スミアリングが軸受の転動体と油膜に与える損傷と対策

スミアリングと軸受の転動体・油膜・損傷のメカニズムと対策

グリースを多めに入れておけば軸受のスミアリングは防げると思っていると、逆に損傷を早める原因になります。


この記事でわかること
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スミアリングとは何か

転動体と軌道面の間で油膜が切れ、微小な溶着・焼付きが集合した損傷現象のメカニズムをわかりやすく解説します。

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見落としやすい発生原因

潤滑不良・急加減速・グリース過多・予圧不足など、現場で見落とされやすいスミアリングの原因を具体的に紹介します。

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現場で使える具体的な対策

潤滑剤の選定・予圧の適正化・慣らし運転の実施・密封装置の改善など、実務に直結する対策手順を詳しく説明します。


スミアリングとは何か:軸受の転動体に起こる微小溶着の正体



スミアリング(smearing)という英語は「汚す・塗り付ける」を意味し、軸受の損傷現象としてはその名の通り、軌道面や転動体の表面が引きずられたように荒れる状態を指します。具体的には、転がり軸受の内輪・外輪の軌道面、あるいはボールやころといった転動体の転動面において、転がり運動に伴う「滑り」と「油膜切れ」が同時に発生することで生じる、微小な焼付きの集合体です。


つまりスミアリングとは、局所的な溶着が面全体に群がっている状態ということですね。


一般的な焼付きと違う点は、スミアリングは「完全な焼付き=回転停止」に至る前の段階で起こることです。摩擦による発熱で表面が局部的に溶ける程度にまで達しており、肉眼では「汚れが浮いたように見える」「銀色または白っぽい転写跡がある」といった外観として現れます。フレーキング(はく離)のような疲労・剥離とは異なり、溶着部が表面に浮いて見えるのが特徴です。


損傷が軽微な段階では、油砥石などで溶着部を丁寧に除去すれば再使用できる場合もあります。しかし作業の手間と設備停止時間を考慮すると、早期に交換した方がトータルコストは低くなることがほとんどです。早期交換が原則です。


スミアリングが軌道面・転動面に存在したまま運転を続けると、その凹凸がさらなる滑り・摩擦・発熱を誘発し、最終的にはフレーキングや焼付きへと進展します。NSKや NTNなど主要軸受メーカーの損傷分析資料でも、「スミアリングからフレーキングへの進展」は複合損傷の典型パターンの一つとして挙げられています。


KOYOジェイテクト:ベアリングの故障(その3)スミアリングの原因・対策解説ページ


スミアリングが軸受に発生する4つの主要原因と転動体への影響

スミアリングの根本原因は「潤滑不良」です。ただし、現場では潤滑不良が引き起こされるルートが複数あり、それぞれ対処法も異なります。ここでは金属加工の現場で特に見落とされやすい原因を4つ整理します。


① 潤滑剤の性能不足・粘度不適


油膜が薄すぎると、転動体と軌道面が金属接触を起こします。グリースのちょう度(硬さ)が使用条件に合っていない場合、高速回転時に油膜が切れやすくなります。潤滑油粘度の見直しが基本です。


② グリース封入量の過多


意外に見落とされるのが「グリースの入れすぎ」です。ハウジング内へのグリース充填量は、空間容積の1/3〜1/2程度が標準とされています。これを超えると、グリースがかくはんされて発熱し、変質・軟化が起きます。NSKの建設機械用軸受のカタログには「円筒ころ軸受の内輪軌道面の円周方向スミアリングは、潤滑グリースの封入過多によるころの滑りが原因」と明記されています。多すぎても滑りを招くということですね。


③ 急加減速・高速軽荷重条件


工作機械のスピンドルや搬送装置のように、頻繁に急加速・急減速を繰り返す設備では、転動体が一瞬だけ正常な自転を失い、軌道面との間でスリップが発生します。特に軽荷重・高速の組み合わせは、転動体が浮き気味になりやすく、無負荷領域から負荷領域へ再接触するタイミングで油膜が切れます。これはスピンドル軸受のスミアリング発生メカニズムとして知られており、ハイブリッド軸受(セラミックボール使用)への切り替えが有効な対策として注目されています。


④ 異物の混入による転動体の滑り


切りくずや研削粉など、金属加工現場に多い固形異物がかみ込むと、転動体が一時的にロックされ軌道面との間で強制的な滑りが発生します。NTNの使用後軸受観察ガイドでも「異物かみ込みによるころの滑りが原因」のスミアリング事例が複数紹介されています。密封装置(シール)の選定ミスが最終的にスミアリングを生む典型的なケースです。


NTN株式会社:使用後の軸受の観察「スミアリング」原因と主な対策一覧


スミアリングとフレーキングの違い:転動体の損傷を正確に見分けるポイント

現場での損傷分析において、スミアリングとフレーキング(はく離)を混同するケースが少なくありません。見た目が似ている場合もあるため、正確に区別することが対策の精度を大きく左右します。


まず発生メカニズムが根本的に異なります。フレーキングは「転がり疲れ」によって軌道面または転動面が深さ約0.1mm程度のうろこ状にはがれる現象です。これは繰り返し圧縮荷重による材料の疲労破壊であり、適切に使用しても最終的には避けられない「寿命」に該当します。一方、スミアリングは摩擦熱による溶着と油膜切れが引き金であり、適切な設計・管理をすれば未然に防げる「故障」です。


見た目の違いとしては、フレーキングは表面が剥がれ落ち「窪み・深さ」が感じられます。スミアリングは表面が荒れているものの溶着部が浮いており、深さがなく「汚れが広がったような」印象です。また、スミアリングでは転動体の色(銀色・白色)が軌道面に転写されていることがあります。これがスミアリング判断の目安です。


似た損傷として「フレッチング」もあります。フレッチングは赤褐色・黒色の摩耗粉を伴い、発生場所が軌道輪の内・外径(はめあい面)です。スミアリングは軌道面と転動体に発生するため、発生箇所で区別できます。電食との違いは、電食が全体的に焼けた様子を呈し、顕微鏡で確認すると直径5μm程度のクレータが見られる点です。


損傷名 発生箇所 見た目の特徴 主な原因
スミアリング 軌道面・転動面 白銀色の転写・浮いた荒れ 油膜切れ+滑り
フレーキング 軌道面・転動面 うろこ状の剥がれ・窪み 転がり疲れ(寿命)
フレッチング はめあい面 赤褐色・黒色の摩耗粉 微小すべり・締め代不足
電食 軌道面・転動面 洗濯板状・微小クレータ群 電流通過によるスパーク


損傷の特定を誤ると対策がずれ、再損傷のリスクが高まります。フレーキングだと思って軸受を交換しても、スミアリングの根本原因(潤滑不良や予圧不足)が残っていれば同じことが繰り返されます。損傷特定が対策の第一歩です。


福田交易株式会社:転がり軸受の損傷事例と具体的対策手段の検討(写真付き事例集)


スミアリング対策の具体的な手順:潤滑・予圧・慣らし運転を現場で実践する

スミアリングの対策は「油膜の形成を助けること」と「転動体の滑りを抑制すること」の2軸で考えます。それぞれ具体的な手順があります。


潤滑剤の見直し


まず使用中の潤滑剤のちょう度と粘度が運転条件に合っているかを確認します。スミアリングが発生しやすい高速・軽荷重条件では、油膜形成能力の高いグリース(高粘度基油使用タイプ)が有効です。さらに、極圧添加剤(EP添加剤) 入りの潤滑剤を選定することも有力な手段です。極圧添加剤は高圧・高温の接触面で化学反応皮膜を形成し、金属接触を防ぎます。ただし潤滑剤メーカーとの共同検討が推奨されており、独断での変更はかえって適合性問題を招くことがあります。


グリース封入量についても再確認が必要です。ハウジング内の空間容積の1/3〜1/2を目安に管理し、多すぎず少なすぎず、が原則です。


予圧の適正化


ミスミの技術情報でも明記されているように、適正な予圧をかけることでスミアリングの主原因である転動体の滑りを抑制できます。予圧とは、軸受に運転前からあらかじめ荷重をかけておくことで、内部すきまをゼロまたはマイナスにする設定です。アンギュラ玉軸受や円すいころ軸受に多く用いられます。


ただし予圧をかけすぎると、今度は軸受の発熱・トルク増大・寿命低下を引き起こします。適正量があります。NTNの「転がり軸受入門ハンドブック」では「転動体の滑りに起因するスミアリングを軽減するために予圧を利用できるが、過大予圧は寿命低下・異常発熱・回転トルク増大を招く」と明確に注意喚起されています。


慣らし運転の実施


新規に軸受を取り付けた後、または大きな保守作業後は必ず慣らし運転(ならし運転)を行います。東京理科大学の転がり軸受解説資料でも、スミアリングの対策として「ならし運転の実施」が挙げられています。慣らし運転の目的は、グリースを軸受内部に均一に馴染ませ、油膜が安定して形成される状態を作ることです。いきなり全速・全負荷で運転を開始すると、油膜が未形成の状態で高い摩擦が発生し、スミアリングが起きやすくなります。


密封装置(シール)の改善


異物混入が原因のスミアリングに対しては、軸封(シール)の性能見直しが根本対策です。金属加工現場では切りくず・研削液・砥粒など多くの異物が飛散します。現在使用しているシールの密封性能を再評価し、より遮蔽性能の高いタイプへの変更を検討します。


ミスミ技術情報:ベアリングの予圧の目的とその方法(スミアリング防止における予圧の役割)


スミアリングの独自視点:「初期故障期」のバスタブ曲線と現場点検で損傷を未然に防ぐ考え方

スミアリングは、軸受の故障パターンで「初期故障期」に多発する損傷の一つです。これはあまり知られていません。NSKの資料では、軸受の故障をバスタブ曲線(初期故障期・偶発故障期・摩耗故障期)で整理しており、スミアリングは「設計不備や組立不良、慣らし運転不足」などが重なる初期故障期に起きやすいとされています。


つまり、「取り付けてすぐに起きるスミアリング」は、軸受自体の製品品質ではなく、取付方法や運転開始手順に問題がある可能性が高いということです。現場でよくある誤解として「新品を入れたばかりなのになぜ焼けるのか」という疑問がありますが、まさに慣らし運転省略や取付不良が原因であることが多く見られます。新品軸受ほど慣らし運転が重要です。


運転中の点検については、音・振動・温度の3点を定期的に確認することが基本です。NTNの「機械の運転状態での点検」ガイドでは、振動の振幅・周波数を定量的に測定分析することで「損傷の度合いを早期に推定できる」とされています。ただし、東京理科大学の資料が指摘するように「音・振動・温度は損傷してから上昇するため、検出されたときには既に軸受が損傷している」という現実があります。これは見落とされがちな重要な点です。


そのため、振動・温度の監視だけを頼りにせず、定期的な分解点検と損傷観察を組み合わせることが推奨されます。富士電機など各社が提供する「回転機故障予兆監視システム」は、独自の高周波振動計測によって異常兆候の早期検知を実現しており、大型設備を持つ金属加工工場での導入も進んでいます。


スミアリングは放置すれば焼付きやフレーキングに発展し、軸受の完全破損・設備停止という最悪の事態を招きます。日常的な点検と、損傷を見つけた際の原因特定の精度が、設備稼働率と維持コストの両方に直結します。点検記録の蓄積が後の判断材料になります。


NTN株式会社:機械の運転状態での点検方法(音・振動・温度による軸受の異常確認手順)


日本精工(NSK):軸受の異常・損傷と対策(バスタブ曲線・損傷と対策の総合解説)






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