「UCBは乾癬とてんかんだけの会社」と思っていると、あなたは2026年以降の治療選択肢の議論で完全に乗り遅れます。

ユーシービー(UCB)は、ベルギーのブリュッセルに本社を置くグローバルバイオファーマです。日本法人であるユーシービージャパンは、主に「神経(Neurology)」「免疫・炎症(Immunology/Inflammation)」「希少疾患(Rare Diseases)」という3つの疾患領域に注力しています。
この3領域に絞った集中戦略こそが、UCBのパイプラインの特徴です。
2022年4月の乾癬治療薬「ビンゼレックス」発売を皮切りに、わずか約2年半で5製品を日本市場に投入しました。この「新薬ラッシュ」の背景には、UCBが長年にわたり蓄積してきた新規低分子・モノクローナル抗体・遺伝子治療など多様なモダリティ(創薬手法)を組み合わせたパイプライン戦略があります。
| モダリティ | 主な特徴 | 代表的な開発品 |
|---|---|---|
| 低分子(Small Molecule) | 経口投与可能、細胞内標的にアクセスしやすい | ブリーバラセタム(ブリィビアクト) |
| 大環状ペプチド | 抗体の多様性と低分子の薬理特性を融合 | ExtremeDiversity™プラットフォーム由来品 |
| モノクローナル抗体 | 特異性が高く、細胞外・細胞表面の標的に有効 | ビメキズマブ(ビンゼレックス)、ロザノリキシズマブ(リスティーゴ) |
| AAVベクター遺伝子治療 | 疾患の根本原因に直接作用、希少遺伝性疾患に有望 | グローバルパイプライン内で開発中 |
グローバルでは10成分以上が臨床開発段階に入っており、国内患者が存在する疾患については日本でも開発を進める方針です。つまり、将来の治療選択肢の広がりが期待できるということですね。
UCBの研究開発費は売上高の約30%(2023年実績)に達しており、これは主要外資系製薬企業の中でも高い水準です。東京ドーム約10個分の敷地面積を誇るベルギー本社研究拠点を中心に、世界トップクラスの施設で創薬研究が進められています。
ユーシービージャパン 公式サイト「サイエンス」ページ:開発パイプラインPDFと各モダリティの解説が確認できます
ビンゼレックス(一般名:ビメキズマブ)は、既存のIL-17阻害薬とは一線を画する薬剤です。これが基本です。
従来のIL-17阻害薬(例:セクキヌマブ、イキセキズマブ)はIL-17Aのみを標的とするのに対し、ビメキズマブはIL-17AとIL-17Fの両方を同時に選択的かつ直接的に阻害します。IL-17Fは独立した炎症経路を持ち、乾癬や関節炎の病態形成にも関与しているため、二重阻害によってより大きな炎症抑制効果が期待されます。
この二重阻害という点は、臨床データにも反映されています。
2022年1月の尋常性乾癬・膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症への承認を皮切りに、2023年12月には乾癬性関節炎・強直性脊椎炎・X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎への適応追加を取得しました。さらに2024年9月には化膿性汗腺炎(HS)への適応追加が承認され、同年11月26日から発売が始まっています。化膿性汗腺炎は従来の治療選択肢が限られていた疾患であり、ビンゼレックスの参入は多くの患者さんにとって新たな希望となりました。
意外ですね。1製品でここまで適応が広がっています。
加えて2025年2月には、尋常性乾癬・膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症に対して維持期の投与間隔延長を可能にする「320mg製剤」が追加承認されました。16週までの寛解導入後に320mgを8週間隔で投与できるため、患者さんの通院・投与負担を大幅に軽減できます。
現在、ユーシービージャパンはビンゼレックスを「IL-17阻害薬のリーダー」と位置付けており、乾癬領域でのシェア拡大を優先目標としています。ピーク時国内売上高予測は120億円で、適応拡大のたびに市場の天井が広がっています。
UCBCares Japan:ビンゼレックスの適応追加(乾癬性関節炎・体軸性脊椎関節炎)に関する詳細情報
2023年9月、ユーシービージャパンは全身型重症筋無力症(gMG)に対して2剤を同時承認という異例の実績を上げました。
リスティーゴ(ロザノリキシズマブ)とジルビスク(zilucoplan)は、作用機序がまったく異なります。リスティーゴは、ヒト胎児性Fc受容体(FcRn)に結合し、IgG自己抗体を含む血中IgG濃度を低下させる抗FcRnモノクローナル抗体です。一方ジルビスクは、補体C5を阻害する1日1回自己注射型の皮下注ペプチド製剤で、gMG治療薬としては世界初の自己注射可能な皮下注製剤です。
これは使えそうです。
国内のgMG患者数は約29,210人とされており、希少疾病用医薬品に該当します。リスティーゴの薬価は280mg製剤が1瓶356,392円、420mg製剤が1瓶534,588円と高額であり、投与判断においては適切な患者選択が重要です。両剤合わせたピーク時売上高予測は約300億円にのぼります。
さらにリスティーゴの適応拡大に関しては、パイプラインPDF(2025年7月7日版)に「抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗体関連疾患(MOGAD)」および「全身型重症筋無力症(小児)」への適応に関する第III相試験が明記されています。MOGADは視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)と類似した希少神経疾患で、現時点での承認薬が非常に限られています。こうした희少疾患への横断的な適応拡大こそ、リスティーゴのパイプライン上の大きな役割です。
プレスリリース(PR TIMES):リスティーゴ/ジルビスク 全身型重症筋無力症治療薬として2剤同時承認取得の詳細
全身性エリテマトーデス(SLE)治療においてポジティブな第III相データを出したグローバルな生物学的製剤は、これまでにわずか3剤しかありません。dapirolizumab pegol(DZP)はそのうちの1剤です。
DZPは、UCBとバイオジェンが共同開発している新規CD40L(CD154)阻害薬です。新規ヒト化Fc遊離PEG結合Fab'フラグメントという独自の構造を持ち、CD40L-CD40シグナル経路を遮断することで過剰な免疫応答を抑制します。注目すべきは「Fc領域を持たない」設計で、血栓形成リスク上昇が懸念された過去のCD40L阻害薬の課題を克服しようとしている点です。
つまり、分子設計レベルで安全性を作り込んでいるということですね。
2024年9月に発表されたグローバル第III相「PHOENYCS GO」試験では、標準治療への上乗せとして、中等症から重症のSLE患者における疾患活動性の有意な改善を示し、主要評価項目を達成しました。2025年6月にはバルセロナで開催された欧州リウマチ学会(EULAR 2025)でもデータが追加発表され、倦怠感や疾患活動性・寛解に関する二次評価項目でも改善が確認されました。
現時点でSLEの国内開発パイプラインには本剤が第III相として記載されており、国内承認申請への動きが注目されています。SLEは国内患者数が約10万人とされ(難病情報センター推計)、既存の標準治療で十分にコントロールできないケースも多いため、新たな選択肢の登場が切望されている領域です。
バイオジェンジャパン:dapirolizumab pegolのSLE第III相試験データ、EULAR 2025での発表内容
医療従事者の間で「UCBといえばてんかん薬の会社」というイメージはいまだ根強いですが、その認識のままでいると、今後の診療連携や情報収集で重要な情報を見落とすリスクがあります。
厳しいところですね。
UCBのかつての主力品であるイーケプラ(レベチラセタム)は、後発医薬品の参入により2022年に売上が前年比42.1%減の395億円と急落しました。ビムパット(ラコサミド)についても第一三共との販売提携を終了し、UCBジャパンへの移管が進んでいます。2024年8月に発売されたブリィビアクト(ブリーバラセタム)は、部分発作を対象に国内8年ぶりとなる新たな抗てんかん薬で、ピーク時売上高178億円・48,000人の患者数を見込んでいますが、これが「てんかん領域の次の主役」です。
一方、ブリィビアクト発売以降に新たなてんかん新薬が登場するまでの間、UCBの成長を支えるのは免疫炎症・希少疾患・神経変性疾患のパイプラインです。
研究開発費は売上高の約30%という非常に高い比率を維持しており、UCBが「いかに未来への投資を優先しているか」が数字に表れています。世界の外資系製薬企業ランキングでUCBは19位(売上高約1.0兆円・円換算)に位置しますが、研究開発への集中投資という戦略は大手製薬企業と遜色ありません。
医療従事者として現在のUCBパイプラインを把握しておくことは、乾癬・重症筋無力症・SLE・てんかん・アルツハイマー病など幅広い領域の将来の治療選択肢を先取りすることに直結します。特に担当する患者さんが複数領域にまたがる疾患を持つ場合、早期から治験情報や適応拡大のタイムラインを把握しておくことで、適切なタイミングでの治療変更を検討できます。
UCBジャパンが公式に最新パイプラインをPDFで公開しており、定期的な更新が行われています。診療の合間に確認する習慣をつけることで、常に最新の開発動向を追うことが可能です。
ユーシービージャパン 公式:開発パイプラインPDF(2025年7月7日更新版)国内外の開発段階と適応症が一覧で確認できます