スクラルファート顆粒の販売中止を「単なる剤形変更」と思っていると、処方ミスで患者クレームが起きます。

スクラルファート(sucralfate)は、胃・十二指腸潰瘍の治療や予防に長年使われてきた粘膜保護薬です。潰瘍部位に選択的に結合し、物理的なバリアを形成することで胃酸・ペプシンから粘膜を守るという独自のメカニズムを持っています。
この薬剤の顆粒製剤として代表的だったのが、田辺三菱製薬(現在は承継会社)が製造販売していたアルサルミン顆粒90%です。同製品は長年にわたり消化器科・内科の処方で広く使われてきましたが、製造コストや市場規模の縮小などを理由に販売中止が決定されました。
販売中止の公式情報は、製造販売会社からの「お知らせ」として医療機関・薬局に通知されています。重要なのは、先発品だけでなく後発品(ジェネリック)も含めて顆粒製剤そのものの供給がなくなっているケースがある点です。つまり後発品に切り替えれば解決、とは限りません。
医療従事者としてまず確認すべきなのは、自院の採用薬リストの更新状況です。採用委員会や薬剤部が対応していない場合、旧製品名のまま処方オーダーが通ってしまい、薬局から疑義照会が来るケースが現実に発生しています。
採用薬リストの更新状況の確認が最初の一手です。
なお、スクラルファートを含む粘膜保護薬の販売中止・供給不足問題は、スクラルファート単独の問題ではありません。医薬品の安定供給問題は業界全体のテーマとなっており、2021年以降、後発品を中心に供給不安定・出荷調整が相次いでいます。薬剤部や調剤薬局と密に連携して最新情報を共有する体制を整えておくことが、臨床現場での混乱を防ぐ基本となります。
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)- 医薬品安全性情報・供給不安定に関する情報はこちらで確認できます
スクラルファート顆粒が入手できなくなった場合、まず検討するのが同成分・別剤形への変更です。
アルサルミン内用液10%(スクラルファート水和物として10%含有)は、現在も流通が維持されている製品のひとつです。顆粒と内用液では服薬感が大きく異なるため、嚥下機能に問題のない患者には懸濁液タイプへの切り替えが現実的な選択肢になります。
ただし内用液は顆粒と比べて容量が多くなりがちで、1回量が15mL〜30mLとなるケースもあります。これはちょうどコップ1杯の水の約1/5〜1/3程度の量です。高齢者や服薬回数の多い患者にとっては負担になることがあるため、服薬コンプライアンスへの影響を事前に確認することが必要です。
同成分切り替えが難しい場合は、薬理学的に異なるアプローチの粘膜保護薬への変更を検討します。代表的な選択肢を整理すると以下のようになります。
| 薬剤名(一般名) | 主な作用機序 | 注意点 |
|---|---|---|
| レバミピド(ムコスタ) | プロスタグランジン産生促進・粘液分泌増加 | 効果発現まで数週間かかることがある |
| テプレノン(セルベックス) | 胃粘膜保護・粘液合成促進 | 軟カプセルのため嚥下困難者には注意 |
| ミソプロストール(サイトテック) | PGE1誘導体・粘膜防御増強 | NSAIDs潰瘍予防が主な適応。妊婦禁忌 |
| ポラプレジンク(プロマック) | 亜鉛補充・粘膜修復促進 | 胃潰瘍治療の保険適応あり |
どの代替薬を選ぶかは、切り替え前にスクラルファートを使っていた目的によって変わります。NSAIDs潰瘍の予防目的だったのか、ストレス潰瘍の予防だったのか、あるいは維持療法としての使用だったのかを明確にしてから代替薬を選ぶのが基本です。
切り替え目的の整理が先決です。
保険適応の範囲も薬剤によって異なるため、適応外使用にならないよう薬剤師と連携して確認することを忘れないようにしましょう。
KEGG MEDICUS - アルサルミン内用液の薬剤情報・用法用量などの詳細情報が確認できます
販売中止に伴う処方切り替えは、単に薬品名を変更するだけでは不十分です。実際の手順を段階的に整理しておくことで、疑義照会の発生を最小限に抑えられます。
まず院内での情報共有が最優先です。処方医・薬剤師・看護師が同じ情報を持っていないと、患者説明の際に「先生はこう言っていたのに薬局では違うことを言われた」というクレームが発生します。
次に、電子カルテのオーダーセットや定型処方を更新します。古い薬品名のまま登録されているオーダーセットが残っていると、無意識のうちに販売中止品を処方してしまうリスクがあります。これは実際に多くの施設で起きている問題です。
疑義照会が来た場合の対応フローも事前に整備しておくと安心です。特に院外処方を出している施設では、調剤薬局からの疑義照会に迅速に対応できる体制が求められます。処方変更の権限を持つ担当者を明確にし、連絡手段も確認しておきましょう。
患者への説明では「お薬が変わった理由」を簡潔に伝えることが大切です。「製造会社の都合でお薬の供給が終了したため、同じ目的で使えるお薬に切り替えます。効果・安全性に問題はありません」という一言を加えるだけで、患者の不安は大きく軽減されます。
一言の説明が不安を和らげます。
なお、処方変更後の初回外来時に短時間でもフォローアップの問診を行うことが理想的です。「飲みにくくなっていないか」「症状に変化はないか」を確認するだけで十分ですが、この一手間が患者満足度と治療継続率の維持につながります。
医療現場において、スクラルファート顆粒の販売中止が特に大きな問題となるのが、高齢患者や嚥下困難を持つ患者への対応です。意外に思われるかもしれませんが、顆粒製剤はむしろ錠剤より嚥下が難しいと感じる患者が一定数存在し、内用液への切り替えが服薬のしやすさを改善するケースもあります。
一方で、内用液のデメリットとして挙げられるのが「携帯のしにくさ」と「服薬タイミングの管理の複雑さ」です。スクラルファートは食前・就寝前に服用するため、1日3〜4回の服薬が必要な場合があります。15〜30mLの液体を毎回計量して飲むという行為は、認知機能が低下した患者や在宅療養患者にとって大きな負担です。
🏥 嚥下困難患者への対応ポイント
在宅医療や施設入所中の患者に対しては、処方変更の情報が介護スタッフにも確実に届いているかを確認することが重要です。医師・薬剤師から患者・家族へは伝わっていても、現場の介護スタッフが古い薬の管理方法のまま対応してしまうケースが実際にあります。
情報の連携が安全な服薬管理の鍵です。
また、高齢患者の場合は薬剤変更を機に「ポリファーマシー(多剤服用)」の見直しも合わせて行うと、より患者の利益につながります。日本老年医学会の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」では、スクラルファートを含む粘膜保護薬についても慎重投与薬として記載があり、必要性を改めて評価する機会として活用できます。
日本老年医学会 - 高齢者の安全な薬物療法ガイドラインの概要と慎重投与薬リストの情報はこちら
販売中止という出来事は、日常的な処方を見直す絶好の機会でもあります。これは他の薬剤の供給問題でも共通して言えることですが、惰性で継続されている処方を一度立ち止まって評価する契機になります。
スクラルファートを長期にわたり処方され続けている患者の中には、「当初の目的がすでに達成されているにもかかわらず処方が継続されている」ケースが少なくありません。たとえばNSAIDs開始時の予防的処方として始まったスクラルファートが、NSAIDs中止後も何年も継続されているという事例は現場でよく見られます。
🔍 処方継続を見直す際のチェックリスト
日本消化器病学会の消化性潰瘍診療ガイドラインでは、維持療法の期間や薬剤選択に関するエビデンスが整理されています。処方の見直しにあたっては、最新のガイドラインを参照することが根拠のある診療につながります。
ガイドライン参照が原則です。
さらに、スクラルファートにはアルミニウムが含まれているため、慢性腎臓病(CKD)患者への長期投与はアルミニウム蓄積のリスクがあることが知られています。日本の添付文書においても腎機能障害患者への慎重投与が明記されており、販売中止を機に腎機能に問題のある患者への処方を見直すことは、患者保護の観点からも有益です。
ちなみに日本透析医学会の調査では、CKD患者への含アルミニウム薬の使用が血清アルミニウム濃度の上昇と関連することが報告されており、透析患者への使用は特に注意が必要とされています。
日本消化器病学会 - 消化性潰瘍診療ガイドラインの概要と粘膜保護薬の位置づけに関する情報はこちら
代替薬への移行が避けられない状況だからこそ、「この患者に今本当に必要な薬は何か」を多職種で問い直すことが、医療の質を高める一歩になります。処方変更は単なる業務対応ではなく、患者にとってより良い治療への見直しチャンスと捉えることが、医療従事者としての本質的な姿勢といえるでしょう。