気泡1個の付着で、あなたの測定値は実際より低く出て合格品を不合格と判定してしまいます。

焼結体を評価する際、「密度」という言葉は一種類ではありません。現場でよく混同されるのが、かさ密度・見掛け密度・真密度・相対密度の4つです。これらの違いを正確に把握していないと、測定値は正しくても評価の判断を誤ることがあります。
まずかさ密度は、開気孔・閉気孔・固体部分すべてを含めた体積で質量を割った値です。焼結体全体の「大まかな詰まり具合」を表します。一方、見掛け密度は開気孔を含み閉気孔は含まない体積を基準にした密度で、アルキメデス法(液中ひょう量法)で主に求めます。真密度は気孔を一切含まない固体部分だけの密度で、試料を粉砕してから測定する必要があります。
つまり「真密度 ≥ 見掛け密度 ≥ かさ密度」の関係が成立します。
品質管理でよく登場する相対密度は、かさ密度を理論密度(その材料が気孔ゼロだった場合の密度)で割り、100を掛けたパーセント値です。鉄系焼結部品を例にとると、理論密度が7.86 g/cm³のところ、一般的な焼結プロセスでは密度7.2 g/cm³程度、つまり相対密度約92%が到達できる目安とされています。この92%という数字は焼結中間段階が終了するタイミングに相当し、気孔が連通した状態から閉気孔へと変化する境界線でもあります。
相対密度が高ければ焼結が十分進んでいる証拠であり、引張強度や硬度などの機械的特性もそれに伴って向上します。逆に相対密度が低い部品は内部に気孔が多く残り、疲労破壊や表面処理の不具合につながりやすくなります。これが基本です。
各密度の関係を整理すると以下のとおりです。
| 密度の種類 | 含む体積 | 主な測定方法 |
|---|---|---|
| かさ密度 | 開気孔+閉気孔+固体 | 液中ひょう量法・寸法法 |
| 見掛け密度 | 閉気孔+固体 | アルキメデス法・気体置換法 |
| 真密度 | 固体のみ | ピクノメータ法・気体置換法(粉砕後) |
| 相対密度 | (比率) | かさ密度÷理論密度×100 |
各密度の計算式も確認しておきましょう。気孔率を求める場合には以下の関係式が使われます。
こうした関係を体系的に把握しておくことで、測定結果のどの数値がどのプロセス改善指標に対応しているかが明確になります。
焼結密度の定義を正しく理解した状態で測定しなければ、数値を出しても意味がありません。まず「何の密度を測ろうとしているか」を明確にすることが原則です。
参考:粉体工学用語辞典「焼結密度」の定義(日本粉体工業技術協会)
https://www.sptj.jp/powderpedia/words/11004/
焼結密度の測定方法は大きく分けて3種類あり、それぞれ測定できる密度の種類と適用条件が異なります。現場では「とりあえずアルキメデス法」という対応がよく見られますが、試料の状態によっては別の方法の方が正確です。
① アルキメデス法(液中ひょう量法)
最も広く使われる方法です。アルキメデスの原理を応用し、空気中の質量と水中の質量の差から体積を計算して密度を求めます。測定に必要なのは電子天秤と水槽だけで、追加コストがほぼかかりません。これは使えそうです。
JIS Z 2501(焼結金属材料−密度,含油率及び開放気孔率試験方法)が規定するのも主にこの方法で、水温を18〜22℃の範囲に保ち、脱気水の密度を0.998 g/cm³として計算します。乾燥質量m₂・含浸後質量m₃・水中質量の3点を測定することで、密度・含油率・開放気孔率を一度に求めることができます。
ただし、開気孔のある焼結体では水が気孔内に浸入してしまい、体積を正しく測定できなくなります。この場合は事前に気孔内をオイル(シリコンオイルやパラフィンワックスなど)で含浸させてから測定するか、表面をシリコンでコーティングする必要があります。測定条件の確認が条件です。
② 気体置換法(ヘリウムピクノメータ法)
ヘリウムガスを用いて試料の体積を求める方法で、気体の状態方程式(PV=nRT)を利用します。代表的な装置としてはAnton Paar社製「Ultrapyc 5000 Micro」などが使われており、試料容積は4.5 cc程度のものが一般的です。
この方法の強みは、開気孔・閉気孔の状態にかかわらず固体部分の体積を正確に測定できる点にあります。水に溶ける試料や粉体にも適用できるため、アルキメデス法が使えない条件でも対応可能です。測定精度は非常に高く、繰り返し測定のばらつきが小さいのも特長です。
ただし、装置自体の導入コストが高く、専用のヘリウムガスが消耗品として必要になります。小ロットの品質管理に毎回使うよりも、マスター試料の基準値設定や研究開発段階での精密評価に向いています。
③ 水銀圧入法(気孔径測定との併用)
水銀は物質をぬらさず接触角が大きいため、開気孔に圧入するには高い圧力が必要です。この性質を利用して、加える圧力と水銀が浸入した体積から気孔径の分布を求めます。
気孔径Dは D = −2γcosθ / p(γ:水銀の表面張力、θ:接触角、p:圧力)で求められます。密度だけでなく気孔の大きさと分布まで把握できる点が他の方法にはない利点です。
ただし水銀は有害物質であるため、廃液処理や安全管理が必要です。また測定装置が高価で、簡便さではアルキメデス法に劣ります。細かい気孔を持つ材料ではさらに高圧が必要となり、超微細粉末の焼結体にはガス吸着法(BET法)の方が適切な場合もあります。
どの方法を選ぶかは、測定したい密度の種類・試料の気孔状態・精度要求・コストの4点で判断するのが原則です。まず「開気孔があるか閉気孔か」を確認してから方法を選んでください。
参考:日鉄テクノロジー「密度測定」—各種密度測定方法の装置仕様・適用条件まとめ
https://www.nstec.nipponsteel.com/technology/physical-properties/powder-sinter/powder_01.html
アルキメデス法は手軽に使える反面、正確な値を出すには細かい注意点があります。これらを知らずに測定すると、数値は出るものの品質判断に使えないデータになります。痛いですね。
JIS Z 2501では、同一試験室での繰り返し測定ばらつき(Ir)は0.06 g/cm³以内、異なる試験室間での再現性ばらつき(IR)は0.085 g/cm³以内と規定されています。この精度を確保するために、現場では以下の4点を特に意識する必要があります。
誤差要因① 焼結体表面への気泡付着
水中に試料を沈めると、表面や凹部に小さな気泡が残ることがあります。気泡自体にも浮力があるため、水中質量が「本来より軽い値」として測定されてしまいます。結果として計算される密度は実際より低く出ます。つまり合格品を不合格と誤判定するリスクが生じます。
対策は2段階です。まず試料をエタノール(アルコール)に一度浸して表面の濡れ性を高め、次に純水で洗浄してから測定用の水中に吊るします。超音波洗浄機が使える環境であれば、さらに気泡除去効果が高まります。水に0.05〜0.10 vol%の界面活性剤を加えることも効果的で、JIS Z 2501でも認められた方法です。
誤差要因② 電子天秤の分解能不足
数グラムの小さな焼結体を測定する場合、天秤の分解能は0.001 g(1 mg)が必要です。0.01 g(10 mg)の天秤しか用意できない場合、数グラムの試料では誤差率が数%に達する可能性があります。
同じ材質・同じ仕様の試験片を複数まとめて測定し、合計重量から1個あたりの値を算出する方法で精度を補えます。JIS Z 2501でも「試験片の質量が5 g未満の場合は複数まとめて測定する」ことが推奨されています。
誤差要因③ 吊り線(針金)の体積による誤差
試験片を水中に吊るすための針金も浮力を受けます。針金の水中部分が長いほど、その体積分の浮力が誤差として加わります。JIS Z 2501では質量50 g未満の試験片には直径0.12 mmの細い針金を使うよう推奨しており、試験片が重くなるにつれて針金径の上限が設定されています。
針金が太い場合は、水中に浸かっている長さを実測し、その体積分の浮力を補正計算で差し引く方法が有効です。「針金の単位長さあたりの体積」を事前に求めておくと、毎回の測定で迅速に補正できます。
誤差要因④ 開気孔への液体浸入
仮焼結品や焼結初期の試料のように開気孔が多い焼結体では、水中測定中に気孔内部に水が浸入してしまいます。水が入り込んだ分だけ体積が小さく計算されるため、密度が実際より高く出てしまいます。密度が高すぎるという問題です。
対策は、気孔内にオイルをあらかじめ含浸させることです。試料をシリコンオイルまたはゼリー状のオイルの中に入れ、最大70 kPaまで真空引きして気孔内の空気を追い出してからオイルを浸透させます。その後、表面の余分なオイルをふき取ってから密度測定に進みます。密度1に近いシリコンオイルや、パラフィンワックスを溶かして含浸する方法が現場でよく使われています。
これら4点に注意すれば大丈夫です。気泡・天秤精度・針金・気孔の浸入、この4点を管理するだけで、測定値の信頼性は大きく向上します。
参考:粉末冶金の焼結密度を精度よく測るコツ(現場実践ブログ)
https://mimsen83.blogspot.com/2024/05/blog-post.html
焼結金属部品の密度測定には、JIS Z 2501「焼結金属材料−密度,含油率及び開放気孔率試験方法」が適用されます。この規格はISO/DIS 2738を基に作成されており、自動車部品・含油軸受・機械部品などの焼結製品の品質管理で広く参照されています。規格の内容を正しく理解することで、社内測定値と外部試験機関の値がなぜ一致しないのかといったトラブルを防げます。
手順の全体像
試験片の準備から結果の表示まで、大まかな流れは以下の通りです。
体積の計算式
$$V = \frac{m_a - m_w}{\rho_w}$$
ρwは水の密度(18〜22℃では0.998 g/cm³を使用。この温度範囲外の場合は規格附表の値を参照)。
乾燥密度と含油密度の計算式
$$\text{乾燥密度} = \frac{m_2}{\frac{m_a - m_w}{\rho_w}}$$
$$\text{完全含油密度} = \frac{m_3}{\frac{m_a - m_w}{\rho_w}}$$
最終的な値はJIS Z 8401の数値の丸め方に従い、0.01 g/cm³単位で報告します。
含油率と開放気孔率
含油率(vol%)は気孔に入った油の体積を試験片全体の体積で割った値で、焼結含油軸受の性能評価に直結します。開放気孔率(vol%)は外部に連通した気孔の割合で、フィルターや多孔質部材では重要な指標となります。
$$\text{開放気孔率(\%)} = \frac{\frac{m_3 - m_2}{\rho_2}}{V} \times 100$$
試験報告に含めるべき情報
規格では試験報告書に以下の項目を含めることが求められています。測定するだけでなく、記録として残すことが品質管理上必要です。
記録の形式まで規定されている点は見落としがちです。測定値だけでなく、試験条件の記録が大切です。
参考:JIS Z 2501:2000 焼結金属材料−密度,含油率及び開放気孔率試験方法(kikakurui.com掲載版)
https://kikakurui.com/z2/Z2501-2000-01.html
焼結密度の測定精度を語る際に、多くの解説では気泡対策や電子天秤の選び方が取り上げられます。ところが、実際の現場で再現性を落とす要因として見落とされがちなのが水温の管理です。意外ですね。
JIS Z 2501では測定に用いる水の温度を18〜22℃と規定しており、この範囲での純水密度は0.998 g/cm³として統一して使います。ところが温度が1℃変わるごとに水の密度は約0.0002 g/cm³ずつ変化します。小さい数字に見えますが、試験片体積が1 cm³の小型部品を測定している場合、水温が規定範囲外の28℃になると水の密度は0.9962 g/cm³まで下がります。この差を補正せずに0.998 g/cm³のまま計算すると、密度誤差は最大で約0.018 g/cm³に達します。鉄系部品での繰り返し精度Ir(0.06 g/cm³)の約30%に相当する誤差が、水温管理だけで生じるということです。
現場での対策として、測定前に試験片と測定用水を同じ室温に30分以上馴染ませる「温度均衡化」が有効です。また水温計(精度±0.5℃以内のものが規格要件)を使い、測定のたびに実際の水温を記録し、規格附表から正しい水の密度値を引いて計算式に代入します。夏場の気温が高い工場内や、冬場に冷えた状態の試料を扱う際は特に注意が必要です。
さらに一歩進んだ精度向上策として、業界全体であまり知られていない手法が「蒸留水の脱気」です。水道水や精製水には溶存空気が含まれており、試験片を浸漬した際に気泡として析出しやすくなります。これが誤差要因①の気泡付着につながります。JIS Z 2501でも容器の水として「0.05〜0.10 vol%の界面活性剤が入った蒸留水か、なるべくなら脱気された水」が推奨されています。脱気水を用意するには、水を沸騰させてから室温まで冷ます方法がシンプルです。超音波脱気装置があればさらに確実に溶存ガスを除去できます。
もう一つの独自視点として、「測定頻度と異常値の統計管理」も検討に値します。JIS Z 2501では試験片の質量5 g未満の場合は複数まとめて測定するよう推奨していますが、さらに同一試験片を3回以上繰り返し測定し、その標準偏差を管理指標として記録する方法です。1回の測定値が正しそうでも、繰り返し値がばらつく場合は測定環境や試料の前処理に問題がある可能性を示します。製造ロット間での品質変動を早期に検出する上で、平均値だけでなくばらつきを監視することが、安定した品質管理につながります。
密度測定は「値を出すこと」がゴールではなく、「製造プロセスの状態を正しく反映した値を出すこと」が本来の目的です。水温・脱気・繰り返し測定の3点に注目するだけで、現場の測定精度は一段階向上します。測定環境の整備が品質管理の精度を左右するということです。
参考:焼結体の評価・アルキメデス法の解説(イプロス製造業)
https://marketing.ipros.jp/contents/basics/basic-sintering7/