ACE阻害薬を投与中の患者に空咳が出ても、すぐに中止せず4週間は様子を見るよう指導している医師がいますが、それが腎保護効果を損なうリスクがあります。

タナトリル錠5mgの有効成分はイミダプリル塩酸塩です。イミダプリルはプロドラッグであり、経口投与後に腸管・肝臓で加水分解されて活性体であるイミダプリラートへと変換されます。この変換を経てはじめて薬効を発揮する点が特徴です。
薬効分類はACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)に属します。作用機序としては、アンジオテンシンⅠをアンジオテンシンⅡへ変換する酵素(ACE)を競合的に阻害することで、強力な血管収縮物質であるアンジオテンシンⅡの産生を抑制します。その結果、末梢血管抵抗が低下し降圧効果が得られます。
ACE阻害によりブラジキニンの分解も抑制されます。ブラジキニンの蓄積が空咳の原因となるという点は、臨床上きわめて重要です。イミダプリルは他のACE阻害薬と比較して空咳の発現頻度がやや低いとされており、第一三共が実施した国内臨床試験では空咳の発現率が約10〜15%と報告されています。
つまり完全に空咳を回避できる薬ではありません。
また、イミダプリラートはACEだけでなく腎臓の輸出細動脈を拡張させることで糸球体内圧を低下させ、尿蛋白を減少させる腎保護効果も発揮します。この二重の作用機序こそが、タナトリル錠が高血圧症と糖尿病性腎症の両方に適応を持つ理由です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 一般名 | イミダプリル塩酸塩 |
| 薬効分類 | ACE阻害薬(降圧薬) |
| 剤形 | 錠剤(5mg) |
| 製造販売元 | 第一三共株式会社 |
| プロドラッグ | あり(活性体:イミダプリラート) |
タナトリル錠5mgが承認を受けている効能・効果は、大きく2つに整理されます。1つ目は「高血圧症」、2つ目は「1型糖尿病に伴う糖尿病性腎症」です。特に後者の適応は、ACE阻害薬の中でも承認を取得している薬剤が限られており、タナトリル錠の大きな特徴となっています。
糖尿病性腎症への適応は重要です。
1型糖尿病患者における腎保護効果については、尿中アルブミン排泄量の減少を主要評価項目とした国内外の臨床試験が根拠となっています。日本腎臓学会のガイドラインでも、糖尿病性腎症に対するRAS阻害薬(ACE阻害薬またはARB)の使用が推奨されており、タナトリル錠はその選択肢の一つとして位置づけられています。
ただし、2型糖尿病に伴う腎症については、タナトリル錠の正式な承認適応には含まれていないことに注意が必要です。2型糖尿病患者の腎保護を目的として処方する場合は、適応外使用となる可能性があるため、処方根拠の整理と患者への説明が求められます。これは日常臨床でしばしば見落とされるポイントです。
高血圧症への適応においては、本態性高血圧症および腎実質性高血圧症が対象となります。降圧目標や併用薬の選択については、日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」を参照し、個々の患者背景に応じた治療戦略を立てることが大切です。
日本腎臓学会ガイドライン(糖尿病性腎症・CKD関連)|日本腎臓学会公式サイト
通常の用法・用量は、成人に対してイミダプリル塩酸塩として1日1回5mgを経口投与することが基本です。高血圧症においては効果不十分な場合に10mgへの増量が認められており、1日最大投与量は10mgです。食事の影響を比較的受けにくい薬剤ですが、添付文書上は「食前または食後」を明記した規定はなく、毎日同じタイミングでの服用を患者に指導することが一般的です。
基本は1日1回投与です。
腎機能低下患者への投与は慎重な対応が必要です。ACE阻害薬全般の特性として、腎機能低下例では活性代謝物の蓄積により副作用リスクが高まります。クレアチニンクリアランス(CCr)が30mL/min未満の場合、投与量の減量または投与間隔の延長を検討する必要があります。具体的には添付文書の「慎重投与」欄を確認し、eGFRをモニタリングしながら慎重に使用します。
糖尿病性腎症(1型)に対して処方する場合の用量は、高血圧症と同様に5mgから開始しますが、腎症の進行ステージによっては低用量から始め、電解質・腎機能の変動を慎重に観察しながら増量を判断します。
投与開始後2〜4週間は、血圧・血清カリウム・血清クレアチニンの測定を行い、過度の降圧や腎機能悪化がないかを確認することが原則です。特に高齢者では初回投与後に急激な血圧低下(first dose phenomenon)が生じるリスクがあるため、低用量からの開始と観察が欠かせません。
副作用の中でもっとも頻度が高いのが空咳です。前述のとおりブラジキニン蓄積が原因であり、国内臨床データでは10〜15%程度の発現が報告されています。空咳は用量依存性ではなく、減量しても改善しないことがほとんどです。空咳が持続する場合はARBへの変更を検討するのが実際的な対応となります。
次に注意すべきは血管浮腫(血管神経性浮腫)です。発現頻度は低いものの(0.1〜1%未満)、口唇・舌・咽頭・喉頭に浮腫が生じると気道閉塞を引き起こす可能性があり、生命に関わる重篤な副作用です。過去にACE阻害薬で血管浮腫を起こした患者への再投与は禁忌となっています。
高カリウム血症も見逃せません。
ACE阻害薬はアルドステロン分泌を抑制するため、カリウムが体内に蓄積しやすくなります。カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトンなど)やカリウム製剤との併用時は特に注意が必要です。投与開始後は定期的な血清カリウム測定が条件です。
禁忌事項は以下のとおりです。
薬物相互作用で特に重要なのは、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)との併用です。NSAIDsはプロスタグランジン合成を阻害して腎血流量を低下させるため、ACE阻害薬の降圧・腎保護効果を減弱させるとともに、腎機能悪化リスクを高めます。整形外科疾患などを合併している患者では、NSAIDsの使用状況を必ず確認してください。
タナトリル錠 添付文書(最新版)|医薬品医療機器総合機構(PMDA)
臨床現場においてACE阻害薬とARBの使い分けは依然として議論があります。タナトリル錠(イミダプリル)の位置づけを他剤と比較することで、より適切な処方選択が可能になります。
まず同じACE阻害薬であるエナラプリル(レニベース)やペリンドプリル(コバシル)との比較を考えると、イミダプリルは組織移行性が高く、心臓・腎臓・血管壁のACEを強力に阻害するとされています。この組織ACE阻害の強さが、臓器保護効果の面で優位性を持つ可能性があると一部の研究者は指摘しています。
これは意外と知られていません。
ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)との最大の違いは、ブラジキニン系への影響です。ACE阻害薬はブラジキニンを蓄積させる一方で、ブラジキニンの血管拡張・抗線維化・抗酸化作用により、ARBでは得られない追加の臓器保護効果が期待できるという研究報告があります。ただしこの点についてはエビデンスがまだ積み重なっている段階であり、現時点では確定的な結論は出ていません。
一方、空咳を許容できない患者や妊娠可能年齢の女性(妊娠が確定した場合)では、ARBへの切り替えが現実的な選択肢となります。
| 比較項目 | タナトリル(イミダプリル) | ARB(例:テルミサルタン) |
|---|---|---|
| 空咳 | あり(10〜15%) | なし(稀) |
| 血管浮腫 | あり(稀) | 極めて稀 |
| ブラジキニン系 | 増強 | 影響なし |
| 糖尿病性腎症(1型)承認適応 | あり | 薬剤による |
| 妊婦への投与 | 禁忌 | 禁忌 |
| 組織ACE阻害 | 強い | 非該当 |
処方選択の実際として、糖尿病性腎症(1型)を合併した高血圧患者でRAS阻害薬の第一選択を考えるならば、1型糖尿病腎症の承認適応を持つタナトリル錠は理論的な優先候補となります。空咳の許容度と患者のアドヒアランスを考慮しながら、個別に判断することが大切です。
アドヒアランスが最終的な鍵になります。
なお、ACE阻害薬とARBの併用療法(デュアルRAS阻害)は、ONTARGET試験の結果を受けて現在では推奨されておらず、腎機能悪化・高カリウム血症リスクの増大から禁忌に準じた扱いとなっています。この点は特に注意が必要です。
高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)|日本高血圧学会

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