トレドミン錠を「SSRIと同じ感覚」で管理すると、ノルアドレナリン系の副作用見落としで患者に重大な血圧変動を招くことがあります。

トレドミン錠の主成分はミルナシプラン塩酸塩(milnacipran hydrochloride)です。日本ではアステラス製薬(旧山之内製薬)が製造・販売しており、1999年7月に国内で承認された、国産SNRIの先駆け的な存在となっています。
剤形は15mg錠・25mg錠の2規格があります。1日2回の分2投与が基本となっており、食後服用が推奨されています。半減期は約8時間とされており、1日2回の投与スケジュールはこの薬物動態を根拠にしています。
国内での適応症は「うつ病・うつ状態」のみです。後発品(ジェネリック)も複数のメーカーから発売されており、薬局での代替調剤も広く行われています。
つまり、トレドミン錠は「国産初のSNRI」という歴史的背景を持つ薬です。
なお、海外(特に米国・欧州)ではミルナシプランの類似化合物であるレボミルナシプラン(levomilnacipran)が異なる商品名で使用されており、トレドミン錠そのものとは別の薬として区別する必要があります。医療従事者として情報を参照する際、海外論文の「milnacipran」がトレドミン錠に相当するか、剤形・用量の違いを確認することが重要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 一般名 | ミルナシプラン塩酸塩 |
| 薬効分類 | SNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬) |
| 規格 | 15mg錠・25mg錠 |
| 通常用量 | 1日50~100mg(分2) |
| 最大用量 | 1日200mg(高齢者は1日50mg) |
| 国内承認年 | 1999年7月 |
| 国内適応 | うつ病・うつ状態 |
トレドミン錠(ミルナシプラン)は、シナプス前膜においてセロトニントランスポーター(SERT)とノルアドレナリントランスポーター(NET)の両方を阻害することで、シナプス間隙のセロトニン濃度とノルアドレナリン濃度を高めます。これが抗うつ作用の中心的なメカニズムです。
他のSNRIであるベンラファキシン(イフェクサー)やデュロキセチン(サインバルタ)と比較した場合、ミルナシプランはノルアドレナリン再取り込み阻害作用がセロトニン再取り込み阻害作用よりも相対的に強いという特徴があります。
これは重要な点です。
ノルアドレナリン作用が強い分、集中力・意欲・エネルギーの改善に期待ができる一方で、血圧上昇・頻脈・発汗増加・排尿困難といった交感神経系の副作用が出やすい傾向もあります。
また、トレドミン錠は他の多くの抗うつ薬と異なり、ムスカリン受容体・ヒスタミンH1受容体・α1アドレナリン受容体への親和性がほとんどありません。このため、口渇・眠気・体重増加・起立性低血圧といった三環系抗うつ薬に多い副作用が少ない点は、処方選択における明確な優位性となっています。
つまり「SSRIより眠気が少なく、意欲改善を狙いやすいSNRI」と整理できます。
一方、SSRIと共通してセロトニン症候群のリスクはあるため、MAO阻害薬との併用は禁忌です。トラマドールやトリプタン系薬との相互作用にも注意が必要で、セロトニン症候群の早期症状(発汗・振戦・高体温・錯乱)を見逃さない姿勢が求められます。
トレドミン錠 添付文書(PMDA公式):作用機序・用法・禁忌・副作用の詳細が確認できます
トレドミン錠の用量設定には段階的な増量が求められます。通常、初期用量は1日25mgから開始し、その後1日50~100mgまで漸増していくのが原則です。
最大用量は1日200mgですが、臨床現場では1日100mgまでで使用されることが多い印象です。高齢者では腎機能低下によるクリアランス低下が起こりやすく、1日50mgを上限とすることが推奨されています。
腎機能低下への配慮が条件です。
ミルナシプランは主に腎排泄型の薬物であるため、腎機能(eGFR・Ccr)の確認は投与開始前・投与中ともに重要です。具体的には、Ccr 60mL/min未満では血中濃度が上昇しやすく、副作用が増強するリスクがあります。
投与開始時にはまず消化器症状(悪心・嘔吐)が出やすいことを患者に事前に説明しておくことが重要です。多くの場合、この症状は2週間程度で軽減しますが、食後服用や少量からの開始によりある程度軽減できます。
また、抗うつ薬全般に共通して、投与初期(特に最初の1~2週間)は不安・焦燥・不眠が増強することがあり、自殺念慮のリスクが高まる可能性があることが知られています。この期間の密な経過観察は必須です。
| 対象 | 推奨開始量 | 維持用量 | 最大用量 |
|---|---|---|---|
| 成人(腎機能正常) | 1日25mg(分2) | 1日50~100mg(分2) | 1日200mg |
| 高齢者 | 1日25mg(分2) | 適宜調節 | 1日50mg |
| 腎機能低下例(Ccr 60未満) | 慎重に低用量から | 血中濃度・副作用に注意 | 個別判断 |
トレドミン錠でとくに注意すべき副作用は、ノルアドレナリン作用に由来するものです。具体的には、血圧上昇・頻脈・動悸・発汗増加・排尿困難・尿閉が挙げられます。これらはSSRIでは比較的少ない副作用であるため、SSRIからの切り替え時に「こんな副作用は聞いていない」と患者から訴えが出ることがあります。
排尿困難については特に注意が必要です。
前立腺肥大症を合併している男性患者では、ノルアドレナリン作用による膀胱頸部収縮により尿閉が誘発されるリスクがあります。実際、前立腺肥大症は添付文書において「慎重投与」の対象とされています。高齢男性患者への処方前には、排尿症状の確認が欠かせません。
禁忌事項は以下の通りです。
慎重投与が必要なケースとして、高血圧・心疾患・肝機能障害・腎機能障害・てんかん・躁うつ病(双極性障害)・閉塞隅角緑内障・前立腺肥大症などが知られています。
また、比較的見落とされがちな点として、トレドミン錠は突然の中止により離脱症状が出ることがあります。めまい・悪心・頭痛・感覚異常・不眠・不安などが数日以内に現れることがあり、必ず漸減中止が原則です。患者の自己判断による服薬中断を防ぐための服薬指導が重要なポイントです。
PMDA 医薬品医療機器情報提供ホームページ:トレドミン錠の添付文書・患者向け説明書が参照できます
医療従事者として最も実践的な疑問の一つが「なぜSSRIではなくトレドミン錠を選ぶのか」という使い分けの視点です。これは単なる薬理の知識以上に、患者アセスメントと結びついた判断軸が必要になります。
まず、SSRIとの比較です。SSRIはセロトニン選択性が高く、不安・強迫・社交不安などの幅広いスペクトラムに適応を持ちます。一方、トレドミン錠はノルアドレナリン作用が強い分、「意欲低下・集中力低下・倦怠感・エネルギー不足」が前景にあるうつ病に対して選択される傾向があります。いわゆる「抑制型うつ」に対して選択肢となる薬です。
これは使えそうな視点ですね。
次に、同じSNRIであるサインバルタ(デュロキセチン)との比較です。サインバルタは国内適応に「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」「線維筋痛症に伴う疼痛」「慢性腰痛症に伴う疼痛」「変形性関節症に伴う疼痛」なども含まれており、疼痛合併例では選択肢として優先されることがあります。一方でトレドミン錠は疼痛適応がない点が国内では明確な差異です。
また、イフェクサー(ベンラファキシン)は用量依存的にSERT→NETの比率が変化するという特性を持ちます。低用量ではSSRI様、高用量になるとSNRI本来の作用が発揮されるとされており、用量調整の柔軟性がある一方、用量管理の複雑さも伴います。
トレドミン錠は比較的シンプルな用量設定と長い使用実績が特徴です。国内での上市が1999年と古く、臨床医にとっての「使い慣れた薬」という側面もあり、特に精神科・心療内科専門外の内科医などに使用されることもあります。
| 薬剤名 | 分類 | ノルアド作用の強さ | 疼痛適応(国内) | 特記事項 |
|---|---|---|---|---|
| トレドミン錠 (ミルナシプラン) |
SNRI | 強め | なし | 国産初SNRI・腎排泄型 |
| サインバルタ (デュロキセチン) |
SNRI | 中程度 | あり(神経障害性疼痛等) | 肝排泄型・疼痛合併に有用 |
| イフェクサー (ベンラファキシン) |
SNRI | 用量依存 | なし | 用量で作用プロファイルが変化 |
| レクサプロ (エスシタロプラム) |
SSRI | ほぼなし | なし | 選択性高・薬物相互作用少 |
ここでは、検索上位の記事にはあまり登場しない視点として「腎排泄型であることの臨床的再評価」について取り上げます。
サインバルタやイフェクサーが肝臓でのCYP代謝を受けるのに対し、トレドミン錠(ミルナシプラン)はほぼCYP代謝を受けず、大部分が腎臓から未変化体として排泄されます。この特徴は2つの側面を持ちます。
まず、肝機能障害患者への影響が比較的少ない点です。重篤な肝疾患を合併するうつ病患者においては、肝排泄型のSNRIより血中濃度が安定しやすい可能性があります。ただし、肝機能障害例でも添付文書上は慎重投与が求められており、過信は禁物です。
腎機能は必ず確認が必要です。
逆に、慢性腎疾患(CKD)患者では排泄遅延により血中濃度が上がりやすく、副作用が増強するリスクがあります。特にCKDを合併する高齢うつ病患者にトレドミン錠を使用する場面では、定期的な腎機能モニタリング(eGFRやCcr)と、必要に応じた用量減量の判断が必要になります。
また、CYP代謝を受けないという性質は「薬物相互作用が少ない」というメリットにもつながります。CYP2D6やCYP3A4の基質・阻害薬を多数服用する多剤処方の高齢患者において、トレドミン錠は薬物相互作用の観点からは比較的扱いやすい選択肢といえます。
これは意外な強みですね。
一方で、昨今の精神科領域では「より副作用プロファイルが整理されている新しいSNRI・SSRI」が選択されやすくなっており、トレドミン錠の処方シェアは以前より縮小傾向にあるとも言われています。それでも、「腎機能正常で肝薬物代謝への干渉を避けたい」「多剤併用患者でCYP相互作用を最小化したい」という臨床場面では、今一度トレドミン錠の薬理特性を見直す価値があります。
日本薬剤学会誌・医薬品情報学関連ジャーナル(J-STAGE):SNRIの薬物動態・相互作用に関する学術論文が参照できます

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