多極着磁とは何か極数と着磁ヨークの仕組み

多極着磁とは何か、その原理から着磁ヨーク・着磁電源の役割、片面と両面の違い、モーターやセンサーへの応用まで詳しく解説。金属加工の現場で知っておきたい知識とは?

多極着磁とは何か、極数と着磁ヨークの仕組みを徹底解説

保磁力が低い磁石を多極着磁ヨークで着磁しても、ほとんど磁力が出ない場合があります。


この記事の3つのポイント
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多極着磁の基本

N極とS極を交互に1磁石面へ着磁する技術。片面・両面の2方式があり、用途によって使い分けが必要です。

着磁ヨークと着磁電源の役割

着磁ヨークは磁場を狙った極パターンに集中させる専用治具。着磁電源は数千〜3万A以上の巨大電流を瞬間的に供給します。

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実際の応用先

ブラシレスDCモーター・磁気エンコーダ・センサーなど精密な回転制御が求められる製品に広く採用されています。


多極着磁とは何か:基本的な定義と仕組み



多極着磁とは、一つの磁石の磁極面にN極とS極を交互に、1組以上の極数で着磁させる技術のことです。「磁石=最初から磁力を持つもの」とイメージしている方も多いですが、実際には磁石材料は成形しただけでは磁気を帯びていません。この磁気を持たない材料に外部から強力な磁界を与え、磁石として機能させることを「着磁(ちゃくじ)」と呼びます。


多極着磁は、その着磁の中でも特に複雑なパターンを実現する手法です。つまり「多極=多数の極」が一枚の磁石面に並ぶということです。


最もシンプルな着磁は空芯コイルを使う方法で、N極とS極が各1個ずつ形成される「2極着磁」です。これに対し、多極着磁ではN極・S極の対が2組以上、磁石面の上に縞模様のように交互に並びます。たとえば4極・6極・8極、製品によってはエンコーダ用途で100極を超えるものも存在します。


多極着磁が実現されることで得られるメリットは大きく2点です。ひとつはモーターの回転がより滑らかになること、もうひとつは位置・速度の検出精度が飛躍的に向上することです。これが基本です。




多極着磁の方式は大きく2種類に分類されます。



  • 片面多極着磁:磁石の片面のみから磁界を印加する方法。マグネットシートや若葉マーク(初心者マーク)のような等方性磁石に多く用いられる。磁石の性能をフルに引き出すことは難しいが、設備がシンプルで量産向き。

  • 両面多極着磁:磁石の表裏両面から着磁ヨークを挟み込んで磁界を印加する方法。比較的薄い磁石に適しており、片面着磁より磁石の実力を引き出しやすい。表面・裏面の両面に吸着させたい用途に使用される。


両面多極着磁のほうが性能を引き出しやすいですが、設備コストは片面より高くなります。用途とコストのバランスで選択することが大切です。


参考:多極着磁の定義についての詳しい解説はこちら
令和特殊鋼株式会社|多極着磁(特殊鋼・マグネット用語集)


多極着磁に必要な着磁ヨークとは何か:役割と構造

多極着磁を実現するうえで欠かせない専用治具が「着磁ヨーク」です。着磁ヨークとは、鉄芯(鉄心)に電線を巻いて作られた装置で、着磁電源から供給された電流を磁気として受け取り、狙ったパターンで磁石に集中させる「磁界の誘導管」のような役割を担います。


空芯コイルだけでは2極(N・S各1個)の単純な着磁しかできません。そこが重要なポイントです。


着磁ヨークは、鉄芯の形状・溝の本数・巻線のパターンによって発生する磁界を細かく制御します。たとえば平面状の着磁ヨークの場合、板面に縞状の溝を彫り、その溝に電線を交互の向きで埋め込みます。その上にマグネットシートを置いて電流を流すと、電線の向きが交互なので磁石の表面にN極・S極が縞模様に着磁されるのです。これはまさに車の若葉マークに使われている手法と同じです。


着磁ヨークの形状(歯の数・深さ・幅)が磁石に与えられる磁力の強さと極の境界線の精度を決定します。そのため、ヨークの設計は製品品質に直結する工程です。




着磁ヨークには以下のような種類があります。



  • 平面型着磁ヨーク:シート状・板状の磁石への多極着磁に用いる。初心者マークや各種マグネットシートの着磁に使われる。

  • 内周多極着磁ヨーク:リング状磁石の内側をモーター用に着磁する。ブラシレスDCモーターのロータマグネットに多用。

  • 外周多極着磁ヨーク:円筒磁石の外周面を着磁する。センサーや発電機用途に多い。

  • 端面多極着磁ヨーク:リング磁石の端面(軸方向面)に着磁。磁気エンコーダのFGマグネットなどに使われる。


注目すべき点として、着磁ヨークは磁石のサイズ・材質・極数・着磁パターンごとに1台1台オーダーメイド設計が基本です。「この磁石に合う既製品ヨーク」は基本的には存在しないと考えてよいでしょう。


参考:着磁ヨークの構造と種類について詳しく解説されています
株式会社アイエムエス|着磁ってナニ?(着磁ヨークの仕組み解説)


多極着磁に使う着磁電源:数万Aの瞬間電流が必要な理由

多極着磁を行うためには、着磁ヨークと組み合わせて「着磁電源」という専用の電源装置が必要です。着磁電源は一般的な電源と異なり、コンデンサに充電した高電圧を一瞬で放電することで、数千A〜3万A以上という巨大な電流を短時間だけ発生させます。


なぜここまで大きな電流が必要なのかというと、永久磁石材料を磁化するには、その材料が持つ保磁力の概ね3〜5倍以上の磁場を与える必要があるからです。これが原則です。


この仕組みはデジタルカメラのストロボ発光と似ています。コンデンサに蓄えたエネルギーを一気に放出することで大きな光(磁界)を発生させる点が共通しています。ただし、着磁機が必要とする電流規模はストロボの比ではなく、数百〜数万μF(マイクロファラド)もの大容量コンデンサが使用されます。


着磁電源の出力規模の例として、電子磁気工業(EMIC)では最大出力45,000Aの超高圧6000V着磁電源装置を展開しています。




なお、着磁電源のエネルギー量(充電電圧)を調整することで、磁石に与える磁力の強さを意図的に下げることも可能です。これを利用した「部分着磁」や「弱着磁」も現場では用いられます。これは使えそうです。


ただし、着磁が不十分(飽和着磁が得られない状態)な場合は磁石の長期信頼性が低下するリスクがあります。特に加熱時の経時変化に影響が出やすいため、製品の使用環境に応じた適切な着磁エネルギーの設定が重要です。


参考:着磁電源の原理と種類について解説されています
電子磁気工業株式会社|着磁とは?原理や幅広い用途、着磁に必要な機器を解説


多極着磁の対象となる磁石の種類と保磁力の関係

多極着磁を行う際に必ず知っておきたいのが、「対象の磁石材料の保磁力と、着磁ヨークが発生できる磁界強度のマッチング」です。ここでつまずく現場は少なくありません。


着磁ヨークは鉄芯を使うため、空芯コイルと比べて発生できる磁界強度が低くなる傾向があります。そのため、保磁力の高いネオジム磁石やサマリウムコバルト(SmCo)磁石の多極着磁には対応できないケースがあります。着磁ヨークによる多極着磁は主に保磁力の低いフェライト磁石・ラバー磁石・等方性ボンド磁石に用いられるのが基本です。


保磁力の強さの序列は次の通りです。



  • ネオジム磁石(最大)

  • サマリウムコバルト磁石(SmCo)

  • フェライト磁石

  • アルニコ磁石(最小)


ラバー磁石やボンド磁石(等方性)は保磁力が比較的低いため、着磁ヨークでの多極着磁が容易です。一方でネオジム焼結磁石を多極着磁したい場合は、空芯コイルを用いた方法か、高出力の専用着磁装置が必要になります。


厳しいところですね。


特にネオジム系ボンド磁石の多極着磁では、磁石粉末の充填率・成形方法・配向方向が着磁後の性能を大きく左右します。異方性ボンド磁石の場合、成形時に結晶の磁化容易方向を揃える「磁場配向」が施されているため、その方向に沿った着磁を行わないと最大性能を発揮できません。




また、等方性磁石(磁化容易軸がランダムな方向を向いている磁石)は、どの方向からでも着磁できますが、異方性磁石よりも磁力が劣ります。コストと磁力性能のバランスで選択する必要があります。これが条件です。


参考:ボンド磁石の配向と着磁の関係について詳しく解説されています
日本アイアール株式会社|ボンド磁石とは何か?特徴・種類・用途、成形方法等の基礎知識


多極着磁の精度を左右する「着磁ピッチ」と磁気エンコーダへの応用

多極着磁の精度を評価する重要な指標のひとつが「着磁ピッチ」です。着磁ピッチとは、隣り合うN極とS極の中心間距離のことで、この数値が小さいほど高密度な多極着磁となります。


磁気エンコーダ(ロータリ型・リニア型)やFGマグネット(回転数検出用)には、0.1mm〜数mmピッチの超多極着磁が要求される場合があります。日本電磁測器が展開する超多極着磁装置は、このような高精度用途に対応しています。


着磁ピッチの精度が高いほど、磁気センサが検出できる分解能が上がります。これはメリットですね。


着磁精度の比較データとして、着磁ヨークを使った場合と専用の回転着磁装置を使った場合では、精度に大きな差が出ることが報告されています。具体的な比較例では以下のような差が出ています。
























指標 着磁ヨーク 回転着磁装置
磁束リップル(%) 8.5 3.9
1極バラツキ(%) +3.08 / −2.72 +0.50 / −0.56
2極累積誤差(%) 71.9 1.11


2極累積誤差が着磁ヨークで71.9%に対し、回転着磁装置では1.11%という数字は驚きです。意外ですね。


この差は、高精度な位置制御や速度制御が求められるブラシレスDCモーター・サーボモーター・磁気エンコーダには無視できないレベルです。磁極のピッチを微細にし、バラツキを最小化することで、回転体の微小な動きを高精度な磁気センサで検出できるようになります。精度が命の用途では、着磁装置の選定が製品品質を決定するといっても過言ではありません。


参考:超多極着磁装置の着磁精度について詳しく解説されています
日本電磁測器株式会社|超多極着磁装置(磁気エンコーダ用)


金属加工現場が知っておくべき多極着磁の実務的な注意点

多極着磁を実際の製造現場で扱う際に見落としやすい注意点が、いくつか存在します。これらを事前に把握しておくことで、後工程での品質不良やロスを防ぐことができます。


まず知っておきたいのが「着磁後加工の原則」についてです。金属加工の現場では、「着磁前に切削・研削などの機械加工を終わらせてから着磁する」という工程順序が基本です。強力に着磁されたネオジム磁石を後から機械加工しようとすると、磁石同士の吸着・反発で作業者が挟まれる危険があるほか、工作機械の切りくずが磁力で集まってしまい、工具損傷や寸法精度の低下につながります。


着磁前に加工を完了させるのが鉄則です。


次に重要なのが、「オーダーメイドヨークの製作リードタイムを見込んだ工程計画」です。多極着磁ヨークは磁石のサイズ・形状・極数・材質に合わせて個別設計・製作が必要です。既製品で対応できるケースもありますが、カスタム仕様の場合はメーカーへの確認と製作期間の確保が不可欠です。初回製造では着磁ヨークの製作期間を考慮せずにスケジュールを組んでしまい、量産開始が遅延するケースが現場では起きやすいため注意が必要です。




また、磁石材料の「保磁力と着磁ヨークの対応可否の確認」も実務上の重要なチェックポイントです。前述のように、ネオジム磁石やサマコバ磁石の多極着磁には着磁ヨークだけでは対応できない場合があります。高保磁力材料への多極着磁が必要な場合は、専用の高出力着磁装置や、組み込み後着磁(インプレース着磁)の採用を検討することが現実的な対策です。


インプレース着磁とは、磁石を製品ハウジングや金属ケースに組み込んだ状態で着磁する方法です。これにより、組み立て工程での磁石吸着事故を防げるほか、製品の磁気回路全体を考慮した設計が可能になり、モーターやアクチュエーターの性能を最大限に引き出しやすくなります。


参考:着磁ヨークと着磁電源の種類・仕組みについて詳しく解説されています
TDK株式会社|No.52 マグネットの着磁と消磁(電気と磁気の?館)






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