トレオスルファンの日本での承認状況と移植前処置の最新エビデンス

トレオスルファンは欧州・米国ですでに承認された造血幹細胞移植の前処置薬ですが、日本では現在フェーズI/II試験が進行中です。最新エビデンスや安全性プロファイルを知っていますか?

トレオスルファンの日本での承認と同種造血幹細胞移植前処置への展望

ブスルファンを使い続けているあなたの患者、広範囲慢性GVHDが28%の確率で起きています。


🔬 この記事の3つのポイント
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欧州では2019年、米国では2025年に承認済み

トレオスルファン(商品名:Trecondi)はEUで2019年6月に承認。米FDAも2025年1月21日に承認。日本では2023年にオーファン指定を取得し、現在フェーズI/II試験が進行中です。

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ブスルファン比較で24ヵ月EFS 65% vs 53%

第3相MC-FludT.14/L試験でトレオスルファン+フルダラビンはブスルファン+フルダラビンに対し、AML患者の24ヵ月無イベント生存期間を有意に改善(p=0.01)。

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慢性GVHD発現率 15.1% vs 28.1%(ブスルファン比)

広範囲慢性GVHDの累積発現率がブスルファン群の約半分という安全性データが示されています。肝中心静脈閉塞症(HSOS)発症率も約2% vs 10%と大幅に低減されています。


トレオスルファンとは何か:作用機序と日本における位置づけ



トレオスルファンはアルキル化剤に分類される抗悪性腫瘍薬で、化学式はC₆H₁₄O₈S₂(分子量278.31)です。ブスルファンのアナログ化合物として開発された経緯があり、体内でエポキシドへと自発的に変換されることで活性化します。このエポキシド体が、迅速に増殖する細胞(特に骨髄系細胞)のDNAに結合し、二本鎖DNA架橋形成によって細胞死を誘導します。つまり骨髄破壊・免疫抑制・抗腫瘍の3つの効果を兼ね備えているということですね。


同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)における前処置薬として、欧州ではTrecondiの商標名で広く使用されています。国際的な位置づけとしては、WHO ATCコードL01AB02に分類されており、IARC発がん性リスク一覧のグループ1(ヒトに対する発がん性が確実)に属しています。これはブスルファンも同様の分類であり、強力なアルキル化薬に共通する特徴です。


日本では2023年9月15日、日本メダック株式会社が「同種造血幹細胞移植の前治療」を予定効能としてオーファン(希少疾病用医薬品)指定を取得しました。これが基本です。厚生労働省から日本語のJAN(一般的名称)として「トレオスルファン」が正式登録されたのは2025年3月27日(令和7年医薬薬審発0327第6号)のことで、日本の医薬品開発上の正式名称が確立されたことを意味します。


日本メダック プレスリリース:Treosulfanのオーファン指定取得(2023年9月)


現在日本では、日本メダック株式会社が主導するフェーズI/II試験(jRCT登録番号:jRCT2031240305)が2025年1月より症例登録を開始しており、2026年8月31日までの実施が予定されています。登録予定症例数は36例で、50歳以上またはHCT-CIスコア2超の造血器腫瘍患者が対象となっています。


トレオスルファンの日本国内フェーズI/II試験:対象患者と評価項目

日本国内で現在進行中のトレオスルファン臨床試験(jRCT2031240305)は、2段階設計(ステージ1+ステージ2)を採用しています。これは医薬品開発上、合理的なアプローチです。


ステージ1では用量制限毒性(DLT)の評価が主たる目的で、Day -4のtreosulfan投与開始からDay +28までの安全性と忍容性を検討します。ステージ2では好中球生着(末梢血中の好中球絶対数が3日連続で0.5×10⁹/Lを超えた最初の日)までの期間を主要評価項目として有効性を確認します。


対象患者の選択基準は以下の点が重要です。


- 疾患種別:AML、MDS、ALL、CML、ホジキンリンパ腫(HL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)の初回allo-HSCT適格患者
- 年齢・リスク層:18〜70歳、かつ移植時50歳以上またはHCT-CIスコア2超(標準的前処置のリスクが高い患者)
- Performance status:Karnofsky Index 60%以上
- ドナー条件:適合血縁ドナー(MRD)または適合非血縁ドナー(MUD)


投与レジメンはグローバル第3相試験と同様で、treosulfan 10 g/m²を1日1回2時間かけてDay -4、-3、-2の3日間連続静注し、フルダラビン30 mg/m²をDay -6からDay -2の5日間連続投与するというスケジュールです。Day 0にallo-HSCTを実施する形となります。


この試験設計で特に注目すべき点は、50歳以上または高いHCT-CIスコアを持つ患者を対象としていることです。欧州でのエビデンスが「ハイリスク高齢患者」において蓄積されていることと一致しています。意外ですね、とは言えませんが、これは非常に戦略的な患者選択です。


jRCT(臨床研究等提出・公開システム):トレオスルファン国内フェーズI/II試験詳細


除外基準としては心機能障害(NYHA分類II以上の心不全、不整脈、QRS幅120ms超の脚ブロックなど)、間質性肺疾患の既往、胸腹水(1L超)、過去のallo-HSCT施行歴、treosulfan/フルダラビンへの過敏症などが設定されています。プロトコールの管理上これらの除外基準を事前に確認しておくことが必須です。


第3相MC-FludT.14/L試験:ブスルファンとのエビデンス比較

トレオスルファンの有効性を語る上で外せないのが、ランダム化アクティブコントロール試験であるMC-FludT.14/L試験(NCT00822393)です。この大規模な第3相比較試験は、allo-HSCTの前処置としてトレオスルファン+フルダラビン対ブスルファン+フルダラビンの優劣を18〜70歳のAML/MDS患者570例で検証しました。


全生存期間(OS)の結果について、ランダム化集団でのOS ハザード比は0.67(95%CI:0.51〜0.90)であり、トレオスルファン群で有意な生存延長が示されました。これは全体の死亡リスクが33%低減するという意味です。


さらに直近のサブグループ解析(Haematologica誌2026年1月29日号掲載)では、31〜70歳のAML患者352例において以下の結果が確認されています。


| 評価項目 | トレオスルファン群 | ブスルファン群 | p値 |
|---|---|---|---|
| 24ヵ月 EFS | 65% | 53% | 0.01 |
| 24ヵ月 広範囲慢性GVHD | 15.1% | 28.1% | 0.01 |
| 全生存率(OS) | 有意に改善 | 対照 | 有意差あり |


これが重要なデータです。特に広範囲慢性GVHDの発現率が約半分まで抑制されている点は、患者のQOLと長期管理コストに直接影響します。慢性GVHDで苦しむ患者が2割以上の割合で減るわけですから、その臨床意義は非常に大きいと言えます。


小児領域の試験では、血液がんを抱える70例の小児を対象とした研究で、トレオスルファン+フルダラビン投与後の移植後3ヵ月生存率が99%であることも示されています。小児・成人双方でのエビデンスが蓄積されているわけです。


CareNet Academia:AML患者のトレオスルファン前処置、24ヵ月EFS延長(Haematologica 2026年)


主な副作用(20%以上)は筋骨格痛、口内炎、発熱、悪心、浮腫、感染、嘔吐です。選択されたグレード3または4の非血液学的異常としては、GGT上昇、ビリルビン上昇、ALT/AST上昇、クレアチニン上昇が挙げられます。ブスルファンで問題になりやすい肝中心静脈閉塞症(HSOS)の発症率も、小児対象の試験でトレオスルファン群約2% vs ブスルファン群10%と大幅に低減されています。


欧州・米国の承認状況と日本との乖離:ドラッグラグの現状

グローバルな承認状況を整理すると、欧州(EU)では2019年6月に欧州委員会がTrecondiとして承認し、さらに2004年2月には希少疾病用医薬品指定(EU/3/04/186)を受けていた歴史があります。これは20年以上前のことです。


米国では2025年1月21日、FDAがGrafapex(medac GmbH)としてトレオスルファン+フルダラビンを1歳以上のAMLまたはMDS患者に対するallo-HSCT前処置として承認しました。承認の根拠となったのは前述のMC-FludT.14/L試験のデータです。


日本では現時点(2026年3月)で未承認の状態が続いています。2023年のオーファン指定取得からフェーズI/II試験開始(2025年1月)という流れは着実ですが、一方で欧米との承認格差は約5〜7年に及ぶ見込みです。この「ドラッグラグ」は臨床現場にとって無視できない問題です。


欧州医薬品庁(EMA)のガイドライン(The EBMT Handbook: 13 Conditioning 2024)においては、Flu/Treo(トレオスルファン+フルダラビン)レジメンはRIC(強度減弱前処置)/RTC(毒性減弱前処置)として標準レジメンの一つに位置づけられています。米国のUpToDateでも同様にFlu/Treoが推奨レジメンとして記載されています。


つまり海外の造血幹細胞移植ガイドラインにおいて既に標準治療オプションとして確立されているにもかかわらず、日本の患者はこのオプションを通常の保険診療では利用できない状況です。これが原則です。


日本においてトレオスルファンが適用できる可能性があるとすれば、現時点では上記の治験参加のみとなります。対象施設や参加条件については日本メダック株式会社(TEL: 03-6661-6270)または治験実施医療機関への問い合わせが必要となります。


CancerIT:米FDA、AML/MDSでのallo-HSCTの前処置としてトレオスルファン+フルダラビンを承認(2025年2月)


トレオスルファン前処置における日本独自の視点:MRD陽性患者への対応と今後の展望

ここからはあまり国内では取り上げられていない視点を提示します。トレオスルファン+フルダラビン前処置の実臨床データ(RWD)において、移植前のMRD(微小残存病変)陽性がアウトカムに与える影響は依然として議論中であることが、2025年10月発表のリアルワールドデータ解析(102例対象)で示されています。


この解析では、トレオスルファンベースの前処置療法は高齢または合併症を有するAML患者の寛解期において、実臨床でも有効性が維持されることが確認されています。一方で、MRD陽性の患者に対して前処置薬の選択のみで転帰を改善できるかは未解明な部分が残っています。移植前MRD陰性化を目指した治療戦略と組み合わせることが条件です。


日本固有の課題として、HLA適合ドナーが見つかりやすい遺伝的背景、非血縁骨髄移植の高い成績(血縁者間・非血縁者間移植後5年生存率が60〜65%と欧米より良好な傾向)があります。こうした特徴を踏まえたうえで、トレオスルファン前処置の「日本人患者における最適レジメン」を探索することが、現在進行中のフェーズI/II試験の重要な使命です。


特に、国内フェーズI/II試験では薬物動態(PK)データの取得も目的に含まれており、人種差・体型差によるPKプロファイルの違いを確認する点は大きな意義を持ちます。欧米の試験データをそのまま日本人に外挿できるかどうかは慎重に検証すべき問題で、これは無視できない点ですね。


また造血器腫瘍の診療では、AML/MDS以外の疾患(ALL、CML、悪性リンパ腫など)でも移植前処置が必要となる場合があります。日本の治験ではこれら複数の疾患種が対象に含まれており、適応拡大に向けた日本国内データの蓄積という点でも注目に値します。


将来的には、トレオスルファンの日本での承認後、保険診療における使用が可能になれば、これまでブスルファンの肝毒性や神経毒性リスクが高いと判断されていた高齢・高リスク患者に対して、移植適応の幅が広がる可能性があります。これは使えそうな知見です。


日本造血・免疫細胞療法学会では年間5,500件超の造血幹細胞移植が実施されており、その中でフェーズI/II試験の完了後、申請・審査・承認という行政プロセスを経ると日本でのトレオスルファン承認は早くても2027〜2028年頃と見込まれます。医療機関として今から情報収集と体制整備を進めておくことが、患者への迅速な提供につながります。


CareNet Academia:トレオスルファン前処置・AML患者の移植前MRD陽性の影響(リアルワールドデータ解析 2025年10月)








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