食後に飲ませると血中濃度が約1/3まで落ちて、治療効果が大きく損なわれます。

テモダールカプセル(一般名:テモゾロミド)は、大原薬品工業株式会社が製造販売する抗悪性腫瘍剤です。添付文書上の効能・効果は「悪性神経膠腫」と「再発又は難治性のユーイング肉腫」の2つです。2006年9月に販売が開始され、2024年10月に改訂された第4版が現行の添付文書となっています。
この薬の規制区分は「毒薬・処方箋医薬品」です。経口剤で毒薬に指定されている薬は非常に限られており、テモダールカプセルはその希少な例の一つです。毒薬扱いであることは、取り扱いの厳格さを示すだけでなく、調剤・交付の際に特別な管理が求められることを意味します。医療従事者としては、この区分を常に意識した上で業務に当たる必要があります。
20mgと100mgの2規格が存在します。1カプセルあたりの薬価は、20mgが約1,400円、100mgが約6,759円(2024年時点)です。添付文書の「適用上の注意」には「体表面積より1日用量を算出し、カプセル数が少なくなるよう種類を組み合わせること」と明記されており、患者の経済的・肉体的負担軽減のため、できるだけ少ないカプセル数で投与量を満たすよう工夫することが求められています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 一般名 | テモゾロミド(Temozolomide) |
| 規格 | 20mg・100mg(硬カプセル剤) |
| 薬効分類 | 抗悪性腫瘍剤(4219) |
| 規制区分 | 毒薬・処方箋医薬品 |
| 効能・効果 | 悪性神経膠腫/再発・難治性ユーイング肉腫 |
| 貯法 | 室温保存・有効期間3年 |
| 製造販売元 | 大原薬品工業株式会社(2024年7月承継) |
| 添付文書改訂 | 2024年10月(第4版) |
なお、ユーイング肉腫への適応は「公知申請」に基づき2019年2月に承認されたもので、悪性神経膠腫とは用法・用量が異なります。処方時には適応ごとに投与設計が異なることに注意が必要です。
参考:PMDAにて最新添付文書を常に確認することが推奨されます。
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)医療用医薬品情報検索ページ
テモダールカプセルの用法・用量は、適応疾患と病期(初発・再発)によって異なります。添付文書を正確に読み解くことが、適切な投与管理の第一歩です。
〈悪性神経膠腫・初発の場合〉
まず放射線照射との併用フェーズでは、1回75mg/m²を1日1回・連日42日間投与し、4週間休薬します。その後、単剤維持療法として1回150mg/m²を1日1回・連日5日間投与し、23日間休薬します。これを1クールとし、第2クール以降は条件を満たせば200mg/m²に増量できます。ただし、第1クールで増量できなかった場合は、以後のクールでも増量しないことが原則です。
〈悪性神経膠腫・再発の場合〉
1回150mg/m²を1日1回・連日5日間投与し、23日間休薬します(1クール28日)。次クールで200mg/m²への増量が可能です。再発例では最初から維持療法相当の用量から開始する点が初発と異なります。
〈再発・難治性ユーイング肉腫の場合〉
イリノテカンとの併用で、1回100mg/m²を1日1回・連日5日間投与し、16日間以上休薬します。患者の状態により適宜減量するとされています。
投与開始にあたっては「好中球数1,500/mm³以上・血小板数100,000/mm³以上」の両条件を満たすことが必須条件です。放射線照射との併用中は、少なくとも週1回の頻度で血液検査を実施して継続可否を判断します。これが基本です。
| 状況 | 1回用量 | 投与日数 | 休薬 | 1クール |
|---|---|---|---|---|
| 初発・放射線併用 | 75mg/m² | 連日42日 | 4週間 | — |
| 初発・維持(第1C) | 150mg/m² | 5日 | 23日 | 28日 |
| 初発・維持(第2C以降) | 最大200mg/m² | 5日 | 23日 | 28日 |
| 再発 | 150→200mg/m² | 5日 | 23日 | 28日 |
| ユーイング肉腫 | 100mg/m² | 5日 | 16日以上 | 反復 |
また、添付文書に明記された減量基準として「直前クールで好中球最低値が1,000/mm³未満・血小板最低値が50,000/mm³未満・Grade3の非血液学的副作用(脱毛・悪心・嘔吐を除く)が出現した場合には50mg/m²減量」とされています。100mg/m²/日未満への減量が必要となった場合は投与中止です。減量後に同一Grade3の副作用が再出現した場合も中止となります。
多くの抗がん剤では骨髄抑制のナディア(最低値到達時期)は投与後7〜14日とされています。しかしテモダールカプセルは異なります。添付文書には「好中球数及び血小板数が最低値に達するのは本剤投与後22日以降と比較的遅いことが知られている」と明記されています。意外ですね。
この「遅延性ナディア」を知らずにいると、次のクール開始前の血液検査のタイミングがずれてしまい、骨髄抑制の最低値を見逃すリスクがあります。通常の抗がん剤と同じ感覚で管理すると、次クール開始時点でまだ血球数が回復していない状況で投与を再開してしまう危険性があるわけです。これは重篤な感染症や出血につながりかねません。
添付文書に記載された重大な副作用としての骨髄機能抑制の発現頻度は以下のとおりです。
| 副作用 | 国内発現頻度 | 海外発現頻度 |
|---|---|---|
| 好中球減少 | 42.1% | 3.5% |
| リンパ球減少 | 42.1% | 頻度不明 |
| 白血球減少 | 34.2% | 3.8% |
| 血小板減少 | 26.3% | 8.8% |
| 貧血 | 13.2% | 2.5% |
| 汎血球減少 | 2.6% | 0.5% |
好中球減少が国内で42.1%と非常に高頻度である点は注目に値します。また、高齢者(70歳超)では70歳以下と比較して好中球減少・血小板減少の発現が増加することも添付文書に記載されており、高齢患者への投与時には特に慎重な観察が必要です。
さらに添付文書には「本剤による治療後に、骨髄異形成症候群(MDS)や骨髄性白血病を含む二次性悪性腫瘍が報告されている」との記載もあります。長期使用後に二次がんが発症するリスクがある点は、患者・家族への説明においても忘れてはならない情報です。
📌 各クール開始前には必ず血液検査を実施し、好中球数1,500/mm³以上・血小板数100,000/mm³以上になるまで投与を開始しないことが鉄則です。
参考:テモダール適正使用ガイドブック(日本化薬)には、骨髄抑制の管理に関する詳細な情報が掲載されています。
テモダールカプセルの添付文書には「本剤は空腹時に投与することが望ましい」と明記されています。この一文の背景にある薬物動態データを正しく理解することが、医療従事者にとって非常に重要です。
テモゾロミドはプロドラッグです。経口投与後、生理的pHの酸性環境下で速やかに活性体MTICに変換されます。胃の中に食物が入ると胃内pHがアルカリ性に近づき、この加水分解が阻害されます。それだけではありません。食後投与では、Cmax(最高血中濃度)やAUC(体内曝露量)が有意に低下することが試験で確認されています。文献によれば、食後投与では血中濃度が約1/3まで低下するとされています。
つまり、食後に服用させてしまうと、設計された投与量の治療効果が大幅に損なわれる可能性があるということです。患者への服薬指導においては、次のような具体的な指示が必要です。
カプセルを開封・噛み砕いてはいけない理由が、もう一つあります。テモダールカプセルは毒薬に指定されているアルキル化剤であり、内容物への曝露自体が医療従事者・患者にとってリスクとなります。添付文書の「適用上の注意」には「カプセルの内容物に曝露した場合、曝露部分は速やかに洗浄すること」と明記されています。これは患者だけでなく、調剤・交付を行う薬剤師・看護師にも適用される注意事項です。
なお、テモゾロミドの半減期は約1.8時間と非常に短いため、服用タイミングのずれが薬効に直接影響します。在宅医療や外来での服薬指導においては、患者・家族が確実に空腹時投与を守れるよう、食事スケジュールに合わせた服薬時間の設定を支援することが実践的なアプローチです。
テモダールカプセルの添付文書に記載された「重要な基本的注意」の中でも、特に現場での見落としが危険な2つの感染リスクについて整理します。
① ニューモシスチス肺炎(PCP)の予防
添付文書の8.4項には「放射線照射との併用期間中は、リンパ球数にかかわらず、ニューモシスチス肺炎に十分注意し、あらかじめ適切な措置を講ずること」と記載されています。ここで重要なのは「リンパ球数にかかわらず」という言葉です。
多くの医療従事者は「リンパ球が減少したときに予防をすればよい」と考えがちです。しかし添付文書はそれを否定しています。放射線照射との併用期間中はリンパ球数に関係なく、PCPへの予防的措置が必要とされているのです。また、リンパ球減少が認められた場合は「リンパ球数がGrade 1以下に回復するまでPCP予防措置を継続すること」とも追記されています。
PCPの発現頻度は国内臨床試験で2.6%と記載されています。一見低く見えるかもしれませんが、発症した場合は重篤な呼吸不全に至る可能性があります。予防薬としてはST合剤(バクタ)の内服またはイセチオン酸ペンタミジン吸入が用いられます。
② B型肝炎ウイルスの再活性化
添付文書8.5項には「本剤の投与によりB型肝炎ウイルスの再活性化による肝炎があらわれることがあるので、本剤投与に先立って肝炎ウイルス感染の有無を確認し、本剤投与前に適切な処置を行うこと」と明記されています。
HBs抗原陽性患者のみならず、HBs抗原陰性・HBc抗体陽性患者においても再活性化のリスクがあります。添付文書9.1.3項でも「B型肝炎ウイルスキャリアの患者またはHBs抗原陰性の患者において、本剤投与開始後は継続して肝機能検査や肝炎ウイルスマーカーのモニタリングを行うこと」と注意が促されています。投与前のスクリーニングと投与後の継続的なモニタリングが必須です。
なお、添付文書には「特に長期間の使用はステロイド剤との併用の有無にかかわらず感染症の発現リスクを高めることがある」とも記載されています。ステロイドを使用していないからといって安心できないわけです。この点は現場で見落とされがちなポイントの一つです。
テモダールカプセルの禁忌は2項目です。
ダカルバジンとの交差禁忌が設定されている理由は、両薬が生体内で同じ活性代謝物(MTIC)を経て作用するためです。ダカルバジンで過敏症が生じた患者にテモダールを投与してはならないことは、添付文書のポイントの一つです。
妊婦への禁忌については、「妊娠中にテモゾロミドを投与された患者で、児の多発奇形が報告されている」と具体的な根拠が示されています。動物実験ではラット・ウサギで50mg/m²/日で胚・胎児死亡および奇形が確認されています。催奇形性は明確な禁忌根拠です。
ここで、現場で意外に見落とされやすい点があります。添付文書9.4.2項には「男性には、本剤投与中及び最終投与後3ヵ月間においてバリア法(コンドーム)を用いて避妊する必要性について説明すること」と記載されています。女性患者への避妊指導は比較的意識されやすいですが、男性患者への避妊指導が添付文書で明確に求められていることは、現場で徹底されていないケースがあります。
女性患者には投与中および最終投与後6ヵ月間の避妊説明が必要で、男性患者には投与中および最終投与後3ヵ月間のバリア法による避妊説明が求められています。期間が異なる点も要注意です。
| 対象 | 内容 | 期間 |
|---|---|---|
| 妊娠可能な女性 | 適切な避妊法の説明 | 投与中+最終投与後6ヵ月 |
| 男性 | バリア法(コンドーム)の使用 | 投与中+最終投与後3ヵ月 |
| 授乳婦 | 授乳しないことが望ましい | — |
| 水痘患者 | 致命的な全身障害のおそれ | — |
また、添付文書には「動物実験(ラット及びイヌ、経口投与)で精巣毒性を認めた」という非臨床試験に基づく情報も記載されています。男性患者への生殖機能への影響は、特に若年患者・生殖可能年齢の患者に投与する際に、性腺に対する影響として事前に説明すべき事項です。小児及び生殖可能な年齢の患者に投与する必要がある場合には「性腺に対する影響を考慮すること」と添付文書に明記されています。
投与前の説明と同意取得を丁寧に行うことが、医療従事者の責務であり、患者のQOL保護につながります。
参考:PMDAによるテモゾロミドの使用上の注意改訂情報
テモゾロミドの「使用上の注意」改訂について(PMDA、PDF)