特定生物由来製品の記録義務を「投与した分だけ書けばいい」と思っているなら、最大50万円の罰則リスクがあります。

特定生物由来製品とは、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)第2条第11項に定義された製品カテゴリです。人その他の生物(植物を除く)に由来する原材料を使用し、感染症の病原体による汚染リスクがある医薬品・医療機器が対象となります。端的に言えば、「血液・臓器・細胞などヒト・動物由来の成分が入った製品」が該当します。
代表的な品目としては、血液凝固因子製剤(第VIII因子、第IX因子など)、アルブミン製剤、免疫グロブリン製剤、遺伝子組換えヒトトロンビン、乾燥人硬膜などが挙げられます。また、近年注目されているのが、遺伝子治療用製品や細胞治療製品(CAR-T細胞療法製品など)で、これらも特定生物由来製品に分類されています。これは意外ですね。
一覧の範囲については、厚生労働省が告示・通知で指定品目を定期的に更新しています。2024年時点で指定されている製品数は80品目以上に及びます。薬局の実務担当者は、自施設で取り扱う製品が最新の指定リストに含まれているかを定期的に確認することが原則です。
特定生物由来製品と混同されやすいのが「生物由来製品」です。生物由来製品は感染症リスクの評価を経て指定された製品全般を指し、特定生物由来製品はその中でも特にリスクが高いとされるものを絞り込んだ上位カテゴリです。この2段階構造を理解しておくだけで、管理義務の範囲を正確に把握できます。
厚生労働省の最新の特定生物由来製品指定リストについては以下が参考になります。
厚生労働省:生物由来製品・特定生物由来製品に関する情報ページ
薬局が特定生物由来製品を販売・授与した場合、薬機法第68条の22第1項に基づき、一定事項を記録し、20年間保存する義務があります。20年という期間は非常に長い。インフルエンザワクチンなど一般的な医薬品の記録保存義務(通常3年)と比較すると、約6〜7倍の保存期間が求められていることになります。
記録すべき事項は以下の通りです。
患者の氏名と住所まで記録する義務があることは、実務の中で見落とされがちなポイントです。「処方箋に患者名は書いてある」という認識だけでは不十分で、記録台帳やシステムに独立した形で保存する必要があります。これが条件です。
記録は紙でも電子データでも可能ですが、電子記録の場合は改ざん防止措置が必要です。単純なExcelファイルへの保存だけでは法的要件を満たさない可能性があります。薬局システム(レセコン)の記録機能が対応しているかを確認するか、電子帳簿保存法の要件を満たしたシステムを活用することが求められます。
また、製造販売業者から患者への情報提供資材(添付文書や患者向け説明文書)の交付義務も、特定生物由来製品では通常製品より厳格です。調剤交付時に患者説明文書を渡し、その記録も残すことが法的に求められています。
厚生労働省:生物由来製品の感染症定期報告制度・記録保存義務に関する通知
実務上、薬局で取り扱う頻度が高い特定生物由来製品は、大きく4つのカテゴリに整理できます。それぞれの特性を把握しておくと、記録漏れや管理ミスを防ぎやすくなります。
① 血液製剤(血漿分画製剤)
アルブミン製剤(ブミネート®、アルブミナー®など)や免疫グロブリン製剤(ヴェノグロブリン®、ポリグロビン®など)がここに含まれます。在宅医療の普及により、調剤薬局でもこれらを取り扱う機会が増えています。ロット番号の記録が特に重要で、万一感染症集団発生が起きた際の遡及調査(トレーサビリティ)のために必要です。
② 血液凝固因子製剤
血友病患者への自己注射用製剤として処方されるケースが多く、コージネイト®FS(遺伝子組換え第VIII因子製剤)、ベネフィクス®(遺伝子組換え第IX因子製剤)などが代表例です。在宅での自己管理が前提のため、薬局から患者へ交付する際の記録義務が特に厳格に適用されます。
③ 遺伝子治療用製品・細胞治療製品
キムリア®(チサゲンレクルユーセル)に代表されるCAR-T細胞療法製品がこのカテゴリです。1回の治療費が数千万円規模になる場合があり、製品ロットが患者個人に紐づいています。薬局での直接調剤は稀ですが、専門薬局・病院薬局での管理義務は非常に厳格です。
④ ヒト由来組織・細胞を原料とするその他製品
乾燥人硬膜(現在は使用禁止)の過去の事例を教訓に規制が強化された分野です。現在でも一部の再生医療等製品がこのカテゴリに含まれます。
つまり「血液製剤だけ注意すればいい」という認識では不十分です。自薬局が取り扱う製品リストと厚生労働省の最新指定リストを定期的に照合する習慣が重要です。
特定生物由来製品の在庫管理で最も重要なのは、ロット番号の個別管理です。通常の医薬品では先入れ先出し(FIFO)さえ守れば問題ありませんが、特定生物由来製品はロット単位での追跡が必要なため、複数ロットを混在させた管理は記録上のリスクを生みます。
実務上の推奨管理方法は以下の通りです。
電子管理を導入する場合、GS1バーコード(調剤パッケージに印刷されているGTINコード)を活用すると、スキャンだけでロット番号・有効期限・製品情報が自動入力されるため、転記ミスを大幅に減らせます。これは使えそうです。
厚生労働省は2023年頃より、医薬品のバーコード表示義務化を段階的に進めており、特定生物由来製品は優先的に対象となっています。自薬局の調剤システムがGS1バーコードに対応しているか確認する価値があります。
なお、保管条件(温度管理)も製品ごとに異なります。例えばアルブミン製剤は「室温(1〜30℃)」ですが、一部の凝固因子製剤は「2〜8℃冷蔵」が必須です。温度管理記録も記録保存の観点から残しておくことが望ましく、温度逸脱が発生した場合は製造販売業者への報告が必要になるケースもあります。
PMDA(医薬品医療機器総合機構):医薬品の安全対策・バーコード活用に関する情報
特定生物由来製品には、販売・授与記録の保存以外にも、感染症定期報告制度への対応が求められる場面があります。これは薬局業務の中でも特に意識されにくい義務です。厳しいところですね。
薬機法第68条の24に基づき、特定生物由来製品の製造販売業者は感染症に関する情報を年1回以上厚生労働大臣に報告することが義務付けられています。薬局自体が報告主体になるケースは限られますが、患者から感染症の疑いに関する情報を入手した場合は、速やかに製造販売業者または医療機関に情報提供することが求められます。
実務上、薬局が特に注意すべき点は「患者への説明義務」との連携です。薬機法第68条の22第2項は、特定生物由来製品を調剤・交付する際に患者へ必要な説明を行うことを義務付けています。口頭のみでなく、製造販売業者が作成した「患者向け説明資材」を交付することが基本です。この説明・交付の記録も残すことが原則です。
もう一つ見落とされがちなのが、廃棄時の記録です。特定生物由来製品が使用されず廃棄になった場合でも、廃棄したロット番号・数量・廃棄日の記録が必要です。「使わなかったから記録しなくていい」は誤りで、廃棄記録も20年保存義務の対象に含まれます。
これらの義務を一元管理するためには、薬局向けの生物由来製品管理システムや、既存の薬局システムの特定生物由来製品管理機能を活用することが現実的な対策です。日本薬剤師研修センターや各都道府県の薬剤師会が主催する生物由来製品管理実務研修も定期的に開催されており、最新の規制動向を把握するためのインプットとして有効です。
特定生物由来製品の管理は、記録・保管・廃棄・患者説明まで一連の流れで考えることが大切です。薬機法違反は行政処分(業務改善命令・業務停止)だけでなく、50万円以下の罰金という刑事罰にもつながり得ます。管理体制を定期的に見直すことが、薬局としての信頼を守ることに直結します。