週1回しか打たない薬なのに、月の注射回数は「4回」と数えると算定区分が変わり、請求額が数千円単位で変わります。

トルリシティ皮下注(一般名:デュラグルチド[遺伝子組換え])は、日本イーライリリー株式会社が製造販売する週1回投与のGLP-1受容体作動薬です。現在、国内では2規格が流通しています。
| 販売名 | 薬価(1キット) | 発売日 |
|---|---|---|
| トルリシティ皮下注 0.75mgアテオス | 2,749円 | 2015年9月16日 |
| トルリシティ皮下注 1.5mgアテオス | 5,498円 | 2025年7月30日 |
薬価は2規格でちょうど2倍の関係です。1.5mg製剤は2024年6月24日に製造販売承認を取得し、2025年5月21日に薬価収載、同年7月30日に発売されました。従来の0.75mgで血糖管理が不十分だった患者に向けた高用量製剤です。
3割負担の患者が0.75mgを月4回(週1回×4週)使用した場合、薬剤費の患者負担は約3,299円(2,749円×4×0.3)が目安になります。1.5mgに切り替えた場合はその2倍、約6,598円となります。薬剤費だけでもほぼ2倍になる点は、処方変更時の患者説明で触れておきたいポイントです。
国内第3相臨床試験(GBGQ試験)では、1.5mg製剤は0.75mg製剤と比較して有意に高いHbA1c低下効果を示しました(−1.53% vs −1.25%、p<0.001)。52週時のHbA1c<7.0%達成率も、1.5mg群46.3%に対し0.75mg群38.5%と差がありました。効果の違いを踏まえたうえで、薬価の差を患者と共有するのが丁寧な対応です。
つまり、薬価差=効果差に対応している製剤です。
薬価の最新情報は薬価サーチや日経メディカル医薬品情報などで随時確認できます。2026年4月1日施行の薬価改定では薬剤費ベースで▲4.02%の改定が行われており、改定後の数値は各種データベースで確認してください。
KEGGメディカスデータベース:デュラグルチド(トルリシティ)の規格・薬価一覧(最新版確認に便利)
GLP-1受容体作動薬は複数の製品が存在し、薬価・投与頻度・作用機序が異なります。処方選択の際に薬価面でのコスト比較は欠かせない視点です。以下に代表的な製品との週あたり薬価を示します。
| 製品名 | 投与頻度 | 週あたり薬価目安 |
|---|---|---|
| トルリシティ 0.75mg | 週1回 | 約2,749円 |
| トルリシティ 1.5mg | 週1回 | 約5,498円 |
| オゼンピック 0.5mg | 週1回 | 約3,879円(参考) |
| マンジャロ 2.5mg | 週1回 | 約3,850円(参考) |
※薬価は改定時期によって変動します。最新の薬価は各データベースで確認ください。
これは重要です。トルリシティ0.75mgは、同じ週1回製剤の中で比較的薬価が低い位置づけになります。医療費の最適化を考える場面や、患者から「できるだけ費用を抑えたい」と相談を受けたときに参考にできるデータです。
一方で、GIP/GLP-1受容体作動薬であるマンジャロ(チルゼパチド)は体重減少効果や血糖降下効果がトルリシティを上回るとされる臨床データもあります。薬価だけで選択するのではなく、患者の合併症リスクや体重管理の優先度、消化器症状の耐容性なども踏まえた上での処方選択が求められます。
また、GLP-1受容体作動薬は自由診療として使用される場面も増えています。自由診療では同じ製品でも医療機関によって価格が大きく異なるため(月2万円以上になるケースも)、患者が「保険で使えますか」と確認してくる機会は今後も増えると見込まれます。
薬価比較に加えて、週1回製剤の在宅自己注射管理料との合計コストを試算して示せると、患者の納得感が高まります。
ミクスオンライン:トルリシティ皮下注1.5mg発売(薬価・位置づけ詳報)
トルリシティは週1回の皮下注製剤であり、在宅自己注射指導管理料(C101)の算定対象薬剤に該当します。ここが算定ミスの起きやすいポイントです。
在宅自己注射指導管理料の点数区分は以下の通りです。
| 区分 | 点数 |
|---|---|
| 間歇注入シリンジポンプ(複雑な場合) | 1,230点 |
| 月27回以下 | 650点 |
| 月28回以上 | 750点 |
週1回投与のトルリシティを月4本処方した場合、注射回数は「月4回」となり、「月27回以下:650点」での算定になります。この点はシンプルに見えますが、インスリン製剤と併用している患者では注意が必要です。
例えば、1日1回のインスリンとトルリシティを同時に使用している患者の場合、その月の合計注射回数はインスリン分(日数×1回)+トルリシティ分(週1回×本数)を合計して判定します。月途中でトルリシティを開始した場合や、インスリンの用量変更があった場合は、前回受診日からの指示回数を正確にカウントする必要があります。回数カウントが原因で算定区分を誤るケースは現場でよく見られます。
さらに重要な点として、トルリシティ単独処方患者への血糖自己測定器加算(C150)は、原則として算定対象外です。C150はインスリン製剤またはヒトGLP-1アナログ(リラグルチド等)使用患者が主な対象であり、デュラグルチド単独の患者への算定は保険審査で返戻リスクがあります。施設内で確認が必要です。
算定の条件が条件です。在宅自己注射指導管理料は暦月1回のみ算定可能なので、同月内に複数回算定できない点も基本ルールとして押さえておきましょう。
今日の臨床サポート:C101在宅自己注射指導管理料の詳細算定要件(医療従事者向け)
新薬が薬価収載された後、原則として1年間は14日分を超える処方ができない「新薬の14日処方制限」というルールがあります。医療従事者の中には「1.5mg製剤も14日制限の対象では?」と思い込んでいる方がいますが、これは誤りです。
トルリシティ皮下注1.5mgアテオスは、薬機法上の「新医薬品」として再審査の対象となる品目ではないため、14日処方制限の対象外です。0.75mg製剤の剤形追加として承認された製品であり、既存成分の高用量製剤という位置づけになります。制限なし、が原則です。
この点を正確に理解していないと、28日分以上の処方が可能な患者に対して不必要に処方日数を制限してしまうことになります。患者が毎月来院する負担が増え、アドヒアランスにも悪影響を及ぼす可能性があります。
また、薬価算定上の観点から言えば、0.75mgから1.5mgへの増量時には在宅自己注射指導管理料の「導入初期加算」が関係する場面もあります。同一成分の用量変更であっても、0.75mgから1.5mgへの切り替えが「新たな薬剤の追加」に該当するかどうかは施設の判断が分かれるケースがあるため、疑義が生じた場合は厚生局への確認を推奨します。
週1回製剤の特性上、28日分(4キット)の一括処方がもっとも合理的なパターンです。処方日数の最適化と薬剤費の患者負担の関係を、外来担当医と薬剤師が連携して調整する仕組みを整えておくことが、長期的な治療継続につながります。
日本イーライリリー医療関係者向けサイト:トルリシティ1.5mgと14日処方制限の関係(公式Q&A)
薬価の「安い・高い」だけで処方の優劣を論じるのは危険です。トルリシティ(デュラグルチド)には、薬価に見合うだけの堅固なアウトカムエビデンスが存在します。
REWIND試験は、GLP-1受容体作動薬のCVOT(心血管アウトカム試験)の中でも最長の観察期間(中央値5.4年)を持つ試験です。50歳以上で心血管リスク因子を持つ約9,900例の2型糖尿病患者を対象とし、デュラグルチドは主要心血管イベント(MACE:非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、心血管死)を有意に12%抑制しました(HR 0.88、95%CI 0.79–0.99、p=0.026)。さらに注目すべきは、心血管疾患の既往を持たない一次予防集団も対象に含まれていた点です。
1日あたりの薬価に換算すると、トルリシティ0.75mgは約393円(2,749円÷7日)です。これはたとえると、コンビニのコーヒー1杯よりも安い金額で週1回の心血管保護効果と血糖管理を得られる計算になります。
腎保護効果についても同試験の二次解析で示されており、Stage3/4のCKD合併患者でもeGFRの低下が緩徐になる傾向が報告されました。糖尿病性腎症を有する患者への処方を検討する際、薬価と得られる保護効果のバランスは十分に見合うと言えます。
ただし、エビデンスは基本的に0.75mgに基づくものが中心です。1.5mgについては国内試験でのHbA1c低下の優位性が示されているものの、長期の心血管アウトカムデータはまだ蓄積途上にあります。この点は1.5mgを選択する際のインフォームドコンセントにも関係するため、医師・薬剤師ともに把握しておく価値があります。
エビデンスが原則です。薬価の評価はコストと得られる臨床転帰を組み合わせて判断する視点が、医療従事者には求められます。
糖尿病リソースガイド:REWIND試験の詳細レポート(心血管・腎アウトカムの解説)