「副作用が少ない薬」として安心して処方・服薬指導していると、腎保護目的の投与が逆に急性腎障害を招くことがあります。

テルミサルタンは、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)に分類される降圧薬です。血管収縮に関わるアンジオテンシンⅡのAT₁受容体を選択的にブロックすることで降圧効果を発揮します。ARBの中でも半減期が約24時間と特に長く、1日1回の服用で安定した降圧効果が得られるのが大きな特徴です。
ACE阻害薬では5〜35%の頻度で発現するとされる空咳が、ARBではごく少数にしか現れません。これはACEを介したブラジキニン蓄積が起きないためです。この利点から「副作用の少ない薬」という印象を持つ医療従事者も多いと思います。
ただし、副作用が少ないことと、副作用を無視できることはまったく別の話です。
添付文書(サワイ製品・TCK製品等)では、よくみられる副作用(0.5〜5%未満)として、めまい・頭痛・眠気・頭のぼんやり感・心悸亢進・ほてり・腹痛・下痢・嘔気・血清クレアチニン上昇・血清カリウム上昇・AST上昇・ALT上昇・咳・倦怠感・耳鳴などが報告されています。飲み始めや用量変更直後に出やすい症状です。
特に起立性低血圧(急に立ち上がった時のふらつき)は、高齢患者や脱水状態の患者で頻度が高まります。外来で「立ち眩みが増えた」という訴えがあった場合は、服薬状況と水分摂取量を必ず確認する必要があります。つまり、症状の聴取を定型化しておくことが原則です。
添付文書に記載された重大な副作用は計9種類あります。頻度が低いからこそ見落としリスクが高い。これが最大の注意点です。
① 血管性浮腫(0.1%未満→2025年9月改訂で「頻度不明」に変更)
顔面・口唇・舌・咽喉頭・腸管に生じる浮腫です。2025年9月の使用上の注意改訂(厚生労働省通知)で、従来の「顔面腫脹」に加え「腹痛・嘔気・嘔吐・下痢等を伴う腸管血管性浮腫」が明記されました。腸管型は外見上の腫脹がないため消化器症状として見過ごされやすく、原因特定が遅れるケースがあります。喉頭浮腫を伴う場合は気道閉塞の危険があり、即座に投与中止と緊急対応が必要です。
② 高カリウム血症(頻度不明)
テルミサルタンはアルドステロン分泌を抑制するためカリウムが蓄積しやすくなります。添付文書では「頻度不明」ですが、腎機能障害患者・コントロール不良の糖尿病患者では発現しやすいと明記されています。手足のしびれ・脱力・悪心・腹部膨満感などが初期サインです。進行すると重篤な不整脈を引き起こします。定期的に採血することが条件です。
③ 腎機能障害(頻度不明)
急性腎障害を呈した例が報告されています。特に両側腎動脈狭窄・片腎の腎動脈狭窄のある患者では、腎血流量低下により急速に腎機能が悪化するため、「治療上やむを得ないと判断される場合を除き使用は避ける」と禁忌相当の表現で記載されています。
④ ショック・失神・意識消失(0.1%)
⑤ 肝機能障害・黄疸(頻度不明)
テルミサルタンは主に胆汁排泄されるため、肝機能障害患者では血中濃度が健常者の約3〜4.5倍に上昇することが報告されています。肝障害を合併している患者への投与では最大用量を1日40mgとし、定期的な肝機能検査が推奨されます。
⑥ 低血糖(頻度不明)
糖尿病治療中の患者で発現しやすいとされます。脱力感・冷汗・手の震えなど低血糖症状が出た場合は即時投与中止と対処が必要です。
⑦ アナフィラキシー(頻度不明)
⑧ 間質性肺炎(頻度不明)
発熱・咳嗽・呼吸困難・胸部X線異常を伴う場合は本副作用を念頭に置き、速やかに投与中止と副腎皮質ホルモン投与を検討します。
⑨ 横紋筋融解症(頻度不明)
筋肉痛・脱力感・CK上昇・尿中ミオグロビン上昇が指標です。二次的に急性腎不全を引き起こすリスクがあります。
重大な副作用は9種類が存在します。頻度が低い副作用ほど「まさか」という思い込みが診断を遅らせます。
参考:2025年9月時点の添付文書改訂内容(テルミサルタンへの腸管血管性浮腫追記)
テルミサルタンなど多くの高血圧症治療薬で腸管血管性浮腫が追記(GHCレポート)
医療現場での実務上、最も頻繁に対峙するリスクは高カリウム血症と腎機能障害です。これは使えそうな情報です。
電解質とcreatinine(またはeGFR)は、テルミサルタン開始前にベースラインを測定しておくことが基本です。開始後は2〜4週での再測定を実施し、その後は定期的(3〜6か月ごと)に継続することが推奨されます。
| 確認タイミング | 測定項目 | 目安の基準値(異常値) |
|---|---|---|
| 投与開始前 | eGFR・血清K・Cr | ベースライン設定 |
| 2〜4週後 | 血清K・eGFR | K>5.5mEq/L で要注意 |
| 以降3〜6か月ごと | 血清K・Cr・eGFR | eGFR急低下(30%以上)は要精査 |
血清カリウム上昇が懸念される患者では、減塩塩(塩化カリウムを主成分とするもの)や、カリウムを多く含む食品の過剰摂取(バナナ・アボカド・ほうれん草・芋類など)についても服薬指導の場で確認しておくと安心です。
また、カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトン・トリアムテレンなど)との併用は、カリウム貯留作用が増強されるため、特に腎機能障害のある患者では要注意として添付文書に記載されています。腎機能障害があれば要注意です。
腎機能面では、投与開始後にeGFRが基準値から30%以上低下している場合や、血清クレアチニンが有意に上昇している場合は、腎血流量の低下や急性腎障害の可能性を考慮し、継続の可否を主治医と検討することが必要です。
一方、テルミサルタン投与後の血清クレアチニン軽度上昇(例:0.1〜0.3mg/dL程度)は、糸球体内圧低下による機能的変化として許容される範囲であることもあります。長期的な腎保護効果を目的として処方されているケースでは、過度に心配して自己中断させないよう、患者への説明も重要です。
参考:腎臓専門医によるテルミサルタンの腎機能への影響と注意点
テルミサルタンってどんな薬?腎臓病に効果的?医師が解説します(赤羽もりクリニック)
テルミサルタンの副作用を語る上で、相互作用は切り離せません。
添付文書に記載された主な「併用注意」薬剤は以下のとおりです。
| 併用薬 | リスク | 特に危険な患者背景 |
|---|---|---|
| NSAIDs(ロキソプロフェン・イブプロフェン等) | 腎血流低下→急性腎障害、降圧効果減弱 | 高齢者・腎機能低下・利尿薬併用中 |
| カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトン等) | 高カリウム血症 | 腎機能障害患者 |
| ループ利尿薬・チアジド系利尿薬 | 急激な血圧低下(ショックリスク) | 脱水状態・低用量から開始していない場合 |
| ACE阻害薬 | 急性腎障害・高カリウム血症・低血圧 | 全例でリスクあり |
| ジゴキシン | 血中濃度上昇(機序不明) | 定期的な血中濃度モニタリングが必要 |
| リチウム製剤 | リチウム中毒 | 血中リチウム濃度に注意 |
| アリスキレン(糖尿病患者) | 脳卒中・腎機能障害・高カリウム血症・低血圧 | 糖尿病患者では原則併用禁忌 |
NSAIDsとの相互作用は、臨床現場で特に見落とされやすいリスクです。患者が市販の痛み止めを「薬じゃないから」という認識で自己判断で服用しているケースは珍しくありません。
PMC(PubMed Central)に掲載された報告では、テルミサルタン服用中の患者がジクロフェナク(NSAID)を自己判断で服用し、高カリウム血症と危険な心電図変化(QRS幅拡大・テント状T波)をきたし、緊急血液透析が必要になった事例が記録されています。これは痛い教訓です。
服薬指導の場面では「市販の痛み止めや解熱剤を飲む前は、必ず薬剤師や担当医に確認してください」という一言を定型化しておくことで、こうした事故を未然に防げます。
参考:日本腎臓学会のCKD診療ガイドラインにおける薬物相互作用の記載
CKD診療ガイド2012(日本腎臓学会)—ARBとNSAIDs・カリウム保持性利尿薬の注意事項
医療従事者として特に押さえておきたいのが、禁忌・慎重投与の患者背景と、患者への適切な情報伝達です。
【絶対的禁忌】
- 妊婦または妊娠の可能性がある女性
- 重篤な肝障害・胆汁排泄が著しく悪い患者
- テルミサルタン成分に対する過敏症の既往
- アリスキレン投与中の糖尿病患者(原則禁忌)
妊娠中期・末期の投与では、羊水過少症・胎児腎不全・頭蓋形成不全・新生児死亡等の重篤な胎児障害が報告されています。妊娠可能年齢の女性への処方時は、投与開始前に妊娠の有無を確認し、投与中も定期的に妊娠していないことを確認する手順が求められます。
また、テルミサルタンは主に胆汁排泄のため、透析による除去ができません(添付文書13.2項)。過量投与時の対処法として血液透析は無効であることを知っておく必要があります。
【患者指導で徹底すべき5点】
1. 血圧が安定しても自己中断しない:降圧薬は「治す薬」ではなく「コントロールする薬」。自己中断により血圧が再上昇し、脳卒中・心筋梗塞リスクが高まります。
2. 市販薬服用前に必ず確認する:特にNSAIDs(ロキソニン・イブA・ナロン等)は要注意。
3. 立ち上がりはゆっくりと:起立性低血圧を防ぐための日常行動指導です。
4. 食後服用のタイミングを統一する:空腹時投与は食後と比較して血中濃度が高くなるとの報告があります(添付文書14.1.2項)。空腹時投与は食後より血中濃度が上がるということですね。毎日同じタイミングで服用するよう指導することが大切です。
5. 手足のしびれ・脱力・著しい倦怠感は即受診:高カリウム血症の初期サインの可能性があります。
服薬アドヒアランスの維持も医療従事者の重要な役割です。テルミサルタンを含むARBは1日1回製剤のため服薬負担が小さく、飲み忘れが起きにくいという利点がありますが、副作用に対する不安から自己中断するケースは一定数存在します。副作用について正確に、かつ過度な不安を与えない説明が求められます。
参考:添付文書に基づく詳細な重大副作用・相互作用情報(ケアネット)
テルミサルタン錠20mg「サワイ」の効能・副作用(CareNet)
参考:くすりのしおり(患者向け情報)テルミサルタン錠20mg
テルミサルタン錠20mg「FFP」くすりのしおり(RAD-AR)