開封後に冷蔵庫に戻すと、品質が損なわれて患者トラブルにつながります。

アジスロマイシン点眼液(販売名:アジマイシン点眼液1%)は、2019年6月に製造販売が承認され、同年9月11日に発売が開始された日本初かつ現在唯一のマクロライド系抗菌点眼液です。千寿製薬株式会社が製造販売元、武田薬品工業株式会社が販売元となっています。
添付文書に記載されている適応菌種は、アジスロマイシンに感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、コリネバクテリウム属、インフルエンザ菌、アクネ菌の6種類です。つまり適応症は以下のとおりです。
ここで注意すべき点があります。クラミジア・トラコマチスはアジスロマイシンが経口投与で有効な菌として知られていますが、本点眼液の適応菌種には含まれていません。クラミジア結膜炎に対してアジスロマイシン点眼液を処方することは、適応外使用にあたります。現場で混同されやすいポイントですので、処方箋を受け取った際には起因菌の確認が必要です。
製剤として特徴的なのは、ポリカルボフィルを主な添加剤とするDDS(Drug Delivery System)製剤である点です。このDuraSite®テクノロジーにより、結膜・角膜・眼瞼への移行性と滞留性が高まり、少ない点眼回数での治療が実現しています。1g中にアジスロマイシン水和物10.48mg(アジスロマイシンとして10mg力価)を含有し、pHは5.9〜6.7、浸透圧比は0.9〜1.1(生理食塩液に対する比)とされています。
マクロライド系点眼液としては、過去にエコリシン点眼液(エリスロマイシン・コリスチン配合剤)がありましたが、2017年に販売中止となっています。現在、マクロライド系の眼科用抗菌薬として点眼液は本剤のみが唯一の存在です。これは眼科感染症治療の選択肢を広げる意義のある薬剤です。
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)によるアジマイシン点眼液の公式添付文書情報が確認できます。
添付文書の用法用量は、通常の抗菌点眼薬とは異なる2段階スケジュールが採用されています。点数は押さえておきたいところです。
結膜炎(成人および7歳以上の小児)
眼瞼炎・麦粒腫・涙嚢炎(成人のみ)
既存のニューキノロン系などの抗菌点眼薬は1日3〜5回投与が一般的ですから、本剤の1日1〜2回という頻度は患者のアドヒアランス向上に大きく貢献します。
重要な基本的注意として、耐性菌の発現を防ぐため、用法用量を必ず遵守するよう患者に指導することが義務付けられています。また、処方箋に投与期間の記載がない場合は疑義照会が必要です。厚生労働省は2019年6月18日付の通知「アジスロマイシン水和物点眼剤の使用に当たっての留意事項について」でも、用法用量の遵守を明確に求めています。
なお、7歳未満の小児への投与は適応外です。低出生体重児・新生児・乳児・幼児を対象とした臨床試験は実施されていないことが添付文書に明記されています。眼瞼炎・麦粒腫・涙嚢炎の適応は成人のみであり、7歳以上の小児でも眼瞼炎等には使用できません。つまり、患者の年齢と疾患によって処方可否が変わります。
点眼回数が変わるタイミングは「3日目から」です。2日間だけ1日2回で、以後は1日1回に切り替わることを患者への服薬指導で漏れなく伝えましょう。点眼指導箋を活用することが推奨されます。
厚生労働省による留意事項通知の全文は以下から確認できます。
厚生労働省|アジスロマイシン水和物点眼剤の使用に当たっての留意事項について(令和元年6月18日)
アジスロマイシン点眼液の保存方法は、通常の点眼薬と正反対のルールになっています。意外ですね。
一般的な点眼薬は「未開封は室温、開封後は冷蔵庫」という管理が多いため、逆に覚えてしまうと患者指導でのトラブルにつながります。添付文書には「開栓後は室温保存とする」と明確に記載されています。
なぜ開封後に室温保存へ切り替えるのかというと、製剤に含まれるポリカルボフィルのゲル特性が低温では変化し、粘性や点眼適量に影響を及ぼす可能性があるためです。開封後に冷蔵庫へ戻してしまうと、薬液が正常に出にくくなることがあります。
安定性試験のデータによれば、開封後の加速試験(25℃・60%RH、6ヵ月)と苛酷試験(40℃・75%RH、4週間)では類縁物質の増加と含量の低下が認められ規格外となりました。これは直射日光と高温を避けることの重要性を示しています。
また、有効期間は3年(未開封・冷蔵保存時)ですが、処方された分は指定の投与期間(7日間または14日間)で使いきり、残った薬液は廃棄するよう指導します。再使用は禁止です。これは原則として厳守が必要です。
保存管理の注意事項を患者に的確に伝えるためには、薬袋への記載やお薬手帳の活用も効果的です。視覚的に「冷蔵庫に入れない」と分かるシールを活用している薬局もあります。
副作用情報は添付文書の中で特に重点的に確認が必要な項目です。重大な副作用として2つが記載されています。
【重大な副作用(いずれも頻度不明)】
特に注目すべきは、添付文書の「その他の注意」(15.1)に「海外で承認されているアジスロマイシン点眼液の製造販売後において、失明が報告されている」と明記されている点です。これは海外の製造販売後情報であり、国内の有効成分同一製剤での事例ではありませんが、臨床現場で角膜障害の初期症状(霧視・異物感・眼痛)を見逃さないことが極めて重要です。厳しいところですね。
国内第III相試験3試験合計726例中、副作用は73例(10.1%)に認められました。主な副作用の内訳は以下のとおりです。
その他、頻度不明として眼乾燥・霧視・羞明・角膜上皮欠損・糸状角膜炎・眼瞼浮腫・アレルギー性結膜炎・結膜充血・結膜沈着物などが報告されています。消化器系では味覚異常、呼吸器系では鼻閉・副鼻腔炎、精神神経系では顔面神経麻痺(いずれも頻度不明)も添付文書に記載されています。
本剤は角膜障害がRMP(医薬品リスク管理計画)の「重要な特定されたリスク」に指定されており、製造販売後においても継続的なモニタリングが実施されています。患者に対しては、点眼開始後に霧視・異物感・眼痛などが現れた場合は直ちに受診するよう事前に十分な説明を行うことが義務付けられています。
なお、非臨床試験ではウサギへの28日間反復点眼で22日目から角膜混濁が認められましたが、休薬により回復しています。サルへの14日間投与では毒性所見は認められていません。
PMDAが公開しているRMP(医薬品リスク管理計画)の概要は、添付文書・インタビューフォームでも確認できます。
アジマイシン点眼液1% 医薬品インタビューフォーム(JAPIC)
DDS製剤であるアジスロマイシン点眼液には、通常の点眼薬にはない特有の使用上の注意が定められています。添付文書14条(適用上の注意)に以下が明記されています。
「キャップをしたまま容器を下に向けて振る」という手順は、ポリカルボフィル配合のDDS製剤特有のものです。粘性が強いため、薬液をキャップ側に集めてから点眼することで1滴を適切に出すことができます。振る回数の目安は3〜5回程度です。
他の点眼剤との併用については、少なくとも5分以上の間隔をあけることが必要ですが、さらに重要な点があります。本剤は粘性が高いため、他の点眼薬と同時刻に複数使用する場合は「本剤を最後に点眼する」ことが推奨されています。先に本剤を点眼してしまうと、粘性の高い薬液が後から点眼した薬液の角膜への吸収を阻害する可能性があるためです。これは使えそうです。
点眼後しばらく(数分〜数十分程度)視界がぼやける霧視が生じることがあります。特に高齢患者や転倒リスクのある患者では、点眼直後の歩行や車の運転などに注意するよう指導することが必要です。ベトベト感が気になる場合は、点眼後5分ほど経過したら目の周囲の残った薬液を水で洗い流してよいことも患者に伝えておきましょう。
投与期間終了後の残薬は必ず廃棄します。本剤は指定の治療期間(結膜炎7日間・眼瞼炎等14日間)に合わせて処方されるものであり、終了後の再使用は認められません。残薬を「目が赤くなったとき用に取っておく」という行動は患者に多く見られますが、これは耐性菌発現のリスクにもなるため明確に禁止を指導します。