出荷停止と聞いて「しばらく待てばまた使えるはず」と考えているなら、今すぐその認識を改めてください。

ワンデュロパッチ(一般名:フェンタニルクエン酸塩)は、久光製薬が製造・販売するフェンタニル経皮吸収型製剤です。がん性疼痛や慢性疼痛の管理において広く使われてきた製品ですが、出荷停止・出荷調整という事態が現場に大きな混乱をもたらしています。
出荷停止の主な背景には、製造工程における品質管理上の問題が挙げられます。製薬業界全体でGMP(医薬品製造管理および品質管理に関する基準)への対応強化が求められており、製造ラインの改修や製造所の再審査が必要となるケースが増えています。ワンデュロパッチについても、こうした製造上の課題が供給に直接影響したとされています。
重要なのは、出荷停止には「全量停止」と「一部規格の停止・調整」という2種類があることです。全規格が一時的に供給停止となるケースもあれば、特定の含量規格(例:2.1mg製剤のみ)の供給が優先されるケースもあります。つまり現場での確認が必須です。
日本ジェネリック製薬協会や各製薬会社のサイトでは、出荷停止・出荷調整に関する最新情報が随時更新されています。医薬品の供給情報を一元管理している「医薬品医療機器情報提供ホームページ(PMDA)」も定期的にチェックする習慣が求められます。
情報の把握が遅れると、患者への処方変更の説明が後手に回り、疼痛コントロールの空白期間が生じるリスクがあります。これは痛みのある患者にとって、直接的なQOLの低下につながります。
PMDA(医薬品医療機器総合機構):医薬品の安全情報・供給情報ページ
ワンデュロパッチが使えない状況で、真っ先に検討されるのが同じフェンタニル経皮吸収型製剤への切り替えです。国内で使用可能な主な代替候補としては、デュロテップMTパッチ(ヤンセンファーマ)、フェントステープ(久光製薬・大塚製薬)、ラフェンタテープ(帝國製薬)などがあります。
ただし、これらの製品は「同じフェンタニル貼付剤」であっても、貼付交換間隔・含量・吸収特性が異なります。たとえばデュロテップMTパッチは72時間(3日)貼付が基本であるのに対し、フェントステープやワンデュロパッチは24時間(1日)交換です。この違いを見落としたまま切り替えると、過量投与または効果不足が生じる可能性があります。
切り替え時の換算には注意が必要です。たとえばワンデュロパッチ2.1mgからデュロテップMTパッチへ変更する場合、単純に「含量が3倍だから1/3の量」とはなりません。製品間の換算表は各製品の添付文書または製薬会社提供の用量換算ガイドを必ず参照してください。換算の目安だけで処方変更するのは危険です。
また、同じ「フェンタニル貼付剤」でも麻薬処方箋のルールは変わりません。処方変更に際しては麻薬処方箋の再発行が必要であり、患者への説明と同意取得も必須のプロセスです。これが基本です。
現場での混乱を防ぐため、院内の薬剤師と事前に連携し、切り替え候補と在庫状況を共有しておくことが現実的な対応策として有効です。
ヤンセンファーマ:デュロテップMTパッチ 医療関係者向け製品情報(用量換算の参考に)
出荷停止は医療従事者側の問題にとどまらず、患者の日常生活に直接的な影響を及ぼします。特にがん性疼痛や非がん性慢性疼痛を抱える患者にとって、貼付剤の変更は「薬が変わる」という事実以上の不安要素を生みます。
患者が感じる最も大きな不安は、「今と同じように痛みが抑えられるかどうか」という点です。貼付剤を変えることで皮膚への密着感・交換頻度・副作用プロファイルが変化するため、慣れ親しんだ製品からの変更は少なからずストレスを与えます。これは見過ごせない点ですね。
切り替え後に特に注意が必要なのは、変更直後の72時間以内の過剰鎮静・呼吸抑制リスクです。フェンタニルのTmax(最高血中濃度到達時間)は製品によって異なり、血中濃度の立ち上がりが早い製品に変えた場合、眠気・嘔気・呼吸数の低下が見られることがあります。変更後48〜72時間は特に観察が重要です。
患者への説明においては「同じ成分の薬です」という一言だけでは不十分です。「交換するタイミングが変わります」「最初の数日は体が慣れるまで様子を見てください」という具体的な情報提供が、患者の不安軽減と安全管理の両方に寄与します。
在宅療養中の患者の場合は、訪問看護師や薬剤師とも情報を共有し、変更後の観察を多職種で連携して行う体制を整えることが求められます。
出荷停止が起きたとき、多くの医療従事者が意識するのは「どの薬に変えるか」という代替薬の問題です。しかし同時に見落とされがちなのが、麻薬に関する法的・手続き的な対応です。これは盲点になりやすいです。
ワンデュロパッチは麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)の規制を受ける麻薬であり、在庫管理・廃棄・処方変更には厳密なルールが存在します。出荷停止に伴って在庫が尽きた場合でも、残薬の廃棄には立会人が必要であり、麻薬帳簿への記録義務も継続します。
処方変更においても注意が必要です。既存の麻薬処方箋は「ワンデュロパッチ」と製品名が記載されているため、代替製品に切り替える際は新たな麻薬処方箋を発行しなければなりません。電子処方箋が導入されている施設でも、この点は同様です。麻薬処方箋の書き換えは禁止されています。
さらに、病院薬剤部・調剤薬局間での「在庫融通」についても注意が必要です。医療機関間で麻薬を譲渡することは、原則として麻向法上禁止されています。「在庫があるから分けてあげる」という善意の行為が法令違反になるケースがあります。これが原則です。
都道府県の麻薬取締員や薬務課への相談窓口は、緊急時の対応指針を提供しています。供給不足が長期化する場合には、早期に行政への相談を検討することも選択肢の一つです。
厚生労働省:麻薬・向精神薬に関する法規情報(医療機関向け)
出荷停止が「一時的なもの」で終わらず、数週間〜数ヶ月単位で長引くケースも現実にあります。そのような状況に備えた現場マネジメントの視点は、多くの施設でまだ整備が不十分です。
まず医師・薬剤師が協力して行うべきことは、院内でワンデュロパッチを使用している患者の全リストアップです。病棟・外来・在宅を含めたすべての処方患者を把握し、それぞれの切り替え優先度と代替薬候補を検討します。患者数が多い施設では、この作業だけで数日かかることもあります。
次に重要なのが、院内での代替薬の在庫確保です。フェントステープやデュロテップMTパッチについても、現在の在庫量と発注リードタイムを確認しておく必要があります。「代替薬も不足していた」という事態は実際に発生しており、特定の含量規格に需要が集中することで代替薬まで供給逼迫になるケースがあります。
また、出荷停止情報を定期的に収集するルートを院内で確立することも重要です。製薬会社のMRからの情報・PMDAの安全情報・日本病院薬剤師会の通知などを一元的に受け取れる体制が理想的です。情報が属人的になっているとリスクが高まります。
長期化が見込まれる場合は、疼痛専門医や緩和ケアチームとの連携を強化し、必要に応じてオピオイドローテーションの方針を施設全体で統一することが現場の混乱を最小化する方法として有効です。
患者・家族への継続的な情報提供も欠かせません。「薬が変わった理由」を丁寧に説明することで、医療不信を防ぎ、治療継続への協力を得やすくなります。情報提供が信頼の土台です。
現場の対応力を高めるために、医薬品リスク管理の研修や供給危機対応マニュアルの整備を定期的に見直すことも、組織としての備えとして重要です。薬剤師・医師・看護師が一体となった対応体制が、患者安全の最後の砦になります。
日本病院薬剤師会:医薬品供給情報・安全情報(薬剤師向け最新情報)