影響をほとんど受けず、服用タイミングの指導がシンプルになります。一方でビプレッソは、食後2時間以上あけるという条件があるため、患者の生活リズムや就寝時間に合わせた指導が必要です。
また、ビプレッソ徐放錠にはPTP包装の後発品(ジェネリック)が存在しません。先発品のみの供給が続いており、薬価は50mg1錠あたり48.7円(2026年3月現在)です。クエチアピン即放錠の後発品と比較すると薬価面での差が生じることも、処方設計の際に考慮に値します。
双極性障害の治療では、うつ状態から躁転させないことが重要です。抗うつ薬単独療法は躁転リスクを伴うため、気分安定薬またはビプレッソ・オランザピンのような適応を持つ非定型抗精神病薬を中心に組み立てることが、ガイドラインの基本的な考え方となっています。
処方見直しの際は、患者の糖尿病リスク・体重管理状況・生活リズム・服薬アドヒアランスを総合的に確認し、主治医と薬剤師が協働して最適な選択肢を議論することが望ましいです。
KEGG MEDICUS|ビプレッソ徐放錠50mg 医薬品情報(用法・用量・禁忌・相互作用の一覧確認に)