カプセルから錠剤に変えただけで、血小板減少の重症度が変わることがあります。

武田薬品工業株式会社は2022年10月11日、抗悪性腫瘍剤「ゼジューラカプセル100mg」(一般名:ニラパリブトシル酸塩水和物)の販売中止を公式に発表しました。医療現場にとって突然とも感じられたこの発表ですが、背景には製剤改良の完了という明確な理由があります。
販売中止の最大の理由は、より使いやすい後継製剤「ゼジューラ錠100mg」がすでに2022年6月29日に発売されていたことです。カプセル製剤は2020年11月の発売以来、冷所保管(2〜8℃)が必要であり、患者が外出・旅行する際には専用の保冷遮光ポーチを携帯しなければならないという運用上の負担がありました。
その問題を解消するために開発されたのが錠剤形式です。錠剤は室温(1〜30℃)での保管が可能となり、患者の日常生活における服薬管理が大幅に簡便化されました。両剤の生物学的同等性はヒト試験(3000-01-004 study)と溶出試験によって確認されており、有効成分の吸収量・吸収率に差はないことが証明されています。つまり、有効性・安全性の面では同等です。
販売中止のスケジュールは以下のとおりでした。
経過措置期間は1年間設けられていましたが、実際に院内採用中止の手続きが遅れた施設では、東海大学八王子病院が2024年5月付で「採用中止医薬品のお知らせ」を発出するなど、対応の時差が生じたケースも報告されています。切り替えが必要です。
ゼジューラ(ニラパリブ)はPARP(ポリアデノシン5′二リン酸リボースポリメラーゼ)阻害薬に分類され、DNAの一本鎖修復に必要なPARPを阻害することで、相同組換え修復機能を持たないがん細胞を選択的に細胞死へ導く分子標的薬です。卵巣がんは日本において年間約1万人が罹患し、年間5,000人程度が死亡する深刻な疾患です。本剤のような維持療法薬の安定供給は患者の予後に直結するため、切り替え対応の遅延は治療継続リスクにつながります。
参考:武田薬品工業 医療関係者向けゼジューラ錠100mg製品情報ページ
https://www.takedamed.com/medicine/zejula
カプセル製剤と錠剤では、有効成分は同一ですが、製剤上・運用上の違いがいくつかあります。医療現場では「同じ薬だから何も変わらない」と思いがちですが、患者指導の内容は更新が必要です。
最も大きな変更点は保管方法です。カプセルは2〜8℃の冷所保管が必須であり、病院薬局では冷蔵庫管理が求められていました。患者の自宅でも冷蔵保管が必要で、旅行や外出時には武田薬品が提供する専用保冷遮光ポーチを必ず使用するよう指導していました。一方、錠剤は室温(1〜30℃)での保管が可能であり、ポーチの携帯は不要となっています。これは患者のQOL向上に直結する変更です。
服用面での変更はほとんどありません。
錠剤の形状は楕円形のフィルムコーティング錠で、1錠中にニラパリブとして100mg(ニラパリブトシル酸塩水和物として159.3mg)を含みます。PTP20錠包装となっており、カプセル製剤のボトル型から変更されています。これは薬局での調剤業務にも影響があります。
薬局での調剤業務上、一点注意が必要です。ゼジューラ錠の粉砕投与・簡易懸濁投与・経管投与は未承認となっています。嚥下困難な患者への対応については、武田薬品工業のくすり相談室(0120-566-587)への問い合わせが必要です。
また、カプセル製剤時代の患者指導書・薬剤手帳への記載内容が「冷蔵保管してください」となっている場合は、錠剤への切り替えに伴い「室温保管可」への修正が必要です。これを見落とすと、患者が不必要に冷蔵庫で保管し続けるという状況が生まれます。意外と見逃しやすい点です。
参考:大阪国際がんセンター薬局「卵巣がん治療(リムパーザ®とゼジューラ®)の内服薬について」
https://oici.jp/file/202309/slide_202309-02.pdf
ゼジューラ(ニラパリブ)は、卵巣がんに対するPARP阻害薬として国内で以下の3つの効能・効果が承認されています。カプセル販売中止後も錠剤として引き続き使用可能であり、適応範囲に変更はありません。
①および②の維持療法については遺伝子検査は必須ではありません。③のHRD陽性再発卵巣癌への投与については、承認された体外診断用医薬品または医療機器(myChoice診断等)を用いた検査でHRD陽性を確認することが必要条件となります。
HRDとは「相同組換え修復欠損」の略で、DNAの二本鎖切断を修復する機能が失われた状態のことです。BRCA1/2遺伝子変異(gBRCA・sBRCA)またはゲノム不安定性陽性のいずれかが確認されればHRD陽性と判定されます。日本人卵巣がん患者634例の解析では、BRCA遺伝子変異の頻度は一定割合を占めることが示されており、適応患者の特定には検査体制の整備が重要です。
同系統のPARP阻害薬としてリムパーザ®(オラパリブ)がありますが、両薬剤の適応範囲は異なります。リムパーザ®はBRCA遺伝子変異陽性の卵巣癌における初回化学療法後の維持療法に加え、相同組換え修復欠損を有する卵巣癌でのベバシズマブを含む初回化学療法後の維持療法に適応があります。ゼジューラ®のほうがBRCA変異の有無にかかわらず維持療法に使える場面が広い点が特徴です。
代謝経路の違いも重要です。リムパーザ®はCYP3A4/5で代謝されるため、CYP3A阻害剤(グレープフルーツ含有食品を含む)との相互作用に注意が必要です。一方、ゼジューラ®はカルボキシエステラーゼで代謝されるため、CYP3A系の相互作用の懸念がない点は処方設計上の利点です。相互作用の心配が少ないのはメリットです。
錠剤への切り替えにあたり、有効性・安全性のプロファイルはカプセルと同等ですが、副作用の発現頻度が高いため、切り替え後も継続的な血液検査モニタリングが欠かせません。
ゼジューラ®の主な副作用発現率(安全性評価対象484例中466例=96%に副作用)として、以下が報告されています。
| 副作用 | 全Grade | Grade3以上 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 血小板減少 | 62% | 約34〜39% | 個別化用量で22.5%に軽減 |
| 貧血 | 55% | 約20〜21%(Hb<8g/dL) | 5人に1人は休薬必要 |
| 悪心 | 57〜59% | 1.2% | NCCNでは中〜高度催吐リスク |
| 好中球減少 | 21% | 12.8% | 骨髄抑制として注意 |
| 便秘 | 39% | — | 継続的な症状確認が必要 |
血小板減少は特に注意が必要です。NOVA試験では全Grade 61.9%、Grade3以上34.3%という非常に高い頻度で発現しています。個別化開始用量を採用することで、PRIMA試験での全Grade 33.7%、Grade3以上22.5%まで低下することが示されています。約10ポイント以上の改善効果があるということです。
投与開始前に体重(77kg以上か否か)と血小板数(150,000/μL以上か否か)を必ず確認し、初回用量を200mgまたは300mgで設定するのが原則です。血小板数100,000/μL未満(Grade1相当)になった時点で一旦休薬し、100,000/μL以上に回復後に同量または1段階減量で再開します。貧血については、Hb 8g/dL未満(Grade3相当)で最大28日間休薬し、9g/dL以上に回復した後に再開する対応となります。これが基本です。
悪心については、日本のガイドライン(2023年草案)では「軽度催吐性リスク」に分類されているものの、NCCNガイドライン2024年版では「中等度〜高度嘔吐リスク(嘔吐頻度30%以上)」に分類されており、5-HT3受容体拮抗薬(グラニセトロン等)の連日経口投与が推奨されています。日本と海外でリスク分類が異なる点は、現場での判断を複雑にする要因です。各施設の催吐性リスク分類に基づいた制吐薬の投与方針を事前に確認しておくことが勧められます。
また、高血圧の発現時期の中央値はNOVA試験で29日、PRIMA試験で56.5日と投与早期から発現する傾向があります。投与開始後1〜2ヶ月は特に血圧モニタリングを密に行うことが重要です。
副作用管理の観点から、ゼジューラ適正使用の手引きは医療機関での管理体制構築に活用できます。武田薬品工業医療関係者向けサイトから入手可能です。
参考:武田薬品工業 ゼジューラ錠100mg 医療関係者向けFAQ
https://www.takedamed.com/medicine/zejula
ゼジューラカプセルから錠剤への切り替えは「単なる剤形変更」に見えますが、医療現場での業務フロー全体に影響が及ぶ変更です。この視点はあまり議論されていませんが、実務面では看過できない重要性を持っています。
まず、薬局の在庫管理体制の変更が必要です。カプセル製剤はボトル型で冷蔵庫管理が必要でしたが、錠剤はPTP20錠のシート型・室温管理に移行します。冷蔵庫から出し忘れ・逆に冷蔵保管を続けるといった現場ミスが起きやすいのは切り替え直後の時期です。実際に複数施設で切り替え後の保管方法の混乱が報告されています。
次に、調剤録・電子カルテの処方データの更新が必要です。「ゼジューラカプセル100mg」の薬剤コードと「ゼジューラ錠100mg」の薬剤コードは別物です。カプセルの処方情報が残ったまま誤って錠剤に切り替え損なう、もしくはコードを間違える可能性があります。処方切り替えは1件ずつ確認が必要です。
患者への説明内容の更新も不可欠です。具体的には以下の変更点を患者に伝える必要があります。
外観の変化は患者の不安を招くことがあります。「薬が変わったのではないか」「効果が落ちるのではないか」という心理的負担を軽減するため、切り替え時の服薬指導では「成分は同じ・効果・安全性は同等」という点をきちんと説明することが大切です。これは使えそうなポイントです。
また、PARP阻害薬は原則として専門医のもとで管理される薬剤です。剤形変更に伴って主治医・薬剤師・看護師の間で情報共有が徹底されているか、多職種連携の観点からも確認しておきたい場面です。特にがん専門病院以外の施設では、ゼジューラ錠100mgの適正使用の手引きを改めて参照する機会として活用することを検討してください。
がん薬物療法の管理には「HOKUTO」などの医療従事者向けレジメン管理アプリも活用できます。ニラパリブのレジメン情報(用量、主な副作用、モニタリング項目)を一元的に確認でき、剤形変更後の現場対応に役立ちます。まず確認する、という習慣が重要です。
参考:ニラパリブ(ゼジューラ®)レジメン・適正使用情報(HOKUTO)
https://hokuto.app/regimen/yphHfhEnbiLRO0QrC445
ゼジューラカプセルの販売中止は、単に「古い剤形が消えた」というだけでなく、卵巣がん治療における維持療法の位置づけが大きく変化した時期と重なっています。この流れを把握しておくことは、医療従事者として卵巣がん患者の治療方針を考える上で不可欠です。
卵巣がんは自覚症状に乏しく、診断時すでにFIGO進行期Ⅲ期またはⅣ期である患者が約40%以上を占めます。一次化学療法後の維持療法が整備されたことで、無増悪生存期間(PFS)の延長が可能となりました。ゼジューラ(ニラパリブ)はBRCA遺伝子変異の有無にかかわらず適応があり、HRD陽性患者には特に高い効果が期待されます。
現行のゼジューラ錠100mgの薬価は1錠あたり9,316.80円(2024年5月時点薬価基準収載)です。1日200mgの場合は約18,634円/日、月換算で55万円超の薬剤費となるため、高額療養費制度や限度額適用認定証の事前確認が患者支援として重要です。費用面の確認が必須です。
リムパーザ®との使い分けという視点では、BRCA遺伝子変異陽性患者には両薬剤が選択肢になりますが、BRCA変異がなくHRD陽性(ゲノム不安定性陽性)の患者にはゼジューラ®が有効な選択肢となります。また、代謝経路の違い(ゼジューラはカルボキシエステラーゼ代謝でCYP3A非依存)から、CYP3A阻害薬を使用中の患者ではゼジューラ®の方が薬物相互作用管理が容易です。
PARP阻害薬を使用した患者の長期フォローアップでは、骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)の発症リスクについての注意喚起が添付文書に記載されています。これは発現頻度は低いものの、長期維持療法中の患者に対しては定期的な血液検査を継続し、血球の異常変化を見逃さない体制が求められます。
医療施設でのゼジューラ錠の適正使用管理体制を整えるにあたっては、武田薬品工業が提供する「ゼジューラ適正使用の手引き」と電子添文を最新版で参照することが最も確実な方法です。切り替え後も、添付文書の定期確認が基本です。
参考:PMDA ゼジューラ錠100mg 医薬品リスク管理計画書(RMP)
https://www.pmda.go.jp/RMP/www/400256/01d93d62-13bc-4b8e-ba5f-aa2bd5e88b99/400256_4291068F1028_007RMP.pdf