鉄損測定の原理と電磁鋼板の特性を正しく知る方法

鉄損測定の原理を理解していますか?エプスタイン試験からヒステリシス損・渦電流損の計算式まで、金属加工の現場で役立つ知識を徹底解説。あなたの測定値は本当に正しいですか?

鉄損測定の原理と正しい測定手順を理解する

プレス打ち抜き加工をした電磁鋼板は、加工前と比べて鉄損が約1.6倍に増加します。


この記事の3ポイント要約
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鉄損の正体はヒステリシス損+渦電流損

鉄損はヒステリシス損と渦電流損の2つに分解できる。それぞれ周波数・板厚・磁束密度への依存性が異なるため、測定条件を合わせることが正確な評価の前提となる。

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加工劣化は鉄損測定値に直結する

プレス打ち抜きや剪断加工後の電磁鋼板は塑性歪みにより磁気特性が劣化する。カタログ値(エプスタイン試験値)と実機鉄損が大きくかけ離れる主因である。

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JIS規格に準拠した測定ツールと手順が品質を左右する

エプスタイン試験枠(JIS C2550-1)や単板磁気試験枠(JIS C2556)を正しく使うことで、再現性の高い鉄損データが得られ、モータや変圧器の効率改善設計につながる。


鉄損測定の原理:ヒステリシス損と渦電流損の仕組み



鉄損(Iron Loss / Core Loss)とは、電磁鋼板などの磁性材料に交流磁界を与えたとき、材料内部で発生する電気エネルギー損失の総称です。単位は W/kg(1kgあたりのワット数)で表され、モータや変圧器の効率に直接影響します。


鉄損は大きく2つの成分に分解できます。


ヒステリシス損(Ph) は、磁性体の磁界方向が交流によって繰り返し反転するたびに、材料内部の磁気ドメイン(磁区)が向きを変え、その際に生じる摩擦熱です。ドメイン同士のこすれ合いが発熱を引き起こすイメージです。スタインメッツの実験式によると、ヒステリシス損 Ph は以下の関係に従います。


$$P_h = k_h \cdot f \cdot B_m^{1.6}$$


ここで、f は周波数(Hz)、Bm は最大磁束密度(T)、kh は材料固有の比例定数です。つまり周波数に比例して増加します。


渦電流損(Pe) は、変化する磁束が導体である鉄板内部に誘導起電力を発生させ、渦状の電流(渦電流)が流れることで生じるジュール熱です。渦電流損は次の式に従います。


$$P_e = k_e \cdot (t \cdot f \cdot B_m)^2$$


ここで t は鉄板の板厚(m)、ρ は抵抗率です。渦電流損は周波数の2乗、板厚の2乗に比例して増加します。これが重要なポイントです。


鉄損の合計はこの2つの和で表されます。


$$W_{total} = P_h + P_e$$


実務上は「W15/50」という表記を見かける機会が多いでしょう。これは「磁束密度1.5T、周波数50Hzにおける鉄損値(W/kg)」を意味します。電磁鋼板のカタログ比較に使われる標準的な指標です。これが基本です。


周波数が上がるほど、渦電流損の増加率がヒステリシス損を大きく上回るという事実は、EV(電気自動車)や高周波インバータ駆動のモータ設計において重大な意味を持ちます。例えば商用周波数50Hzで設計した電磁鋼板が、400Hzや800Hzの高周波域で使われると渦電流損が急激に膨らみ、発熱・効率低下の原因になります。高周波用途では板厚の薄い電磁鋼板を選ぶことが原則です。


参考リンク(ヒステリシス損・渦電流損の計算式と鉄損の基礎について詳述)。


鉄損測定の代表的な手法:エプスタイン試験枠の原理と使い方

鉄損を定量的に測定する方法は複数ありますが、現在の業界標準はJIS C2550-1に規定されたエプスタイン試験法(電力計法)です。この手法は1900年にドイツの技術者ジョセフ・エプスタインが発明したもので、100年以上にわたり改良が重ねられてきました。日本では横河電機製作所が1935年に国産化しています。


測定原理は次の通りです。


| 構成要素 | 役割 |
|---|---|
| 一次コイル(励磁側) | 交流電流を流して磁界(磁化力H)を発生させる |
| 二次コイル(検出側) | 磁束変化に応じた誘導起電力(電圧)を取り出す |
| 試験片(電磁鋼板) | 井桁(いげた)状に組んで鉄心を構成 |
| デジタル電力計 | 一次電流×二次電圧を積分して鉄損を算出 |


一次コイルに交流電流を流すことで磁化力 H が発生し、試験枠に組み込まれた電磁鋼板を磁化します。二次コイルに生じる電圧を積分すると磁束密度 B が求まります。H と B の積を1周期で積分したものが鉄損(消費電力)です。


$$W = \frac{1}{T \cdot m} \int_0^T u_2(t) \cdot i_1(t) \, dt$$


ここで u₂ は二次コイル電圧、i₁ は一次コイル電流、m は試験片の質量(kg)です。


試験片のサイズはJIS C2550-1で厳密に規定されており、幅30mm×長さ280mmの短冊形に切り出した鋼板を、圧延方向に平行(L方向)と垂直(C方向)にそれぞれ同数枚ずつ組み合わせます。通常は合計16枚を使い、総質量を計量してソフトウェアに入力します。測定の際は二次コイル側の電圧波形が正弦波になるように一次電流波形を調整することが必要で、これが測定精度を左右します。


もう一つの主要な手法は単板磁気試験法(SST: Single Sheet Test、JIS C2556)です。エプスタイン法と異なり、55mm角または幅30mm×長さ280mmの1枚の試験片で測定できるため、少量のサンプル評価に適しています。応力や剪断加工後の磁気特性変化を評価したい場面でも活用されます。


参考リンク(エプスタイン測定の原理と仕様について)。
エプスタイン測定|日鉄テクノロジー(日本製鉄グループ)


鉄損測定の原理を知る上で見落とされがちな「加工劣化」の問題

金属加工の現場で特に知っておきたい事実があります。それは、プレス打ち抜き加工によって電磁鋼板の鉄損が大幅に悪化するという点です。意外ですね。


三菱電機の研究報告(2011年)によると、電磁鋼板をプレス打ち抜きで加工したモータ鉄心の鉄損は、加工歪みがない状態と比較して約1.6倍に増加することが確認されています。これは、切断面近傍に塑性歪みが加わり、さらに広範囲にわたって残留応力が生じるためです。


- 切断面から約0.5mm程度の範囲に集中して歪みが発生する
- 歪みや圧縮応力が加わると比透磁率が大幅に低下する
- ヒステリシス損・渦電流損の両方が増加するが、特にヒステリシス損への影響が大きい


この「カタログ値(エプスタイン試験値)と実機鉄損の乖離」は、モータ設計者や鉄心製造者が長年悩んできた課題です。エプスタイン試験値は、応力が加わっていない理想的な試験片で測定した値です。つまり実際の打ち抜き品はカタログより劣化した状態にある、という点を常に意識する必要があります。


対策として有効なのが歪取り焼鈍(アニール)です。打ち抜き加工後に700〜850℃程度の温度で熱処理を行うと、塑性歪みが解放されて結晶組織が再整備され、鉄損がワイヤカット法(加工歪みなし)と同等以下のレベルまで回復することが確認されています。JFEスチールのRMAシリーズなど、歪取り焼鈍後の鉄損回復性を重視して開発された電磁鋼板も市販されています。


鉄損の加工劣化を設計に反映させる場合は、「切断部からの距離 vs. 歪み量・鉄損増加率」のデータベースを持ち、磁界解析に歪みマッピングを組み合わせた手法が採用されるケースも増えています。


参考リンク(プレス打ち抜きによる加工劣化を考慮したモータ設計技術について詳述)。
鉄心打ち抜き時の加工劣化を考慮したモータ磁気設計技術|三菱電機技報


鉄損測定の原理に基づいた正確な測定のための実践的ポイント

現場で鉄損測定を行う際に、測定値の精度を下げてしまう要因がいくつかあります。それだけ注意すれば大丈夫です。


波形ひずみへの対処


鉄損測定では、JIS C2550-1の規定に従い、二次コイル(検出側)の電圧波形が正弦波になるように制御することが必須条件です。一次側に単純に正弦波電圧を印加しても、鉄心の非線形磁気特性のため二次側電圧はひずみます。このひずんだ状態で測定すると、正しい鉄損値は得られません。ファンクションジェネレータの任意波形機能や、波形フィードバック制御機能を持つ電源を使用して、二次電圧を正弦波に近づけることが測定精度確保の条件です。


試験片の切り出しと組み方


試験片はJIS C2550-1の付属書に示されたとおり、圧延方向(L方向)と垂直方向(C方向)を同数ずつ切り出します。切り出しの際のバリ(切断面の突起)が隣の試験片に接触すると短絡して渦電流の経路が変わり、測定値に誤差が生じます。試験片のバリ取りは丁寧に行うことが原則です。


試験片の重さ計量


鉄損の単位はW/kgのため、試験片全体の正確な質量測定が必要です。計量精度が低いと、測定した損失(W)を質量(kg)で除算する際に誤差が乗ります。0.01g単位の精密天秤を使用することが望ましいです。


空げき補償コイルの役割


エプスタイン試験枠の標準的な構造には「空げき補償用コイル」が組み込まれています。これは、試験枠のコーナー部分(鉄心と鉄心の間の隙間)に生じる空気中の磁気エネルギーの影響を補正するためのものです。このコイルの接続方法を誤ると、測定値に体系的な誤差が生じます。


測定周波数と板厚の組み合わせ確認


標準的な商用周波数(50Hz/60Hz)での測定はJIS C2550-1が対象です。400Hz〜10kHzの中間周波数域にはJIS C2550-3が適用されます。高周波域では渦電流損の割合が急増するため、板厚0.35mm〜0.50mmの通常材では測定値の再現性が低下する場合があります。高周波用途の評価には板厚0.10mm〜0.20mmの薄鋼板が適しています。


参考リンク(JIS C2550-1の測定手順と規定の詳細)。
JIS C2550-1 エプスタイン試験器による電磁鋼帯の磁気特性の測定方法|JIS規格検索


回転磁界下での鉄損測定:エプスタイン試験では見えない損失

エプスタイン試験や単板磁気試験法は、一方向(往復)の交番磁界を前提とした測定方法です。しかし実際のモータ鉄心では、回転子の動きに伴って磁界が受ける方向が連続的に変化します。これが回転磁束(ベクトル磁束)と呼ばれる状態です。


回転磁束下での鉄損(回転鉄損)は、交番磁界下での鉄損とは異なる特性を示します。具体的には、磁束密度の大きさが同じでも、回転磁束の方が交番磁束よりも鉄損が大きくなることが知られています。磁区の向きが360°方向に回転するため、エネルギー散逸が増加するためです。


この課題に対応するため、「ベクトル磁気試験枠」を用いた回転鉄損測定装置が開発されています。大分大学名誉教授の榎園正人氏が長年研究を主導し、2つの直交する励磁コイルと検出コイルを持つ試験枠を用いて、任意の角度での磁化特性を測定できる手法を確立しています。日鉄テクノロジーの「回転鉄損シミュレータ」はステータ形状の試料に回転磁束を発生させ、誘起トルクを計測することで回転鉄損を算出する装置です。


金属加工の現場でモータ鉄心の最終評価を行う際は、エプスタイン値だけでなく実機に近い条件での回転鉄損データを参照することで、より信頼性の高い損失評価が可能になります。これは使えそうです。


電気自動車(EV)の駆動モータでは、高回転・高周波域での鉄損特性が航続距離に直結します。一般的な電磁鋼板では400Hzを超える領域でケイ素含有量の多い高Si材やアモルファス合金のほうが鉄損が低くなることも報告されており、用途に応じた材料選定と測定評価の両面での知識が求められます。


参考リンク(回転鉄損測定の原理と装置について)。
回転鉄損シミュレータ|日鉄テクノロジー(日本製鉄グループ)






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