空腹時に飲ませると、食後投与の約半分しか血中に届きません。

テプミトコ錠250mg(一般名:テポチニブ塩酸塩水和物)は、メルクバイオファーマ株式会社が製造販売する抗悪性腫瘍剤です。2020年6月に販売が開始されたMET阻害薬であり、チロシンキナーゼ阻害薬に分類されます。
添付文書に記載されている効能・効果は、「MET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性(METex14)の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」に限定されています。非小細胞肺癌全般に使えるわけではない点が重要です。
METex14スキッピング変異陽性の確認には、承認された体外診断用医薬品または医療機器の使用が必須条件とされています。具体的には、コンパニオン診断薬としてAmoyDx肺癌マルチ遺伝子PCRパネルなどが承認されており、十分な経験を有する病理医または検査施設で変異確認を行うことが添付文書で明示されています。コンパニオン診断の実施が条件です。
また、効能・効果に関連する注意として「本剤の術後補助療法における有効性及び安全性は確立していない」と明記されています。術後補助療法への流用は添付文書上でも否定されているため、適応外使用とならないよう注意が必要です。
なお、2024年12月に注目すべき動きがありました。テプミトコ錠250mgは、承認時に設定されていた全例調査(使用成績調査)の義務が厚生労働省より解除されました。安全性解析対象117例・有効性解析対象117例の市販後調査データを提出した結果、適正使用が確認されたためです。これは処方時の手続き負荷が軽減されることを意味します。
PMDA(医薬品医療機器総合機構)テプミトコ錠250mgの最新添付文書・インタビューフォーム等を確認できます
添付文書が定める用法・用量は「通常、成人にはテポチニブ塩酸塩水和物として1回500mgを1日1回食後に経口投与する」です。服用タイミングが「食後」に指定されている点には、明確な薬物動態上の根拠があります。
健康成人(12例)を対象とした海外第Ⅰ相試験(MS200095-0044試験)において、高脂肪食後投与時のCmax(最高血中濃度)は空腹時投与と比較して2.00倍、AUC₀‒∞(総曝露量)は1.63倍に増加することが確認されています。つまり、空腹時に服用した場合は食後投与の半分程度しか薬が吸収されない可能性があります。薬効を最大限に引き出すには食後投与が絶対条件です。
患者から「食事が摂れなかったので空腹時に飲んだ」という報告を受けた場合、この吸収差を念頭に置いた服薬指導が求められます。嘔気や食欲減退が起こりやすいがん治療中の患者では、「少量でも食事を摂ってから服用する」よう具体的に指導することが実践的です。
減量時の用量についても把握しておく必要があります。添付文書には「1段階減量:250mg・1日1回」「2段階減量:投与中止」と定められています。つまり、減量できるのは1段階のみです。Grade 3以上の副作用や、21日間を超える休薬が必要な場合は投与中止が基本となります。副作用の程度はCTCAE version 4.0に準じて評価することが求められています。
テプミトコ錠インタビューフォーム(メルクバイオファーマ):薬物動態データの詳細(食事の影響を含む)が記載されています
添付文書の第11項「副作用」には、4種類の重大な副作用が掲載されています。それぞれの頻度と対応を正確に押さえておくことが、医療従事者として最低限必要な知識です。
① 間質性肺疾患(発現率3.8%)
間質性肺疾患(ILD)・肺臓炎・急性呼吸不全が含まれます。死亡例も報告されており、添付文書第1項「警告」にも記載された最重要副作用です。息切れ・呼吸困難・咳嗽・発熱などの初期症状の確認と、定期的な胸部画像検査が義務付けられています。Grade 1以上で投与を中止し、副腎皮質ホルモン剤の投与等を行うことが求められます。
② 体液貯留(発現率61.5%)
最も発現頻度が高い重大副作用です。内訳は末梢性浮腫53.8%、低アルブミン血症10.8%、胸水4.6%となっています。半数以上の患者に何らかの体液貯留が起こるということですね。急激な体重増加や呼吸困難が見られた際は投与中止も検討します。体重測定を定期的に行い、浮腫の出現を早期に察知する体制が重要です。
③ 肝機能障害(発現率13.1%)
AST・ALT・γ-GTP・ALPの上昇を伴う肝機能障害が13.1%に発現します。投与開始前および投与中の定期的な肝機能検査が添付文書で義務付けられています。検査のタイミングを事前にスケジューリングすることが原則です。
④ 腎機能障害(発現率20.0%)
血中クレアチニン増加(13.8%)・腎不全(2.3%)・急性腎障害(1.5%)が報告されています。投与開始前および投与中の定期的な腎機能検査も必須です。腎機能と肝機能の両方をモニタリングする体制を整えておく必要があります。
その他の副作用では、5%以上の頻度で悪心・下痢・食欲減退・疲労・アミラーゼ増加・リパーゼ増加が報告されています。1〜5%未満では心電図QT延長・末梢性ニューロパチー・血小板減少症なども含まれており、見逃しにくい副作用に注意が必要です。
日本医薬情報センター(JAPIC)掲載の最新添付文書PDF:副作用の用量調節基準の表も確認できます
テプミトコ錠の相互作用について、添付文書は冒頭で「本剤はP糖蛋白質(P-gp)の阻害作用を示す」と明示しています。P-gpは多くの薬剤の消化管吸収・排泄に関与するトランスポーターであるため、この一文は非常に重要な意味を持ちます。
添付文書に記載されている「併用注意」は、P-gpの基質となる薬剤(ダビガトランエテキシラート・ジゴキシン・フェキソフェナジン等)です。臨床試験データとして、健康成人20例を対象にテプミトコ500mgを1日1回8日間反復投与後にダビガトランエテキシラート75mgを単回投与したところ、ダビガトランのCmaxが1.38倍、AUC₀‒∞が1.45倍に増加することが確認されています。数値で見ると約45%の曝露量増加です。
ダビガトランエテキシラート(プラザキサ)は心房細動の抗凝固療法などで広く用いられる薬剤です。テプミトコとの併用により出血リスクが高まる可能性があるため、凝固機能のモニタリング強化が求められます。ジゴキシンも同様で、中毒域が狭い薬剤だけに特に注意が必要です。
一方で、プロトンポンプ阻害薬(オメプラゾール40mgを5日間反復投与)との相互作用試験では、テプミトコのCmaxおよびAUCに有意な変化が見られなかった(それぞれ1.04倍・1.10倍)ことが確認されています。PPIと組み合わせることは問題ないということですね。CYP3A基質(ミダゾラム)との相互作用も同様に影響なし(Cmax 1.04倍・AUC 1.01倍)と確認されています。
患者が他科でダビガトランやジゴキシンを処方されているケースは、肺癌患者でも少なくありません。テプミトコ開始前に必ず服薬歴を確認し、必要に応じて処方医と連携することが重要です。
KEGG MEDICUSテプミトコ相互作用情報:P-gp基質薬との相互作用リストを一覧で確認できます
添付文書の第9項「特定の背景を有する患者に関する注意」は、患者個別の状態に応じた投与判断において非常に重要なセクションです。見落とされがちな項目を含むため、正確な理解が求められます。
肝機能障害患者について
添付文書は「重度の肝機能障害患者(Child-Pugh分類C)を対象とした臨床試験は実施していない」と明記しています。一方、軽度(Child-Pugh A)や中等度(Child-Pugh B)の肝機能障害患者では、テポチニブの曝露量は肝機能正常患者と大きく異なりませんでした(Cmax比:軽度1.02倍・中等度0.71倍、AUC比:軽度0.95倍・中等度0.879倍)。軽度〜中等度の肝機能障害なら用量調整は不要という判断の根拠になります。
生殖能を有する患者について
妊娠可能な女性患者には、投与中および投与終了後一定期間の適切な避妊を指導することが必要です。パートナーが妊娠している男性患者にも、コンドームの使用(バリア法)が求められています。精液を介して胎児に悪影響を及ぼす可能性があるためです。これは見落とされやすい指導項目です。
ウサギを用いた生殖発生毒性試験では、臨床曝露量未満に相当する用量で胎児骨格異常の増加が報告されています。妊婦への投与は治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合のみとなっており、授乳婦には「授乳しないことが望ましい」と添付文書は明示しています。
小児等について
小児等を対象とした臨床試験は実施されていません。安全性・有効性のデータがない、これが現状です。
なお、薬物動態データとして、テポチニブのヒト血漿タンパク結合率は98%(in vitro)、血中半減期(t₁/₂)は約30時間です。1日1回投与でも、反復14日目の蓄積率が2.45に達することが確認されており、投与開始から約2週間で定常状態に到達します。このため、副作用の発現時期として投与開始後2週間前後の観察を特に念入りに行うことが臨床上重要です。
テプミトコ錠250mgに係る医薬品リスク管理計画書(PMDA):副作用情報と安全対策の全体像が確認できます