定位置予圧をかければかけるほど加工精度が上がると信じているなら、それが軸受焼付きを招いて機械を止める原因になっています。

予圧とは、ベアリング(転がり軸受)に対してあらかじめ軸方向の荷重をかけておく技術です。予圧をかけることで内部すきまがゼロ以下(負のすきま)になり、転動体と軌道面の接触点に常に弾性圧縮力が生じた状態を作り出します。この状態が、軸剛性の向上・回転精度の向上・振動や異音の抑制をもたらします。
定位置予圧と定圧予圧の最大の違いは、「予圧を固定された寸法で発生させるか、ばねの弾性で発生させるか」という点にあります。
| 項目 | 定位置予圧 | 定圧予圧 |
|---|---|---|
| 予圧の方法 | 間座・シム・ナット締め付け・組合せ軸受の幅差 | コイルばね・皿ばね |
| 軸剛性 | ◎ 高い | 〇 やや低い |
| 予圧の安定性 | △ 温度・荷重で変化しやすい | ◎ 安定している |
| 最大予圧量 | ◎ 大きい予圧をかけられる | 〇 ばね定数に依存 |
| 代表的な用途 | 旋盤・フライス盤・マシニングセンタ主軸 | 電動機・押出機・研削盤高速域 |
定位置予圧は、間座(スペーサー)などの寸法精度によって予圧量を設定します。部品が固定された位置に収まるため、剛性は非常に高くなります。旋盤やフライス盤のように切削力が大きくかかる機械では、軸が負けずに精度を保つために高い剛性が求められます。これが原則です。
定圧予圧はばねが伸縮することで熱膨張や振動を自動的に吸収するため、予圧量が運転中に一定に保たれやすい特性があります。電動機や押出機のように振動・発熱が多い環境で力を発揮します。つまり「環境変化を吸収したい場面」では定圧予圧が向いているということです。
参考:ジェイテクト(KOYO)によるベアリングの予圧の方法解説ページ。定位置予圧・定圧予圧の構造図と特性比較が確認できます。
予圧の方法 | ベアリングの基礎知識 - KOYO(ジェイテクト)
定位置予圧の最大の落とし穴が、運転中の温度上昇による予圧の自動増大です。これは多くの金属加工従事者が見落としがちな現象で、知らないままだと機械を停止させる事態につながります。
仕組みを整理すると次のとおりです。
東京理科大学の研究(堀田智哉氏)でも、「過度な予圧量の増加は焼付きや火災の原因となり非常に危険」と明記されています。これは理論ではなく、現場で実際に起こり得るリスクです。
一方、定圧予圧ではばねが圧縮されることで熱膨張による軸の伸びを吸収できます。そのため予圧量がほぼ一定に保たれ、熱ループが起きにくい構造になっています。高速回転域では定圧予圧が有利な理由はここにあります。
では定位置予圧を使う現場ではどう対処するか。ジェイテクトの技術資料によれば、「熱膨張量の減少」と「転動体に作用する遠心力の軽減」が有効な対策とされています。具体的には、軸材料の選定(熱膨張係数の小さい材料)や潤滑方法の改善(オイルエア潤滑による冷却効果)が対策の候補になります。
定位置予圧を使うなら発熱管理が条件です。
参考:定位置予圧における円すいころ軸受のアキシアル荷重変化と焼付きリスクに関する学術論文(東京理科大学)
定位置予圧における円すいころ軸受のアキシアル荷重変化の軽減に関する研究 - 東京理科大学
研削盤の高速スピンドルや、精密スピンドルユニットでは定圧予圧が広く採用されています。意外に思うかもしれませんが、「剛性が高い定位置予圧のほうが加工精度に有利」とは限りません。回転数が高い領域では、むしろ定圧予圧のほうが安定した性能を発揮します。
理由は「dmn値(転動体中心径mm × 回転数rpm)」と深く関係しています。
中西製作所(NAKANISHI)の精密スピンドルユニット技術資料によると、「2列DT(並列)組み合わせと適正ばね予圧による定圧予圧方式が、安定した回転精度を得るのに適しており、研削加工における高い真円度の実現に貢献している」と説明されています。これは使えそうです。
ただし、定圧予圧にも注意点があります。ばねを収縮させる方向のアキシアル荷重は負荷できないという制約があります。つまり、加工中に工具側から強い引き戻し力がかかる用途には定圧予圧は不向きです。この点が原則です。
結論は「高速回転・発熱環境 → 定圧予圧、重切削・高剛性要求 → 定位置予圧」です。
定位置予圧において予圧量を決めるのは間座(スペーサー)の寸法精度です。ここに多くの現場で過小評価されているポイントがあります。
間座の長さがわずか数μm(マイクロメートル)ずれるだけで、予圧量は大きく変化します。実際、予圧をかけていない状態のアンギュラ玉軸受では、ハウジングに取り付けた2個の軸受間で軸方向に0.1mm〜0.2mmのガタが生じます(ミスミ技術情報)。この程度の寸法差でも大きなすきまになるわけですから、逆に間座精度の誤差がμmレベルで予圧量に直結することは容易に想像できます。
具体的なリスクをまとめます。
間座の寸法測定には、μm単位で管理できるマイクロメーターや空気マイクロメーターを使うことが推奨されます。現場での測定頻度が少ない場合、組付け前に必ず複数点で測定し、均一性を確認する習慣が重要です。測定が条件です。
また、定圧予圧ではばねの変位量(圧縮量)から予圧量を把握できます。不二越(NACHI)の精密転がり軸受カタログでも「ばねを用いる場合はばねの変位量を知れば予圧量を知ることができる」と説明されており、定位置予圧の間座管理より直感的に予圧量を把握しやすいというメリットがあります。
参考:ミスミの技術情報ページ。ベアリング予圧の目的から失敗事例まで実践的にまとめられています。
ベアリングの予圧の目的とその方法(失敗事例と軸受活用法) - ミスミ
実際の設計・メンテナンス現場で「どちらを選ぶか」を迷わないために、判断フローを整理します。以下の順番で確認すると選定ミスを防げます。
代表的な機械別の選定例は次のとおりです。
| 機械・用途 | 推奨予圧方式 | 理由 |
|---|---|---|
| 旋盤・フライス盤主軸 | 定位置予圧 | 切削力に対して高剛性が必要 |
| 研削盤高速スピンドル | 定圧予圧 | 高速回転中の予圧安定・真円度確保 |
| マシニングセンタ主軸 | 定位置予圧(冷却管理必須) | 高剛性要求・発熱対策とセットで |
| 電動機・モーター | 定圧予圧 | 振動・発熱吸収・予圧安定 |
| 押出機・スラスト軸横使い | 定圧予圧 | 荷重変動・振動の吸収 |
なお、工作機械主軸の予圧量は「微予圧(S)・軽予圧(L)・中予圧(M)・重予圧(H)」の4段階が標準的に用意されており(ジェイテクト推奨)、振動防止目的なら軽予圧または普通予圧、高剛性要求なら中予圧または重予圧が基本です。予圧方式の選択と予圧量の設定は、常にセットで検討する必要があります。この2点が原則です。
最近では、高速運転時に定位置予圧から定圧予圧へ自動的に切り替えるアクティブ予圧制御技術(油圧式の予圧切換スピンドル)も研究・実用化されつつあります。明治大学の研究では「速度に応じて予圧を切り換える方式」が高速化への有効な手段として報告されており、将来的には現場での予圧管理がより精密になっていく方向性にあります。
参考:新川電機による軸受の内部すきまと予圧の解説記事。定位置予圧・定圧予圧の特徴と剛性の関係がわかりやすく整理されています。