空腹時にts-1配合カプセルを飲むと、抗腫瘍効果が弱まる可能性があります。

ts-1配合カプセル(一般名:テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合カプセル剤)は、大鵬薬品工業が製造する代謝拮抗剤です。販売名は「ティーエスワン配合カプセルT20」と「ティーエスワン配合カプセルT25」の2規格があり、それぞれ1カプセルあたりのテガフール含有量が異なります。
T20はテガフール20mg・ギメラシル5.8mg・オテラシルカリウム19.6mgを含み、薬価は1カプセルあたり297.5円です。T25はテガフール25mg・ギメラシル7.25mg・オテラシルカリウム24.5mgを含み、薬価は367円/カプセルとなっています。この価格差は体表面積に応じた使い分けの場面で処方設計に影響します。
3成分それぞれに明確な役割があります。
- テガフール(FT):体内でフルオロウラシル(5-FU)に変換されるプロドラッグ。5-FUがDNA・RNAの合成を阻害することで抗腫瘍効果を発揮します。
- ギメラシル(CDHP):5-FUの異化代謝を担うジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)を阻害し、血中5-FU濃度を持続させます。5-FU単体投与と比べて約8倍もの血中濃度上昇効果があるとされています。
- オテラシルカリウム(Oxo):消化管内でのフルオロウラシルのリン酸化を抑制し、消化管毒性(下痢・口内炎)を軽減します。
この3成分の組み合わせにより、経口投与で高い抗腫瘍効果と比較的良好な消化管忍容性を実現しているのがts-1配合カプセルの特徴です。つまり、単独の5-FU静脈投与の代替として、外来での継続治療を可能にした設計だということですね。
剤形はカプセル剤のほか、顆粒剤(T20・T25)やOD錠も存在します。嚥下困難な患者や小児・高齢患者への対応では剤形の選択が重要になります。劇薬・処方箋医薬品に指定されており、取り扱いには十分な管理が必要です。
KEGGデータベース:ティーエスワン添付文書情報(2025年1月改訂第4版)用法用量・禁忌・相互作用を網羅的に確認できます
ts-1配合カプセルは、現在承認されている効能・効果が非常に幅広いことが特徴です。1999年の胃癌への初承認以降、適応がん種は段階的に拡大されてきました。2025年時点での承認適応は以下の通りです。
| がん種 | 備考 |
|---|---|
| 胃癌 | 1999年 初承認(国内初の経口フッ化ピリミジン系配合剤) |
| 結腸・直腸癌 | 大腸癌に対する標準治療選択肢の一つ |
| 頭頸部癌 | 放射線療法との併用も検討される |
| 非小細胞肺癌 | 他の抗悪性腫瘍剤との併用が多い |
| 手術不能又は再発乳癌 | 単剤・併用ともに適応あり |
| 膵癌 | ゲムシタビンとの併用(GS療法)が広く用いられる |
| 胆道癌 | 2006年追加承認 |
| ホルモン受容体陽性かつHER2陰性で再発高リスク乳癌における術後薬物療法 | 2022〜2023年に追加承認。内分泌療法剤との併用が条件 |
注目すべきは、HER2陰性・ホルモン受容体陽性の高リスク乳癌における術後薬物療法が追加されたことです。これは内分泌療法剤との併用が前提であり、単独での術後補助療法としての有効性・安全性は確立されていない点に注意が必要です。
適応に関連する注意点として、術後補助療法については頭頸部癌・非小細胞肺癌・手術不能または再発乳癌においては有効性・安全性が確立されていないことも添付文書に明記されています。これは条件付きです。
また、本剤と胸部または腹部放射線療法との併用についても有効性・安全性は確立されていません。放射線治療を並行して行っているケースでは、適応外使用にならないよう確認が必要です。
大鵬薬品工業プレスリリース:膵癌・胆道癌への効能効果追加承認の経緯(適応拡大の歴史的背景の参考として)
ts-1配合カプセルの用法・用量は、対象がん種によって「A法〜F法」の6つの投与スケジュールが設けられており、これは他の多くの抗がん剤にはない特徴です。各スケジュールの概要を以下に整理します。
| 投与法 | 連日投与期間 | 休薬期間 | 主な対象がん種 |
|---|---|---|---|
| A法 | 28日間 | 14日間 | 胃癌・結腸直腸癌・頭頸部癌・肺癌・乳癌・膵癌・胆道癌 |
| B法 | 21日間 | 14日間 | 胃癌・肺癌 |
| C法 | 14日間 | 7日間 | 胃癌・結腸直腸癌・肺癌・膵癌 |
| D法 | 14日間 | 14日間 | 結腸・直腸癌 |
| E法 | 7日間 | 7日間 | 胆道癌 |
| F法 | 14日間 | 7日間 | 胆道癌(朝夕異なる用量設定)|
投与量は体表面積(BSA)に基づいて決定します。A法〜E法の場合、BSA 1.25 m²未満では40 mg/回、1.25〜1.5 m²未満では50 mg/回、1.5 m²以上では60 mg/回が初回基準量です。最大増量は75 mg/回が上限で、1コースごとに一段階のみ増量できます。
この投与量の決め方は体重や年齢ではなく体表面積という点が重要です。臨床現場ではデュボア式やモスタラー式でBSAを算出し、それをもとに規格(T20・T25)を選択する流れになります。
服用タイミングは必ず食後(朝食後・夕食後)です。これは空腹時にオテラシルカリウムの吸収が過剰に増加し、フルオロウラシルのリン酸化を抑制しすぎることで抗腫瘍効果が弱まるためです。これは見落としがちな点ですね。「食後なら何でも同じ」と思いがちですが、服用タイミングが薬効そのものを左右する薬剤であることを患者への服薬指導でも必ず伝える必要があります。
また、治療上やむを得ず休薬期間を短縮する場合でも、最低7日間の休薬期間は確保することが求められています。ホルモン受容体陽性乳癌の術後療法では最長1年間投与するスケジュールとなっており、長期継続管理の視点が特に求められます。
日本乳癌学会:乳癌術後薬物療法におけるTS-1適正使用のお願い(Ccr減量基準・投与スケジュールの詳細が確認できます)
ts-1配合カプセルにおける禁忌と相互作用の管理は、患者の生命に直結する最重要事項です。
禁忌患者(絶対に投与してはならない)は以下の7項目です。
- 成分に対する重篤な過敏症の既往歴のある患者
- 重篤な骨髄抑制のある患者(骨髄抑制増強のおそれ)
- 重篤な腎障害のある患者(Ccr 30 mL/min 未満が目安)
- 重篤な肝障害のある患者
- 他のフッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍剤を投与中の患者
- フルシトシン(抗真菌薬)を投与中の患者
- 妊婦または妊娠している可能性のある女性
このうち特に現場で混乱が生じやすいのが、フッ化ピリミジン系薬剤との「絶対的」併用禁忌です。5-FU(フルオロウラシル)・カペシタビン(ゼローダ)・UFT(ユーエフティ)・ドキシフルリジン(フルツロン)などはすべて併用禁忌です。これらの薬剤が持つフルオロウラシルの血中濃度を、ts-1内のギメラシルがさらに上昇させることで、重篤な血液障害・消化管障害が急速に発現するリスクがあります。
重要なのはタイミングです。ts-1配合カプセルの投与中止後も、少なくとも7日間はこれらの薬剤を投与しないことが求められています。また逆方向(他のフッ化ピリミジン系薬剤投与後にts-1を開始する場合)でも、十分な間隔を空けてから開始することが必要です。
また、フルシトシン(5-FC)はフッ化ピリミジンの一種でもあることから、抗真菌薬としての使用時にも同様の血液障害リスクが発生します。抗菌・抗真菌薬の処方との重複確認が不可欠です。
併用注意薬としては、ワルファリンとの相互作用にも注意が必要で、PT-INRの延長が報告されています。また、フェニトインの血中濃度上昇による中毒症状の発現も知られており、抗てんかん薬との併用は定期的なモニタリングが必要です。
DPD(ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ)欠損または低活性の患者はごくまれに存在しますが、このような患者にフルオロウラシル系薬剤を投与した場合、投与初期から口内炎・下痢・血液障害・神経障害などの重篤な副作用が一気に現れることがあります。投与開始直後からの厳重な観察が原則です。
PMDA:TS-1適正使用のお願い(腎機能確認・フッ化ピリミジン系薬剤との併用禁忌の詳細が記載されています)
ts-1配合カプセルの最大の特徴の一つが、従来の経口フルオロウラシル系