タムスロシンをやめても1年以上経過後にIFISが発生した報告があります。

タムスロシン塩酸塩OD錠(代表的な先発品:ハルナールD錠)は、前立腺および尿道のα1受容体を選択的に遮断することで排尿障害を改善する薬剤です。その作用機序に基づき、副作用は大きく「主な副作用」と「重大な副作用」に分類されます。
まず主な副作用として頻度が高いのは、精神神経系のめまい・ふらふら感(0.1〜5%未満)です。これはα1遮断に伴う末梢血管拡張が引き起こす血圧低下が背景にあります。循環器系では頻脈(0.1〜5%未満)や頻度不明の血圧低下・起立性低血圧・動悸・不整脈も報告されています。消化器系では胃不快感・嘔気・嘔吐・食欲不振などが見られることがあります。
過敏症として発疹・蕁麻疹・多形紅斑・血管浮腫が報告されており、皮膚症状が出た場合は速やかな評価が求められます。その他、鼻閉・浮腫・尿失禁・全身倦怠感なども副作用の一つです。
つまり、副作用の多くはα1遮断作用に由来するということです。
下記の表に主な副作用の頻度をまとめます。
| 分類 | 0.1〜5%未満(主な副作用) | 頻度不明 |
|---|---|---|
| 精神神経系 | めまい、ふらふら感 | 立ちくらみ、頭痛、眠気、いらいら感、しびれ感 |
| 循環器 | 頻脈 | 血圧低下、起立性低血圧、動悸、不整脈 |
| 消化器 | 胃不快感、嘔気、嘔吐 | 食欲不振、胃痛 |
| 過敏症 | 発疹 | 蕁麻疹、多形紅斑、血管浮腫 |
| 泌尿器 | — | 尿失禁 |
| その他 | — | 鼻閉、浮腫、全身倦怠感 |
なお、本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していないため、「頻度不明」と記載される副作用が多い点に注意が必要です。頻度不明だからといって無視してよいわけではありません。患者の訴えを丁寧に聞き取る姿勢が、副作用の早期発見につながります。
参考:タムスロシン塩酸塩OD錠の添付文書・副作用一覧(PMDA収載)
タムスロシン塩酸塩OD錠0.1mg「日医工」添付文書(JAPIC)
タムスロシンの副作用の中で、患者から申告されにくいのが射精障害です。具体的には、射精時に膀胱頸部(内尿道口)の閉鎖が不完全になり、精液が膀胱内へ逆流する逆行性射精が起こります。これはα1A遮断による下部尿路組織平滑筋の弛緩が主な原因です。
体への直接的な害はありません。ただし、患者が「射精感がない」「精液が出なくなった」と感じた場合に不安を抱き、自己判断で服薬を中断してしまうケースが臨床現場では報告されています。
重要なのは、この副作用が服薬コンプライアンスの低下につながりうるという点です。患者、特に性的活動が継続している中高年男性に対しては、処方前に「精液が尿として排出されるが健康上の問題はない」と事前に説明しておくことが推奨されます。
これは使えそうです。服薬前インフォームドコンセントの質を高めることが、不要な中断を防ぐ鍵になります。
なお、同じα1遮断薬でも薬剤によって射精障害の頻度には差があります。シロドシン(ユリーフ)はα1Aへの選択性がより高いため射精障害が多い傾向があり、逆にナフトピジルは頻度が低いとされています。タムスロシンでめまいが強い患者にはナフトピジルへの変更を、射精障害が深刻な患者には薬剤変更を検討するという臨床上の選択肢があります。
参考:日本泌尿器科学会ガイドライン(男性下部尿路症状・前立腺肥大症)
男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン(日本泌尿器科学会)
添付文書の11.1項(重大な副作用)には、失神・意識喪失と肝機能障害・黄疸の2つが頻度不明で記載されています。頻度不明という表記は「稀」を意味するわけではなく、「調査が実施されていないため不明」であることを意味しています。
失神・意識喪失は、血圧低下に伴う一過性の意識喪失として発現します。特に排便時のいきみは迷走神経反射を介して血圧変動を引き起こし、タムスロシン服用中の患者においては失神リスクを高めます。厳しいですね。患者への指導では「便秘にならないよう水分をしっかり摂ること」「強くいきまないこと」を明確に伝えることが重要です。
肝機能障害・黄疸については、AST・ALT上昇として現れることがあります。投与開始後は定期的な肝機能チェックが臨床上の安全策となります。全身倦怠感・食欲不振・皮膚や白目の黄染が見られた場合は、速やかに投与を中止して適切な処置を行う必要があります。
重大な副作用が出たときの対応の原則は2ステップです。
これが原則です。日常業務の中で患者から「最近だるい」「食欲がない」という訴えがあった場合、タムスロシン服用中であれば肝機能障害の可能性を念頭に置いた評価が求められます。
前立腺肥大症は高齢男性に多い疾患であり、タムスロシンを服用する患者の多くが65歳以上です。この年代において最も臨床的インパクトが大きい副作用の一つが、起立性低血圧に伴う転倒・骨折リスクです。
カナダ・ウェスタンオンタリオ大学が発表した住民コホート研究(BMJ 2015年)では、前立腺選択的α遮断薬(対象の84%がタムスロシン)を新規処方された66歳以上の男性14万7,084例を、未服用の同数と比較しました。その結果、服用開始後90日以内の転倒リスクのオッズ比は1.14(95%CI:1.07〜1.21)、骨折リスクのオッズ比は1.16(95%CI:1.04〜1.29)と、わずかながら有意な増大が確認されています。
また、低血圧症のオッズ比は1.80(95%CI:1.59〜2.03)と特に高く、頭部外傷リスクのオッズ比も1.15と有意な増大を示しています。転倒・骨折は高齢者において寝たきりや認知機能低下のきっかけとなり得る重大な健康リスクです。
高齢者ではポリファーマシーも問題になります。降圧薬を既に服用している患者にタムスロシンを追加する際には、相加的な血圧低下に特に注意が必要です。厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」でも、α遮断薬は「起立性低血圧、転倒のリスクがあり、高齢者では可能な限り使用を控える」薬剤として明示されています。
患者指導では「急に立ち上がらない」「寝た状態や座った状態からゆっくり動く」という具体的な行動変容を促すことが、転倒予防の第一歩です。
参考:前立腺選択的α遮断薬と転倒・骨折リスクに関するコホート研究
前立腺選択的α遮断薬、転倒・骨折リスクと関連/BMJ(CareNet.com)
参考:高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)
高齢者の医薬品適正使用の指針 総論編(厚生労働省)
医療従事者として特に重要な知識の一つが、術中虹彩緊張低下症候群(IFIS:Intraoperative Floppy Iris Syndrome)との関連です。IFISとは、白内障手術中に「水流による虹彩のうねり」「虹彩の脱出・嵌頓」「進行性の縮瞳」の3徴候を生じる病態です。
白内障手術全体でのIFIS発生頻度は約1〜2%程度とされていますが、タムスロシンのようなα1A受容体選択性遮断薬を服用している患者に限定すると、発生頻度は40〜60%に跳ね上がると複数の研究が報告しています。虹彩散大筋にα1A受容体が分布しているため、この受容体が遮断されると瞳孔が十分に散大せず、手術が著しく困難になります。
冒頭でも触れた通り、この副作用で特に注意が必要な点があります。休薬後1年以上経過した患者においてもIFISが発生したという報告があるのです。つまり、「手術前にやめたから大丈夫」は通用しません。
実際の症例として、80代男性が白内障手術を受けた際、通常30分程度で終わる手術が1時間半もかかったケースが報告されています(全日本民医連医薬品評価作業委員会)。
予防のために求められる対応は明確です。タムスロシンを服用中または服用歴がある患者が白内障などの眼科手術を予定している場合、事前に眼科医へ必ず情報提供することが必須です。眼科医側は術中の工夫(散瞳維持のための器具選択、麻酔法の調整など)を事前に計画することができます。これが条件です。
処方箋薬歴の確認や、患者へ「眼の手術が決まったら必ず医師に伝えてください」と指導することが、薬剤師・看護師・医師が連携して行うべき取り組みです。
参考:IFISとタムスロシンの関係に関する詳細
副作用モニター情報:タムスロシン服用患者の白内障手術における術中虹彩緊張低下症候群(全日本民医連)
タムスロシンの副作用リスクを高める要因の一つが、他剤との薬物相互作用です。臨床で特に問題となるのは、PDE5阻害薬(シルデナフィル・バルデナフィル・タダラフィル)との併用です。バルデナフィルをタムスロシン投与4時間後に投与した試験では、立位収縮期血圧が最大8mmHg、拡張期血圧が最大7mmHg追加低下したことが確認されています。
この組み合わせは添付文書上「併用注意」に分類されており、「症候性低血圧があらわれるとの報告がある」と明記されています。前立腺肥大症の患者は中高年男性が多く、ED治療薬を同時に服用しているケースは決して少なくありません。処方歴の確認がここでも重要です。
また、CYP3A4の強力な阻害薬(クラリスロマイシン・ケトコナゾールなど)との併用では、タムスロシンの血中濃度が上昇し副作用が増強するおそれがあります。ワルファリンとの併用でも出血傾向の報告がわずかに存在するため、PT-INRのモニタリングが推奨されます。
次に、OD錠(口腔内崩壊錠)の服用上の注意について整理しましょう。OD錠は嚥下困難な高齢者にとって服薬しやすい剤形であり、水なしでも服用できるという特長があります。ただし、口腔粘膜からの吸収を期待する薬剤ではないため、崩壊後は唾液または水とともに飲み込む必要があります。水なしでもよい、と説明しすぎると誤解を招くことがあるため注意が必要です。
食後服用が基本です。食後に服用することで、タムスロシンの急速な吸収が抑制され、Cmax(最高血中濃度)が下がり、めまい・立ちくらみなどの循環器系副作用が起こりにくくなります。この食後服用の意義を患者に伝えることも、副作用マネジメントの一環といえます。
参考:タムスロシン塩酸塩と相互作用に関する情報
タムスロシン塩酸塩OD錠0.1mg「トーワ」の基本情報(日経メディカル処方薬事典)