デパケン錠は「吸湿に注意、一包化不可」という知識だけで止まっていると、調剤過誤に直結するリスクがあります。

デパケン錠の有効成分であるバルプロ酸ナトリウムは、極めて高い吸湿性を持つ物質です。インタビューフォームによると、臨界相対湿度が25%RH(20〜30℃)と非常に低く、日常的な室内環境(一般的に40〜60%RH程度)でも潮解が起こりえます。潮解とは固体が空気中の水分を吸収して液状になる現象で、ちょうど砂糖がしっとり固まるイメージよりもずっと激しく、文字通り溶けて液体になるレベルです。
実際の安定性試験では「開放・80%RH・40℃・4日」の条件で潮解し液状を呈したことが確認されています。一方、同試験では「いずれの条件下でも分解は認められなかった」とも記載されており、含量への影響はありません。つまり成分そのものが壊れるわけではないものの、見た目が変形・液化してしまうため薬剤としての品質を保てなくなるのです。
これが一包化を禁止する直接的な理由です。分包紙という半開放環境に取り出してしまうと、湿気を吸い込んで変形・癒着が起こります。添付文書の「取り扱い上の注意」には「服用直前までPTPシートから取り出さないこと」と明記されており、「PTPシートから取り出し一包化調剤することは避けること」という一文も記載されています。
つまり「一包化不可」が原則です。患者本人や家族が「飲みやすくしてほしい」と希望していても、デパケン錠(普通錠)そのままでは一包化に応じることができません。
なお、PTPシートに入ったままの密封状態では室温・遮光・24ヵ月保存においても外観変化なし・分解なしという良好な安定性が確認されています。PTPシートが優れた防湿バリアとして機能しているわけです。
参考:デパケン錠のインタビューフォーム(吸湿性・安定性に関する記述)
医薬品インタビューフォーム(QLifePro):デパケン錠100mg・200mg
「デパケン=一包化不可」と一括りにしている方は注意が必要です。バルプロ酸製剤は製品によって一包化の可否が異なります。これは意外に見落とされがちなポイントです。
まず、バルプロ酸製剤の主な剤形と一包化可否を整理します。
| 商品名 / 規格 | 剤形 | 用法 | 一包化 |
|---|---|---|---|
| デパケン錠 100mg / 200mg(先発) | 普通錠 | 1日2〜3回 | ❌ 不可 |
| バルプロ酸Na錠「フジナガ」100mg / 200mg | 普通錠 | 1日2〜3回 | ❌ 不可 |
| バルプロ酸ナトリウム錠「アメル」100mg / 200mg | 普通錠 | 1日2〜3回 | ❌ 不可 |
| バルプロ酸ナトリウム錠「DSP」100mg / 200mg | 普通錠 | 1日2〜3回 | ✅ 可能 |
| デパケンR錠 100mg / 200mg(先発) | 徐放錠 | 1日1〜2回 | ✅ 可能 |
| セレニカR錠 200mg / 400mg(先発) | 徐放錠 | 1日1回 | ❌ 不可 |
| バルプロ酸Na徐放錠「トーワ」 / SR錠「アメル」 | 徐放錠 | 1日1〜2回 | ✅ 可能 |
| デパケン細粒 20% / 40% | 細粒 | 1日2〜3回 | ✅ 可能 |
注目すべき点が2つあります。1つ目は、普通錠の後発品「バルプロ酸ナトリウム錠DSP」だけが一包化可能である点です。同じ「一般名処方:バルプロ酸Na錠」でも後発品の銘柄が違えば可否が逆転します。2つ目は、徐放錠の中でもセレニカR錠は一包化不可である点です。セレニカRは吸湿によって徐放性コーティングの溶出が加速するという別の問題を抱えているためで、吸湿すると1日1回の徐放製剤としての意味が失われてしまいます。
後発品への変更指示がある処方箋でデパケン錠が含まれていた場合、銘柄によって一包化の可否が変わりうることを必ず確認する必要があります。これが原則です。調剤の現場で後発品の銘柄選択を担う薬剤師にとって、これは患者の服薬コンプライアンスに直接影響する重要な判断です。
参考リンク(製品別 一包化可否の比較)。
一包化可能なバルプロ酸Na製剤(くすりの勉強 -薬剤師のブログ-):製品別の一包化可否一覧を詳細に掲載
現場では「デパケン錠を誤って一包化してしまった」というヒヤリハット事例が実際に報告されています。公益財団法人日本医療機能評価機構の薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の2017年年報に掲載された事例では、「デパケン錠200mgは吸湿性があるため一包化調剤しないことになっていたが、他の薬剤とともに一包化調剤を行い交付した。後日、患者から指摘を受け、調剤し直した」という内容が報告されています。
この事例では患者自身が気づいて連絡してきましたが、一包化された薬を患者は中身を確認しにくいため、そのまま服用されてしまうリスクも十分あります。一包化調剤に間違いがある場合、患者が気づかないことの方が多いのが現実です。調剤し直せた場合はまだよいですが、変形・潮解したバルプロ酸を含む分包品を服用することで投与量に誤差が生じる可能性があります。
同様に問題となるのが、デパケン錠とデパケンR錠の取り間違いです。見た目が似ているうえに規格(100mg・200mg)も同じため、取り違えが起きやすい薬剤のひとつです。一包化の可否という点でも、「デパケンR錠は一包化可能、デパケン錠は不可」と逆の性質を持つため、誤って一包化可能な方と勘違いするケースもあります。これは痛いですね。
現場での対策として、調剤棚での保管場所を明確に分ける、一包化不可の薬には分包機投入時に確認ラベルを貼る、後発品選択時に一包化可否も確認する手順書を整備するといった取り組みが推奨されています。チーム全体で情報を共有することが重要です。
参考リンク。
薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 一包化調剤に関する事例(日本医療機能評価機構):デパケン錠200mgの一包化過誤事例を含む実際の報告書
デパケン錠が処方に含まれているとき、外来服薬支援料2(旧・一包化加算)の算定をどう考えるかは実務上の重要な問題です。そのまま普通錠デパケン錠を一包化することはできないため、処方の構成によっては対応方法を工夫する必要があります。
まず、デパケン錠以外の薬が外来服薬支援料2の算定要件(2剤以上の内服固形剤、または1剤で3種類以上の固形剤)を満たしている場合は、デパケン錠をPTPシートのまま調剤し、一包化した包にテープで貼り付けるという方法がとれます。こうすることで一包化の目的(飲み忘れ防止・一元管理)に沿った対応ができ、算定要件を満たすことも可能です。
もう一つのアプローチは、一包化可能なジェネリック医薬品(バルプロ酸ナトリウム錠「DSP」など)への変更です。医師の了承のもと後発品への変更が認められている場合には、一包化可能な銘柄を選択することで、全薬剤を一包化対応させることができます。患者にとっても飲み忘れが減るというメリットがあります。これは使えそうです。
2024年度改定では、外来服薬支援料2は「対人業務」として位置づけられ、単なる一包化作業だけでなく服薬指導やフォローアップも評価対象となっています。算定点数は投与日数7日ごとに34点が加算され、42日分以下で最大204点(6週分)、43日分以上は一律240点となります。算定するためには処方医から一包化の指示・了承を得ることが必須で、薬歴やレセプトへの記載も必要です。
なお、外来服薬支援料2と自家製剤加算・計量混合調剤加算・外来服薬支援料1との併算定はできません。デパケン錠が処方されているケースでは、これらの組み合わせに注意しながら算定可否を判断する必要があります。
参考リンク。
外来服薬支援料2の算定要件をわかりやすく解説(m3.com 薬剤師向けコラム):2024年度改定後の算定要件・点数計算方法・具体的事例を詳解
「デパケン錠を一包化したい患者にどうアプローチするか」という視点から、薬剤師主導の剤形・銘柄提案を考えることは、実はコンプライアンス改善において大きな意味を持ちます。医師にただ「デパケン錠は一包化できません」と伝えて終わりにするのではなく、代替案を提案できるかどうかが現場薬剤師の腕の見せどころです。
具体的な代替提案の選択肢として考えられるのは次のとおりです。
ここで注意が必要なのはセレニカRとの混同です。「徐放性製剤なら一包化可能」と一般化して考えてしまうと、セレニカR錠(200mg・400mg)を一包化してしまうという過誤に至ります。セレニカRは添付文書に「吸湿しないように保存させること」と明記されており、吸湿によって徐放性コーティングが溶出を加速させます。結果として血中濃度が予期せず上昇し、副作用リスクが生じます。セレニカRだけは例外です。
バルプロ酸製剤全体を「普通錠は×、徐放錠は○」と単純化するのはリスクがあります。製品ごとの添付文書・インタビューフォームを確認することが基本です。また「デパケン錠200mgは一包化不可でも、バルプロ酸Na錠200mg『DSP』は可能」という知識を持った上で後発品を選択することが、患者サービスと適正調剤の両立につながります。
こうした薬剤師主導の積極的な剤形・銘柄提案は、処方医との信頼関係構築にも貢献します。次回の処方段階から「一包化対応の製品を最初から処方してもらう」という流れをつくることができれば、業務効率も患者満足度も向上します。医師と薬剤師が連携した服薬管理の最適化が、てんかんや双極性障害を抱える患者の生活の質(QOL)を高めることにつながります。
参考リンク。
同じ一般名でも一包化の適否は製品により違う(日経メディカル):先発品・後発品間での一包化可否の違いを解説した医師・薬剤師向け記事

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