「副作用が少ない」と安心しているその患者、NSAIDsとの併用で急性腎障害になるリスクがあります。

テルミサルタン錠40mgは、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)に分類される降圧薬です。血管平滑筋のAT1受容体において、昇圧物質であるアンジオテンシンIIと特異的に拮抗し、血管収縮を抑制することで降圧作用を発現します。AT1受容体への親和性が高く(Ki=3.7nM)、受容体から容易に解離しないため、ARBの中でも特に半減期が長く、約24時間の降圧効果が持続するという特徴があります。
つまり1日1回の服用で朝から夜まで血圧を安定させやすい薬です。
ACE阻害薬では20〜30%の患者に空咳が発現するとされていますが、テルミサルタンを含むARBではブラジキニン分解酵素(ACE)に直接影響を与えないため、空咳の副作用が非常に少ないことが臨床的に確認されています。これは患者のアドヒアランス維持という観点からも重要なメリットです。
しかし「副作用が少ない薬」という認識が先行するあまり、重大な副作用への警戒が薄れるケースがあります。これは注意が必要なポイントです。
ケアネット・添付文書によると、テルミサルタン錠40mgに記載された重大な副作用は以下の9項目です。
| 重大な副作用 | 頻度 | 主な症状 |
|---|---|---|
| 血管性浮腫 | 0.1%未満 | 顔面・口唇・咽頭・舌の腫脹、腸管血管性浮腫(腹痛、嘔気) |
| 高カリウム血症 | 頻度不明 | 手足のしびれ、筋力低下、不整脈 |
| 腎機能障害 | 頻度不明 | 急性腎障害、クレアチニン上昇、尿量変化 |
| ショック・失神・意識消失 | 0.1%(失神) | 冷感、嘔吐、意識消失 |
| 肝機能障害・黄疸 | 頻度不明 | AST/ALT/γ-GTP上昇 |
| 低血糖 | 頻度不明 | 脱力感、冷汗、意識障害(糖尿病治療中に発現しやすい) |
| アナフィラキシー | 頻度不明 | 呼吸困難、血圧低下、喉頭浮腫 |
| 間質性肺炎 | 頻度不明 | 発熱、咳嗽、呼吸困難、胸部X線異常 |
| 横紋筋融解症 | 頻度不明 | 筋肉痛、脱力感、CK上昇、ミオグロビン尿 |
「頻度不明」とは「市販後の自発報告から把握されており、発現頻度が算出できない」ことを意味します。決して「稀だから問題ない」ではありません。これが原則です。
特に2025年9月には、ACE阻害薬・ARBを含むRA系阻害薬の添付文書が改訂され、重大な副作用として「腸管血管性浮腫」が新たに追記されました(血管性浮腫の一種)。腹痛や嘔気・嘔吐・下痢を主訴とする腸管症状として現れるため、消化器症状だけで来院した患者においてもテルミサルタン服用歴を確認することが重要です。
2025年9月の使用上の注意改訂情報(腸管血管性浮腫の追記に関する詳細)はこちらで確認できます。
注意事項等情報改訂のお知らせ 日本薬局方 テルミサルタン錠(PMDA DSUシステム)
テルミサルタンはアルドステロン分泌を抑制する作用を持つため、カリウムが体内に貯留しやすくなります。腎機能が正常な患者では大きな問題になりにくいことも多いですが、腎機能低下例や糖尿病性腎症合併例では血清カリウム値が5.5mEq/Lを超える高カリウム血症を引き起こすリスクがあります。
高カリウム血症が危険な理由は明快です。
カリウムが過剰になると、心筋の再分極が乱れ、テント状T波・PR延長・QRS幅拡大といった心電図異常が現れ、最終的には心室細動・心停止に至るリスクがあります。痺れや倦怠感などの初期症状が非常に軽微なため、患者自身が異常に気づきにくい点が問題です。
添付文書では「腎機能障害、コントロール不良の糖尿病等により血清カリウム値が高くなりやすい患者」に対して、血清カリウム値に特に注意するよう明記されています。
また、腎機能への影響という観点では以下のような患者プロファイルに注意が必要です。
腎保護目的でARBが使われるケースは多いですが、「保護する薬が腎機能を悪化させることもある」という逆説的な事実は臨床現場で見落とされやすい点です。意外ですね。
テルミサルタン投与開始後2〜4週間は特に注意が必要で、血清クレアチニン値・BUN・血清カリウム値のフォローアップ採血を計画的に組み込むことが推奨されます。クレアチニンの軽度上昇(投与前値の30%以内程度)は糸球体内圧低下に伴う生理的変化として許容されることもありますが、急激な上昇(投与前値の2倍以上など)が見られた場合は投与継続の適否を速やかに再評価するべきです。
腎機能評価に際してはeGFR(推算糸球体ろ過量)を定期的に確認することが基本です。eGFR 60mL/min/1.73㎡未満の腎機能障害患者へのアリスキレンとの併用は、治療上やむを得ない場合を除き避けるよう添付文書に明示されています。
テルミサルタン錠40mg「DSEP」添付文書(ケアネット)—用法・用量・相互作用の詳細
「NSAIDsとの飲み合わせを確認する」は医療従事者にとって当然の知識のように見えますが、実際の臨床現場ではこの点が見落とされやすいという課題があります。
NSAIDs(ロキソプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナク等)はプロスタグランジン合成を阻害し、腎血流量を低下させます。テルミサルタンと組み合わさると糸球体ろ過量がさらに減少し、腎障害のある患者では急性腎障害を引き起こす可能性があると添付文書の10.2(併用注意)に明記されています。
これは使えそうな知識です。
また、NSAIDsは「降圧薬の効果を減弱させる」という問題も同時に生じます。血管拡張作用を持つプロスタグランジンの合成が阻害されることで、せっかくコントロールできていた血圧が再上昇するリスクがあります。降圧が不十分な患者の服薬状況を確認する際、市販の痛み止めや湿布剤の使用歴を確認することは重要な観察ポイントです。
PMC掲載の症例報告(Acute Kidney Injury and Hyperkalemia With Precarious Electrocardiographic Changes Caused by Concurrent Use of Telmisartan and Diclofenac)では、テルミサルタン服用中の患者がジクロフェナク(NSAIDs)を自己判断で使用した結果、高カリウム血症と危険な心電図変化(テント状T波)が出現し、緊急血液透析が必要となった事例が報告されています。
テルミサルタン服用中に注意が必要な主な併用薬をまとめます。
| 分類 | 代表薬 | リスク内容 | 対応 |
|---|---|---|---|
| NSAIDs | ロキソプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナク | 急性腎障害、降圧効果の減弱 | 可能な限り代替薬(アセトアミノフェン等)を検討 |
| カリウム保持性利尿薬 | スピロノラクトン、トリアムテレン | 高カリウム血症の増悪 | 血清K値の頻回モニタリング |
| ジゴキシン | ジゴキシン | 血中ジゴキシン濃度上昇(機序不明) | ジゴキシン血中濃度の測定 |
| ACE阻害薬 | エナラプリル、リシノプリル等 | 急性腎障害・高カリウム血症・低血圧 | 原則として併用しない |
| アリスキレン(糖尿病患者) | ラジレス | 脳卒中・腎障害・高カリウム血症のリスク増加 | 糖尿病患者には禁忌 |
| リチウム製剤 | 炭酸リチウム | リチウム中毒のリスク | リチウム血中濃度の定期的な確認 |
リチウム製剤との相互作用は見落とされやすい点の一つです。精神科との併科診療を行う患者において、テルミサルタンとリチウムが同時に処方されているケースでは、ナトリウム排泄促進によりリチウムの貯留が促進されるため、リチウム中毒に注意が必要です。
また、手術前24時間はテルミサルタンの投与を中止することが望ましいとされています。麻酔・手術中にレニン-アンジオテンシン系の抑制作用による高度な血圧低下(難治性低血圧)を来す可能性があるためです。術前の持参薬確認において、ARBの有無は必ず確認すべき項目です。これが条件です。
医療用医薬品:テルミサルタン(KEGG MEDICUS)—相互作用・使用上の注意の詳細
テルミサルタン錠40mgには明確な禁忌が4つ設定されています。
妊婦禁忌については特に注意が必要です。
妊娠が判明した時点で直ちに投与を中止する必要があります。妊娠中期・末期においては、ARBによるアンジオテンシンII抑制が胎児の腎発達を直接障害するため、羊水過少症・四肢拘縮・頭蓋顔面奇形・肺発育不全などの重篤な影響が報告されています。
妊娠する可能性のある女性患者に対しては、投与開始前に妊娠の有無を確認し、投与中も定期的に確認することが求められます。また、妊娠を計画している場合はあらかじめ代替薬への変更を検討するよう説明することも医師・薬剤師の役割です。
肝機能障害患者への対応も重要なポイントです。重篤な肝障害・胆汁分泌が極めて悪い患者には禁忌ですが、肝機能障害がある患者(禁忌に至らないレベルの患者)に対しては最大投与量を1日1回40mgとするよう用法・用量欄に明記されています。テルミサルタンは80mgまで増量可能な薬ですが、肝障害患者では40mgを上限とすることを忘れてはなりません。40mgが上限と覚えておけばOKです。
また、慎重投与が求められる状況として以下が挙げられます。
授乳中の安全性についても確認が必要です。動物実験(ラット)では乳汁中へのテルミサルタンの移行が報告されているため、授乳しないことが望ましいとされています。授乳中の患者が来院した場合は、他の降圧薬への変更を検討することが原則です。
日本薬局方 テルミサルタン錠 添付文書(JAPIC)—禁忌・慎重投与・妊婦への詳細情報
医療従事者がテルミサルタン錠40mgを安全に使用するうえで、添付文書の暗記だけでなく「実際の患者行動パターン」を踏まえた副作用モニタリング設計が重要です。ここでは、検索上位の記事ではあまり扱われていない実践的な観点から解説します。
まず重要なのは「患者が副作用を副作用だと認識していない」問題です。
たとえば、テルミサルタン服用中に発現した腹痛・嘔気・下痢は、消化器症状として独自に市販薬で対処するケースが少なくありません。しかし2025年9月の添付文書改訂で追記された「腸管血管性浮腫」は、まさにこの消化器症状として現れるため、患者自身が降圧薬の副作用とは結びつけられない可能性が高いです。これは見落とされやすい点ですね。
次に注目したいのが「間質性肺炎」のモニタリングです。「頻度不明」と記載されているため、臨床現場での意識が薄れやすい副作用ですが、発熱・咳嗽・呼吸困難・胸部X線異常を伴う間質性肺炎が発現した場合は直ちに投与を中止し、副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置が必要です。テルミサルタン服用患者が「風邪のような症状が続く」「咳が止まらない」と訴えた場合は、間質性肺炎との鑑別を念頭に置くことが求められます。
服薬指導における実践的チェックリストを以下に示します。
「副作用は少ない薬だから安心」という感覚はある種の落とし穴です。
テルミサルタンはFDAの臨床試験データで副作用による中止率が2.8%とプラセボ(6.1%)より低いという安全性の高いデータを持つ薬ですが、これはあくまで臨床試験における管理された環境下でのデータです。実臨床では脱水・NSAIDs自己服用・腎機能低下合併など複数のリスク因子が重なるケースが多く、単一の試験データよりもリスクが高まる状況が生じやすいです。
医療従事者として大切なのは「なぜその患者に今この薬を使うのか」「どのリスク因子があるのか」を個別に評価し続けることです。リスクを把握したうえで投与することが基本です。
なお、テルミサルタン錠40mgを食後に服用している患者が食前に切り替えた場合、空腹時投与のほうが血中濃度が高くなることが報告されており、副作用が増強する恐れがあります。服薬タイミングの変更指導を行う際は添付文書の食事との関係を必ず確認してください。用法の一貫性が条件です。
ケアネット・医師向けの降圧薬解説や薬剤性腎障害ガイドラインも参照することで、テルミサルタン使用時の腎保護と腎障害リスクのバランスをより深く理解できます。
薬剤性腎障害 診療ガイドライン(日本腎臓学会)—ARBによる腎機能変化の評価基準と注意事項