名称変更後の旧名称処方でも、そのまま調剤してしまうと算定ミスのリスクがあります。

バレリン錠(一般名:バルプロ酸ナトリウム)は、旧・大日本製薬(現:住友ファーマ株式会社)が1981年に発売した抗てんかん剤です。
発売当初の販売名は「バレリン錠(200mg含有)」という形で規格が名称に含まれていませんでしたが、2001年に「バレリン錠200mg」へ最初の名称変更が行われました。シロップ剤も2006年に「バレリンシロップ5%」へと名称を改めています。これが第1段階の変更です。
その後、厚生労働省が推進する「医療用後発医薬品の販売名の一般的名称への変更に係る代替新規承認申請」の方針に基づき、2019年12月27日付で製造販売承認を取得。旧名称「バレリン錠100mg・200mg」は、正式に「バルプロ酸ナトリウム錠100mg『DSP』」「バルプロ酸ナトリウム錠200mg『DSP』」へと販売名が変更されました。
つまり2段階の変更です。
薬価基準収載日は2020年6月19日で、旧名称「バレリン錠」については2021年3月31日をもって経過措置期間が終了しています。現在、処方箋や電子カルテ上で「バレリン錠」という名称が記載されている場合は、システムのマスタ更新漏れや入力ミスが疑われます。確認が必要です。
「DSP」は製造販売元である住友ファーマ(旧:大日本住友製薬、英語名称変更前はDai-Nippon Sumitomo Pharmaの略)を示す識別記号です。識別コードは100mg錠が「P721」、200mg錠が「P722」となっており、PTP包装やボトル本体に印字されています。
| 旧販売名 | 新販売名 | 製造販売承認 | 薬価収載 | 経過措置終了 |
|---|---|---|---|---|
| バレリン錠100mg | バルプロ酸ナトリウム錠100mg「DSP」 | 2019年12月27日 | 2020年6月19日 | 2021年3月31日 |
| バレリン錠200mg | バルプロ酸ナトリウム錠200mg「DSP」 | 2019年12月27日 | 2020年6月19日 | 2021年3月31日 |
| バレリンシロップ5% | バルプロ酸ナトリウムシロップ5%「DSP」 | 2019年12月27日 | 2020年6月19日 | 2021年3月31日 |
バルプロ酸ナトリウム錠「DSP」のインタビューフォーム(最新:2026年3月改訂・第37版)は、PMDAの医薬品情報検索ページで確認できます。
バルプロ酸ナトリウム錠100mg「DSP」インタビューフォーム(住友ファーマ、PMDA経由)|名称変更の経緯や製剤情報の詳細が確認できます
バレリン錠が「バルプロ酸ナトリウム錠『DSP』」へ変わった後、調剤現場で最も多いトラブルが「普通錠と徐放錠の取り違え」です。
バルプロ酸ナトリウム製剤には、大きく分けて「普通錠」と「徐放錠(SR錠)」の2種類があります。普通錠はデパケン錠・バルプロ酸ナトリウム錠「DSP」などが該当し、徐放錠はデパケンR錠・セレニカR錠などが該当します。
問題は、一般名処方マスタ上の記載が似ているという点です。
- 普通錠:【般】バルプロ酸Na錠100mg
- 徐放錠:【般】バルプロ酸Na徐放錠100mg
文字にすると「徐放」が入るかどうかだけの違いです。しかしこの2つは用法が全く異なります。徐放錠は1日1〜2回、普通錠は1日2〜3回が基本です。旭川薬剤師会の医療安全通信でも、バルプロ酸ナトリウムの一般名処方において普通錠と徐放錠の取り違えが多発していることが明示されています。
さらに、セレニカR錠はデパケンR錠と一般名が同一ですが、製剤特性や1日服用回数が異なるため、疑義照会なしに変更調剤することはできません。これは注意が必要です。
| 製品名 | 剤形分類 | 1日服用回数 | 変更調剤 |
|---|---|---|---|
| バルプロ酸ナトリウム錠「DSP」(旧バレリン) | 普通錠 | 2〜3回 | ○(普通錠間) |
| デパケン錠 | 普通錠 | 2〜3回 | ○(普通錠間) |
| デパケンR錠 | 徐放錠(1日1〜2回) | 1〜2回 | △(疑義照会要) |
| セレニカR錠 | 徐放錠(1日1回) | 1回 | ✕(原則不可) |
調剤前には処方箋の「用法・用量」欄を必ず確認し、普通錠と徐放錠のどちらを想定した用法が記載されているかを照合することが基本です。
薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業「抗てんかん薬に関する疑義照会の事例」(日本医療機能評価機構)|バルプロ酸ナトリウムの一般名処方に関するヒヤリハット事例が詳述されています
バルプロ酸ナトリウム錠「DSP」(旧バレリン錠)は、名称変更後も後発医薬品として位置づけられています。先発品はデパケン錠(日医工岐阜工場)です。
つまり、変更後の名称を見て「新しい薬かもしれない」と勘違いするケースがあります。しかし実体は1981年発売の製剤であり、成分・効能・剤形に変更はありません。これは意外ですね。
後発品への変更調剤を行う際の基本ルールとして、薬剤料が先発品より高くなる場合は変更不可とされてきましたが、2024年以降の診療報酬改定では選定療養の仕組みも導入され、先発品を希望する患者については差額自己負担が求められる場面も増えました。変更調剤の可否判断は「薬価」ではなく「薬剤料(1日分の計算額)」で行うことが原則です。
また、バルプロ酸ナトリウム錠「DSP」はピンクの糖衣錠ですが、後発各社の錠剤は形状・色・識別コードが異なります。服薬指導の際に「いつもの白い錠剤と色が違う」という患者からの問い合わせに備えて、錠剤の外観情報を確認しておくことが現場では有効です。
服薬指導が必要です。
バルプロ酸Na錠の主な後発品の一例は、バルプロ酸Na錠「TCK」(辰巳化学)、バルプロ酸ナトリウム錠「アメル」(共和薬品)、バルプロ酸Na錠「フジナガ」(藤永製薬)などがあります。これらはいずれも普通錠であり、バルプロ酸ナトリウム錠「DSP」からの変更調剤は可能です。ただし変更した場合は処方元医療機関への情報提供が必要であることを忘れないようにしてください。
後発医薬品の変更ルールを解説|薬剤料アップや別剤形への調剤変更の可否(m3.com薬剤師)|薬剤料と薬価の違い・変更調剤の判断基準が詳しく解説されています
名称変更はあくまでも販売名の変更であり、有効成分・規格・剤形・用法・効能に一切変更はありません。しかし実際の患者への影響は軽視できません。
「いつもの薬と名前が違う」という患者からの問い合わせは、名称変更後に相当数発生しました。特に長期処方を受けているてんかん患者や双極性障害の患者では、薬の名前が変わったことで「別の薬を渡されたのではないか」という不安が生まれやすく、自己判断での服薬中断リスクがあります。自己中断は危険です。
バルプロ酸ナトリウムはてんかん発作コントロールの基盤薬であり、急な服薬中断はてんかん重積状態(発作が5分以上持続し、または短い発作が反復し意識回復がない状態)を誘発する危険があります。日本てんかん学会の提言では、発作が抑制されている患者での先発品・後発品の切り替え、あるいは剤形変更は血中濃度の変動を招くおそれがあるため、原則として推奨しないと明記されています。
服薬指導の実践ポイントとして、以下の3点を心がけることが有効です。
名前の変更という一見小さな出来事が、患者の治療継続性に大きく影響します。一言の説明が安心につながります。
バルプロ酸の有効血中濃度は50〜100μg/mLとされており、安定している患者での不要な製剤変更は避けることが原則です。特に2歳未満の乳幼児や複数の抗てんかん薬を併用している患者では、肝障害リスクも高まるため、より慎重な管理が求められます。
抗てんかん薬の後発医薬品への切り替えに関する注意点(UCBCares Japan・日本てんかん学会ガイドライン準拠)|発作抑制中患者への変更推奨しない根拠が明確に解説されています
バルプロ酸ナトリウムの適応症は複数にわたります。これは意外と見落とされがちです。
主な適応は「各種てんかん・てんかんに伴う性格行動障害」「躁病・躁うつ病の躁状態の治療」「片頭痛発作の発症抑制」の3つです。抗てんかん薬として認知されやすいですが、双極性障害や片頭痛予防薬としても処方されます。
名称変更後に注意が必要な場面として、精神科・神経内科・頭痛外来にまたがる多科処方があります。患者が複数の診療科でバルプロ酸製剤を処方されているケースでは、旧名称(バレリン錠)と新名称(バルプロ酸ナトリウム錠「DSP」)が同一患者の薬歴に混在することがあります。
これは重複投与です。
薬歴管理システムが旧名称のままアップデートされていない場合、重複チェックをくぐり抜けてしまう事例が指摘されています。電子薬歴や電子カルテのマスタ更新状況を定期的に確認することが、医療安全の観点から欠かせません。処方元の医師への情報提供も含め、薬剤師として積極的に関与することが求められます。
また、バルプロ酸には妊婦への使用に関する重要な安全性情報があります。2018年以降、欧州医薬品庁(EMA)の勧告を受け、国内でも妊婦または妊娠する可能性のある女性への投与には厳重な注意と適切な避妊の確認が求められています。名称が変わっても、この安全管理上の注意点は変わりません。これが原則です。
処方管理の観点から特に注意したい項目をまとめると次の通りです。
名称変更は「ただの名前の整理」ではなく、薬歴管理・重複チェック・患者説明という3つの実務に直結します。情報を整理しておくことが大切です。
日本てんかん学会・日本精神神経学会「バルプロ酸ナトリウム供給不安定状態に関する提言」(2021年12月)|剤形変更・後発品切り替えのリスクや処方管理の注意点が詳述されています

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