室温保管で問題ないと思っているなら、患者への過小投与リスクにつながりかねません。

アルケラン錠(一般名:メルファラン)は、多発性骨髄腫や卵巣がんなどの治療に用いられるアルキル化系抗悪性腫瘍薬です。その保管条件について、添付文書では「室温保存(1〜30℃)」と規定されています。
一般的な医薬品と同じ感覚で扱いがちですが、アルケラン錠は光・熱・湿気のいずれにも敏感です。特に30℃を超える環境に長時間置かれると、主成分であるメルファランの加水分解が進み、薬効が著しく低下するリスクがあります。夏場の調剤室や病棟の薬品棚など、エアコンが届きにくいエリアでは注意が必要です。
温度管理が原則です。
具体的には、直射日光が当たらない場所、かつ室温が1〜30℃に安定して保たれた場所での保管が求められます。病院内の薬剤部では、抗がん剤専用の保管棚や専用キャビネットを設けているケースが多く、一般薬と同じ棚に混在させることは品質管理・誤調剤防止の両面から避けるべきです。
なお、アルケラン錠を冷蔵保存(2〜8℃)する必要はありません。これは注射剤のアルケラン点滴静注用とは異なる点であり、混同しないよう注意が必要です。冷蔵は不要だけど、常温管理は徹底するということですね。
また、湿度管理も重要な要素です。湿気が多い環境では錠剤が吸湿し、崩壊性や溶出性に影響が出る可能性があります。PTP包装のまま保管し、払い出し直前まで開封しないことが基本的な対策になります。
アルケラン錠2mg 添付文書(PMDA)- 保存方法・使用期限など公式の保管条件が確認できます
アルケラン錠は経口抗がん剤に分類されます。つまり、保管・取り扱い時の職業性曝露(OEL:Occupational Exposure Limit)への対策が必要です。これは、単に「薬を正しい温度で置いておく」という話にとどまりません。
経口抗がん剤は注射剤に比べて曝露リスクが低く見られがちですが、WHO(世界保健機関)やNIOSH(米国国立労働安全衛生研究所)はアルキル化剤を「グループ1発がん性物質」に分類しており、メルファランも該当します。保管時の破損・汚染が生じた際の対応手順をあらかじめ定めておくことが求められます。
意外ですね。
具体的には、以下のような管理が求められます。
日本臨床腫瘍薬学会(JASPO)が発行している「がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン」では、経口抗がん剤についても一定の曝露防止策を講じることを推奨しています。施設内の手順書(SOP)が旧版のままであれば、このタイミングで見直すことが推奨されます。
JASPO(日本臨床腫瘍薬学会)ガイドライン - 経口抗がん剤の職業性曝露対策の根拠となるガイドラインが掲載されています
保管場所の環境整備が条件です。単なる棚の整理整頓ではなく、曝露リスクを踏まえた構造的な管理体制の構築が求められています。
アルケラン錠の使用期限は、製造後おおむね3年程度に設定されています。これはPTP包装のまま、規定の保管条件を守った場合の期限です。
問題は、PTP包装から取り出した後の錠剤の安定性です。
メルファランは加水分解を受けやすい化学構造を持っており、高湿度・高温環境への暴露が続くと分解が加速します。一包化調剤や粉砕調剤を行った場合、安定性は大幅に低下します。アルケラン錠の粉砕・一包化は原則として推奨されておらず、必要な場合は薬剤師がリスクを評価した上で対応することになります。
粉砕対応には注意が必要です。
実際の現場では、嚥下困難な高齢患者へのアルケラン錠投与において、剤形変更や投与経路の検討が必要になるケースがあります。経口投与が困難な場合は、主治医・薬剤師・看護師が連携し、アルケラン点滴静注用への切り替えを含めた対応策を検討することが現実的です。
また、残薬が生じた場合の保管延長も慎重に判断する必要があります。一度患者の手元に渡った薬剤は、保管条件が保証できないため、返却された残薬を再使用することは品質保証の観点から認められません。
使用期限の管理については、薬剤部での定期的な在庫確認(月1回程度)と、先入れ先出し(FIFO: First In, First Out)の徹底が基本です。これが品質保証の根本です。
アルケラン錠の保管場所として適切な環境を選定することは、品質管理だけでなく、誤調剤・誤投与防止の観点からも重要です。
病棟に配置薬として保管する場合は特に注意が必要です。一般の配置薬棚は温度・湿度管理が不十分なことが多く、抗がん剤の保管には適していないケースがあります。施設によっては「経口抗がん剤は病棟保管を原則禁止とし、服薬直前に薬剤部から払い出す」というルールを設けているところもあります。
これは理にかなった対応ですね。
施設内ルールの整備にあたっては、以下の観点を取り入れることが推奨されます。
日本病院薬剤師会(日病薬)は、抗がん剤の院内管理に関するガイドラインを公表しており、経口抗がん剤の管理についても言及しています。施設の手順書作成の参考として活用することができます。
日本病院薬剤師会(日病薬)ガイドライン一覧 - 院内における抗がん剤管理に関する指針・ガイドラインが掲載されています
施設ルールの「文書化」も重要です。口頭での申し送りだけでは継続性が担保できず、担当者が変わった際に管理が形骸化するリスクがあります。SOPとして文書化し、定期的に見直す体制を整えることが、長期的な品質・安全管理につながります。
ここまで施設内の保管管理について解説してきましたが、見落とされがちな重要な視点があります。それは、在宅患者の自宅における保管環境への対応です。
アルケラン錠は外来・在宅治療でも処方されるケースがあります。患者が自宅で保管する場合、医療機関のような温度・湿度管理は期待できません。真夏の室内温度が30℃を超える可能性は十分にあり、特に高齢者宅では空調が十分でないことも少なくありません。
これは現場でも意識が薄いポイントです。
処方時・服薬指導時に、以下の内容を患者・家族に伝えることが薬剤師・看護師に求められます。
服薬指導に使用できるツールとして、各製薬会社が提供している患者向け指導箋や、「くすりの適正使用協議会(RAD-AR)」が提供する患者向け情報資材があります。在宅患者への指導では、口頭説明だけでなく、書面を用いた説明が理解定着と記録の両面で有効です。
くすりの適正使用協議会(RAD-AR)- 患者向けの医薬品情報・服薬指導に活用できる資材が公開されています
在宅患者への保管指導は「1回伝えて終わり」ではなく、定期的なフォローアップの中で保管状況を確認する習慣をつけることが大切です。保管状態の確認を診察や訪問看護の際の定型チェック項目に組み込むことが、実効性を高めるための一手段として有効です。