血糖値が正常でも、スーグラ服用中の患者さんがケトアシドーシスで緊急搬送されることがあります。

スーグラ錠(一般名:イプラグリフロジン L-プロリン)は、腎臓の近位尿細管に存在するSGLT2(ナトリウム・グルコース共輸送担体2)を選択的に阻害するSGLT2阻害薬です。腎臓では、糸球体でろ過されたグルコースの大部分がSGLT2によって再吸収され血液中に戻りますが、スーグラはこの再吸収を阻害することで、過剰な糖を尿とともに体外へ排出させ、血糖値を低下させます。
つまりインスリン非依存的な血糖降下が原理です。
この作用機序は、インスリン分泌能や感受性に関わらず効果を発揮するため、β細胞機能が低下した患者さんにも使用しやすい特徴があります。食事療法・運動療法だけでは血糖コントロールが不十分な2型糖尿病に加えて、インスリン製剤との併用を前提とした1型糖尿病にも適応があります。これは国内初期のSGLT2阻害薬の中でも1型糖尿病への適応を持つ点で注目されています。
用法・用量について確認しておきましょう。通常は成人にイプラグリフロジンとして50mgを1日1回、朝食前または朝食後に経口投与します。なお、スーグラ錠25mgはあくまで増量・減量の調節に使われる規格です。効果不十分な場合には、医師が経過を十分に観察しながら1日1回100mgまで増量できます。
| 規格 | 薬価(1錠) | 標準的な1日用量 |
|---|---|---|
| スーグラ錠25mg | 100.1円 | 調節用(50mg×1錠が標準) |
| スーグラ錠50mg | 149.7円 | 50mg〜100mg、1日1回 |
3割負担の患者さんがスーグラ錠50mgを30日分処方された場合、薬剤費のみで約1,347円の自己負担になります。患者さんから「どれくらいかかるの?」と聞かれた際の目安として覚えておくと役立ちます。
参考:スーグラ錠の用法用量・禁忌・適応に関する基本情報(糖尿病リソースガイド)
https://dm-rg.net/guide/suglat
スーグラ錠で最も見落とされやすく、かつ危険な副作用が正常血糖ケトアシドーシスです。通常、ケトアシドーシスといえば「高血糖を伴う」というイメージが医療従事者の間にも根強くあります。しかし、SGLT2阻害薬の作用によって尿中へのグルコース排泄が促進されるため、血糖値が正常域(200mg/dL以下)であっても、体内ではインスリン不足からケトン体が増加し、ケトアシドーシスに至ることがあります。
血糖だけで安全を判断すると見逃すリスクがあります。
アステラス製薬の適正使用資料では、「SGLT2阻害薬投与によって正常血糖でもケトアシドーシスを発症することもある」と明記されています。診断の際は血糖値だけでなく、血中または尿中のケトン体を必ず測定することが求められます。正確な診断のためには血中ケトン体測定が必須です。
特にリスクが高い状況は以下のとおりです。
患者さんへの説明では「血糖値が正常でもケトアシドーシスが起きることがある」という点を必ず伝えましょう。「吐き気・嘔吐・腹痛・異常な口の渇き・息苦しさ・意識のもうろう」などの初期症状が現れたら、血糖値を確認せずにすぐ受診するよう指導することが重要です。
参考:SGLT2阻害薬のケトアシドーシスに関するアステラス製薬適正使用資料
https://amn.astellas.jp/content/dam/jp/amn/jp/ja/di/doc/Pdfs/DocNo202613101_y.pdf?redirect=false
スーグラ錠のもう一つの特徴的な副作用が、尿路感染症・性器感染症です。SGLT2阻害薬によって尿中に排泄されるグルコースは1日60〜80g(240〜320kcalに相当)にのぼります。この尿糖の増加が、尿道や陰部における細菌・真菌の栄養源となり、感染症リスクを高めます。
頻度は低くありません。
膀胱炎・尿道炎・外陰部カンジダ症などが比較的よく報告されますが、さらに重篤な転帰として腎盂腎炎・フルニエ壊疽(外陰部および会陰部の壊死性筋膜炎)・敗血症に至るケースも添付文書に明記されています。フルニエ壊疽は急速に進行する壊死性感染症であり、外科的デブリドマンを要する場合もある、非常に重篤な病態です。
患者指導のポイントをまとめます。
問診で聞き出しにくい症状が多いです。
質問紙の活用や看護スタッフとの連携により、患者さんが気づいていない軽微な感染症の早期発見につなげることが医療機関としての重要な役割となります。既に尿路感染・性器感染のある患者さんへの投与は症状を悪化させるおそれがあるため、慎重な判断が必要です。
参考:アステラスメディカルネット – SGLT2阻害薬による尿路感染症・性器感染症の対策
https://amn.astellas.jp/specialty/diabetes/sgl/suglat_proper/urethral
スーグラ錠の作用機序を理解していないと、臨床検査値の解釈で大きなミスを招く可能性があります。これが原則です。
尿糖検査と血清1,5-AG(1,5-アンヒドログルシトール)は参考にならない。
スーグラ服用中は、薬理作用によって意図的に尿糖が排泄されるため、尿糖検査は必ず「陽性」を示します。血糖コントロールが良好でも陽性になるため、尿糖検査を血糖管理の指標として使用することはできません。同様に、1,5-AGは尿糖の影響を受けて低値を示すため、こちらも評価に使用できません。添付文書にも「尿糖、血清1,5-AGの検査結果は、血糖コントロールの参考とはならない」と明確に記載されています。
代わりに血糖管理の評価にはHbA1cを用いることが基本です。
禁忌については以下の患者さんには投与できません。
慎重投与が必要な場面も整理しておきましょう。中等度腎機能障害では十分な血糖降下作用が得られない可能性があり、投与の必要性を慎重に判断する必要があります。また、高齢者・利尿薬との併用・血糖コントロールが極めて不良な患者さんでは脱水リスクが高まるため、特に注意が必要です。
参考:スーグラ錠 添付文書全文(KEGG医薬品情報)
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00062657
シックデイ(病気などで体調不良になった日)の対応は、スーグラ服用患者の指導で欠かせない項目の一つです。風邪・発熱・下痢・嘔吐などで食事が十分に摂れない状態が続くと、ケトアシドーシスのリスクが急激に上昇します。医師の指示なく自己判断でスーグラを中断したり、逆に継続したりすることはいずれも危険です。
体調不良時は早めに受診が原則です。
食事・水分に関して、患者さんへ伝えるべき具体的な注意点を以下にまとめます。
また、服用を忘れた場合の対応も伝えておくと安心です。飲み忘れに気づいた場合は、その日の分は飛ばして翌日の決まった時間に1錠服用します。絶対に2回分を一度に服用しないよう、繰り返し確認することが重要です。
もう一点、独自の視点から見落とされがちなポイントを挙げます。スーグラ服用患者が手術や処置を控えている場合、術前に一定期間中止することが求められます。急性期はインスリン製剤での血糖管理が基本となるため、術前評価の際は必ず服用薬の確認リストにスーグラが含まれているか確認するよう、院内フローの整備も有効です。
スーグラ錠の服薬指導をより効率的に行うための患者向け資材として、アステラス製薬が公式に提供するくすりのしおりの最新版(PDF・WORD形式)が利用可能です。定期的に内容が更新されているため、使用する際は最新版を確認するよう心がけましょう。
参考:スーグラ錠くすりのしおり最新版(アステラスメディカルネット 公式資材ページ)
https://amn.astellas.jp/content/jp/amn/jp/ja/common/pdfviewer.html/content/dam/jp/amn/jp/ja/di/doc/Pdfs/DocNo202412495_y.pdf
参考:RAD-AR Council「くすりのしおり」スーグラ錠25mg 詳細ページ(患者向け公式情報)
https://www.rad-ar.or.jp/siori/search/result?n=38895