登録申請が完了していても、本登録まで約3カ月は処方・調剤できないことがあります。

コンサータ(メチルフェニデート塩酸塩徐放錠)は、注意欠陥・多動症(ADHD)の治療に用いられる第1種向精神薬です。中枢刺激薬であるため、不正使用や乱用につながるリスクが他の薬剤より格段に高く、厳格な流通管理が必要とされてきました。
2019年以前も一定の流通管理は存在していましたが、転機となったのは同年12月に承認されたビバンセ®カプセル(リスデキサンフェタミンメシル酸塩)の承認申請プロセスです。この過程でコンサータの不正使用実態が改めて問題視され、厚生労働省は2019年9月4日付けで新たな適正流通管理体制への移行を指示する通知を発出しました。
新システム「ADHD適正流通管理システム」は2019年12月2日に稼働を開始し、2020年7月以降は本格運用に移行しています。これにより、医師・薬局(薬剤師)に加えて患者本人も登録対象となり、重複投与や不正流通を一元管理する仕組みが構築されました。つまり登録制です。
⚠️ SNSを経由した二重処方や第三者への譲渡が問題化したことが、新システム導入の直接的な引き金となりました。システムは医師・薬局・患者の3者を網羅的に管理することで、処方・調剤の全履歴をリアルタイムで把握できるようになっています。
対象薬剤は以下の2品目です。
| 薬剤名 | 規格 | 法的区分 |
|---|---|---|
| コンサータ® 錠 | 18mg・27mg・36mg | 第1種向精神薬 |
| ビバンセ® カプセル | 20mg・30mg | 覚せい剤原料 |
ストラテラ®(アトモキセチン)やインチュニブ®(グアンファシン)はADHD治療薬ですが、ADHD適正流通管理システムの対象外である点は現場で意外と混同されやすいため、注意が必要です。
参考:厚生労働省が2019年に発出した流通管理変更通知の全文です。
厚生労働省|メチルフェニデート塩酸塩製剤(コンサータ錠)の使用にあたっての留意事項について
登録医師として認定されるには、以下の【1】から【5】すべての要件を同時に満たす必要があります。要件を一つでも欠くと登録申請が受理されません。これが基本です。
【1】専門医資格+学会員資格の両立
日本精神神経学会または日本小児科学会の専門医であることが必須です。さらに、以下6学会のうち少なくとも1学会の会員であることも求められます。
- 日本児童青年精神医学会
- 日本小児神経学会
- 日本神経精神薬理学会
- 日本小児精神神経学会
- 日本小児心身医学会
- 日本臨床精神神経薬理学会
- 日本ADHD学会
なお、この「専門医+学会員」の両立ができない場合でも、すでに登録されている基準Aを満たす医師2名以上から「ADHDの診断・治療に精通している」と推薦を受ければ、基準Bとして登録申請することができます。基準Bはいわば救済ルートと言えます。
【2】Eラーニング受講とテスト合格
登録システム上のEラーニングを受講し、受講後のテストで理解が確認された医師である必要があります。内容にはADHDの疾患概要、適正流通管理体制の仕組み、メチルフェニデートの薬物特性が含まれています。
【3】症例報告2例以上の提出または論文の執筆
ADHDの症例報告を2例以上提出するか、ADHDに関する公表論文の執筆歴があることが求められます。これは非常に重要な条件で、臨床実績の少ない若手医師や、ADHDを中心に診ていない精神科医にとっては登録申請の大きなハードルになることがあります。
【4】登録取消の履歴がないこと
過去に登録システムで取消処分を受けた医師は再登録できません。コンプライアンス違反があった場合に適用されます。
【5】登録医師リストへの掲載と公表への同意
登録医師の氏名・所属医療機関の名称・住所・電話番号は登録システム上で公表されます。この公表への同意なしには登録申請事項確認書兼同意書(医師用)への署名ができません。登録取消になったとしても掲載がある程度残る場合があるため、この同意の重みは軽視できません。
また、登録は一度取得すれば永続するわけではなく、定期的な更新が義務付けられています。更新を怠ると処方資格が失効するリスクがあります。忘れずに更新が必要です。
参考:登録医師の具体的な審査基準と適正流通管理体制の全体像が解説されています。
日本医学放送協会|ADHD治療薬 適正流通管理システムについて(関西医科大学 石﨑優子教授)
薬局がコンサータを取り扱うには、調剤責任者となる薬剤師の登録と薬局自体の登録の双方が必要です。手順を正確に把握しておかないと、患者が処方箋を持参した際に対応できない事態が起こります。
登録申請の全体フロー
1. ADHD適正流通管理システムのWebサイトにアクセスし、新規申請を開始
2. 薬剤師・所属施設情報を入力する
3. Eラーニング(ADHDの疾患概要、依存リスク、調剤確認手順などが内容)を受講し、受講後テストに合格する
4. 登録申請事項確認書兼同意書(調剤責任者・薬局用)を施設責任者とともに署名のうえ提出
5. 事務局が審査を行い、通過した薬剤師が「登録調剤責任者」として登録、薬局も同時登録される
「仮登録」が下りた時点からコンサータ・ビバンセの購入および調剤が可能になります。ただし「本登録」の完了はおよそ申請から3カ月後です。したがって仮登録と本登録は別物です。
実務上で特に注意が必要なのが以下の3点です。
① 調剤責任者は原則として管理薬剤師1名のみ
1施設で登録できる調剤責任者は原則1名です。管理薬剤師が退職や異動で変わった場合は速やかに変更登録を行う必要があります。前任者の取消申請と新任者の新規申請を並行で行わないと、一時的にコンサータの取り扱いができなくなります。これは業務上の大きなリスクです。
② 審査完了まで処方箋の有効期限切れが発生する可能性
コンサータの処方箋有効期限は発行日を含む4日間です。未登録の薬局が急きょ処方箋を受け取っても、その場で審査が完了することはありません。新規申請には数日の審査期間が必要であり、処方箋の有効期限内に調剤が間に合わないケースが実際に発生しています。急な患者対応に備えて、事前の登録が欠かせません。
③ 薬局間の譲渡・譲受は完全禁止
グループ薬局間も含めて、コンサータ・ビバンセの薬局間での在庫の融通は一切できません。これはリタリン® と同様のルールです。在庫不足が起きた場合でも、卸売業者経由での補充しか認められていません。
参考:薬局側の登録方法と調剤実務の流れを初めて対応する薬剤師向けにわかりやすく解説したページです。
ファーマシスタ|コンサータの処方箋を初めて調剤する薬局での登録方法
登録調剤責任者として登録が完了しても、実際の調剤時には毎回6つの確認事項をシステム上で実施する義務があります。1つでも確認ができなかった場合は、原則として調剤を行わずシステム事務局に報告する必要があります。
調剤時の確認フロー(ステップ順)
まず患者が来局した段階で、3点セットを揃えているかを確認します。
| 必要書類 | 備考 |
|---|---|
| 処方箋 | 有効期限4日以内のもの |
| 患者カード | ID番号が記載されたもの |
| 身分証明書 | 顔写真付き1点、または顔写真なし2点 |
小児の場合は、本人の身分証明書(保険証など)に加えて代諾者の身分証明書(運転免許証など)を組み合わせることが認められています。なお、母子手帳や社員証、マイナンバー通知カード(番号通知カード)は身分証明書として使用できません。
3点セットを確認した後、登録システムにアクセスして以下の6点を確認します。
1. 処方箋が真正であること
2. 当該処方箋で調剤済みでないこと
3. 処方箋・患者カード・身分証明書の3点を患者が持参していること
4. 処方医師と処方箋発行医療機関が登録システムに登録されていること
5. 患者カードのID番号から得られた患者情報と身分証明書の情報が一致していること
6. 重複投与でなく、かつ不適正使用の可能性がないこと
すべてが確認できたら調剤内容を登録システムに入力し、調剤と服薬指導を行って交付します。確認できない事項があった場合は、疑義照会を行い、ADHD適正流通管理システム事務局へ報告する流れになります。
患者カードを紛失した場合は、「修正」欄から再発行申請が可能です。再発行するとID番号が変更されるため、旧ID番号が記載された患者カードは使用できなくなります。ID番号は診療録に記録を残しておくことが推奨されます。診療録への記録が原則です。
一般にあまり知られていない点として、ADHD適正流通管理システムでは「重複アラート」と呼ばれる仕組みが存在します。これは、新規患者を登録する際にイニシャル・性別・生年月日が既存の登録患者と完全一致した場合に自動的に発せられるアラートです。
「同姓同名で誕生日まで一致する患者など滅多にいないはず」と思われがちですが、実際にシステムが稼働してみると予想以上の頻度でアラートが発生しているとの報告があります。
重複アラートが発生した際の対応手順は以下のとおりです。
1. 新規登録を申請した医師が、先に登録した医師に直接連絡を取る
2. 公開されている登録医師リスト(氏名・施設名・住所・電話番号)を使って連絡先を確認する
3. 患者が同一でないことを確認できた場合は、その旨をシステムに報告したうえで新規患者登録を進める
4. 患者が同一である場合は、新規申請医師が既存のID番号を入手し、過去の処方内容から不適正使用がないかを確認する
このプロセスでは、登録医師のリストが公開されていることが前提となっています。「自院の情報が公開されることに抵抗がある」という医師もいますが、重複アラートの解消のためにも公開は必要不可欠です。
また、患者登録の同意取得時には複写式の「患者登録の同意書」を使用します。医師控えは診療録に保管し、患者控えは患者または代諾者に渡します。同意書への記載事項は、患者のイニシャル・性別・生年月日のほか、「第三者から得た症状に関する情報源」(通知表、母子健康手帳、連絡帳、保護者・上司・同僚からの証言など)が含まれます。
未成年者の場合は保護者による代諾同意が必要です。初回処方時に患者カードの到着が間に合わないケースでは、「初回処方時限定ID番号記載用紙」をシステムから印刷して代用することが例外的に認められています。例外として活用できます。
適正流通管理の観点からは、医師・薬局双方が登録システムの操作に慣れておくことが不可欠です。システムのインターフェース自体がやや直感的でない部分もあるため(例:確認後の「履歴」ボタンが実質的な確認完了ボタンとして機能する点など)、事前の模擬操作確認をしておくと実務でのミスを防げます。
参考:患者カード紛失時の再発行手順やシステム操作の実際を詳述した精神科医によるブログ記事です。
kyupinの日記|コンサータ患者カード紛失の話(現場医師による実録)
参考:ADHD適正流通管理システムの公式ページです(登録申請はこちらから)。
ADHD適正流通管理システム|公式サイト(登録・申請ページ)